スイーツエンジェルへようこそ♪
一夜を共に・・・・・・
スイーツエンジェルで働く事になったはじめての朝、僕は目の前で起こっている出来事に────困惑していた。
「すー・・・・・・すー・・・・・・」
「昨日の夜、一体何が・・・・・・」
その困惑の原因・・・・・・それは何故か隣ですーすーと寝息を立てて寝ている彼女──櫻宮 愛音。僕が目を覚ますと何故か彼女は僕の隣で眠っていたのだ。
「ちょっと待て・・・・・・僕はこんな痛いけな少女(幼女)を自分の布団へ連れ込む最低野郎だったのか? 否! 断じて否だ!」
そうだ、僕は恩人に対して・・・・・・しかも女子中学生相手にそんな事をするはずがない・・・・・・と、思っている。
「でも僕が連れ込んだのではないとしたら、何故愛音さんは僕の布団に・・・・・・」
彼女の部屋にはベッドがあり、もし夜中に起きて間違えたのならベッドに入るはずだ、しっかりものの彼女が布団に間違えて入る確率は恐らく低い。
「不味いな・・・・・・考えれば考える程僕が連れ込んだのでは? という疑惑が出てくる・・・・・・いや、潮乃 夜空! 自分を信じろ! 僕はあいつらみたいにロリコンではないと!」
あいつら・・・・・・それは、小学校中学とずっと一緒だった親友達の事だ。
ちなみに一応高校も一緒だ。
「・・・・・・と、その前に布団から出ないと・・・・・・よいしょ。流石に何かの事故とはいえ、愛音さんと一夜を過ごしたなんて愛優さんに知られたら・・・・・・」
悲しい事に、この状況を愛優さんに知られた時の事なんて容易に浮かんでしまう・・・・・・それだけに知られたら、昨日より面倒くさいことになるのはほぼ間違いないだろう。
僕は静かに布団を出ようとした・・・・・・。
「・・・・・・どこに、行くんですかっ! ・・・・・・むにゃむにゃ」
「!? って愛音さん! なんで抱きついて・・・・・・うわっ!」
が、それは寝ぼけた愛音さんに妨害された。
後ろからしっかりと抱きしめられているので、動くに動けない・・・・・・。
しかし、その、なんだ。よくアニメとか小説では胸が大きい女の子に後ろから抱きつかれると豊満な胸が背中に当たって主人公がドキドキしたりする、そんなシチュエーションがあるけれど・・・・・・。
僕はそこで彼女をチラリと見る。
相手が中学生・・・・・・それも(こう言っては愛音さんに悪いけど)ほとんど凹凸の無い幼児体型の愛音さんだと、そう言ったのは全く無いらしい。まぁ抱きつかれたのは少し嬉しいけど・・・・・・あ、これはあくまでも男なら抗えない感情でロリコンだからとかじゃないからね?
「本当に僕はロリコンじゃないからね!!?」
「むにゃむにゃ・・・・・・・・・・・・あれ?」
つい声に出してしまい、彼女が目を覚ましてしまった。
「お、おはようございます」
「ソラさん、おはようございます・・・・・・ふぁ~」
そう言って彼女は僕から離れて部屋の扉の方へと歩いていく・・・・・・そうだったらどんなによかった事か・・・・・・。
「!? ちょ! 愛音さん!!?」
「・・・・・・ふぇ?」
「何やってるんですか!?」
「何って・・・・・・着替えですよ~・・・・・・ほわぁ~」
そう、彼女はあろう事かそのまま扉の方へ向かわず、その場で服を脱ぎだしたのだ。
しかし──綺麗な肌だ。
色は完全に白く、この白さは女性ならみんな羨ましがるくらいだ。そして、なんと言ってもスラリとした身体。ほとんど凹凸が無いとは言え、その身体に僕は見惚れてしまう。
──って! 違う違う! 今はそんなこと考えている場合じゃない!
