スイーツエンジェルへようこそ♪

ソラ。

あなたはどちら側?


 ──僕達は愛音さんを残し、部屋から出る。
 「愛優さん、愛音さんにあの質問はアウトです」
 僕はさっきから言いたいことをぶつける。
 「さっきの質問って?」
 本当にわからないのか、とぼけてるのか・・・・・・この人なら後者か。
 「さっきの・・・・・・アレですよ、着けてるとか着けてないとかの・・・・・・」
 「な、何のことかな」
 「そんな頬に手を当てて本当にわからないような仕草してもダメです」
 そう言うと愛優さんは何かを考えているのか、少し目を閉じる。
 「・・・・・・つれないなぁ。あっ! 私ってこう見えて聞きたい事があったら後先考えずに質問しちゃうタイプだから?」
 「なんで疑問形なんですか!? と言うか今『あっ!』って言いましたよね!? 絶対今考えついた設定ですよね!!?」
 「そ、そんな事ないですよ~」
 「愛優さん。口笛・・・・・・吹けてませんよ」
 ひゅーひゅーって言ってて傍から見たら可愛いけど今はそれどころではない。
 「・・・・・・まぁあんなことは此れっ切りにしてくださいね」
 「は~い」
 この人本当にわかってるのかな・・・・・・・・・・・・。
 「あっ」
 そこで僕は重大な事に気が付く。
 「あ、あの愛優さん」
 「どうしたの?」
 「僕、着替えとか持ってないんですがどうしたら・・・・・・」
 一応持ってきてはいたが、寮に置いていたため、ほぼ間違いなく灰になっているだろう。
 「着替え・・・・・・そういえば君ってほとんど何も持ってない状態でここに来たよね?」
 「はい」
 「あの時は愛音の彼氏が来たと思って特に気にしてなかったけど・・・・・・本当は何があったの?」
 何があった──そういえばまだ愛優さん達には説明をしていなかった。
 お世話になる以上説明しないわけにはいかない・・・・・・か。って言っても寮が火事になっただけなんだけど。
 「その説明は凛菜さんが居る所でお話します。そっちの方が一回で済むので」
 「あっそうだよね。二度手間になっちゃうもんね」
 「っと、とりあえず着替えはどうしようか・・・・・・」
 愛優さんは顎に手を当て考える仕草をする。
 ・・・・・・今思えば、今は女の子しか居ないのだから男モノの服なんてあるわけないよな。昨日のウチに少し買っておくべきだったか・・・・・・。
 これが俗にいう。気付いた時には、時既に、遅し。ってやつか・・・・・・しかし、困ったぞ。僕一人ならまだ我慢とかは出来るが流石にお店を経営している上に女の子ばかりなのだからそこら辺も気にしなければいけない。
 僕達が悩んでいると、愛音さんが部屋から出てきた。
 「お二人共そんな所で何やってるんですか?」
 「あっ、愛音・・・・・・実はね」
 愛優さんは愛音さんに僕の着替えなどの説明をする。
 「なるほど・・・・・・確かにそれは困りましたね・・・・・・・・・・・・あっ!」
 愛音さんは少し考えた後、何かを思いついたのか廊下の奥へとかけて行った。僕達も後へと続く。
 すると、ある部屋の前で愛音さんは立ち止まる。
 「愛音さんここは?」
 「今は物置になっちゃってる部屋なんだけど・・・・・・」
 そう言って部屋に入る。
 中に入ると物置と言っただけはあって、色々な物が置いてあった。
 特にダンボールが多く部屋の半分近くダンボールで埋まっていた。
 そしてその中の一つを愛音さんは漁っていた。
 「あの、愛音さん何を探しているんですか?」
 「多分ここにあるはずなんですが・・・・・・」
 「あっ、なるほど・・・・・・確かにここにならあるかもね」
 愛優さんは愛音さんが何を探しているのかわかったようだ。
