お母さんは女神です

緑茶

1,妹の笑顔

初投稿です。


僕は死んだようだ。
何も喋ることもなく、誰とも触れ合うことなく。

僕は生前病気だった。その病気は感染力が高かったようで、母さんとも父さんとも、ガラス越しにしかあったことは無い。

その病魔は、喉から感染するようで、生まれてからすぐ感染してしまった僕は、生きるために必要な器官を除いて、喉の器官をすべて取り除いたらしい。

だから、僕の首は常にチューブに繋がれ、声を出すだなんて夢のまた夢だった。

だけどその日、僕の妹と名乗る1年生の女の子が1人でガラスの向こう側に現れたのだ。僕は、必死に声を出した。せめて、一言でも感謝の気持ちを伝えたかった。それでも、僕の喉から出るのはヒューヒューというかすれた音だけだった。

悔しくて、涙がでた。どんな検査にだって慣れていた。大抵の痛みには耐えられた。でも、こんなにも話すことが歯がゆいことだなんて知らなかった。気付けば僕は、小さな妹に縋り付くように、手を伸ばしていた。

そんな僕に、妹は無邪気に笑った。僕は初めて、こんな状態でも生きててよかった、と思った。
医者や看護師が僕に向けるのは、哀れみ。両親が僕に向けるのは、蔑み。胸の奥にじんわりとした温かさが広がっていくのを感じた。

そのとき、血相を変えた両親がやってきた。両親は妹を素早くガラスから引きはがすと、妹を責め立てた。母さんは、大急ぎで、医者を呼ぶし、父さんは僕を視線で責めた。

検査を終えた妹は、泣いていた。僕は頭を殴られたような衝撃を感じた。妹の涙はそれほどまでに僕に動揺を与えたのだ。なにが僕をそんなに突き動かすのか。自分でも分からないが、僕は妹に一歩でも近づこうとした。

無理だった。無数のチューブで繋がれた僕の体は全く動くことなくベッドに固定されたままだった。
僕は非力だった。妹を笑顔にすることさえ出来ないのだから。

部屋の中に無情にも、機械の音が響いた。突然だった。僕の頭の中は苦しさに支配される。心臓がぎゅっと縮まる。視界が段々霞がかってくる。最期に見えたのは、両親の安堵した顔と、妹の不思議そうな顔だった。


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コメント

  • ありぺい(ケビン)

    主人公の心情がよく伝わってきた。

    これからも頑張ってください!

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