「愛音さん! 今すぐ止めて! そのボタンを外す手を止めて!」
「? わかりました・・・・・・それなら下から着替えますね・・・・・・ふぁ~」
そう言って今度はズボンに手を伸ばす。
「あああああ!!!! ダメです! 下はもっとダメです!」
愛音さんってこんな子だっけ? もっとお淑やかと言うか・・・・・・って、僕はまだ愛音さんの何も知らないのに・・・・・・。
「・・・・・・ふぇ? あ、あの・・・・・・ソラ、さん?」
あれ? 突然さんの動きが止まったぞ?
僕は不思議に思い、彼女の顔を見る。
「ソラさん、おはようございます」
「お、おはようございます」
突然挨拶された。
と言うかさっきも挨拶しなかったっけ・・・・・・。
「あ、あの・・・・・・それで何故私のパジャマのズボンを掴んでいるのでしょうか・・・・・・」
「えっ?」
それは貴女がいきなり脱ぎ出そうとするからですよ! と、言いたかったが抑えておこう。
「あ、あの、愛音さんこれはですね・・・・・・」
「・・・・・・その反応。もしかして私何かやらかしたりしてしまったんでしょうか・・・・・・?」
「やらかしたと言いますか・・・・・・やらかしそうになったと言いますか・・・・・・」
いきなり脱ぎ出しそうだった・・・・・・なんて口が裂けても言えない。
「ご、ごめんなさいっ!」
「えっ?」
いきなり頭を下げられる。
「あの、私実は・・・・・・」
・・・・・・
・・・・
・・
「・・・・・・つまり、寝起きが悪く。起きた直後は自分でも何をするかわからない・・・・・・と?」
「はい・・・・・・私の数ある弱点の内の一つだそうです」
意外だ、愛音さんにこんな弱点があったなんて・・・・・・しかも数あるって。
「あ! そう言えば愛音さん」
「は、はいっ。なんでしょうか」
「朝僕が目を覚ましたら、愛音さんが隣で寝ていたんだけど・・・・・・」
「あぅ・・・・・・そ、それはですね」
ん? なんで体をもじもじさせているんだ?
もしかして、恥ずかしくて言えない事とか!? もしそうだとしたら僕はとんでもなく失礼な奴じゃないのか!?
「愛音さん! もし言い難いのなら、言わなくても大丈夫ですよ!」
「い、いえ! 決して言い難いわけではないのですが・・・・・・・・・・・・」
彼女はそう言うと僕の方を真っ直ぐ向く。
「正直なところ、私にもよくわからないのです。お恥ずかしながら私途中で寝てしまったみたいなので・・・・・・」
「そうですか・・・・・・」
昨日の夜、何があったんだ?
僕は目を閉じ昨日の夜の出来事を思い出す。
──昨日の夜、愛音の部屋にて。
「僕をスイーツエンジェルで働かせてください!」
「えっ・・・・・・」
私は突然の出来事に目を丸くした。
自分が連れてきたとはいえ、何の前触れもなくいきなり働かせてくださいなんて言われたのだから当たり前と言えば当たり前・・・・・・。
「ですが・・・・・・スイーツエンジェルは・・・・・・」
そこで言葉が詰まる。
お店の状況がアレな事を知られたくない・・・・・・。それに、いまのお店の事を知ったらきっとソラさんはここから出て行ってしまう気がする・・・・・・。どうしよう。
「愛音さん、スイーツエンジェルってケーキ以外にも何か売ってますか?」
「は、はい。一応ケーキの他にもクッキーや紅茶などもありますが、それが何か・・・・・・」
「それなら茶葉とか色々運ぶのに男手があるとかなり便利だと思いますが」
「うぅ・・・・・・確かに、力のある人が欲しいと思う事はありますが」
  「それに、お店の掃除とかは僕みたいな背の高い人が居た方が楽だと思います」
「うぅ~・・・・・・」
完全に言いくるめられてしまいました・・・・・・。
