お母さんは女神です
4.変わらない笑顔
「私」視点です。
とんでもない痛みと共に、周りの喧騒が、耳に飛び込んでくる。どうやら私は、玄関先の階段を踏み外したらしい。頭の方から、生暖かいものが流れているのを感じる。
「お嬢様っ!今、救急車をっ!」
顔色を変えて柏木が言う。私は、小さく首を振った。別に、私の命なんて、無くてもいい。兄様がいるのだから。両親も何も困らないだろう。私は、目を閉じた。あぁ、でもやっぱり兄様には笑って欲しかった。
「起きろっ!」
聞きたかった、兄様の声がする。でももう遅い。きっと私はもうすぐ死ぬだろう。よかった。最期に、兄様の声が聞けて。
「目を開けろっ!死ぬなよ。今、今助けるから。」
兄様は、私に声をかけ続ける。私は、うっすら目を開けた。兄様は泣いていた。
「ごめんな、俺が父様と母様を抑えきれなかったから」
嗚咽を噛み殺しながら、兄様は言う。どういう、ことだろう。私は、薄れゆく意識を無理やり、引き留める。
「す、ず…ん、は…?どし…て?」
掠れる声を、絞り出す。兄様は顔をぐしゃっと歪めながら、また言った。
「ごめんな、ほんとにごめんな。母様が、鈴蘭には毒があるからって、全部…。」
よかった。鈴蘭、喜んでくれたんだ。
そう思うと、涙が出てきた。
「痛いよな。ごめんな。本当に、ごめんな。守りきれなくて。」
兄様は、必死に傷口を抑えながら、謝る。何で?私は、ゆっくりと首を玄関の方へと向けた。
そこには、使用人のひとりが私達を見下ろすかのように、立っていた。
一瞬でも過去の兄様を疑った自分が、恥ずかしかった。
兄様は、私に悟られないように、戦っていたのだ。
きっと、私を守っていてくれたんだろう。
やっぱり、兄様は兄様だった。
「に…さま、わ、ら……て…?」
私は、兄様に頼んだ。最期に、どうしても兄様の笑顔が見たかった。
兄様は、涙でぐしゃぐしゃなまま、笑った。
涙は付いていたけど、昔のままの笑顔だった。
読んでいただき、ありがとうございます。
とんでもない痛みと共に、周りの喧騒が、耳に飛び込んでくる。どうやら私は、玄関先の階段を踏み外したらしい。頭の方から、生暖かいものが流れているのを感じる。
「お嬢様っ!今、救急車をっ!」
顔色を変えて柏木が言う。私は、小さく首を振った。別に、私の命なんて、無くてもいい。兄様がいるのだから。両親も何も困らないだろう。私は、目を閉じた。あぁ、でもやっぱり兄様には笑って欲しかった。
「起きろっ!」
聞きたかった、兄様の声がする。でももう遅い。きっと私はもうすぐ死ぬだろう。よかった。最期に、兄様の声が聞けて。
「目を開けろっ!死ぬなよ。今、今助けるから。」
兄様は、私に声をかけ続ける。私は、うっすら目を開けた。兄様は泣いていた。
「ごめんな、俺が父様と母様を抑えきれなかったから」
嗚咽を噛み殺しながら、兄様は言う。どういう、ことだろう。私は、薄れゆく意識を無理やり、引き留める。
「す、ず…ん、は…?どし…て?」
掠れる声を、絞り出す。兄様は顔をぐしゃっと歪めながら、また言った。
「ごめんな、ほんとにごめんな。母様が、鈴蘭には毒があるからって、全部…。」
よかった。鈴蘭、喜んでくれたんだ。
そう思うと、涙が出てきた。
「痛いよな。ごめんな。本当に、ごめんな。守りきれなくて。」
兄様は、必死に傷口を抑えながら、謝る。何で?私は、ゆっくりと首を玄関の方へと向けた。
そこには、使用人のひとりが私達を見下ろすかのように、立っていた。
一瞬でも過去の兄様を疑った自分が、恥ずかしかった。
兄様は、私に悟られないように、戦っていたのだ。
きっと、私を守っていてくれたんだろう。
やっぱり、兄様は兄様だった。
「に…さま、わ、ら……て…?」
私は、兄様に頼んだ。最期に、どうしても兄様の笑顔が見たかった。
兄様は、涙でぐしゃぐしゃなまま、笑った。
涙は付いていたけど、昔のままの笑顔だった。
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