世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

カードの館の人形姫5

最初の頃は起動を停止させて、永久保存状態になろうとしていた。
しかし、もう一枚の私宛の遺言状を見つけてから気が変わった。






『ヴィヴィーラへ、もしワシが死んだらすべての財産をお前に譲る。好きに使え…と言ってもお主にはどう使えば分からないだろう、なのでワシの願いをお主に伝える』





文面を読んで、いまにも横から話しかけてくるあのしゃがれた声の人を思い出す。

心が締まる、まるで握りつぶされるかのように。






『ワシの財産はわし自身把握しておらんが、地下5階に作った超広大な温室プールを潰した部屋一杯にあるから、おそらく国を4つも建国出来るくらいあるだろう。その莫大な富を使ってワシの長年の夢だった万人の憩いの場、『カードの館』を建ててくれ。何人も拒まず多くを許し、心を許して遊べる場……ワシの元いた世界以上の世界一の遊技場を造ってくれ。地下3階にお主と同系統の魔導人形が6万体ほどおる、お主を製造した後に量産させた物だからお主と同じように心を持つ者も現れるだろう。お主はその人形を率いて、ワシの夢を叶えてくれ。あと…』






私の目からは何故か水が溢れていた。
それを拭っても、どんどん溢れてくる。

透明で、しかし何故か暖かい。
生理現象などない私にとっては不可解なもの。

疑問に思うその前に私は頭の中で大魔導師が書いた文章を読んで理解し、大魔導師の考えが理解できた。

おそらく大魔導師は私を作る前から、歳でもう先がないと理解していた。
夢であったカードの館を建てるのも視野においてたかもしれない。
しかし、長年の夢を継続させるには、自身の因果律すら曲げる幸運を超える者に託さないといけない。
それは必然的に神を超える存在でないといけなかった。
人間が造った物が神の加護を超えるのはすべての歴史上において『ヴィヴィーラ・クウィンテット』ただ一人だけ。

私は人形でありながら大魔導師以上にゲームに強く、永遠に稼動する体を持っている。
それならば、ただの人間だった大魔導師の夢を継続させることができる。

私は作られたときから託されていた。
夢を、永遠に醒めない遊戯の夢を。
それこそ終わらない、楽しいゲームへと誘うあの人の姿が見えた。


託された……いや、命令されたのなら叶えないといけない。
これが最後の……私を生んでくれたあの人の命令だ。
どんな障害があろうとも、私はあの人の意思に従って叶える。


人の形をした神の定説をひっくり返した物の務めであるから。



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