「それに・・・・・・」
「?」
「その、ノート見ちゃいました」
「!?」
ノートを見られた? と言う事はスイーツエンジェルの状況もバレていたって事ですか・・・・・・。
「そこまで知られてしまっていたのでは、これ以上お断りする理由がありませんね・・・・・・」
「それじゃあ僕をお店に!」
「ふふっ、そんなに嬉しそうな顔をされるとこちらまでにやけてしまいますね。はい、ソラさんは明日からスイーツエンジェルの従業員です。ソラさん改めてよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします!」
こうして、私はソラさんをスイーツエンジェルの新しいメンバーに加える事にしました。
「あ、ソラさん」
「なんでしょう」
「ノートを見たと言いましたよね。それでは、あの数字の事も?」
「・・・・・・はい、ノートの端に書かれている数字。それが春休みの尾張ではなく、スイーツエンジェルの終わりの日と言うのも・・・・・・」
「はい・・・・・・」
私は少しを肩を落とす。
「でも僕は諦めません」
「えっ?」
「僕が・・・・・・いえ、僕達でスイーツエンジェルを繁盛させてみせます」
「しかし、今の状況を変えるには時間が・・・・・・」
残り二週間、しかもソラさんはまだ仕事の内容とか全く知らない。それなのにそこにお店の経営の事ともなると、かなりの負担になりかねない。
もし仮に、仕事の内容とかを完璧にマスターしたとしても、今ではほとんどお客さんも来ないお店をたった二週間で繁盛させるのはかなり難しい。
「はい、そうです。時間はかなり少ないです」
「・・・・・・・・・・・・」
「なので」
「?」
「今から考えましょう!」
「・・・・・・はい?」
今から考える? 私はふと時計を見る。針は十一時を指していた、ただでさえこんな遅い時間なのに今からこれからどうするかなんて考えていたら寝る時間がかなり減ってしまうだろう。
「あ、あの。ソラさん。今からですと流石に・・・・・・」
「そ、そうだよね・・・・・・なら愛音さんは先に寝ててください。僕はもう少し考えているので!」
「いえ、そうではなく・・・・・・ソラさんの寝る時間まで」
「僕なら大丈夫です!」
「しかし・・・・・・はぁ。わかりました」
このまま続けていても平行線のままな気がした。なら、いっそ早めに考えてしまった方が良さそうです。
「ただし──。考えるのはわたしも一緒です」
「えっ? 愛音さんに迷惑なんてかけられないですよ!」
「ダメです。私はこれでもスイーツエンジェルのオーナーなんです。なのでお店の事を考えるなら私も一緒の方がいいと思います」
「そうですが・・・・・・」
さっきは上手く言いくるめられてしまいましたが、今度は上手くこっちのペースに持ち込めた。
と、そこへ。
「──なら、私も居た方がいいわじゃないかな?」
「「えっ?」」
突然廊下の奥から声がする。その声は安心するような優しい声・・・・・・。
「愛優さん・・・・・・」
「二人して、店長の私を差し置いて相談?」
「い、いえ! そういう事では」
「ふふふ、冗談ですよ。ただ私もその話し合いに参加させて欲しい・・・・・・と言うより、参加するね♪」
そう言って愛優さんはスタスタと部屋の中へと入っていった。
「「・・・・・・・・・・・・」」
こうして、第一回目の会議が始まった。
「まずは今のお店の状況からだね」
そう言うと真剣な表情を見せる。
「売り上げに関しては・・・・・・私から見たら赤字続きなんだけど、そこの所はどうかな愛音」
(あれ・・・・・・赤字続きなのはわかっていてもお店が潰れかかっている事に気付いていない?)
