世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

英雄紛いの偽物24

私、リアンはただの小娘であって、本来なら何かを成せる人間ではない。そんなのはこの世界では決まっている事であり、私自身もそんな成果などを残したいと高望みなどした事など一度もなかった。

しかし、ある偶然から私は世界を変える偉業を成し遂げようとしている。
私1人の願いで。

烏滸がましい。
私が魔王を倒して玉座に座った時に一瞬だけ頭の中で横切ったそんな単語が、私にとってはみんなの言葉のように思えた。
手に馴染む魔剣も、本来なら手にすることも出来ない物であり、私が持つのもおかしな話だ。
私以外にも適任がいる。
ふと思ったソレが、心を深く刺す。

そもそも、あの人を殺したヤツの言う事を聞くのもおかしい。私があの人に会える保証もないのに、私は奴に従った。あの女神のふざけた姿もこの世界の仕組みも知ったから同意したのだろうが、それでも決断できたのがおかしい。

おかしい、わたしはおかしい。
私の存在は烏滸がましい。
ふざけた存在。
いてはいけない怪物。

私の心の中で負荷は増し、数千年もの間それで苦しんだ。

だからこそ、私はおかしくなる。
無理矢理にでも、おかしくなって狂って自分がどうして剣を手にしているのかも忘れる。
おかげで心も自我も失った。
一瞬で数千人もの勇者を屠ることが出来た。
覚えていない時間や顔も考えずに済んだ。

私はあの人に認められた。
世界の不具合でも何でもいい、とにかく私はあの人にもう一度会う。
意識の最奥にある私は、ずっとそう思い続けて待ち続ける。

意識を取り戻して、目を覚ますと私は見たこともないほど綺麗な女性の腕の中で横になっていた。
その女性は綺麗な金髪で、キリッとした目元に鋭い眼光を持っていた。
うっすらと見える白い翼が人間のそれとは違うと気づく。
そしてもう1人、私のお腹に手をかざしている女性。
私を抱く女性と比較すると劣ってしまうが、それでも端正な顔立ちと気品がある姿は綺麗な女性と言っても差し支えない。
彼女は翳していた手をサッと戻して私の顔を覗く。
久しぶりに見た人の顔に私は驚きながら尋ねる。

「な、なんなの…?」

「初めまして私はツヅリ、魔王になったあなたに聞きたいことがあってここまで来たの。あの魔剣についてなんだけど、詳しく教えてくれないかな?」

「…え、それってどう言うことなの?…あれ?私の剣は、あれ!?」

私はいつの間にか無くなっていた剣を探そうと女性の腕の中でもがき出す。
だが、翼の生えた女性はそれを許さない。

「動くな、黙れ、お前は今ツヅリから質問されたんだ、それに正直に答えればいい」

「…ヒッ!?」

ガッチリと万力のような強さで私の体を掴むと、動けない私にその鋭い目に殺意をのせて睨みつける。怖くなった私は素直に黙り、自分で自分を落ち着かせて質問してきたツヅリを見た。

「あ、あの…貴女達は私を倒した…って事ですか? あの魔剣を持っている私をですか?」

「そうよ、私達はこの世界の女神にお願いされてきた勇者…って言えば分かるわよね」

「女神の…勇者ですか…!」

「落ち着いて、私達だってあの女神に助けてって縋り付かれてここまで嫌々来たんだから。私達は極力貴女の見方をしてあげられるから安心して」

そう言ってツヅリという女性は私に笑顔を向ける。
久しぶりの笑顔で安心できると言えばそうだが、ここまで綺麗な人が魔剣を持った暴走状態の私を倒した事にも驚く。
どうやって倒したのか聞きたかったが、翼の生えた女性の眼光が怖く、その疑問は飲み込む事にした。
先に私は言われた事に対して答える。

「魔剣は…劉巌という方からもらいました。老人の彼からこの世界のことも教えてもらって、ここで女神の思惑を邪魔して世界を変えたら私の愛した彼に会わせてくれるって…」

「…大体わかった、その劉巌が誰かは知らないけど、世界を1つ滅ぼそうとしてあの魔剣を渡した時点でとんでもない奴なのもわかった。そして本題」

ツヅリはおそらく私を唆した老人、不思議な存在の劉巌には何らかの感情を抱いているだろうが、それすら置いといて本題に入る。
本題の内容は簡単だ。

「魔剣【エイイチ】について、あの魔剣の名前は…この写真の彼で合ってる?」

懐から一枚の絵を私に見せる。
それは精巧に出来た絵で、背景の色も綺麗に着色されているものだ。
その絵の中、見たこともない服を着た人物がこちらを向いて笑っている。


私はその技術に似た絵を知っていた。
絵どころか、その笑顔を振りまく彼も。
胸に下げているペンダントが、まさにそれだった。
絵に写るものも似ているどころか同じなのも。

「…あの、貴女はまさか」

「ごめん、彼がここに居た事や貴女と接点を持っているのも未だに信じられないけど、これに驚いているって事は本当なのね」

彼女は言った。

「私は彼…栄一君を探してます。貴女と時間をともにして居たかもしれない彼をずっと」




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