スイーツエンジェルへようこそ♪
私と一緒に・・・・・・
今は三月──春休み。
四月から僕は、この富山市にある富山高校の一年生になる。
通うのは四月からなのだが、前に住んでいた所だと、かなり遠い所から通うことになるため、寮生活を送ることになった。
「よいしょ・・・・・・荷物はこんなもんかな・・・・・・」
重い荷物を部屋の片隅に置いて一息つく。
そして、閉まっていた窓を開ける。
「ふぅ・・・・・・富山市。建物が多すぎず少なすぎず、近くに山や海もあっていい所だなぁ」
「すぅ~。はぁ~・・・・・・・・・。うん! 空気も最高だ!」
「ここから僕の高校生ライフが始まるのか~」
僕はそう思うだけで気持ちが高まった。
荷物整理なども終わり、一通り部屋の片付けも終わる。
「さてと・・・・・・やる事は終わったし何をしようか」
色々やったが時刻はまだ三時、一応門限となっている六時まで時間はある。
「街でも見に行くか・・・・・・」
僕はそう言って、携帯と財布などを持って外へ出た。
「・・・・・・外に出たのはいいけど。どこから行くか」
とりあえずスマホでマップを開いてみる。
「・・・・・・うん、わからない。けどまぁとりあえず歩くか」
僕はそう言ってあっちこっち歩き回る事にした。
寮から少し歩いた所に商店街があった。
「なるほど、ここが富山東商店街・・・・・・魚屋さんに八百屋さん、パン屋さんまで・・・・・・色々なお店があるなぁ」
僕は周りをキョロキョロしながら歩いていた。すると──。
「きゃっ!」
ドン! 前から来た女の子にぶつかってしまった。女の子はぶつかった勢いで尻餅をつく。
「いたたたたた・・・・・・」
「だ、大丈夫ですか!?」
僕は急いで手を差し伸べる。
「あ、ありがとうございます」
そう言って女の子は僕に手を引かれながら立ち上がる。
──にしても。小さいな・・・・・・。
僕もそんなに身長が高い方では無いのだが、それでも彼女の身長は僕の胸の高さくらいしかなかった。
出ている所や引っ込んでいる所が無いのを見ると、恐らく小学生か中学生・・・・・・。
僕がそんな風に解析していると。
「あのぅ・・・・・・さっきから私をじろじろ見てますが、何か私の顔に付いていますか?・・・・・・?」
はっ、いかんいかん。何とか誤魔化さなくては。
「い、いや。こんな小さ……じゃなくて! こんなに可愛い子に尻餅なんか付かせて申し訳ないなぁと」
「えっ? か、可愛い・・・・・・?」
彼女は目を丸くした。
「う、うん! 可愛い!」
「あ・・・・・・」
「?」
「あ、新手のナンパ・・・・・・でしょうか?」
「んんんんんん!?」
誤魔化すどころかもっと勘違いされてるぞ!?
「い、いや! 違うんだよ!」
「では、私は可愛くない・・・・・・と?」
「そうじゃなくて、君が可愛いと思ったのは本心で!」
「やっぱりナンパじゃないですか・・・・・・」
「だから違うんだーーーっ!」
僕は空に向かって叫んだ。
その後、数十分にも渡り誤解だと説明する事となった。
「なんだ・・・・・・私の勘違いだったんですね。本当にごめんなさい」
彼女はそう言ってぺこりと頭を下げる。どうやら誤解は完全に解けたようだ。
「あはは・・・・・・。こっちこそ勘違いするような言い方をしてすみません」
「じゃあお互い様・・・・・・って事ですね」
彼女は少し微笑む。
(やっぱり何度見ても可愛いよなぁ・・・・・・)
「ジー・・・・・・」
「あ、いや。これは・・・・・・」
「やっぱり・・・・・・ナンパですか?」
「だ、だから違うんだってば!」
「ふふふ。すみません冗談です」
彼女はいたずらっぽく笑う。
「な、なんだ。冗談か・・・・・・また一から説明しなきゃいけないかと思ってヒヤヒヤしたよ・・・・・・」
「すみません、久しぶりに男の方と話したのでつい楽しくなってしまって」
「久しぶりに?」
「はい。私実は男性恐怖症なんです。その上人見知りなので・・・・・・」
「ふーむ。僕は大丈夫なの?」
「はい、何故だかわかりませんが貴方は・・・・・・そう言えば、まだお名前とか聞いていませんでしたね」
彼女はそう言うと改めてこちらを向く。
「私の名前は櫻宮 愛音(さくらみや かのん)と言います」
「僕は潮乃 夜空(しおの よぞら)です」
「潮乃 夜空さん・・・・・・はい。ばっちり記憶しました」
こくこくと彼女は頷く。
「僕も櫻宮さんの名前しっかりと覚えておくよ」
「あ、その。櫻宮って言い難いですよね・・・・・・なので私の事は愛音と・・・・・・って変ですよね、また会えるかわからないのに・・・・・・」
「あっ、そう言えば私が何故潮乃さん・・・・・・」
「僕のもここら辺じゃ聞かない苗字だから言い難いと思うんだ。だからソラでいいよ」
