ハイタ
老人の話
私は人が嫌いだ。
果たしてどのくらい嫌いかというと、例えていうなら、バスだ。
その日は強い雨だったとしよう。
バスの入口には3段からなる階段が設けられている。
料金先払いのそのバスの階段には、雨に濡れまいと必死な人たちが、1段に1人ないし2人で並んで立っている。
1番外に近い側、私が次に雨をしのげる場所が空いたとしよう。
普通であれば我先にと段に足をかけ、屋根の下に潜るだろうが、それが耐えられない。
2段目にいる人との距離が耐えられない。
背を向けた人と接近するだけでも、喉がむずむずしてくるのだ。
だけど、何も昔からそうなのではない。
こう感じるようになったのは社会人になってからだ。
美影 唯。
この女のせいだった。
どこにでもあるような話のおかげで、私はこうも卑屈になってしまった。
子供のときは、何にでも好奇心を向けて、人見知りもしない、ただただ明るい子だった。
たった4年間、社会に揉まれただけでこうも変わってしまうとなると、お母さんもびっくりだ。東京はそういうところだ。
ピーーーッと歯切れの良い笛の音がすると、次いで聞き取りやすい男性の声で、電車の通過が予告される。
「まあ、いっか。」
どうせ今、終わるんだし。
足元から小さな振動が伝わり、いつもより大きく聞こえる電車の音が耳をかすめた。
「見てみろよこれ!拳銃がもらえるんだってよ!お前もらえたら誰のこと殺すんだよ。」
私が黄色い点字ブロックを超えた辺りだった。
後方から、高校生だろうか、男の子達の話し声が聞こえた。
拳銃か、拳銃があればあんなやつすぐにでも殺してやるのに。
なんか。
バカバカしくなってきた。
顔にぴりぴりとした感覚が走った瞬間、目の前を物凄いスピードで電車が通る。
一気に身体の力が抜けたと同時に、私はその場に尻餅をついてしまった。
「大丈夫?お姉さん」
さっきの男の子たちが、私の顔を覗き込みながら心配そうに訊ねた。
今どきこんな子供もいるのか、なんて、ちんぷんかんぷんなことを思ったりした。
「ありがとう、夜勤明けで疲れちゃってて。」
いつもとはちょっと違う愛想笑いを浮かべながら立ち上がる私をみて、高校生たちは安心したように、輪の中に戻った。
何も期待していたわけではない。
ただ、ふと舞い込んできた動揺に、心を少し持っていかれただけなんだ。
そして私はそっと、データを全て消去した携帯電話の電源を入れた。
その日は慌ただしかった。
というのも、原因はあの映像だった。
またたくまにSNSに広がり、日本中は騒然とした。
でも、なぜ僕が忙しいのかと言うと、それは、期待を大にして殺す人を選ばなければいけないからだ。
実質、殺せるのは1人だけ。
まあこれも、確定したことではないが。
騒騒しい教室のど真ん中に位置する
、嫌がらせとしか思えない席で、僕は1人、名簿を眺めていた。
名前だけになった奴らに恐怖は感じない。
周りのヤツらはまた指をさして笑っているだろう。
コンパスの針を、誕生日が早い人順に当てていく僕を。
どこからともなく声が聞こえてくる。女の子の声...これは、美香ちゃんだ。
「1ヶ月後には拳銃が届いたりして!」
「日本に人が何人いると思ってんの。無理よ無理。」
興奮気味の女の子の声は、僕の耳に入り、そして名前となって現れる。
普段地味なグループの美香ちゃんが、嬉しそうな声を上げて話している姿は、まるで
「ブタだな。」
僕はいつにも増して面白くなって、名簿がぐしゃぐしゃになったことにも気づかなかった。
チャイムがなったと同時に、廊下にいた者、席を立っていた者が教室へゾロゾロと戻ってきた。
1人だった僕の周りには要塞が出来たかのような圧迫感が生まれた。
豊臣秀吉もびっくりな速さで。
みんなは席に着くと、水を打ったように静かになった。
