心装の戦乙女《ヴァルキュリア》
突然の模擬戦
「…凄く広いですね。」
七海先生についていき、たどり着いたのは周囲を円状の壁で囲い、中には土を敷いた広いリングだった。リングだけでも野球場程の広さがあり、壁の外側は観客席の様になっており格子が張られていた。
「でしょう~。実技の授業は此処に同じ学年の全クラスを集めて行うの~。今日は逢坂君達、2年生AからBクラスの合計50人がいるのよ~。」
「具体的な授業内容は?」
「ん~?心装の扱い方や能力の練習だよ~。」
「先程も少し耳にしたんですが、《心装》の能力って…ん?」
教室でのアカネ達との会話に出てきた《心装》の能力について質問しようとした時、複数の視線を感じた。
「見て、あれがAクラスに転入してきた男の《ヴァルキュリア》だって。」
「へ~結構いいね。意外とタイプかも…。」
「私はもうちょっとガッシリした方がいいと思うな~。」
「顔つきはちょっと幼めだね。そのわりにはツンツンしてそう。」
「きっとデレたらカワイイのよ。」
「ツンデレ、…悪くないわ。」
…なんか滅茶苦茶に言われてないか?
後、最後の人、男のツンデレなんて需要あるか?
「ほら貴様ら、整列しろ。授業を始めるぞ。」
実技訓練の担任の女性の声に先程までおしゃべりや視線をこちらに向けていた少女達は一斉に動き、瞬く間に整列した。
「よし、揃ったな。今から実技訓練を始める。授業内容は前回と同じだ。各々で準備運動を行い、能力の訓練と基礎訓練の者に分れろ。」
『はいっ!』
ーーー
程なくして、各々が訓練別に別れだした。
俺は七海先生についていき基礎訓練を見学していた。
「いいか貴様ら!いつも言っているが基礎が出来ていない者が能力を訓練するのは100年早い!能力訓練の者も能力に振り回される様なら基礎訓練に戻ってもらう!」
『はいっ!』
凄いな…軍隊の訓練を見たことはないが、きっとこういう感じなんだろうな。
「貴様が逢坂か?」
「はい?」
いつの間にか実技訓練担当の先生がそばにいて、声をかけてきた。
「なんだその緩みきった返事は。貴様が逢坂かと聞いているんだ。」
「すいません、本日より転入してきた逢坂ユウです。よろしくお願いいたします。」
「実技訓練担当の内海だ。よろしく頼む。」
「ヤッホ~、うっち~。お邪魔してま~す。」
「生徒の前でその呼び方をするな。」
「え~、つれな~い。」
「うるさい。逢坂、いきなりで悪いが貴様には今から《心装》を使って戦闘を行ってもらう。」
「…は?ちょっと待って下さい…。」
「なに、ちょっと貴様の実力を見るだけだ…。花宮!来てくれ!」
「はいっ!どうされましたか…、ん?ユウじゃないか、先程ぶりだな。」
「なんだ逢坂、花宮と面識があるのか。」
「ええ…まぁ少しだけ。」
「ならちょうど良い。花宮、逢坂と模擬試合をやってくれ。」
「ユウとですか?でも彼は《ヴァルキュリア》になったばかりじゃ…。」
「逢坂は《ヴァルキュリア》に覚醒して直ぐに【ヴァジュラ】との交戦経験があり、聞いた話では一瞬で倒したらしい。」
「大型マガタを一瞬で…、ユウ凄いな!」
「いや、凄いと言われても…。それとは話が別だし…。」
あの時のことはあまり覚えていないのが本音だった。
本当に一瞬だったし、あんなことをいつまでも覚えていたくない。
「とりあえずやってみろ。花宮は学園でも指折りの実力者だ、大船に乗った気持ちで行け。」
「…わかりました。やれるだけやってみます。」
気乗りはしないがやるしかないみたいだ。
「よろしく頼むぞユウ。」
「お手柔らかに頼むよ。」
ーーー
俺とアカネが模擬試合を行うことは時間がかかることもなく広まり、実技訓練を受けていた生徒は全員が手を止めて此方に注目していた。
「それでは今から模擬試合を行う。両者、心装を取り出せ。」
「はい!」
返事をするアカネの右手に、アカネの身の丈程の大太刀が出現した。
現れた大太刀の刀身は淡い緋色に輝いていた。
アカネは大太刀の柄を右手を上、左手を下で握り、刃を背後の上空に向ける様に腰の位置で構える。
たったそれだけのことでも圧倒されそうだった。
俺とは違う、幾度の訓練を重ねた証拠だった。
「どうしたんだユウ、早くやろう。」
固まっていた俺はアカネの言葉で動きだす。
(…出てこい!)
