花岡秀太99 第2弾

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少年と師匠0

「ご飯出来たよ~」
台所の方から声がする。
誰の声か。師匠の嫁さんの声である。

幼い頃に、俺は師匠に預けられたそうだ。
師匠も師匠の奥さんも俺のことを快く受け入れてくれた。そして、まるで本当の息子のように扱ってくれたのだ。
俺が昔から、どちらかというと真面目で丁寧な性格だからだろうか。
今思えば、師匠達はそんな風に心を閉ざしがちな
俺に、少し悲しかったのかもしれない。

しかしそれは仕方がない。
捨てられていた記憶があったからか、捨てられたくない一心でいたのだからだ。
といっても、その後は徐々に慣れていったこともあって、二人と打ち解けていき、14歳を越える頃には
まるで家族のような、いや、家族として当たり前になっていった。

師匠が亡くなったのはいつだったろうか。亡くなった日にも関わらず、憎らしいほどに晴天だったのは覚えている。


俺も奥さんも泣き崩れることはなかった。
非常になったからではない。覚悟していたからだ。

『仕事屋』という仕事は、宇宙を相手に勝負するといっても過言はないほどに、あらゆる敵と対峙する。
理由はどうあれ、いつ死んでも可笑しくはない。

奥さんは1人で息子と家を守っていくことを覚悟していた。涙は流し続けていたが、だからといって嗚咽おえつを漏らすことはなかった。
そして俺は、決意した。『仕事屋』になるということを。別に報復がしたかったことだけが理由ではない。
自らの体で、心で、感じ取ったからである。

師匠の意志を、俺が継がなくてどうする
あの人の意志を継げるのは俺だけだ、と。


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