「わかりました。では、お言葉に甘えて・・・・・・。私が何故、ソ、ソラさんが大丈夫なのかと言うと・・・・・・」
「正直私でもわかりません」
「えぇ!? わからない!?」
こ、ここまで言ってわからないと来たか。
「はい、初めて会った男の方でこんなに話せるのは初めてなので・・・・・・」
「もしかして、ソラさんは前にこの街に来て、私と話してる・・・・・・なんて事は」
「いやいやいや! 多分無いと思うよ! もしあったとしたらこんな可愛い子忘れるはずが・・・・・・あっ」
またしても『可愛い』と言うワードに反応して、愛音さんは顔が赤くなる。
これは誤魔化さないといけないやつだ。僕はそう思い必死に言葉を付け足す。
「ぼ、僕はこの街に数回来たことあるから、もしかしたらその時にすれ違ったりしてたかもだよ!」
上手く誤魔化せた? どうだ。
僕は恐る恐る彼女の顔を見る。
「・・・・・・誤魔化そうとしてるのがバレバレですが、まあもういいでしょう」
彼女は少々呆れ気味だった。
「そ、そう言えば愛音さん。この街の一番の観光名所とか知ってたりしないかな?」
「い、いきなりですね」
もちろんいきなりそんな事を言ったのは、話題を変えるためである。
「そうですね・・・・・・やはり街の中心にある、時計塔ですかね」
──時計塔。
富山市内から、どこからでもその存在を見ることが出来るくらい大きな時計塔だ。
愛音さんの話を聞く限り、その周辺は公園になっていて、クリスマスとかになるとカップルが多くなるとか。
リア充め・・・・・・滅びればいいのに・・・・・・ by潮乃 夜空
「時計塔かぁ・・・・・・まだ行ってないからいいかも」
「ちなみに公園には少しですが、お店も出ているので、散歩にももってこいの場所なんですよ♪」
話している彼女の姿を見ているとこちらまで楽しくなる。余程そこがお気に入りなのだろう。
「愛音さんは本当にそこが好きなんだね」
「はい、そこは私にとって大切な場所でもあるので」
「大切な場所かぁ・・・・・・うん、次行く所は時計塔にしよう!」
「それで、愛音さんも良ければ一緒に来てくれませんか? 少しマップを見てみたんですがそこに行くまでに迷いそうで・・・・・・」
彼女は腕時計を確認する。
「うーん。一緒に行ってあげたいのは山々なんですが・・・・・・私もこの後お店のお手伝いがあるので・・・・・・時計塔までの、わかりやすい道を教える程度しか・・・・・・お力になれそうになくてすみません」
「いやいや! 僕の方こそ時間を取らせちゃったみたいで・・・・・・」
その後、彼女に時計塔までの道を教えてもらい、僕達は別れた。
彼女に教えてもらった道を歩いて数十分・・・・・・。
「本当に時計塔に着いた・・・・・・」
ここまで来るのに本当にこの道でいいのか? と何回思った事か・・・・・・いや、愛音さんを信用していないわけではなく、時計塔はすぐ近くにあるのに中々辿り着けなかったからで・・・・・・え? 同じ? 愛音さんごめんなさい。
「にしても、本当にカップルが多いな・・・・・・」
周りを見ると、こっちにもあそこにもカップル。愛音さんが言ってた以上にカップルだらけだ。
「しかし、本当にいい所だな。愛音さんがあそこまで推すのも納得だ」
時計塔の周りは水で囲まれているせいか、近くで見るとより一層迫力が出る。
「時間もまだあるし、時計塔の周りを一周してみるか」
少し歩くとお店があった。
「なになに・・・・・・スフィール? ここは、ケーキ屋さんなのか」
どうやらここは支店で、本店は街中にあるようだ。
「支店をこんないい所に出せるくらいだから相当人気なんだろうなぁ・・・・・・」
今度来た時は、是非寄ってみたいものだ。
そしてスフィールを後にして、時計塔の周りを暫く歩いていると、時計塔の入り口らしき物が見えた。
「ここは入り口? あ、張り紙が貼ってある」
──見学は御自由にどうぞ──
「随分素っ気ない内容だな、しかし中に入れるのか・・・・・・」
僕は少し考える。
「登るのに時間がかかりそうだけど・・・・・・登りたい。しかし、時間が足りるか・・・・・・」
そう言ってスマホの画面を確認する。
「多分・・・・・・大丈夫かな。よし、行くか」
そして時計塔の扉を開いた。
中には大きな機械がいっぱい動いていた。
「これが・・・・・・全部部品・・・・・・」
僕はそれだけでも驚いていたのに壁を見て、更に驚く。
「って! なんだこれ!」
外からは普通の壁に見えていたのだが、中からは外が丸見えだったのだ。
「どうなってるんだこれ・・・・・・」
僕は圧巻されつつ、上へと向かう。
「・・・・・・」
屋上まであと少しの所まで行くのだが、僕は既に息が上がっていた。