僕は一瞬そう考え、彼女の顔を見る。
(・・・・・・いや、違う。多分あのノートを見た訳ではないけど薄々感じているんだ・・・・・・このお店、スイーツエンジェルが店を閉めなければいけないくらいの状況だという事を)
「余り・・・・・・と言うより、かなり良くないです。具体的に言うと・・・・・・・・・・・・近々お店を閉めないといけないくらい」
愛音さんは唇を噛み締めていた。
「・・・・・・やっぱりそうだったんだ」
注意して聞かなければわからないくらい小さくて、弱々しい声・・・・・・だけど僕はその言葉を聞き逃さなかった。
「愛音さん、スイーツエンジェルって昔はどうだったんですか?」
「昔・・・・・・ですか? 私の父や母が居た頃は時々行列が出来るくらいでした・・・・・・うちのお店って、実はチョコレートケーキに力を入れていまして。普通のチョコレートケーキはもちろん、ザッハトルテやフォンダンショコラとかもあるんです」
チョコレートケーキはわかるが、ザッハ・・・・・・なんとかは初めて聞いた。
「それでね、その時一番人気だったのがこのお店限定のオリジナルケーキ。『スイーツエンジェル』だったの。愛音のお父さん達が作るスイーツエンジェルはとっっても美味しくてね、他のケーキは残っちゃう時があってもそのケーキだけは絶対に完売してたんだ。ただ、今の私の実力だと愛音のお父さん達みたいな味は出せなあんだ・・・・・・」
なるほど・・・・・・愛音さんのお父さん達が居た頃は・・・・・・ん? 居た頃?
「あの愛音さん、愛音さんのお父さん達が居た頃って事は今はもしかして・・・・・・」
僕の悪い癖だ、色々な事を悪い方へと考えてしまう。
「あっ! そういうのじゃないのでお気になさらず。父達は物凄いマイペースで、今回は『新しいケーキを作るために、フランスへ武者修行だ!』とか言って出て行ってしまったんです」
「oh……」
なんだか、ほっとしたような呆れたような・・・・・・。
「それでその後、しばらくの間お店を休業していたんです」
「その休業していた時、隣町に大きなショッピングモールが出来たんだ」
「ショッピングモール・・・・・・ですか」
「うん、そこにあるケーキ屋・・・・・・『スフィール』が物凄く美味しいって評判でね。スイーツエンジェルを再開した時にはそっちにお客さんのほとんどを取られちゃったんだ・・・・・・」
『スフィール』・・・・・・確か時計塔のある公園の所にもそんな名前のお店があったな・・・・・・。あの時はいつかここに来よう、と思っていたけどまさか一日も経たずにライバル意識する事になるとは。
「これで今の状況とどうしてこうなったのかはわかったけど・・・・・・」
正直状況などがわかっただけで、何の解決策も浮かばない。
「何かいいアイディアとかありますか?」
愛音さんと愛優さんは何かいい案があったりしないかな? と少し期待を込め問いかける。
すると、愛音さんが少し手を上げる。
「はい。チラシ配りとかどうでしょう?」
なるほど、チラシ配りか・・・・・・。
「よく配っている所を見ますし、人が集まる場所でやればそれなりに効果が望めそうです。それに前は人数の関係で出来ませんでしたが、今はソラさんがいるので人数的な面でもなんとかなりそうです」
自信があるのか、少しドヤ顔気味になっている・・・・・・ドヤ顔愛音さん可愛いです。
人数的な面も考えているのは実に愛音さんらしい・・・・・・ただ。
「すみません愛音さん。チラシ配りは少し厳しいと思います」
「えっ?」
「? 愛音の案・・・・・・かなり良いと思うけどなんでダメなのかな?」
しっかりしていると言ってもやはり中学生・・・・・・か。
「チラシ配りは確かに長い目で見れば効果があるかもですが、今のスイーツエンジェルには時間が無いです。それに、チラシを配っても受け取ってくれる人がどれくらいいるかもわからない上にチラシを作るためにそれなりにお金を使います・・・・・・」
「そう・・・・・・ですよね。確かに全員が全員受け取ってくれる、そんな事はまずないですよね・・・・・・」
