黒衣の虹姫

陸奥ユウト

Ep29

  イズナと模擬戦をした次の日、イズナに奨められた盗賊退治の依頼を受けるために冒険者ギルドに来ていた。

「おはよーございまーす」

「おはようございます……ってティアさん イズナさんから聞きましたよ!模擬戦をしたって。大丈夫でしたか 」

「大丈夫じゃなかったですね、まだ全然相手になりませんでしたよ。最終的に吹っ飛んで気絶しました」

「……イズナさんには私やギルマスから言っておきます」

「あはは、ありがとうございます」

「それで、今日はどんな依頼を受けますか?やっぱり討伐系ですか?」

「いや、盗賊退治の依頼ってありますか?」

「盗賊退治ですか?一応ありますけど……まぁ、ティアさんなら大丈夫でしょう」

  そう言って依頼の内容を話し出す。

「最近、ここから西の『貿易都市エルディア』の近辺に商人を狙った盗賊が出没しているらしく、その退治及び確保の依頼がありますが……どうします?」

「受けます、その依頼。盗賊は何人か分かりますか」

「襲われた商人の情報では10~15人程度らしいですが、誰かとパーティーを組んで行きますか?」

「いえ、ソロで行きます。行くよ、ウォルス」

「え、あ、ちょっと」

  そう言ってギルドを出ていくティア。それを止めようとしたサリーの声は聞こえなかったようだった。











「はぁ、行っちゃいました」

  サリーがティアなら大丈夫だと思ったのはパーティーを組んだ場合だ。ギルドに登録してからずば抜けた数の魔物を討伐したティアでも10人以上の盗賊を相手にして無事に帰ってくるか心配だった。

  他の人にも依頼を受けてもらおうと思い、誰かに声をかけようとすると逆に声がかかってきた。

「昨日ぶりじゃな、また来たぞ」

「イズナさん!丁度良かった。今ティアさんが──」

「盗賊退治の依頼を受けてったが一人だったから儂にも行って欲しい、か?」

「え、知ってるんですか?」

「知ってるも何も、盗賊退治の依頼を受けるように言ったのは儂じゃからな。あ奴はかなり強かったからな、問題無いじゃろ」

「ティアさんがどれくらい強いか知ってるんですか?」

  ティアの戦いを見たことが無いサリーが尋ねる。

「ああ、強かったぞ。中々強いもんで最後は少しばかり本気で『滅竜鬼拳』を撃ってしまったな」

「……その技って確かイズナさんの奥義の一つでしたよね?何やっちゃってくれてんですか、期待の新人に」

「むしろ『期待が大きい』から撃ったんじゃ。こんなに楽しめそうな相手は『絶魔』と『魔王』以来だったからのう」

 はっはっは、と笑うイズナの横で、 
(ティアさん御愁傷様)とサリーは心の中で思った。

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