俺が道端で拾った本はただの本じゃなかった件について

破錠 斬々

第12話:逮捕

修一「あぁ辛い…麻里さん馬車ぐらいケチらないで使いませんか?もうしんどくてしんどくて…このままじゃ俺たち足が使えなくなりますよ」

麻里「何弱音を吐いているんですか。これだからゆとり世代は困りますね。早く歩いてください」

この人は今ゆとり世代に言ってはいけないワードランキング第一位を言ってしまった。絶対にいつか仕返しをしてやる。まぁ冗談はさておき、俺たちは朝に海港都市ピロフを出発してから中央都市アルロを目指して数キロ歩いている。

繭「今更ですけどこの世界には季節はあるんですか?」

麻里「この世界には気温というものはありません。人間の世界でいえば一年中春みたいなものです。だから誰も厚着をしていたり薄着をしていたりしないんですよ」

それはなんと羨ましい。そんなに過ごしやすい世界だなんてとてもいいじゃないか。人間の世界なんて暑すぎたり寒すぎたりで過ごしにくいのにこっちの世界は過ごしやすすぎる。

繭「それにしても遠いなぁ。思ったよりこの世界って広いんだ」

修一「そりゃ人間の世界と並行してるんだから同じくらい広いんじゃない?」

麻里「…二人とも無駄口をたたかないで先に進みますよ」

修一・繭「はーい」

今の俺たちを第三者目線で見たらまるで修学旅行に来た先生と生徒に見えるだろう。麻里先生に連れられた生徒の俺たち。

そんなくだらないことを考えているうちに俺たちは海港都市ピロフを出て少し街はずれなところに来た。そこには地元民である本以外にも家畜と思われる動物みたいな本が数多く住んでいた。

羊「メェー!」

繭「かわいい、羊さんの本なんだ。草を一生懸命食べてるよー」

修一「本当だ。こいつからもちゃんと毛とか取れるのかな?」

草を食べてる横で不思議そうにこの羊から毛が採取できるのか考えた。家畜として飼っているから本といえど採取できるとは思うがこれは何とも不思議な生き物だ。

麻里「あら、羊ですね。この世界じゃ牛からではなく羊からミルクを採取するんですよ」

修一「え、毛じゃなくてミルクが目的なんですか?」

麻里「さっきも言いましたがこの世界は一年中春みたいな気候ですから厚着なんてする必要がありません。ですから毛ではなく飲料水になるミルクが必要なんです」

そうか、文明だけでなく気候なども日本と大きくかけ離れているから俺たちの常識がほとんど通用しない。これはおもしろいことを知ったな。羊をなでながらふと思いつく。ここに来る際に荷造りをしなくてよかったと。

海港都市ピロフを出発し11時間やっとの思いで中央都市アルロに到着した。途中面白い発見などをいろいろしたが本来の目的はここにある。アスカの記憶の手掛かりとなる人物の捜索と麻里さんのお父さんへの説教の二つである。

修一「おぉでかい噴水だな。ビル一つ分くらいあるんじゃない?」

都市の中心部にはとても大きい噴水が設置されていた。何十メートルもあり本当に周りの建物よりも大きい作りになっていた。水が溜まっているところには何匹かの魚が泳いでいて都市の子供たちはその魚を捕まえようと必死で頑張っていた。

子供A「おい、そっちに行ったぞ!網の準備をしろ!」

子供B「よし、いいぞ…よっしゃ網にかかった!」

何とも微笑ましい光景だろう。東京じゃほとんど見られない子供たちの姿は異世界ならではの景色と言える気がする。

麻里「あの、少しの間ここで待っていてもらえますか?ちょっとお手洗いに行きたいので…」

繭「いいですよ、ここで待っていればいいですね?」

何十キロも歩いていたためトイレに行く機会がなかったのだろう。麻里さんは走ってトイレらしき場所に走っていく。それまでの間俺と繭は噴水に近くにあるベンチで魚を捕まえている子供たちを眺める。