そう、長い目で見ればチラシ配りはアリなのだが、生憎今は時間が無い。二週間で効果が出るとは思えない・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・」
みんな黙り込む。良い案・・・・・・と言っても、お店の経営などしたことが無い僕からしたら何度考えても、やはり愛音さんと同じチラシ配りに行き着く。
(さて、どうしたものか・・・・・・)
何も良い案が浮かばないまま、時間が過ぎていく。
「私お茶をいれてくるね」
「あ、ありがとうございます」
愛優さんはそう言って台所へと向かった。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
愛優さんが台所へ向かってからも、特にこれといった案が浮かばない。
「・・・・・・スイーツエンジェルかぁ」
不意に昔は売っていたという限定ケーキの名前が浮かぶ。
「愛音さん、愛優さんの作るスイーツエンジェルってどうなんですか?」
「えっ?」
「いえ、愛優さんはああ言ってましたが愛音さんから見て愛優さんの作るスイーツエンジェルってどうなのかな・・・・・・と」
「愛優さんの作ったスイーツエンジェル・・・・・・確かに父のと比べると少し何かが足りない気はしますが、それでもかなり美味しく十分お店に出せる味だと思います」
「ただ愛優さんは頑なに拒むんですよね・・・・・・あんなに美味しいのに」
「ふむ・・・・・・」
確か愛優さんも同じような事を言ってたな・・・・・・ん? あれ。
「愛優さんはお父さん達って言ってましたよね?」
「はい、うちのお店のパティシエは元々私の父と母の二人で作っていました。ですが、それが何か」
「いえ、もしかしたらその二人で作っていた・・・・・・と言うのが美味しさの秘密ではないかと思いまして」
「二人で作っていたのが美味しさの秘密?」
「愛の共同作業ってやつですか・・・・・・」
僕が言い終わると、同時に部屋の扉が開く。
「それだ!」
「み、愛優さん!?」
愛優さんが勢いよく部屋に入ってきた。
「それだよ、ソラ! 私の作るスイーツエンジェルに足りなかったのはもう一人分の愛情だったんだよっ!」
「は、はあ・・・・・・」
「愛優さん、もう一人分の愛情? が必要だとしたら一つだけ問題がありますよ」
「? 問題ってどんな問題なの愛音」
・・・・・・問題?
「・・・・・・今このお店にはスイーツエンジェルを作れる人が愛優さんしかいない事です」
「でも、それは愛音さんなら・・・・・・」
「いえ、私ではダメなんです。それと凛菜さんも作れないので、もう一人分の愛情ってのが最大の難関になりそうですね・・・・・・」
そういえば愛音さんはケーキを作らないんだっけ・・・・・・あれ? でも確か夕飯とかは愛音さんが作っていたような。
「とりあえずもう一人のパティシエを探すのはいいとして、まずはその前にこの状況を何とかしないとだね」
「そ、そうだねっ」
「ですね」
そうだ、今はこの状況を変えなければならない。愛音さんの事については、これから知る機会なんて沢山あるじゃないか。
「それでまた元に戻すけれど、この状況を打破する為の何か良い案とかはあるかな?」
今度は僕ではなく、愛優さんが取り仕切る。
なんというか凄く様になってる。
っと、今はそんな事ではなくこの状況を変えるための案を・・・・・・。
──数分後。
(やばい。なんにも思い付かない・・・・・・と言うより眠気のせいで頭が全然働かないぞ)
時計を見ると既に一時を回っていた。
愛音さん達は大丈夫なのかな? そう思い僕は彼女達の方へと視線を向ける。
「すー・・・・・・すー・・・・・・」
そこには気持ち良さそうに寝ている愛音さんと愛優さんの姿があった。
「寝ちゃってる・・・・・・まぁこの時間は中学生にとってはキツいか・・・・・・」
一種起こそうかと思ったが、ここまで気持ち良さそうに寝られると起こすに起こせない。
「・・・・・・もう少しだけ寝かせてあげるか・・・・・・ふぁ~。それにしても眠い・・・・・・なぁ・・・・・・」
記憶がここで終わっている・・・・・・。
と言うことは恐らく僕はここで眠った・・・・・・ってあれ?
