クロス・アート・ファンタジア
23.赫い月が笑う
ーーやばい……このままだと……死ぬ……!
鳴り響く金属音。
幾多の斬撃が火花を散らしながら交わる。
「辻斬り!お前はここで終わらせる!」
獣の如き勢いの斬撃を放っている黒金。
それを冷静に見切る辻斬り。
このままでは黒金の体力が切れて敗けるのが目に見える。
ーー黒金さん……だめだ……それじゃあ……
朔也は力の入らない右腕の拳を必死に握りしめる。
ーーここには……俺らしかいない!
両腕量脚に白い血管状の模様が浮かび上がった。
ーーこんなところでは死ねない!
黒金の猛攻が弱まる。
ーーまずい!腕に力が……!
一瞬の綻びを逃さない辻斬り。
黒金は気づくと胴体を薙ぎ斬られていた。
青ざめた表情で胸を押さえる黒金。
ーーここまで……か……
ーーそこが今のあなたの天井です……
「まだ!終わってねぇ!!」
朔也の渾身の一撃が辻斬りに刺さった。
ーーなっ!
ーー朔也!
その衝撃で辻斬りは地面を転がっていく。
威圧的な目で朔也を見据えた。
「まだそんなパワーが出せるなんて……タフですねぇ」
燃え上がる右腕。
「まだまだあんたと違って若いんでね!」
-遡ること十二時間前-
昨夜の辻斬りの襲撃によってギルドメンバーが負傷したのを受け、ギルドマスター川上はギルドメンバー全員を緊急召集した。
「律賀之衆は未だ人手不足でこちらに応援を送れない状況だ。我々の手でなんとしても辻斬りをとめるのだ!」
川上の鼓舞に応える一同だったが、同時にのし掛かる不安を取り払えたわけではなかった。
「おっかれー」
「あっ、お疲れ様です」
仕事が終わりベンチで休んでいた朔也は黒金と鉢合わせた。
「今日が俺らの見回りだな」
「そうですね……」
「襲われたあいつらは……まぁ、命に別状はないらしい。復帰には少し時間がかかりそうなやつがいるが」
「ふぅ……」
「なんだ?緊張か?」
「いやー、なんか。前は勢いで戦ってたから別に感じることもなかったけど、今思うと凄いやつと対峙しなくちゃいけないのかなぁって」
「あぁ、俺にもあったわ。そういうの」
「そうなんですか……」
「また……朝日は拝むぞ」
「はい」
夜、10時。
ギルドのロビーに集合した見回り班四人。
「関口朔也、スペルは火炎です」
「黒金修、スペルは錬鉄」
「笹森純一郎、スペルは人狼化です」
「水戸部静、スペルは超音波」
互いの軽い自己紹介を終え、任務に向かう。
「朔也くん、新人なのにこんな大変な任務来て大変だねぇ」
水戸部がそう呟く。
「私、笹森も同意です。私が入りたての頃は雑務ばっかりでしたからねぇ」
「おーい、水戸部に笹森。朔也を誉めても金は出ねぇぞ」
「黒金さん、金がないと誉めないの?」
「別に金じゃなくても得すればなんでもいいぜー」
「「「うわぁ……」」」
「ハモるな!」
烏が鳴く。
ふと、朔也が空を見上げた。
今日の月は赤い。
なぜだか赤い月はいつもより大きく、そして禍々しい雰囲気を放っていた。
「朔也、行くぞ」
「あっ、はいはい!」
朔也が走ろうとした時、視界の奥を横切る影が見えた。
「何かいた!?」
「何!?どこだ!?」
「そこの角を右!」
黒金が猛烈な速さで角を右に曲がった。
掌から剣の刃が飛び出す。
逃げていた影に刺さった。
「ぐわぁ!」
その影は痛みに悶え、倒れる。
「てめぇだな?辻斬りはぁ!」
胸ぐらを掴み顔を見る。
そこにはいかにも気弱そうな青年の表情があった。
「ごごご、ごめんなさい!ゆる、ゆる、ゆるしてぇ」
指の先から手術に使うようなメスくらいの刃を出し、男に突きつける黒金。
「辻斬りってやつを知らねぇか?」
「つ、つっ、辻斬り?しっ、しり、知りませんよぉ」
「使えねぇ」
朔也たちがようやく駆けつけた。
「黒金さん、脚速い!」
「おぅ、朔也。強盗ゲットだぜ!」
「そんな何モンマスター目指してる少年みたいな言い方しなくても……」
かつん、かつん。
そんな下駄の音がした。
ーー!!
「かーごめ かーごめ かーごのなーかの とーりは~」
ーーなんだ、この感じ!?
その場にいた全員が戦慄という名の刃物に撫でられる。
「いついつであう よあけの ばんに つーると かーめが すーべった~」
「だっ、誰だ!?」
一同、動揺を隠しきれない。
不気味に近づく声が、彼らの恐怖をいっそう駆り立てる。
ーーそういえば俊が「坊や、よいこだ、ねんねしな」って歌いながら現れたって!
思い出された記憶から辿る一つの答えは。
「後ろの正面 だぁれ?」
朔也は後ろに振り返る。
そこには子供のような無邪気な笑顔を浮かべた死神がいた。
「やぁ、久しぶり」
-恐怖の旋律が今宵、赫い月に奏でる-
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