世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

カードの館の人形姫8

案内されてから15分ほどで最上階に着き、扉をあけてすぐに広大な階の部屋の真ん中に置かれた執務机でじっと私たちを見てきた。
私もすぐに彼女と目が合う。

視線を交わす一幕、静寂の中で最初に口火を切ったのは人形の姫だ。


「…異世界から来た者、この私とカードゲームをしたいと言ったらしいがその言葉に偽りはないな?」

「無いです、私はあなたとゲームがしたいだけです。他意も何もありませんが…もしやヴィヴィーラ様は私たちを勘繰ってらっしゃるのですか?」

「そうだと言ったらどうする?」

「あなたが気の済むまで私達を観察してもいいですよ」



人形の姫は私が言ったことに少しだけ眉を動かして反応した。
横で同じように控えるミレーナは、目の前にいる魔王を屠る存在に気圧されていたが、人形の表情の変化だけで身を後ずさってしまう。

お互いが何かを確認するように、ただ静かに時間が過ぎる。

やがて諦めたかのように人形の姫は生きている人間のようにため息をつき。


「…いいや、同じように挑んで来た異世界からの勇者や冒険者に飽きてきてな。同じような質問をしたら大体は『無い』と答えた後に白々しいポーカーフェイスをして、私を前に痩せ我慢をする。理由も取ってつけたものばかりで聞き飽きていたし、私の資金目当てで近づく愚か者も勇者とやらに沢山いた。…まぁ、そんな輩は私の気が済むまで強制的にゲームに参加させて、2度と来れないようにしたが」

「…なんだか、転生者が屑ばかりですいません」

ぺこりと、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになって転生者代表として謝る私。
姫は私の謝罪に片手を出して止めると、さっきとは変わって何故か面白そうに見てきた。


「気にするな多くの世界を旅する冒険者よ、お前の言う通り、転生した者が外道ばかりではないのは私がよく知っている。こんな私を作った者もかつては多くの人に愛され、なのに嫌われる変った好き者だったからな」

「…そうでしたか、ヴィヴィーラ様を造ったのも転生した誰かだったんですね。それなら……」


少し考えてから、私はあの世界の遊びの名を言った。
何日間か館内で聞き込みをした時に見かけた、子供たちに人気のカードゲーム。
それは、私の大切な彼とも一度だけやった遊び。

おそらく、カードの館と名付けたのはヴィヴィーラじゃなくてその転生者だったはず。
その転生者が好きだったかもしれないゲームが…。


「ババ抜き…で勝負しませんか?」

「…ババ抜きか…2人でするババ抜きなど手も表情も疲れると言うのに、お前もあの方も変わったやつだな」

「嫌ですか?」

「戯け、やるに決まっている」



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