そう念じると手に二振りの刀が出現した。
初めて出現したときと同じで、ずっと扱っていたかの様に手に馴染んでいた。
「両者準備はいいな?それでは…始めっ!」
「行くぞ!ユウ!」
アカネはユウに向かって走りだし、一瞬で肉薄する。
(なっ…!速過ぎるだろっ!)
アカネの大太刀が左上に向かって振るわれる。
ユウは右側に転がる様に避けた。
そのまま転がり、しゃがんだ体勢でアカネの方を向き立て直した。
(よく避けられたな俺…、運が良かった…。)
「やるじゃないかユウ、寸止めはしても外す気はなかったんだが。」
「…俺、ちゃんとお手柔らかに頼むよって言ったと思うんだけどな。」
「大型マガタを一人で倒したユウに手加減なんていらないと思ったんだ。」
「…あれはまぐれだよ。」
「そんなことよりもユウの腕前も見せて欲しいな。」
アカネは太刀を最初と同じに構える。
(そんな事言われても…、俺は剣術なんてしたことないし…、どうする…?)
…そんな時だった。いきなり頭の中でとある会話が思い出されたーーー…。
『ねえユウちゃん聞いてよ、今日は大剣を使う人と模擬戦をしたの。』
『また模擬戦の話かよ…、それで?』
『その人はね、とても力が強くて、自分の身の丈より大きいのにブンブン振り回すの。多分筋力とかを向上させる能力だと思うわ。』
『まあ、当然そう思うな。』
『でも、その人は大振りがほとんどだったから避けれたの。』
『うん。』
『そこでお姉ちゃんは考えたの。あの力強い大振りを逆に利用できないか、と。』
『利用?』
『そう、利用。回転扉ってあるじゃない?それを参考にしてみたの。相手の力を利用して自分の攻撃にするのーーー…。』
そこで記憶は途切れた。
(ーーー今のは姉さんと俺の会話…?)
姉さんは確かに俺に模擬戦の話をしていた。
俺がまだ中学にも上がっていないときに、模擬戦がある日は必ずと言って良いほど話してきた。
(でもなんでこんなタイミングで…、これを思い出した?こんな狙ったかの様に…。)
「ユウ!」
「あっ…!」
「どうした、いきなりボーっとして?」
アカネに名前を呼ばれ、今が模擬戦の途中だと思い出す。
「来ないのなら此方から行くぞ!」
アカネは真っ直ぐ俺に向かって走りだす。
さっきと同様の攻撃だろう。
(…やるしかない。)
疑問はつきなかった。
なぜあのタイミングであの記憶を思い出したのか。
それでも、今は疑問は後回しで模擬戦に集中する。
「はっ!」
アカネは右上からの袈裟斬りをおこなう。
(まずは試していかないとな…。)
刀を交差させ正面から受ける。
ガキンッ!と刃がぶつかり合う音の後に後方へと弾き飛ばされる。
なんとか体勢を戻すと、手がジンジンと痺れていた。
(流石に無理があったな…でも太刀の軌道は見えた)
正面からの防御は明らかに無理だったが、確かな収穫が得られた。
(…よし、次に移るか。)
その時のユウの表情には微かな笑みがあった。
七海先生についていき、たどり着いたのは周囲を円状の壁で囲い、中には土を敷いた広いリングだった。リングだけでも野球場程の広さがあり、壁の外側は観客席の様になっており格子が張られていた。
「でしょう~。実技の授業は此処に同じ学年の全クラスを集めて行うの~。今日は逢坂君達、2年生AからBクラスの合計50人がいるのよ~。」
「具体的な授業内容は?」
「ん~?心装の扱い方や能力の練習だよ~。」
「先程も少し耳にしたんですが、《心装》の能力って…ん?」
教室でのアカネ達との会話に出てきた《心装》の能力について質問しようとした時、複数の視線を感じた。
「見て、あれがAクラスに転入してきた男の《ヴァルキュリア》だって。」
「へ~結構いいね。意外とタイプかも…。」
「私はもうちょっとガッシリした方がいいと思うな~。」
「顔つきはちょっと幼めだね。そのわりにはツンツンしてそう。」
「きっとデレたらカワイイのよ。」
「ツンデレ、…悪くないわ。」
…なんか滅茶苦茶に言われてないか?