先生の歩く音が廊下に響き、より一層静寂が浮き彫りになった。
教室のドアが開くと、委員長の号令でみんな席を立ち、お辞儀をする。
極めつけは、いっせーのーで
「おはようございます。」
だ。
先生は太い眉毛を撫で、薄ら笑いを浮かべた。
今日のスタートの合図であった。
都内に位置するテレビ局、今日は一段とおっさん臭が漂った。
「おっはよんー」
頭に黄ばんだタオルを巻き付けて、開いてるかも分からない目で挨拶をしてきたのは俺の先輩だ。
「先輩、シャワーあるんだから浴びてくださいよ。」
心底呆れた、という声で先輩に語りかける俺は、入社5年目のぴちぴちの新人カメラマンだ。
カメラマンといっても、テレビ局と言っているから想像がつくだろうが、写真を生業にしているのではなく、バラエティやドラマ、映画の撮影で使用するカメラワークを担当している。
もちろん、写真だって大好きだが、俺はやっぱり、動くものが撮りたかった。
「だってよーお前、昨晩のハッキングったら、理由わかんねえとよお。電話がバンバン入ってんだってよ。」
先輩は俺が買ってきた朝ごはんのハンバーガーを貪りながら頭を抱えた。
「全局がそうなんですから、仕方ないですよ。」
「全局だからだよ。悔しいじゃん、俺んとこで原因見つけ出してやるからな。警察になんか頼らないからな。」
俺の慰めは意味を成さず、先輩のやる気を上昇させるだけだった。
先輩はこう見えて、とても優秀で、色々と仕事を任されているのも事実で。
特にこの手のトラブル関係については、上もぶん投げ状態だ。
椅子の上でくるくる回る、臭いおっさんからは信じられないだろうけど。
「夜中の放送だったので、俺見てないんですよね。」
カチカチとマウスを弄りながら俺が呟くと、タライでも落とされたかのような痛みが頭頂部に走った。
「ばっかもーん。朝一で見てこい!疎いんだお前さんは!ここで見れるからと、いい気になっているのではいいディレクターにはなれないぞ!」
果たして先輩が手にしていたのはなんなのか、確認するのが怖く、洗礼を背中で受けていた。
ディレクターになる気はないが、テレビ局の人間として、今回のことを未だ把握していないのは確かに俺の不備であるため、一言謝罪し、例の動画を再生することにした。
大画面に映ったのは、身なりが上品な70代くらいの男性だった。
その表情は、どこか満足気で、いつかのテレビで見覚えがあるものだった。
その表情は最近捕まった萩野という男の表情にそっくりだ。
萩野は、幼女にみだらな行為をした上、川や海に投げ捨て殺すという最低な手口で殺人を繰り返していた犯罪者だ。
発見された幼女は今のところ5人。
全ての被害者に、萩野のDNAが付着していたそうだ。詳しくは、言わないが。
萩野は警察に連行される時、マスコミのカメラに向かって笑みを浮かべながらこう叫んだ
『やりたいことをやって何が悪い。好きなことだけやって何が悪い。お前らは負け組だ。』
この映像は全局が放映して、日本中が騒いだものだ。
萩野のやったことは最低極まりなく、結局は犯罪者の戯言であるが、この言葉に賛同する者は少なくなかった。
話を戻すが、この老人は、その萩野の満足に満ち満ちた表情とそっくりだったのだ。
老人はゆっくり、時間をかけて口を開いた。
『あ、あ、映ってるんですね。大丈夫ですね。はい。
    突然のことで日本のテレビ局の方は驚いていることかと思いますが、しばしお時間をいただきたい。』
老人の声は、思っていたより高く、目を瞑って聞いていれば、まだ俺の父親くらいなのではないかと思うくらいであった。
先輩は口元に手を当てながら、ブツブツと何か言っていた。
おそらくは、ハッキングへの文句だろう。
『私は、決めました。この日本に、拳銃を100丁配布します。配布先は無作為に決めさせていただきますので、貰えるか貰えないかは運ですな。