 「愛優さん、愛音さんは何を探しているんですか?」
 「それはね・・・・・・」
 愛優さんが探し物を言いかけた時。
 「ありました」
 探し物が見つかったようだ。
 「ソラさん、これです」
 「これは・・・・・・」
 そう言って手渡されたのは・・・・・・男モノの洋服だった。
 「父が昔着ていた物なのでサイズが合うかはわかりませんが、一回試してみる価値があると思います」
 「ありがとうございます。では少し着てみるので・・・・・・」
 そう言って僕は愛優さんの方を見る。
 「えっ? あ、わかってます・・・・・・愛音と一緒に部屋の外で待っています・・・・・・」
 なんか凄く残念そうだな。
 「お願いします」
 そうして愛音さん達は部屋(物置)から一旦出て行った。
 ちゃんと出たのを確認し、僕は愛音さんから手渡された服を着てみる。
 「よいしょ・・・・・・凄い──ピッタリだ」
 渡された服は僕にピッタリのサイズだった。
 しかし、渡された服は自分が普段着ないタイプの服だから少し恥ずかしかった。
 「っと、愛音さんと愛優さんもう入っても大丈夫です」
 僕は身だしなみを少し確認した後、外で待機している二人に声をかける。
 「失礼します。サイズの方は・・・・・・大丈夫、のようですね。良かったです」
 「ええ、ピッタリすぎて自分でも驚いてます」
 愛音さんは少し安心したみたいだ。
 少し遅れて愛優さんも入ってくる。
 「どれどれ・・・・・・ってカッコイイ!」
 「えっ、そうですかね?」
 「うん! カッコイイよ! これならモデルにだってなれちゃうよ~」
 「そんな、褒めすぎですよ」
 お世辞でも女の子に褒められるのはかなり嬉しいものだ。少し照れるけど。
 「・・・・・・それなら多分お店の制服の方も大丈夫だと思います。同じサイズの制服が何着かあるので」
 「それは良かったです」
 着替えの事で頭がいっぱいになっていたが、今思えばお店の制服の方も考えなくてはいけなかったな・・・・・・。
 今回はたまたまあったが今度からは気を付けよう・・・・・・。
 「うん、制服の方も大丈夫そうだね。じゃあ早く朝ごはん食べちゃおうか。凛菜も待ってるよ♪」
 こうして僕達はリビングへと向かった。
 
 
 リビングに着くと既に朝食は用意されていた。
 「ソラくんにカノちゃんおはよー!」
 元気に挨拶してきたのは凛菜さんだ。席に座って待っていてくれたのか。
 「「凛菜さんおはようございます」」
 ハモった。
 「あはは、二人とも朝から仲いいね~」
 「あはは・・・・・・」
 笑ってごまかす。
 「あ、君はここの席に座ってね」
 「わかりました」
 愛優さんに言われた場所に座る。
 隣には愛音さん、前には愛優さん、斜め前には凛菜さんという配置だ。
 「いただきま・・・・・・」
 みんな席に着いたところでご飯を食べ始めようとする。
 しかし、その前に言わなくてはいけない事があるから・・・・・・。
 「みなさん、すみません少しお話をしてもよろしいでしょうか?」
 「大丈夫だよ」
 「はい、大丈夫です」
 「うん大丈夫」
 みんなの了承を得て再び話し始める。
 「こほん。え~、話す事というのは・・・・・・まぁ、アレです。何故僕がここに来る事になったのかとかの話です。実は・・・・・・」
 僕は今までの事を話した。今年から富山(とみやま)高校に通う事、本来そこから通う予定の学生寮が火事で燃えてしまったこと、そのせいで色々な物が無くなってしまったこと。
 「・・・・・・以上です」
 僕が話し終わると何故か三人とも目を丸くしていた。
 愛音さんには話したはずなのに彼女まで目を丸くしていたので少し驚いた。
