悪役少女の奮闘記

ノベルバユーザー105455

悪役の結末について

「嘘だ……!!
1回死んでる上に乙女ゲームの世界に転生!?いやいやいや……ありえ…たんだよね。」


艶やかな黒髪を胸のあたりまで伸ばし、瞳は青く澄んだ海のよう。
紛れもなく悪役の秋篠楓そのものだ。


「今まで大して気にしてなかったけど、私ライバルキャラってだけあって可愛いな!」


人に聞かれたらドン引かれそうな発言も気にせず鏡を見つめる。

この乙女ゲームには攻略対象者が全員で8人いる。
1人が幼馴染みの柊紫苑ひいらぎしおん
俺様キャラだが妙に愛嬌のあるキャラとしてお姉様方に人気のキャラだった。


しかしこのゲーム『The four seasons〜貴方と巡る季節〜』、通称四季のメインの攻略対象者は隼人と名前が出ていた飛鳥馬隼人あすまはやと
ゲームの舞台白鴉はくあ学園の生徒会会長様である。
成績優秀、眉目秀麗、旧華族の財閥の次男でお金持ちという非の打ち所の無いステータスをしている。
しかし性格は純粋で女の人と手を繋ぐのにも顔を赤らめるピュア男子。
だがピンチの時はヒロインを守ってくれる王子様となる。

その他毒を吐く眼鏡や王子の顔したヤンデレさんだとかが対象者となる。

それだけならまだ良いのだが、総じてゲームの悪役は酷い目にしかあわない。
それはこのゲームも一緒で殺人を犯して少年院に入ったり家を勘当されたり、少し危ない職業の人所に行ったり……


うん、やめましょう!
ゲームに逆らって平穏な日々を手に入れましょう!!


……その前に、いま思い出したことがありました。


「攻略対象者の1人って悪役の弟、だったはず……」


会うのを回避どころかスタートから対象者2名ずっと一緒にいましたね!!

うーとか、あーとか頭を抱えて唸っているとキィというドアの開く音が聞こえる。


「お姉ちゃん、どうしたの?悪い夢みた?」


そう言ってとことこと私に近付いてくる弟。
心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

動きがない私に弟は更に鏡の前の椅子に座っている私の腰にぎゅっと抱きついた。


「お姉ちゃんには僕がいるから、だいじょうぶだよ」


私が悪夢を見たと思っている弟は一生懸命私を慰めようとしてくれている。
そんな姿を見てこれからこの子を避けられるだろうか……

それは無理だと即答できる。
こんな可愛い弟、私欲しかったんだよ!!


秋篠伊月あきしのいつき悪役の一つ下の弟

肩口まで伸びる黒髪を後ろで一つに纏めていて、瞳は悪役と同じ澄んだ青色をしている。
基本無表情無関心無愛想な表情が動かない男の子。
ヒロインが彼の住む和菓子屋に通い詰めることでやっと学園でも会話イベントを発生させることが出来るのだ。

ハッピーエンドでは和菓子屋を二人で継ぎ、伊月がヒロインの前でだけ甘え、ヒロインをどろどろに甘やかすルートになる。


「大丈夫よ、伊月。ちょっと嫌な夢を見ちゃったけど伊月が来てくれたからもう平気!」


私はそう言って弟を抱きしめ返す。
弟もまだ眠たかったみたいで私の腕の中でウトウトしている。
時計を見るといつもの起床時刻の2時間ほど前であったので弟を起こして布団へと移動させ私も一緒に布団に入り眠ることにした。

お腹のあたりに弟の温もりを感じまた抱きついてきたのだと分かる。
私が小学校に入学してから寝室を別々にしていたので、時々こうして私の布団に潜り込んでくる時があるのだ。
お隣さんや弟が攻略対象者だとか、ここがゲームの世界だとかいろいろあるが、今はこの可愛い弟ともう少し眠る事にして夢の世界へと落ちていった。