    配布対象は、日本に住んでる皆さんです。好きに使うといいでしょう。しかし、銃弾は1個しか装填しませんので、使い道についてはよく考えた方がいいでしょう。』
ここで老人は、画面に向かって指を拳銃に見立て、バーンと言いながら打つ仕草をした。
先輩はやはり、ブツブツと文句を零していた。
老人は少し照れ笑いを浮かべた。
『ウケましたかね。
    それでは、1ヶ月後、日本のどこかの誰か100名に拳銃が届きますので、楽しみにしていて下さい。
    あ、私のことは、あしながおじさんとでも呼んでくれれば幸いです。日本人の皆さんを愛しています。』
ぶつんっという音と共に映像が消え、昨日放映されていた俳優の人気で成り立っているかのようなドラマが流れた。
「先輩、拳銃貰ったらどうします?」
文句がとまらない先輩になんとなしに聞いてみる。
今の先輩であれば、この野郎を殺してやる!とでも言いそうな勢いであるが、その予想を裏切り、真面目な声で言った。
「かかあ。」
と。
俺の頭はついていけず、息もうまく吸えてなかった。
「冗談ちーん」
先輩が手をひらひらさせながら笑った。そのおかげで呼吸を取り戻した。
先輩は、シャワーを浴びて来ると言い席を立った。
先輩が座っていた黒色の椅子は、汗でぐっしょり濡れていた。
ドクドク動く自分の鼓動に押し潰されそうになりながらも、先輩の背中に呼びかけた。
「俺ではどうでしょう。」
先輩は曲がり角の手前で振り返って親指を立てて見せた。
「才能がある。」
今度こそ先輩の姿は見えなくなったが俺の中の不安は自己主張が激しくて仕方なかった。
こうして始まった日本の緊張は、この先1ヶ月を支配した。
そして、遂にあの日から1ヶ月が過ぎた。
季節は変わり、街中が赤々と色付く中、人の呼吸は白く霞んでいった。
果たしてどのくらい嫌いかというと、例えていうなら、バスだ。
その日は強い雨だったとしよう。
バスの入口には3段からなる階段が設けられている。
料金先払いのそのバスの階段には、雨に濡れまいと必死な人たちが、1段に1人ないし2人で並んで立っている。
1番外に近い側、私が次に雨をしのげる場所が空いたとしよう。
普通であれば我先にと段に足をかけ、屋根の下に潜るだろうが、それが耐えられない。
2段目にいる人との距離が耐えられない。
背を向けた人と接近するだけでも、喉がむずむずしてくるのだ。
だけど、何も昔からそうなのではない。
こう感じるようになったのは社会人になってからだ。
美影 唯。
この女のせいだった。
どこにでもあるような話のおかげで、私はこうも卑屈になってしまった。
子供のときは、何にでも好奇心を向けて、人見知りもしない、ただただ明るい子だった。
たった4年間、社会に揉まれただけでこうも変わってしまうとなると、お母さんもびっくりだ。東京はそういうところだ。
ピーーーッと歯切れの良い笛の音がすると、次いで聞き取りやすい男性の声で、電車の通過が予告される。
「まあ、いっか。」
どうせ今、終わるんだし。
足元から小さな振動が伝わり、いつもより大きく聞こえる電車の音が耳をかすめた。
「見てみろよこれ!拳銃がもらえるんだってよ!お前もらえたら誰のこと殺すんだよ。」
私が黄色い点字ブロックを超えた辺りだった。
後方から、高校生だろうか、男の子達の話し声が聞こえた。
拳銃か、拳銃があればあんなやつすぐにでも殺してやるのに。
なんか。
バカバカしくなってきた。
顔にぴりぴりとした感覚が走った瞬間、目の前を物凄いスピードで電車が通る。
一気に身体の力が抜けたと同時に、私はその場に尻餅をついてしまった。
「大丈夫?お姉さん」
さっきの男の子たちが、私の顔を覗き込みながら心配そうに訊ねた。