 (まぁ何か聞きたい事とかあるだろうし一応聞いてみるか・・・・・・)
 「何か聞きたい事とかありますか?」
 僕がそう言うと愛優さんが少し手を上げる。
 「愛優さんなんでしょうか」
 「あの・・・・・・君の話を簡単にまとめると、君は学生寮から富山高校へ通う事になっていたけどその学生寮が火事で燃えたから、ここに来る事になったんだよね?」
 「はい」
 「お姉ちゃ・・・・・・白崎学園長から、何か連絡とか無かったの?」
 連絡? そういえば昨日からスマホは見ていなかった。
 「・・・・・・いえ、まだ」
 「多分お姉ちゃんの事だから何回もメールを送っていると思うから早めに開いた方が・・・・・・」
 僕は急いでスマホを取りに行く。
 「・・・・・・なんじゃこりゃー!!!!」
 画面を開き、メールボックスを確認する。すると、なんということでしょうメールが五十件以上も来てるじゃありませんか。
 僕はそれを確認するとリビングへと戻る。
 「来てました・・・・・・物凄く沢山・・・・・・」
 「やっぱり・・・・・・お姉ちゃん生徒を大切にするのはいいけど過保護気味だから・・・・・・」
 と言うかさっきからお姉ちゃんお姉ちゃんって・・・・・・。
 「あの、愛優さん。愛優さんってもしかして・・・・・・」
 「恐らくソラさんの考え通りです。愛優さん・・・・・・白崎愛優さんは、富山高校の学園長・・・・・・白崎学園長の妹です」
 「えぇーーーーっ!!?」
 
 まさか愛優さんが白崎学園長の妹さんとは・・・・・・と言うか学園長若すぎるでしょ。
 「それでねソラ」
 「はい」
 「とりあえず私の方から、昨日お姉ちゃんに連絡しておいたから多分大丈夫だよ」
 「本当に色々とありがとうございます・・・・・・」
 僕が知らない所で色々とやっていてくれたのか・・・・・・。いたずら好きだけどやっぱり一番しっかりしていらっしゃる・・・・・・。
 「えへへ~驚いたでしょ?」
 「はい、とても」
 凛菜さんは愉快そうに笑っている。
 「あの、ソラさん」
 次は愛音さんが手を上げる。
 「はい」
 「ソラさんって富山高校なんですよね?」
 「そうですね」
 「・・・・・・となると、私達の先輩になるわけですね」
 「えっ?」
 先輩? 確か愛音さんって・・・・・・。
 「先輩と言っても愛音さんってまだ中二ですよね?」
 僕がそう言うと愛優さんが少し笑を浮かべる。
 「ふふっ、今年から富山東中学と西中学は富山高校と合併して中高一貫校になるんだよ。学校のパンフレットとかに書いてなかった?」
 パンフレット・・・・・・か、昔ここに来た時にこの街が気に入って、ここに高校があるのを知ってすぐに入ると決めたから見ていなかったな・・・・・・。
 と、そこである事を思い出す。
 ん? 待てよ・・・・・・そういえばアイツらもここの高校を選んだんだよな。でも俺が聞いても答えてくれなかったけど、中高一貫校になるって事をパンフレットで知れば・・・・・・なるほど、だからアイツらここの高校を選んだのか。
 正直、わからないままで良かったと後悔した。
 「見ていませんが、なんか色々納得しました」
 「ん? 何が?」
 「いえ、こちらの話です」
 僕は思わず目を逸らした。
 「立て続けにすみません。それとこれはさっきまでの質問とは関係の無い話なのですが・・・・・・」
 「大丈夫ですよ」
 「ありがとうございます。では・・・・・・ソラさんはヤった事ありますか?」
 リビングが一瞬凍りついた。
 この娘・・・・・・ナニ言ってるんですか・・・・・・。
 え? 何? ヤった事? それを彼女いない歴=歳の数の僕に聞きますか!!?