それもそのはず、塔はそれなりの大きさがあるのだが、登る方法は階段のみなのでかなりの運動になる。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。あと一段で最上階・・・・・・だっ!」
僕は最後の一段を越えて、最上階に着く。
そしてそこで見た景色に僕は──感動した。
「──この街はこんなにも綺麗だったのか・・・・・・」
夕日を浴びてオレンジ色に染まる富山市。
その光景に僕は心を奪われていた。
「・・・・・・あれ?」
そこで僕はある異変に気付く。ここから少し離れた所・・・・・・と言うか、学生寮の近くと思われる所から煙が上がっていた。
「ま、まさかな?」
僕は嫌な予感がして、急いで時計塔を降りる。
その途中、スマホに一通のメールが届く。
「えーっと、なになに。学生寮で火災が発生しました、もしまだ中にいる生徒がいたらすぐに学生寮から出るように・・・・・・・・・・・・って! 学生寮が火事!?」
一応大切な物は全て持ってきてはいるが、あそこには色々と物を置いたままだ。
「引っ越してすぐに火事とかどんだけ災難なんだよ!」
僕は凄いスピードで今まで来た道を走る。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
やっとの思いで学生寮の前まで行く。
ここまで地味に坂道なので今までずっと走ってきた人にはかなり辛かった。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。学生寮が・・・・・・燃えてる」
僕は中にある物を取りに行こうとする。
「!? 君! 何をやっている!」
「中にまだ物が残ってるんです!」
「だからといって今行っては死んでしまうぞ!」
「・・・・・・・・・・・・っ!」
「あっ、君!」
気が付くと僕は走っていた。
何故、あの場から走り去ったのかはわからない。わからないが何かが僕をそうさせた。
「・・・・・・僕は何をやっているんだろう」
商店街に差し掛かった頃、僕は既に歩いていた。
学生寮が火事になったと言うのにここら辺は夕方と余り変わった様子はなかった。
学生寮とはほとんど関係ないのだから当たり前といえば当たり前か。
当たり前だとわかっていても、何故かムシャクシャした。
すぐに僕は商店街を後にし、無言で歩き続けた。
「・・・・・・ここは、時計塔か」
色々な所を歩いたつもりだったのだが、いつの間にか時計塔の所にある公園へと来ていたようだ。
僕はそこにあるベンチに腰をかけた。
「はぁ~・・・・・・」
深いため息をつく。これからの事を思うと、どうしたらいいのかわからない事だらけだった。
「・・・・・・これからどうすればいいんだろう」
そう呟きながら夜の空を見る。その空は僕の気持ちなんか関係無しに、とてもキラキラしていた。
それから数十分経った頃──。
「あの~・・・・・・」
「?」
突然、少女に声をかけられる。
「あの、もしかしてソラさん・・・・・・ですか?」
そう言いながら少女はこちらへと近づく。
「愛音さん・・・・・・」
少女の正体、それは愛音さんだった。
「こんばんは。こんな時間に・・・・・・どうされたんですか?」
彼女は僕の隣に座る。
「実は・・・・・・」
僕は学生寮が火事になり、持ち物のほとんどと住む場所が無くなってしまった事を話す。
「そうでしたか・・・・・・。それはとんだ災難でしたね」
「本当だよ・・・・・・。おかげで今日はどうしたらいいか・・・・・・」
僕は頭を抱える。
「あ、あの。ソラさん学校の方からは連絡とか来てないんですか? これからどうすればいいのかとか」
「うん、来てるには来てるんだ・・・・・・。だけどね」
そう言って僕はスマホの画面を彼女に向ける。
「なになに。これは・・・・・・」
彼女はメールの内容を見ると全て納得したようだった。
メールの内容は簡単にまとめるとこうだ。
──学生寮で生活する予定だった生徒で、知り合いなどの家に泊めて貰えるならお願いをし、知り合いなどがいない場合は今夜二十一時までに学校へと連絡するように。
そして、今の時刻は二十二時。
完全に時間オーバーだ。
「一応学校に連絡してはみたんだけどね。やっぱり誰も出なかったよ・・・・・・」
僕は更に肩を落とす。
「・・・・・・・・・・・・」
そんな僕を横目で見ながら彼女は何か考え事をしていた。
暫くすると考えがまとまったようで、彼女は立ち上がり僕の前に立つ。
「あ、あの。ソラさん」
「もし良かったら・・・・・・私の家に、来ませんか?」
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