今どきこんな子供もいるのか、なんて、ちんぷんかんぷんなことを思ったりした。
「ありがとう、夜勤明けで疲れちゃってて。」
いつもとはちょっと違う愛想笑いを浮かべながら立ち上がる私をみて、高校生たちは安心したように、輪の中に戻った。
何も期待していたわけではない。
ただ、ふと舞い込んできた動揺に、心を少し持っていかれただけなんだ。
そして私はそっと、データを全て消去した携帯電話の電源を入れた。
その日は慌ただしかった。
というのも、原因はあの映像だった。
またたくまにSNSに広がり、日本中は騒然とした。
でも、なぜ僕が忙しいのかと言うと、それは、期待を大にして殺す人を選ばなければいけないからだ。
実質、殺せるのは1人だけ。
まあこれも、確定したことではないが。
騒騒しい教室のど真ん中に位置する
、嫌がらせとしか思えない席で、僕は1人、名簿を眺めていた。
名前だけになった奴らに恐怖は感じない。
周りのヤツらはまた指をさして笑っているだろう。
コンパスの針を、誕生日が早い人順に当てていく僕を。
どこからともなく声が聞こえてくる。女の子の声...これは、美香ちゃんだ。
「1ヶ月後には拳銃が届いたりして!」
「日本に人が何人いると思ってんの。無理よ無理。」
興奮気味の女の子の声は、僕の耳に入り、そして名前となって現れる。
普段地味なグループの美香ちゃんが、嬉しそうな声を上げて話している姿は、まるで
「ブタだな。」
僕はいつにも増して面白くなって、名簿がぐしゃぐしゃになったことにも気づかなかった。
チャイムがなったと同時に、廊下にいた者、席を立っていた者が教室へゾロゾロと戻ってきた。
1人だった僕の周りには要塞が出来たかのような圧迫感が生まれた。
豊臣秀吉もびっくりな速さで。
みんなは席に着くと、水を打ったように静かになった。
先生の歩く音が廊下に響き、より一層静寂が浮き彫りになった。
教室のドアが開くと、委員長の号令でみんな席を立ち、お辞儀をする。
極めつけは、いっせーのーで
「おはようございます。」
だ。
先生は太い眉毛を撫で、薄ら笑いを浮かべた。
今日のスタートの合図であった。
都内に位置するテレビ局、今日は一段とおっさん臭が漂った。
「おっはよんー」
頭に黄ばんだタオルを巻き付けて、開いてるかも分からない目で挨拶をしてきたのは俺の先輩だ。
「先輩、シャワーあるんだから浴びてくださいよ。」
心底呆れた、という声で先輩に語りかける俺は、入社5年目のぴちぴちの新人カメラマンだ。
カメラマンといっても、テレビ局と言っているから想像がつくだろうが、写真を生業にしているのではなく、バラエティやドラマ、映画の撮影で使用するカメラワークを担当している。
もちろん、写真だって大好きだが、俺はやっぱり、動くものが撮りたかった。
「だってよーお前、昨晩のハッキングったら、理由わかんねえとよお。電話がバンバン入ってんだってよ。」
先輩は俺が買ってきた朝ごはんのハンバーガーを貪りながら頭を抱えた。
「全局がそうなんですから、仕方ないですよ。」
「全局だからだよ。悔しいじゃん、俺んとこで原因見つけ出してやるからな。警察になんか頼らないからな。」
俺の慰めは意味を成さず、先輩のやる気を上昇させるだけだった。
先輩はこう見えて、とても優秀で、色々と仕事を任されているのも事実で。
特にこの手のトラブル関係については、上もぶん投げ状態だ。
椅子の上でくるくる回る、臭いおっさんからは信じられないだろうけど。
「夜中の放送だったので、俺見てないんですよね。」
カチカチとマウスを弄りながら俺が呟くと、タライでも落とされたかのような痛みが頭頂部に走った。
「ばっかもーん。朝一で見てこい!疎いんだお前さんは!ここで見れるからと、いい気になっているのではいいディレクターにはなれないぞ!」
