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召喚してきた魔術王とか吸収してドッペルゲンガーやってます

走るちくわと核の冬

11.ドッペルゲンガーは旅立ちを決意する




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《ステータスが更新されました》

名前:『アシエ』☆
種族:ドッペルゲンガー(魔人種)
性別:『男性』
パラメータ:筋力C☆ 耐久C☆ 敏捷A+☆ 知力A- 魔力SSS 幸運D-
スキル:魔導の祝福 魔力ブースト 高慢 気配察知☆ 韋駄天☆
種族スキル:存在吸収 形態模倣 魔力支配

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「んーッ! これは良い身体だな、動きやすい」

 アシエ……を吸収したドッペルゲンガーは、尋問室の中で傷一つない新しい体を動かしてみたり軽く駆けたりを繰り返していた。
 恐ろしく身体能力の低いレトルコンとは違い、鍛えられた若い肉体はとても素直に動く。
 特に敏捷に特化した能力値を持っていたため、その足捌きは実に見事なものだった。
 何せこの室内でさえ、残像が残るくらいには加速出来るのだから。

 アシエの持っていたスキル《韋駄天》は、加速系スキルの最上位ともされているレアスキルである。
 敏捷の影響を受けるあらゆる行動に大幅な補正がかかり、こと「走る」という動作に非常に大きな恩恵を与えるのだ。ちなみに名前の由来は定かではない。
 このため、ただでさえA+という突き抜けた敏捷を更に高め、純粋な走力だけなら人外の領域に達することが可能である。
 惜しむべきは彼の敏捷以外の能力が一般的な騎士の標準をやや下回る程度しかない、ということだろうか。
 しかしそれでもかの愚王の貧弱さに比べれば遥かにマシになったと、ドッペルゲンガーは素直に喜んでいた。


 ひとまず確認を終え、元の王の姿へと《形態模倣》を行ったドッペルゲンガーは尋問室を後にする。
 立ち去った部屋には、アシエという騎士がそこに存在したという痕跡はほとんど残っていない。
 《存在吸収》の効果は、その対象の魂や肉体だけでなく、直近の装備品にまで及ぶ。吸収された時点で「その者を構成している要素」として識別されるが故だ。
 更に肉体から一度切り離された部位……この場合は作業時に飛び散った肉片等……もまた、ある程度の時間経過以内であれば対象に含まれる。
 故にその部屋にはアシエが纏っていた囚人服も、床を覆っていた血も汗も肉片もほぼ消失し……まるでそれは「アシエという者は元より存在していなかった」と錯覚すらしてしまうような、酷く虚ろな空気に満たされていた。

 しばらく歩いて……長い地下道の隅に跪いていた獄吏達に、ドッペルゲンガーは顔も向けぬまま鷹揚に言い放った。

「あの囚人だがな……適当に『獄中死』として処理せよ。そしてその事実も数日程は隠蔽するように。もちろん"ここには誰も訪れなかった"として、な」

 その指示に、彼らは誰も疑問を挟むことはない。
 ただ黙々と己の課せられた使命を全うし、彼らなりの平穏を保つだけである。そこに善悪など存在しない。
 それにこの異常な閉鎖空間において「囚人が消える」ことは、例え前例がなくても"その程度のこと"で済まされてしまうのだ。
 例えるならば、共有のテーブルに置かれていた果物が一つ足りなかったところで、どうせそのうち消費されるべき物に対し「消えた理由」まで考えない……という感覚に近しい。

 かくして重罪人に仕立て上げられた1人の騎士は、誰にも知られることなくその存在を奪われ、そして消失の事実すら隠蔽されるという結末に至ったのである。



 ドッペルゲンガーは夕食の後、王の私室にてひとり頭を抱えていた。
 この魔人は2つの魂を得ることでひとつの変化をその身に宿した……吸収によって異なる人格を内在することで、大きく思考の形態が変化したのだ。
 魔術王レトルコンとしての知識及び考え方と、平民出身の騎士アシエのそれは大きく異なる。天と地ほども違う。
 為政者の中でもおよそ最悪と言える愚王レトルコンは、その高慢さと無知故に決して揺らぐことはなかった。
 彼は知らなかったのだ……己が一部国民から"稀代の愚王"として認識されていたことを。
 そして行き過ぎた貴族主義に傾き始めたこの国の現状と、王族や貴族以外のヒトの営みというものを、アシエの見識により初めて知り、理解したのだ。

 そんな混濁した価値観にもようやく整理が付いた頃、ドッペルゲンガーはひとつの結論に達した。

 ——王とかやめて、奔放に生きたい——と。

 この結論は、王族の実態を知ったアシエとしての思考に基づくところが大きい。
 かの若者からしてみれば、王族の暮らしになど何の価値もなかったのだから。
 そしてドッペルゲンガーの本能と照らし合わせても、やはり王という枷は重過ぎる。
 写し身の魔人としては、より多くより上質なヒトを喰らいたい。しかし、例え王の権限をフル活用してもその欲求を満たすことは難しい。否、周囲の目の多過ぎる王族であるからこそ、魔人の力は振るうことの難易度が上がるのだ。
 例えば今回のように、標的を適当に地下監獄なりに放り込み、そして折を見てこっそり吸収する……という作戦は、決して不可能ではない。
 しかし手間とリスクが多いその方法に比べたら、ごく普通の平民にでも混じって凶行に走る方が遥かに効率的なのだ。

 幸か不幸かアシエという青年は、生まれ持ったその無個性過ぎる平凡顔の効果により、ヒトの群れに埋没する才能に長けていた。
 騎士団の中でこそ出身とスキルにより悪目立ちをしてしまっていたが、本来彼は路傍の石の如くヒトから無視される性質を持っている。
 顔と経験により構成されたその能力はスキルにこそ至らないものの、下手なスキルよりよっぽど強力な「個性」だった。
 ……そしてその能力は、魔人がヒトを狩るという目的に注がれることで、やがて醜悪な大輪を咲かせることとなる。


 魔人は自由を得るため、まずはこの王宮を脱出することにした。
 そのために必要な「ある物」を召使いに用意させながら、同時にそこに並ぶ召使いたちを睨むように『物色』する。
 2人目の吸収によって得たのは、スキルや記憶だけではない。
 異なる魂を吸収するという行為により、魔人は「ヒトの魂の違い」について理解し……そしてその結果「上質そうな魂を持つ者」への『嗅覚』に近しい感覚に目覚めたのだ。
 そして……やはりどうせ体内に取り込むのなら、より質の高いモノがよいと思うのはヒトも魔人も同じなのだ。
 故に王を模した魔人は、たったそれだけの理由で1人のメイドに目を付けた。そして彼女に向かって命令を放つ。

「そこの。今宵余の寝室へ1人で来い」

「……ッ!! かしこまりましたわ、陛下。不肖、このシトリンが今夜の奉仕を拝命致します」

 どこか野暮ったい雰囲気を醸し出すそのメイドの瞳に……一瞬だけ挑戦的な輝きが垣間見えたように魔人は感じたのだった。

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