 それなんて公開処刑? いや待て、落ち着くんだ僕よ。もしかしたら間違えたという可能性もあるじゃないか。
 「あの、愛音さん。ヤった事・・・・・・と聞こえたのですが、何かのまちがあですか?」
 「いえ、ヤった事です」
 間違いじゃなかったよコンチキショー! 
 「あの、愛音・・・・・・多分その言い方だと、誤解を招くというか・・・・・・とりあえずちゃんと説明して上げて」
 僕が答えるべきか悩んでいると愛優さんが何か愛音さんに耳打ちをする。
 「あっ、すみません。私が聞きたかったのはお店でバイトとかやった事あるか・・・・・・ということです」
 ・・・・・・へ?
 「私時々変な言い方になってしまうみたいで・・・・・・本当にすみません」
 「い、いやいや! 僕の方こそ勘違いしちゃってごめん!」
 勘違いで本当に良かったと、心の中で安堵する。
 「それで、した事はありますか?」
 って言ってるそばからそれですか!!? ・・・・・・まぁさっきのお陰で何が言いたいのかわかるからいいけど! いや良くないか。
 「いえ、ありません。そもそも僕が通っていた中学はバイトとか禁止なので・・・・・・」
 と言うか普通は禁止じゃないのか? と、疑問に思ったが愛音さん達がお店を開いてるのならここではそれが普通なのだろう。
 「そうですか・・・・・・では、一から教えるので凛菜さん、愛優さん。ソラさんの事お願いします」
 「任せてカノちゃん!」
 「お姉ちゃんに任せて♪」
 二人は愛音さんのお願いに対して元気よく返事をした。二人ともやる気満々のようだ。
 「とりあえずさ、朝食を済ませちゃわないとね」
 「はい、そうですね」
 そして僕達は楽しく朝食を済ませた。
 
 
 ──スイーツエンジェルにて。
 まずは凛菜さんが教えてくれるようだ。
 「凛菜さん、それでまずは何をすれば」
 「ふっふっふ・・・・・・まずは・・・・・・・・・・・・掃除からだ!」
 そう言ってモップを手渡される。
 「このモップを使って床を磨けばいいんですね?」
 「うん、でもねモップがけにもコツがあって・・・・・・こうやってやるといい感じにホコリとか取れるからこのやり方でやってね」
 「こう・・・・・・ですか?」
 言われた通りにやってみるが、余りモップとかを使わないので難しい。
 「ちょっっと違うかな~」
 そう言って凛菜さんは僕の後ろへと回り込む。
 「り、凛菜さん!? 何やってるんですか!!?」
 「? こっちの方が、直接教えられるし、わかりやすいかな~って」
 突然だがここで問題だ。よくあるこのベタなシーン。今の僕の状況を答えなさい。
 答えはそう・・・・・・後ろから直接教えて貰っているのだ、もっとわかりやすく言うと・・・・・・凛菜さんが後ろから抱き着いているような形で、僕にモップの持ち方とかかけ方を教えているのだ!! もちろん後ろから抱き着かれている形で教えられているので・・・・・・凛菜さんの決して大きくはないがそれなりに膨らみのあるおっぱいが背中に当たっているのだ!
 もう一度言おう・・・・・・凛菜さんのそれなりに膨らみのあるおっぱいが僕の背中に当たっているのだ!!
 これはなんというか・・・・・・アイツらに見つかったら、いやアイツらじゃなくても死刑だな。
 おっと、勘違いしないで欲しいが、僕はロリコンじゃないぞ? どちらかと言うと今は無いよりある方が好きだ。
 『今は』ってなんだ『今は』って。
 こほん。とりあえず僕は本当にロリコンじゃないからな?
 「もしもーし。ソラくーん? 聞いてるー?」
 はっ! いかんいかん。あんな事を考えていた間にも凛菜さんは僕に教えてくれていた。
 「僕はロリコンじゃないので大丈夫です!」
 「えっ?」
 しまったああああああ!! やらかしたああああああ!!