果たして先輩が手にしていたのはなんなのか、確認するのが怖く、洗礼を背中で受けていた。
ディレクターになる気はないが、テレビ局の人間として、今回のことを未だ把握していないのは確かに俺の不備であるため、一言謝罪し、例の動画を再生することにした。
大画面に映ったのは、身なりが上品な70代くらいの男性だった。
その表情は、どこか満足気で、いつかのテレビで見覚えがあるものだった。
その表情は最近捕まった萩野という男の表情にそっくりだ。
萩野は、幼女にみだらな行為をした上、川や海に投げ捨て殺すという最低な手口で殺人を繰り返していた犯罪者だ。
発見された幼女は今のところ5人。
全ての被害者に、萩野のDNAが付着していたそうだ。詳しくは、言わないが。
萩野は警察に連行される時、マスコミのカメラに向かって笑みを浮かべながらこう叫んだ
『やりたいことをやって何が悪い。好きなことだけやって何が悪い。お前らは負け組だ。』
この映像は全局が放映して、日本中が騒いだものだ。
萩野のやったことは最低極まりなく、結局は犯罪者の戯言であるが、この言葉に賛同する者は少なくなかった。
話を戻すが、この老人は、その萩野の満足に満ち満ちた表情とそっくりだったのだ。
老人はゆっくり、時間をかけて口を開いた。
『あ、あ、映ってるんですね。大丈夫ですね。はい。
    突然のことで日本のテレビ局の方は驚いていることかと思いますが、しばしお時間をいただきたい。』
老人の声は、思っていたより高く、目を瞑って聞いていれば、まだ俺の父親くらいなのではないかと思うくらいであった。
先輩は口元に手を当てながら、ブツブツと何か言っていた。
おそらくは、ハッキングへの文句だろう。
『私は、決めました。この日本に、拳銃を100丁配布します。配布先は無作為に決めさせていただきますので、貰えるか貰えないかは運ですな。
    配布対象は、日本に住んでる皆さんです。好きに使うといいでしょう。しかし、銃弾は1個しか装填しませんので、使い道についてはよく考えた方がいいでしょう。』
ここで老人は、画面に向かって指を拳銃に見立て、バーンと言いながら打つ仕草をした。
先輩はやはり、ブツブツと文句を零していた。
老人は少し照れ笑いを浮かべた。
『ウケましたかね。
    それでは、1ヶ月後、日本のどこかの誰か100名に拳銃が届きますので、楽しみにしていて下さい。
    あ、私のことは、あしながおじさんとでも呼んでくれれば幸いです。日本人の皆さんを愛しています。』
ぶつんっという音と共に映像が消え、昨日放映されていた俳優の人気で成り立っているかのようなドラマが流れた。
「先輩、拳銃貰ったらどうします?」
文句がとまらない先輩になんとなしに聞いてみる。
今の先輩であれば、この野郎を殺してやる!とでも言いそうな勢いであるが、その予想を裏切り、真面目な声で言った。
「かかあ。」
と。
俺の頭はついていけず、息もうまく吸えてなかった。
「冗談ちーん」
先輩が手をひらひらさせながら笑った。そのおかげで呼吸を取り戻した。
先輩は、シャワーを浴びて来ると言い席を立った。
先輩が座っていた黒色の椅子は、汗でぐっしょり濡れていた。
ドクドク動く自分の鼓動に押し潰されそうになりながらも、先輩の背中に呼びかけた。
「俺ではどうでしょう。」
先輩は曲がり角の手前で振り返って親指を立てて見せた。
「才能がある。」
今度こそ先輩の姿は見えなくなったが俺の中の不安は自己主張が激しくて仕方なかった。
こうして始まった日本の緊張は、この先1ヶ月を支配した。
そして、遂にあの日から1ヶ月が過ぎた。
季節は変わり、街中が赤々と色付く中、人の呼吸は白く霞んでいった。
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