「愛音さん、そういえば愛優さんは?」
「言われてみれば・・・・・・」
もしかしてもしかするかもだけど・・・・・・。
その時部屋の扉が開く。
「愛音とソラさん、おはよう」
愛優さんだ。
「愛優さんおはようございます」
「おはようございます。愛優さん顔がにやけてますが何かいい事ありました?」
僕は思わずジト目になる。
「えぇ~。何かいい事あったのは私じゃなくてソラくんでしょ?」
「やっぱり愛優さんの仕業でしたか・・・・・・」
物凄く楽しそうにしている美優さんに対し、僕は頭を抱える。
「第一いい事なんて何も・・・・・・」
そこで言葉が止まる。いい事なんてありません! ・・・・・・と、言いたかったが実際の所愛音さんに抱きつかれたりしたし、いいこと尽くしだった。
「ん~? 何も~?」
くっそ~、この人愛音さんが朝こうなるのわかっててやったな・・・・・・。
「と言うより何でこんな事したんですか・・・・・・」
「それは愛音達が私を置いて先に寝ちゃうからだよっ!!」
そういえばそうだった。僕・・・・・・いや、僕と愛音さんは先に寝てしまったのだ。とにかくそれについては謝らなければ。
「あっ、そ、それはすみませんでした」
「愛優さんすみません」
僕につられ愛音さんも少し頭を下げる。
「折角寝ている愛音にいたず・・・・・・こほん。寝ている愛音を君と一緒に眺めようと思ったのに残念だったな~」
おい待てこら。今愛音さんにいたずらするって言おうとしたよね? 今愛音さんにいたずらするって言ったよね?
大事なことなので二回言いました。
「いたずらって・・・・・・何をやらかすつもりだったんですか・・・・・・」
「それはね~」
「って! ニヤニヤしながらこっちに来ないで・・・・・・・・・・・・って、貴女は愛音さんにナニをしようとしていたんですか!!? そんな事したら僕が社会的に死にますよ!!!??」
「私が許可します!」
許可しますって・・・・・・。この人たまにとんでもない事を言い出すんだな・・・・・・今度からあの笑顔の時は気を付けよう。
ちなみに愛優さんは僕耳元でこう呟いたのである。
「愛音ってあれで実は胸の大きさを結構気にしてるみたいで、この前わざと少し大きな声で、『夜何も着けないで寝ると大きくなるらしいよ~』って試しに言ってみたんだけど、それを聞いた愛音が本気にして着けてないかを折角だから君と確認してみようと思ったの」
何考えてるんだよこの人は・・・・・・。
そりゃ同性なら許される・・・・・・許されるのか? まあいい。同性なら許されるだろうが結婚しているわけでも無ければ、恋人でも無い。昨日今日知り合ったばかりの僕が見たりしたなんてバレた日には間違いなく逮捕(エンディング)だ。
「ふふっ♪」
「いや『ふふっ♪』じゃなくてですね──。まぁいいです」
「ソラって意外と諦めが早いんだね」
「諦めが早いと言うかなんというか・・・・・・って、ソラ?」
「昨日からそう呼んでたから大丈夫だと思ってたけど・・・・・・やっぱりダメかな?」
うっ・・・・・・なんだこの目は。お姉さんみたいに振舞っているとはいえ、中学生。僕よりも小さい子が上目遣いで可愛くそんな事を言ったら断る事なんて出来ないじゃないか・・・・・・最初から断るつもりなんて無かったけど。
「い、いえ! 好きなように呼んでくださいって言ったのは僕なので大丈夫です! それにそっちの方が親密になった感じがしていいです!」
「親密・・・・・・」
しまったああああああ!! 今のは完全に失言だ・・・・・・急いで訂正を──。
「うんっ。親密になるのは大切だよね♪」
あれ、なんか嬉しそう・・・・・・失言かと思ったけどこれで良かったのかな?