繭「こうしていると昔の日本みたいだね。私のおじいちゃんが持っていた写真と似てる…」

繭の言う通り何故か昔懐かしい気分になる。別に俺は昭和生まれではないが心の底に眠る日本人の血筋が懐かしく感じさせているのだろう。しみじみそう思いながら子供たちを眺める。

修一「なぁ繭、お前本当に付いてきてよかったのか?今更戻れないけど…」

繭「はぁ…またその話?何度も言っているけど私一人だけ足手まといにはなりたくないの。しかもあんた一人わけのわからない世界に行かせられるわけないでしょ…」

繭はとても大きいため息をつきながら話を進める。何度もひつこく聞きすぎたせいか繭も呆れがかった反応をしている。でも、何度聞いても不安になってしまう。繭を巻き込んでしまったことは本当に申し訳なく思ってしまう。

兵士「貴様ら何者だ!?」

突然現れた兵士の一言に先ほどまで笑顔あふれていた広場だった場所が一気に氷のように静かで冷め切った空気になった。兵士は俺たちに槍を向けキッときつい表情で問いかけてきた。

兵士「貴様らは一体どうやって来た?」

兵士は俺たちの素性を聞き出している。俺たちが人間であることがバレているかどうかはわからないがとりあえずごまかしておく。

修一「な、何のことでしょうか?俺たちは今日海港都市ピロフから来てベンチで休んでるだけですけど…」

兵士「そんな筈はない。貴様らが人気のない森の中から出てきたのは目撃されているのだ。率直に聞く、貴様らは何者だ?」

万事休す。どう考えても逃げることができない。しらを切って逃げようと考えていたが森から出たときの目撃証言があるなら言い訳ができない。かといって正面突破しようにも麻里さんがまだ戻ってこないから駄目だ。

繭「私たちは友達と一緒にこの街に遊びに来ただけです。兵士さんに追われるようなことは一切していません」

兵士「…」

よし、-兵士が少しひるんでいる。目撃証言があっても確実な証拠がないからまだ捕まえることができない。これ以上怪しまれないように民間人のふりをするしかない。

修一「俺たちはただの観光者なのでこの街のことはよくわかりません。なので外から見たら確かに怪しかったかもしれませんね。以後気を付けるようにします」

兵士「そうか…私の勘違いだったようだな。すまなかった」

兵士は兜を深くかぶり直し謝罪をして立ち去ろうとした。この様子から見ると多分もう疑われていないだろう。兵士が行ったら真っ先にここから出なくてはいけない。

麻里「お待たせしました。何かありましたか?」

ー!?兵士が立ち去ろうとした矢先にタイミング悪く麻里さんがトイレから戻ってきてしまった。現在指名手配として追われている麻里さんを見たら兵士も黙っていないだろう。

兵士「マ、マリーお嬢様!?どうしてここに…ってことはやはり貴様らはこの世界の住人ではないな!?」

マリー?この兵士は今麻里さんのことをマリーと言ったのか?

そんなことよりも大変まずい状況になってしまった。次は言い逃れができない。麻里さんが見つかった為俺たちが人間だとバレてしまった。

兵士「異世界侵入者にんげんを現時刻より国家転覆罪で現行犯で逮捕する!!」

まさか、麻里さんのお父さんに会う一歩手前で逮捕されるとは…



ご愛読ありがとうございます。

前回の更新から大変時間が経ってしまいました。
進級したこともあり今後の進路について考えていたらあまりこちらの方に顔を出せませんでした。(泣)

内容の方もいつもよりかなり短めになってますので本当に申し訳なく思っています。

次回には麻里さんのお父さんが登場予定となっていますので次回話もご期待ください。

それとペンネームを変更させていただきました。
前のペンネームとは全く違いますがあまり深くお考えにならないでください。

今後ともよろしくお願いします。

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