苦手な男子を克服せよ!

雪見大福

最悪

「この席で約一ヶ月間過ごすから、隣の人と挨拶とかしてー」
「夢咲」
「ははははいぃっ!」
「……よろしくー。」
「よ、よろしく…お願いします…」

心臓バクバクしてる…怖い洋君が隣にっ…そう思うと自然に鳥肌がたつし、冷や汗は流れっぱなし。

「一時間目は算数だぞー、準備して。号令。」

あーそうだ。文字も見えないんだ。もう…踏んだり蹴ったりだなぁ…

「はぁ…」

思わず溜息がもれてしまう。とりあえず算数の用意をする。これでも勉強はできる。だから算数は結構好きだった…でもこの席替えで、好きな算数の授業がまともに受けられない。

先生の声だけでなんとか頑張るしかないな…

「百マス配るよー」

そうだったその前に百マスありましたねはい…

なんか、席替えしたら頭の中がぐちゃぐちゃになって冷静に考えられない…

「よーい…スタート!」

せめてこの三分間だけでも何も考えずに問題を解いていきたい…

「はい…」
「50秒」

はぁ…どうしようかな…

空の頭は不安と恐怖でいっぱい。いつもの日常が狂ってしまっている。

「…終わり。隣の人と交換してー、丸つけするよー」
「はい。」
「は、は…はいっ…」

怖い怖い怖いぃ…

算数の時間はずっとこんな感じで、黒板の文字も見えないからノートはほとんど真っ白だった。

休み時間、さらなる恐怖が空を襲う。

「…おい夢咲」

わあぁあぁあああぁぁ!!!
洋君っ!トラウマ!トラウマのかたまりぃ!

「ななななんですか…?!」
「お前ノートちょい見せてみ。」
「えっだ、…」

だめ、という前に洋は空のノートを取って開いた。

「………」

ペラペラとめくる。今日のところは日付くらいしか書いていない。前のところはちゃんと、綺麗にノートが取れている。

「…夢咲さ…目、悪ぃの?」
「へっ…あ、…はい…」

やっぱり、とでも言うように横目でチラッと空を見ると洋は訪ねた。

「なんで前のほうの席にしなかったんだよ。」
「え、えと…前の席…もう、うまってて…全員目が悪い人だったから…残ってた席がここしかなくて…」

苦し紛れに言う。洋君の顔は見ず、下を向いて一生懸命説明した。

「ふーん…前の席にしてもらうように先生に言えば?」
「で、でも、みんな今の席で満足してそうだし…席、か、変わってって言っても…みんな動いてくれなさそう…だし…」

確かにみんな自分の席に満足していた。今更変わってと言っても変わるはず、ない。後から変わるなんてズルイ、とか言われそうだ。

「んー…俺のノート見る?」
「えっ…い、いい…ですか…?」
「ん。いいよ。見て。授業の内容は頭に入ってんだろ。でもノート取っておかないと成績下がるし。あ、ノートはきたねぇけど…」

あれ…洋君ってこんな優しかったっけ…?

「あ、ありがと…ございます…」
「夢咲が俺の何に怯えてんのか知んねーけど、そんなビクビクすんなよ。こっちが腹立つ。」

や、やっぱ怖いよ…!腹立つって、やっぱりやっぱり短気だよ…!!優しくないよ…

優しいと思ったけど、そんなに優しくなかった洋。このことから空は洋にノートを見せてもらうようになった。

苦手な男子との一日は、とりあえず平和に終わった。

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コメント

  • 音乃

    めっちゃ面白い!
    3話、待ってます!頑張って下さい!!

    1
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