世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

無力な万能を持つ支配者22

さっきの異邦者はもう城を去っていった。
側近である彼女がそう告げに来ると俺は「そうか」と答えてすぐに下がらせた。

俺はベッドに寝転びながら少しだけさっきのやつらを思い返していた。
異世界を渡る者、そんな存在が俺の目の前に現れて俺と同じ力を使う。
そのことにも驚くが、俺にとってはそんなものはどうでもいいことだった。
気になったのは、どうしてこの世界のことについてここまで気にかけるのかだ。あいつらにとっては来てすぐの他人で思い入れもない世界だというのに、その世界のために俺を改心させようとしていた。
俺には全てが疑問符が浮かぶ事だらけだった。
ここまで考えたのも久しぶりだと思いながら、俺は2年ぶりに声をかけた。

「見てんだろクソッタレ、久しぶりに声を聞かせろよ」
「ホホ、なかなか良い見世物ではあったぞ。まさか目的であったあのお嬢ちゃんとまた巡り会えるとは思わんだ…世界を渡る間隔が短くなっているという証拠だろうがの」
「知り合いなのか?」
「わしが探していたものじゃよ、もっとも、ワシの神が求めた器というやつじゃが」

話が早い、全て見た上で知っているのなら俺は声から全てを聞けば良い。
俺は想いをぶつけた。

「質問だが、あいつは何故俺と会おうとしたんだ?スルーしてただ人を探してんならこんな世界の事情や俺のことなんざ気にしなくてもできるだろうに」
「さぁな、人は衝動的に動いて目的外の事に突っ走ってしまう事もあるじゃろうし、今回はあやつの情が動いて説得しただけじゃろう。いくつもの世界を渡りながら幾重もの人々を諭した事があるだけあって、目の前で困った者を見て見ぬ振りは出来ぬ性分なのも頷けるわ」
「あんな説得だけで全部が救えると思うか?」
「救えぬ、と言えばお主の心にあるモヤも取れて少しは晴れやかになるか?」
「…」
「お主の心と思いもまだ人であるのならば、あのお嬢ちゃんに吐露したアレこそが本心であろう。最後の最後でぶっきらぼうに突き放したのも、あれはあれで人である様に思える。全てワシの感想じゃがな」
「俺のアレが本心か…、なら、俺は一体何をすれば正解だったんだろうな。こんな仕組まれた世界で、お前の意図するものも含めて、行ってきた全ては本当に正解だったのか?」
「正解などない、心が思うのならそのままにやる。それが出来るのがお主に渡した力じゃろうが」

カカカ、と声は笑う。俺はその笑い声を聞きながら今の俺と今までの行いを今一度思い返した。

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