 「あ、あの・・・・・・凛菜さん?」
 「・・・・・・そのなんたらコンって何?」
 良かった・・・・・・凛菜さんはどうやらロリコンと言う言葉をちゃんと聞き取れなかったようだ。
 「何でもないです。それよりも動かし方とかはこれで大丈夫ですか?」
 「気になるなぁ~・・・・・・まぁいいけど。・・・・・・うん! それで大丈夫!」
 「それにしても、このやり方少し難しいですね・・・・・・」
 「う~ん。まぁ最初は難しいかもしれないけど、段々慣れてくるから!」
 そうは言ってるものの、これは慣れるのに時間がかかりそうだ。
 こんな小さい体でこれを毎日やってるんだもんな・・・・・・こりゃ凛菜さんにも頭が上がらなくなりそうだ。
 「ボクは少しやる事があるから、ソラくんモップお願いしても大丈夫かな?」
 「大丈夫です」
 「もし何かわからない事があったらバックヤードまで来てね~」
 そう言い残し凛菜さんは店の奥へと消えていった。
 「よしっ!」
 一人になった所で僕は気合いを入れ直す。
 「確かモップはこうして・・・・・・おおっ! 本当によく取れる!」
 凛菜さん直伝のかけ方でやると驚くほどかけた後が綺麗なる。
 かけた後が綺麗になるのが嬉しくなって、僕は知らない間にモップがけに夢中になっていた。
 ──数十分後。
 「・・・・・・こんなもんかな」
 そう言って額の汗を拭う。
 なんか部屋がさっきより眩しい気がする・・・・・・日が入ってきたのだろう。
 一通りモップ掃除が終わると僕は凛菜さんにチェックしてもらいに行く。
 「凛菜さん終わりました」
 「どれどれ・・・・・・って、なんだこれっ!!」
 凛菜さんの声に導かれるように愛音さんと愛優さんもやってきた。
 「そんなに大きな声を出してどうしたの・・・・・・って、すごーい!」
 「愛優さんまで・・・・・・っ!!?」
 愛音さんは大きな声を出すことは無かったが、とても驚いた顔をしていた。
 「あのっ」
 「なんでしょう」
 「これってソラさんが・・・・・・やったんですよね?」
 「はい。少し気合いを入れすぎてしまいました」
 「これで少しって・・・・・・もしかしてソラくんって掃除の天才!?」
 「まさか。凛菜さんの教え方が上手だったからですよ」
 お世辞ではない、確かに少し(?)刺激的な教え方だったが、あのやり方のおかげですぐに覚えられた。
 「そ、そんな照れるなぁ~・・・・・・えへへ」
 褒められたのが嬉しかったのか、凛菜さんの顔が少し赤くなったような気がした。
 いや気のせいか、僕なんかに褒められてもあんまり嬉しくないよな、うん。
 
 場所が変わってスイーツエンジェルのキッチン。
 制服に着替え、エプロンを着けたり消毒液で消毒してキッチンへと入ると、そこには色々と見た事の無い物があった。
 「え~っとここでケーキを作ってるんですか?」
 「そうだよ。それでソラはケーキ作りとかの経験は?」
 「ケーキ作りとかの経験ですか・・・・・・僕の姉がお菓子作りが好きでたまに手伝っていた事はありますが・・・・・・ケーキは作ったことないですね」
 「なるほど・・・・・・それならクッキーとか作れないかな?」
 「それなら出来るかと」
 クッキー・・・・・・姉さんと昔からよく作っていたな。ただ何回やってもクッキーだけは姉さんには勝てなかったけど。
 「それじゃあ材料はここにあるのを好きに使ってね、君が作るのを私はここで見ているから」
 「わかりました」
 早速作業に取り掛かる。
 まずはボールにバターを入れ、泡立て器でよく練り混ぜる。
 「ふむふむ」
 じっと見られてる・・・・・・まぁ見ていると言ってたから当たり前だけど、いざ自分が作るのを見られるとなんか恥ずかしいな。
 その後も作業は順調に進み、オーブンで焼くところまで出来た。
 「・・・・・・あれ?」
 しかし、ここで問題が発生する。
 ここのお店・・・・・・家にあるオーブンと種類が違うではないか!