後、最後の人、男のツンデレなんて需要あるか?
「ほら貴様ら、整列しろ。授業を始めるぞ。」
実技訓練の担任の女性の声に先程までおしゃべりや視線をこちらに向けていた少女達は一斉に動き、瞬く間に整列した。
「よし、揃ったな。今から実技訓練を始める。授業内容は前回と同じだ。各々で準備運動を行い、能力の訓練と基礎訓練の者に分れろ。」
『はいっ!』
ーーー
程なくして、各々が訓練別に別れだした。
俺は七海先生についていき基礎訓練を見学していた。
「いいか貴様ら!いつも言っているが基礎が出来ていない者が能力を訓練するのは100年早い!能力訓練の者も能力に振り回される様なら基礎訓練に戻ってもらう!」
『はいっ!』
凄いな…軍隊の訓練を見たことはないが、きっとこういう感じなんだろうな。
「貴様が逢坂か?」
「はい?」
いつの間にか実技訓練担当の先生がそばにいて、声をかけてきた。
「なんだその緩みきった返事は。貴様が逢坂かと聞いているんだ。」
「すいません、本日より転入してきた逢坂ユウです。よろしくお願いいたします。」
「実技訓練担当の内海だ。よろしく頼む。」
「ヤッホ~、うっち~。お邪魔してま~す。」
「生徒の前でその呼び方をするな。」
「え~、つれな~い。」
「うるさい。逢坂、いきなりで悪いが貴様には今から《心装》を使って戦闘を行ってもらう。」
「…は?ちょっと待って下さい…。」
「なに、ちょっと貴様の実力を見るだけだ…。花宮!来てくれ!」
「はいっ!どうされましたか…、ん?ユウじゃないか、先程ぶりだな。」
「なんだ逢坂、花宮と面識があるのか。」
「ええ…まぁ少しだけ。」
「ならちょうど良い。花宮、逢坂と模擬試合をやってくれ。」
「ユウとですか?でも彼は《ヴァルキュリア》になったばかりじゃ…。」
「逢坂は《ヴァルキュリア》に覚醒して直ぐに【ヴァジュラ】との交戦経験があり、聞いた話では一瞬で倒したらしい。」
「大型マガタを一瞬で…、ユウ凄いな!」
「いや、凄いと言われても…。それとは話が別だし…。」
あの時のことはあまり覚えていないのが本音だった。
本当に一瞬だったし、あんなことをいつまでも覚えていたくない。
「とりあえずやってみろ。花宮は学園でも指折りの実力者だ、大船に乗った気持ちで行け。」
「…わかりました。やれるだけやってみます。」
気乗りはしないがやるしかないみたいだ。
「よろしく頼むぞユウ。」
「お手柔らかに頼むよ。」
ーーー
俺とアカネが模擬試合を行うことは時間がかかることもなく広まり、実技訓練を受けていた生徒は全員が手を止めて此方に注目していた。
「それでは今から模擬試合を行う。両者、心装を取り出せ。」
「はい!」
返事をするアカネの右手に、アカネの身の丈程の大太刀が出現した。
現れた大太刀の刀身は淡い緋色に輝いていた。
アカネは大太刀の柄を右手を上、左手を下で握り、刃を背後の上空に向ける様に腰の位置で構える。
たったそれだけのことでも圧倒されそうだった。
俺とは違う、幾度の訓練を重ねた証拠だった。
「どうしたんだユウ、早くやろう。」
固まっていた俺はアカネの言葉で動きだす。
(…出てこい!)