ホッとした時、今まで黙ってこのやり取りを見ていた愛音さんが口を開く。
「あ、あのっ。お話中にすみません。そろそろ着替えたいので部屋から出てもらえると・・・・・・助かり・・・・・・ます」
時計を見る。僕が起きてから既に三十分が経過していた。
「わかりました。ほら愛優さん行きますよ」
「え~、ソラは男だけど私は女だから一緒に居てもいいと思うな」
「ダメです。絶対愛音さんにいたずらするつもりですよね。ほら部屋から出ますよ」
僕は愛優さんの背中を押して部屋を出ようとした・・・・・・が、そこで愛優さんが愛音さんを呼んだ。
この時僕は予想していなかった。まさかここで愛優さんを止めなかったせいであんな事になってしまうなんて・・・・・・。
「あ、愛音」
「愛優さんどうしました?」
僕はこの時、物凄く嫌な予感がした。しかしいくら愛優さんとはいえ、このタイミングで聞くような人じゃないと思っていた・・・・・・信じていた。
が、現実は甘くなかった。
「結局ブラは着けてるの?」
「なっ・・・・・・なっ・・・・・・~~っ」
「はぁ~・・・・・・・・・・・・」
この人最後の最後でどえらい事してくれましたよはい。まさかまさかとは思ったけど本当に聞いちゃったよ・・・・・・。
僕は呆れていた。が、しかしそれでも健全な男子高校生。少し気になっていたのは認めよう。
言っておくがこれはあくまで『健全な男子高校生だから』であって、決して『僕がロリコン』だからではないからな。
大切な事なのでもう一度言おう。
これは僕が『健全な男子高校生』だからであって『僕がロリコン』だからではないからね。そもそもロリコンじゃないし・・・・・・本当だからね?
──と、まぁそれはさておき。
いくら天然とはいえ流石の愛音さんでも僕が居る前でそんな事答えないとは思うけど一応釘を刺しておくか。
「あの、愛音さ──」
「愛優さんが着けてない方が良いって愛優さんが言ったので・・・・・・着けてない・・・・・・です」
なんということでしょう! 僕が目の前にいるのに答えましたよこの天然ロリっ娘は。
「・・・・・・って待った!? 今着けてないって言いました!?」
「おっ、流石男の子。やっぱり反応しちゃったか」
後ろで何か言ってる愛優さんはいいとして・・・・・・。
「愛音さん、今着けてないって聞こえたんですが、冗談ですよね?」
僕は念押しに聞く。愛音さんの性格からして冗談・・・・・・の可能性は低いけれど僕はそれに賭けた。いや、賭けさせてくださいお願いします・・・・・・そうじゃないと。
僕がさっき抱きつかれた時愛音さんの生に近い形で触れてしまったり、生を見ることになりかけたと言う事案が発生してしまう!!
だからお願いします神様仏様・・・・・・どうか、どうか愛音さんが冗談で言ってますように・・・・・・。
「お恥ずかしいですが、着けてないのは・・・・・・本当です」
そんな恥じらいながらそんな事言うなぁ!!
「お~愛音ったら大胆♪」
くっそ~この人は一人で盛り上がってるし~・・・・・・。
「あ、あの。ソラさんそれが何か?」
「い、いえ! 変なこと聞いてすみません。今すぐ出ていくので! ほら愛優さん行きますよ」
「あっ、ちょっと押さなくてもちゃんと出るから~」
僕はそのまま愛優さんを押して部屋から出た。
「変なソラさん・・・・・・ん?」
ちょっと待ってください。寝惚けてよく覚えてませんがなんかソラさんに抱きついた気が・・・・・・。
「~~・・・・・・っ!」
私は今更ながら、恥ずかしくなり顔が真っ赤になった。
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