世界を渡る私のストーリー
無力な万能を持つ支配者10
「神は人々の生活など見ておらぬ。ヤツは頭数が減ればそれを増やすようにこの世界に住まう者たち誘導し、偽の感情を元に交わさ、頭数が増えれば間引くように争わせる。戦う意思も戦わぬ意思も全てが奴の思うがままで、ヤツが采配を下せば全て思うがままに動く…なんとも利己的で世界の非道徳を体現した存在よ」
声は淡々と語る。
「ワシは神に対して誅する存在じゃが、非人間のワシがやったところで人は理解しないだろうし、そも傀儡である衆生がそんな存在を認めるはずもなし、どうしようかと手をこまねいていた時に、ちょうど良いのがお主じゃったんじゃよ」
「…なぁ、俺が選ばれたのとか理由とか状況とかはもう分かったが…俺はこれからどうしたらいいんだ?」
「ふむ…やり方と言われればワシが口を出すべきではないが、ただ一択だけ実に人間味があって面白いものがある。それを行えば悪逆を正し、この世を正しく導かんとする支配者となり得る」
「…正しく導く支配者……あんたに力をもらったし、あんたの考えに従うが…んで、俺は何をすればいいんだ?」
俺は最後の言葉に引っかかりながらも、声にその手段を聞いた。
至極簡単な事だった。
最初からそうすれば良かったとその時は思ってしまった。
しかし…俺はそこから先を、一生後悔した。
人生の間違いはその前からだが、それよりもひどい汚点を…習字の際に和紙に墨汁をこぼして台無しにしてしまうかのような、全てが黒く染まるかのような提案をその時聞いてしまった。
声は笑っていた。
なんでかは聞かない。
でも楽しそうに言う。
「この世界の人間以外を全て滅ぼせばいいんじゃよ、そうすれば少しは天上で胡座をかいて楽しむヤツも理解するじゃろう。『あぁ、異世界から連れてきた人間のせいで俺の世界が滅茶苦茶だ。もうこんな馬鹿げたことやめよう』…とな。お主は最初から人間を尊重した考えじゃから、簡単じゃと思うぞ」
「そうだな…そういやそうだったな。全部滅ぼすのが最初の願望だったな、何だか情に当てられちまったけど、叛逆ばかり起こすあの畜生どもに慈悲なんていらないんだよな…そうだったな、本当にそうだよな…ククククク」
今までの自分に、呆れた笑いが出た。
殺しまくった俺が、今更人間以外の種族を生かそうなんて一体どうして考えたんだろう。
それこそ情に当てられたからなのか。
「良い顔だ、それでこそ人よ。万を滅ぼし億を助け、数値上で表わせん存在を引き摺り下ろそうとする人の可能性。ワシは信じておるぞ」
声はそこまで告げてから、最後のところで掠れるように消えてしまった。
消えたのと対照的に、俺の心には新たな野望が産声をあげた。
神の顔に泥を塗る。
その為に、他の種族を殲滅する。
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