「楓、起きなさいな。遅刻しますよ。」


私の身体を揺すりながらおばあちゃんが言う。
いつの間にか起床時間を過ぎていたようだが布団の中が気持ちよくて出ることが出来ない。


「もう。紫苑くん、悪いけど先行っててもらえるかい?
この子が起きるのを待ってたら遅刻してしまうからねぇ。」

「仕方ない奴だな…。
集合時間にいないから俺が見に来てやったと言うのにただの寝坊だと?」


祖母に話しかけられた紫苑は楓の部屋の入り口の扉に肩を預けながらこちらを見ている。


その声を聞いた私は勢いよく起き上がり声のするほうを向く。


「…なんで柊くんがわたしの部屋にいるの?!」

「せっかく俺が様子見に来てやったのに何だよそれ!!」

「入るよう言ったのは私だよ。
いつもこんな事ないからって心配して来てくれたからねぇ。」


私は毎日集合時間よりも早い時間に着いて待つことはあれど待たせたことは一度も無い。

集合時間に私が居なかったってだけの事、先に行ってくれても良かったのにわざわざ様子見に来てくれるなんて可愛いな。なんて思ってしまう。


「…そっか。柊くんごめんね。
もう起きたから、先行っても大丈夫だよ。」


柊くんも遅れてしまうから、と付けたし布団から出始める。
彼は出ていくどころかずかずかと部屋に入ってきて私の腕を掴む。


「今から行ってももう遅いから、一緒に行ってやるよ!
だから早くご飯食べろ!」


そのまま楓が朝ごはんが用意してあるリビングのテーブルまで連れていかれる。

今日の朝ごはんは目玉焼きにカリカリに焼いたベーコンが2枚。
お味噌の具は伊月の好きなジャガイモが入っている。

その後から祖母がやって来て途中であったろう洗い物を片付け始めていた。


「今日はジャガイモだ!伊月が頼んだの?
…って、伊月!伊月はもう行ったの?」


一緒に寝ていた弟は今はいなくなっていて、姿も見当たらない。


「そうですよ。いつも通りの時間に起きていましたからね。」


伊月が起こしてくれなかった悲しみと紫苑からの早くしろという視線に慌てつつ朝ごはんと着替えを済まして家を出た。


今は授業中だが、前世の記憶が蘇った私には授業を聞かなくても大丈夫だろう!とたかをくくりこれからのことを考えようと思う。

可愛い弟に関してはもう良い。
あんな天使な弟と離れたり避けるようにするなんて私には無理だ。
問題はもう1人の対象者の柊くん。

悪役の秋篠楓は彼のルートの1つでヒロインに刃物を向け殺めてしまう結末もある。
幼馴染みの紫苑とだんだん仲良くなっていき、昔から親交のある悪役と疎遠になっていくのが許せなかったという理由だったはずだ。

実際私がそうするかと言われればしないと断言できるだろう。捕まりたくないし!
ただよく聞くゲーム補正とやらを危惧している。

結論を出すならば、危うきには近寄らずというのが良いとは思う。
よし、やはりとても寂しいが将来の為少しずつ距離を置いてみようではないか。


思い立ったら即行動。
その日から少しずつあからさまにではないが遊びに誘われたら和菓子屋のお手伝いをしたいからと何回か断ったり、学校でもよく私のクラスに来るがトイレや会話しているという理由でバレない程度に距離を置いてみた。


しかし3日もそんな行動が続くと紫苑も気づいたのか離れようとすると、拗ねたような寂しがるような顔をする様になった。

楓は罪悪感に見舞われたが紫苑の将来の為だと自分に言い聞かせる。

そしてついに次の日、学校の帰りに2人で帰りたいと紫苑から申し出があった。
理由を付けて断ろうと思ったがそれを言おうとすると眉毛が八の字に下がり今にも泣き出しそうになったので2人で帰ることとなった。


「……なあ、楓。」


ふいに数歩先を歩いていた紫苑の足が止まり後ろを振り向く。


「俺のこと…きらいなの?」


そう聞く柊くんはさっきよりも泣きそうで、違うよって言って欲しいとよく分かる。
私は柊くんの目をまっすぐ見て口を開く。


「……私は柊くんが!きっ___、」

「いやだ!聞かない!
俺と一緒にいてくれない楓の話聞きたくない!」

柊くんは涙をぼろぼろと流し震える手をぎゅっと握っている。
彼の大きな瞳から溢れ出るきらきらの大粒の涙は夕焼けのいろを取り込み見惚れるほど美しかった。

「でも、私がいたら柊くんの邪魔をしちゃうんだよ。だから、私は一緒にいない方が、。」


「そんなことない!僕は楓がいない方がもっといや!
楓が僕と一緒にいてくれないなら僕死んじゃうから!!」

「ふぁっ!!?」


私の今の顔はなんとも言えないくらい間抜けな驚いている顔だ。
まさかこんなことを言われるとは思っていなかったので仕方ないと思いたい。

確かにゲームでは柊くんの恋邪魔をして恋人となるヒロインを殺めてしまったりもするが、その時はその時で全力でフラグ回避し続けて見せようかな。

将来の事よりも、いま彼にこんな顔をして欲しくないという思いでいっぱいだった。


「し、死ぬなんて…言わないでよ。
わかったから。」


そう言って関わることを辞められない楓に更なる繋がりが出来ていく。

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