世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

無力な万能を持つ支配者12

利用されたことに冷静だった俺は声に聞いた。


「俺は用済みか…殺すのか?」

「使用済みのゴミを捨てるのは簡単じゃが、ワシの得意分野はそこではないし、何よりもまだ観察が終わっておらぬ。お主という若人の最期をワシは見たいんじゃよ」

「…そうか、ならあんたがくれたこの力を剥奪するのか」

「それもありきたりでつまらん、弱小の者が考える様な真似をワシはとらん。前の通り恩恵を得たままのお主を観察したいんじゃよ」


使用済みの部分を否定しない声は、淡々と俺のその後の用途を話し始めた。
観察したい。それだけで俺は万能を持つ権利と生存を許された。
ただのペットみたいに、動物園にいるライオンやワニが人を殺すだけの力を持っていながら、檻に入れられて多くの人に見られるかの様な現状。
俺はそれがなぜか悔しかった。
でも、俺は声に対して。


「良いよ、俺はどうせこの先短いから…どうせロクな死に方もしないだろうし」


吐露した言葉通り、俺のこの後の人生は暗いものだ。自分がそうなるように生きてきた。もうすぐ45なのに、妻も子供もいない。
誰とも交流を持たず、ただ命令するだけの関係しかなかった。それと同時に、俺は全種族を滅ぼした恐るべき存在だ。
数年のうちに他種族と仲が縮まったり、営みを築いた者もいるが、片親を殺して血を受け継いだ子供も殺した俺が、どんな顔で人間がいる街に居座れるのか。

万能を持ってもこの通りだった。
もっと違う方法があったかもしれない。
ここ声に従わないといけない理由もなかった。

なのに、俺は非人道を選んだ。
それは俺がクズだったからだ。


「なるほど…確かにロクな死に方はせんだろう。しかし、お主が思うほど世界は冷たいものではないぞ」


そう言って声はそれきり聞こえなかった。
俺は荒れた地の死体の敷物の上で、ただ呆然と青い空を仰いだ。
俺は、何をしても無力な存在だった。

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