 仕方ない・・・・・・ここは愛優さんを頼るしかないか。
 「あ、あの・・・・・・愛優さん」
 「どうしたの?」
 「このオーブンの使い方教えてください」
 「あっ!」
 愛優さんもそこまで想定していなかったようだった。
 「気付かなくてごめんね・・・・・・」
 「いえ、僕もはじめに確認するべきでした」
 「ここはこうしてこうするの。それでね────」
 愛優さんから使い方の説明を受ける。
 「なるほど、ありがとうございます。これでなんとか最後まで出来そうです」
 僕は軽く礼をして作業に戻る。
 
 ──数分後。
 キッチンにクッキーの良い香りが漂う。
 「愛優さん出来ました」
 僕はお皿にクッキーを並べ、愛優さんの元へと持っていく。
 自信はあるものの、やはり緊張してしまう。
 「どうぞ」
 お皿を前に置く。すると愛優さんはクッキーを手に取る。
 「見た目は・・・・・・ふむふむ、いい感じだね。それでお味の方は・・・・・・」
  クッキーを口元へと運ぶ。
 見た目は良く出来ていたとしても、味が悪ければダメだ。しかし、今日始めてここのオーブンを使ったというのもあって少し不安だ。
 愛優さんの口の動きが止まった。
 やはり「これではダメか・・・・・・」と、僕が呟いた時。
 「合格!!」
 「・・・・・・えっ?」
 「合格だよ! と言うかこんなに美味しいクッキー私でも作れない・・・・・・」
 え? 愛優さんでも作れないクッキーを作った?
 僕の頭は混乱していた。
 「美優姉そんなに大きな声を出してどうしたの~?」
 「愛優さん一体どうされましたか?」
 愛優さんの声を聞きつけ、凛菜さんと愛音さんもやってくる。
 「今ね、ソラにクッキーを作ってもらったんだけど・・・・・・それがすっっっっごく美味しいのっ!」
 「それは褒めすぎですよ・・・・・・」
 実際に食べた事は無いけれど、こんな僕が愛優さんよりも上手く作れるなんて思わない。
 「どれどれ・・・・・・うわっ本当だ! 凄く美味しい!」
 「で、では私もお一ついただきますね・・・・・・っ! 本当にとても美味しいです」
 「お二人まで・・・・・・」
 「いやいやいや! 本当に美味しいから! これならお店の商品として出せるよ! ね、カノちゃん?」
 「はい、お店の商品として出しても全然問題無いです」
 「それは流石に・・・・・・」
 僕は愛優さんの方をチラリと見る。
 流石にここに来たばかりの僕なんかがここのお店の商品として売られるのは少し気が引ける。
 そんな気持ちを愛優さんは汲み取ったのか。
 「あっ! 大丈夫だよ、私ってケーキは作れてもクッキーとかは全然だから・・・・・・それにこんなに美味しいのに商品として出さないのは勿体ないって思ってるから♪」
 それならいいのだが・・・・・・。
 「でも意外だな~」
 「と、言いますと?」
 「ソラくんはボクと一緒でお菓子とかは食べる専門だと思ってたけど、愛優姉サイドだったなんて」
 「愛優さんサイドって・・・・・・」
 「私達仲間だねっ! イェーイ!」
 そう言ってハイタッチの構えに入る愛優さん。
 僕もそれに釣られてハイタッチの構えに入り・・・・・・。
 「「イェーイ!」」
 僕達はハイタッチをした。
 この数時間で凛菜さんや愛優さんや愛音さん・・・・・・特に愛優さんとより一層仲良くなれた気がした。

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