そう念じると手に二振りの刀が出現した。
初めて出現したときと同じで、ずっと扱っていたかの様に手に馴染んでいた。
「両者準備はいいな?それでは…始めっ!」
「行くぞ!ユウ!」
アカネはユウに向かって走りだし、一瞬で肉薄する。
(なっ…!速過ぎるだろっ!)
アカネの大太刀が左上に向かって振るわれる。
ユウは右側に転がる様に避けた。
そのまま転がり、しゃがんだ体勢でアカネの方を向き立て直した。
(よく避けられたな俺…、運が良かった…。)
「やるじゃないかユウ、寸止めはしても外す気はなかったんだが。」
「…俺、ちゃんとお手柔らかに頼むよって言ったと思うんだけどな。」
「大型マガタを一人で倒したユウに手加減なんていらないと思ったんだ。」
「…あれはまぐれだよ。」
「そんなことよりもユウの腕前も見せて欲しいな。」
アカネは太刀を最初と同じに構える。
(そんな事言われても…、俺は剣術なんてしたことないし…、どうする…?)
…そんな時だった。いきなり頭の中でとある会話が思い出されたーーー…。
『ねえユウちゃん聞いてよ、今日は大剣を使う人と模擬戦をしたの。』
『また模擬戦の話かよ…、それで?』
『その人はね、とても力が強くて、自分の身の丈より大きいのにブンブン振り回すの。多分筋力とかを向上させる能力だと思うわ。』
『まあ、当然そう思うな。』
『でも、その人は大振りがほとんどだったから避けれたの。』
『うん。』
『そこでお姉ちゃんは考えたの。あの力強い大振りを逆に利用できないか、と。』
『利用?』
『そう、利用。回転扉ってあるじゃない?それを参考にしてみたの。相手の力を利用して自分の攻撃にするのーーー…。』
そこで記憶は途切れた。
(ーーー今のは姉さんと俺の会話…?)
姉さんは確かに俺に模擬戦の話をしていた。
俺がまだ中学にも上がっていないときに、模擬戦がある日は必ずと言って良いほど話してきた。
(でもなんでこんなタイミングで…、これを思い出した?こんな狙ったかの様に…。)
「ユウ!」
「あっ…!」
「どうした、いきなりボーっとして?」
アカネに名前を呼ばれ、今が模擬戦の途中だと思い出す。
「来ないのなら此方から行くぞ!」
アカネは真っ直ぐ俺に向かって走りだす。
さっきと同様の攻撃だろう。
(…やるしかない。)
疑問はつきなかった。
なぜあのタイミングであの記憶を思い出したのか。
それでも、今は疑問は後回しで模擬戦に集中する。
「はっ!」
アカネは右上からの袈裟斬りをおこなう。
(まずは試していかないとな…。)
刀を交差させ正面から受ける。
ガキンッ!と刃がぶつかり合う音の後に後方へと弾き飛ばされる。
なんとか体勢を戻すと、手がジンジンと痺れていた。
(流石に無理があったな…でも太刀の軌道は見えた)
正面からの防御は明らかに無理だったが、確かな収穫が得られた。
(…よし、次に移るか。)
その時のユウの表情には微かな笑みがあった。
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