クロス・アート・ファンタジア

佐々木 空

27.蒼雷再び


「おい、なんだあれ?」
「ん、火事か?」
「どれどれ?」

 町にいた人々が白い煙が上がっている方へ視線を向けた。
 二人、ファイターが通りかかる。

「どうかしたんですか?」

 ファイターの片方が町の人に訊ねた。

「いや、あの煙がね」

 町の人は白い煙の方を指差す。

「火事ですかね?」
「いや、わかんねぇ」

 煙が上がっている方向から顔を真っ青にした人々が走ってきた。

「魔物だぁぁ!」

 その叫び声とともに町がパニックに襲われる。

「逃げろ!」
「どこへ!?」
「そっちにはいくな!」
「魔物だぁ!」

 人々の前に巨大なゴブリンが立ち塞がった。

「アァァァ……」

 ゴブリンは口からよだれを垂らし、人々を見ている。
 一人、男性がつまづいた。ゴブリンがその人に迫る。

「くっ、来るなぁ!!」

 蒼い閃光が駆け抜けた。
 閃光はゴブリンを貫く。
 土手っ腹に穴を空けたゴブリンはそのまま後ろに倒れた。
 人々はあっけにとられている。
 ゴブリンを倒したファイターが人々の方へ振り替えった。

「みなさん、ここは危険です。早く避難してください」

 光がそこにいた。



 朔也たちも魔物の集団と相対していた。
 黒金が生成した檻の中に魔物を閉じ込めている。

「朔也、丸焼きにしてやれ」
「……うん」

 右手を魔物に構えた。
 頬から汗が滴り落ちる。
 どうしても炎が出せない。
 右腕が震える。

ーーこいつはだいぶまずいな……

 黒金が両手を地面についた。
 地面から鉄の槍が飛び出す。
 檻の中にいた魔物たちを串刺しにしていった。

「朔也、お前は逃げろ」
「えっ、でも……」
「戦えないやつはいらねぇ。馬車に戻れ。逃げ遅れた人がいたら誘導してやれ。いくぞ、与謝野」

 二人は煙の上がっていた方へと向かう。
 朔也は二人の後ろ姿を見ていることしかできなかった。

「…………くそっ」

 朔也は自分の右手を握りしめる。

「戦うことすら出来ねぇのかよ……」

 

 黒金たちはまたしても魔物の集団と遭遇した。

「数が多すぎるな……。与謝野頼んだ」
「了解です」

 与謝野の指輪についているスペル石が反応する。

「外しますか?渡した方がいいですか?」
「とりあえずはプラス20%くらいで外してくれ」
「リミット20%解除」

 与謝野の手から出た白い電気が黒金を包む。
 黒金はてのひらから剣を2本生成した。

「よし、行こうか」

 黒金の脚が白い光に染まる。
 地面を蹴った直後、黒金は魔物の集団を横切っていた。
 黒金が通った所にいた魔物たちは斬られている。
 他の魔物が黒金を取り囲んだ。
 構えられる双剣。
 目にも止まらぬ速さで魔物たちを次々に斬っていった。
 腕を、脚を、胴体を切断された魔物たちは地に伏していく。
 与謝野はその光景を見ながら時計を確認していた。

「…… 残り30分は持つかしら。さて、私も」

 両手、両脚を白く染める与謝野。 
 巨大なゴブリンが与謝野を襲った。

「じゃーまっ!」

 与謝野は拳でゴブリンを地面にめり込ませる。
 与謝野にも白い電気のようなものが纏われていた。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

 朔也は町中を駆けていた。
 馬車を目指し走る。
 角を右に曲がった。
 そこに魔物と倒れている一般人がいた。

ーー!!

 朔也は目を見開く。

ーーどうする?

 魔物はその人を喰らおうとしていた。

ーーあのまま、だと喰われる……。あの人は気絶している……!どうする……!?

 全身からの汗が止まらない。

ーー「見捨た方がいい」……違う。「誰もお前が見捨てたことなんてわからない」……違う。「誰かが助けてくれるなんて思ってはいけないんだ」違う。「どうせ、誰も助けない」違う。「諦めろ」違う。「どうせお前には誰も救えない」違う!違う!違う!違う!

 朔也の右手に炎が灯った。

ーー救うからごめんなさい必ず救ってみせるから誰も殺さないから俺に力を貸してくれ俺をそんな目でみないで!!!

 魔物が炎に包まれた。
 朔也は魔物を執拗に焼く。
 魔物の呻き声が聞こえてきた。
 魔物が粒子となって消えていく最中も炎を浴びせ続けた。

「はぁ、はぁ」

 一般人を抱えた。

「どっかに連れて……いかないと……」
「ガァッ!」

 巨大なコウモリのような魔物が朔也たちを襲った。

「くそっ、こんな時に!」

 コウモリは朔也の放つ炎を器用にかわし、近づく。
 ふと迫るただならぬ気配。

雷槍一式らいそういっしき!」

 蒼い閃光がコウモリの魔物を貫いた。
 コウモリの魔物は粒子となって散っていく。

「大丈夫ですか?」

 光が朔也たちの方へ振り替えった。

「「あっ」」
「光!?」
「朔也!?」

 
 
 魔物を一掃した黒金たち。

「いでで!」
 
 黒金が痛みに悶えていた。

「もぉ、調子のって40%とかやるから……」 
「いやぁ、今日なら行けると思ったんだって……」
 
 乾いた拍手の音がした。

ーー!!

 二人は音の方へ振り替える。
 そこには魔物の大群を出したあの青年がいた。

「いやぁ、素晴らしい。あの魔物の大群をたった二人で一掃してしまうなんて」

 二人の顔は青ざめていた。

「てめぇ、まさかとは思うが……」
「まさか……無悪さかなし……?」
「はい、無悪さかなし 弥彦やひこと申します」

 無悪の背後の地面から黒い何かが飛び出す。

「さぁ、パーティーを始めましょう」

 無悪の微笑みが二人を凍りつかせた。

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