クロス・アート・ファンタジア

佐々木 空

19.最後に一言

ーーーーーーーーーー

 早朝の砂浜は肌に刺さる寒さがあった。
 まだ眠い目を擦りながら砂浜を踏んだとき、俺はあいつを見たんだ。

「105……106……107……108……109……」

 こんな寒い中、汗垂れ流して腕立て伏せしている朔也を俺は邪魔出来なかった。

「150!」

 腕立て伏せを終えて力尽きたのかあいつは砂浜に横たわった。 

ーーアカデミー生だよな、こんな早朝からキツいトレーニングしてどうやって授業を乗りきるんだ?
「おぶっ、おっ!」
ーーえ!?

 あいつの口から汚物キラキラが流れた。

ーーあちゃー
「よぉし…………今日も乗りきった……ぞぉ……。明日も……頑張ろ……う……」

 そう言い残し果てた。

ーーそれもう今日が終わってんじゃねぇか……
 


 どうやら関口朔也というらしいそいつは魔力操術のセンスが皆無らしくてみんなが身に付けている最中、あいつだけずっと足踏みしてた。
 おまけに光にスペル使われていいようにボコられてたっけなぁ。まぁ、どうしようもないやつだったよ。
 だけどある時、対人戦の時に感じた。あいつは自分の身体能力だけで相手の攻撃を避け、間合いをつめ、打撃を狙う。当たり前、当たり前だがその光景は俺に電撃を貫かせた。

ーー当たり前だが……当たり前じゃ……ない!

 結局その勝負は朔也の敗退で終わったが、俺には確信があった。

ーーいつか……あいつは化ける……

 光は朔也のことをバカにし続けてきたが、俺は違う。窮鼠きゅうそ、猫を噛む。いや、窮鼠が龍に化けるやもしれない。その時、あいつを迎え撃つのは……

ーーーーーーーーーー 


ーー俺であると確信した……!

 放たれる氷結と火炎。

ーー来い……!朔也!
ーーお前の背中を掴んで……追い越す!

 朔也が左足を踏み込んだ。
 白い血管状の模様を浮かべる。
 横幅に氷の壁を張る長門。
 朔也が駆ける。

ーーさぁ、跳んで来い! 

 ピキッ。

ーー!!

 氷の壁を突き破り、朔也の飛び蹴りが長門に刺さった。
 飛んでいく長門。
 追い撃ちに火炎を放つ朔也。
 再度氷の壁を出し、炎を遮る。

「けほっ、けほっ」

 刹那、朔也の蹴りが真横に迫る。
 長門は腕で受け止めるも吹っ飛ばされた。
 壁に打ち付けられる長門。

ーーくそっ!

 既に、朔也の拳が迫っていた。
 長門が右腕を伸ばす。

「「あぁぁぁっ!」」

 二人の呻き声がほぼ同時に聞こえた。
 長門は朔也の拳をもろに受け壁にめり込んでいる。
 朔也は左腕を長門に凍らされていた。
 長門は口の中が切れてしまったのか血が垂れている。
 朔也は氷を炎で解かしていた。
 長門が氷結を放つ。
 朔也は一旦距離をおいた。

「朔也……俺のとっておきで迎え撃つ……覚悟しろ」
「あぁ……」

 長門の両腕の肘から先が凍っていく。

氷臨龍舞ひょうりんりゅうぶ!」

 腕の氷がどんどんまるで龍のように伸びていった。
 スタジアムの壁を伝い朔也の背後の壁までも凍らせる。

「お前はこの包囲網から逃げられねぇ……!」
ーーなんだ……!この感じは!

 四方八方。
 至る所から氷が伸び始めた。
 向かう先は朔也のいる所だ。

ーーマジかっ!

 炎で解かすのも間に合わないその速度。
 朔也はその猛追から逃れんとばかりに駆ける。
 しかし、至る所から枝分かれするように氷が伸び、それぞれが意思を持つかのように朔也を追跡する。

ーーそうだ!根本を絶てばいい!

 腕に白い血管状の模様を浮かべた。
 重ねて炎を腕に灯す。

「はあぁぁぁぁぁ!!!」

 光との戦いで放った猛炎。
 身の危険を感じ、長門は自分の腕から先の氷を絶って跳んだ。
 炎が消える。

「朔也、そんなでかいの出してバテないのか?」
「余計なお世話だ……」
「じゃお構いなしに行くぜ!」

 着地した長門は再度氷を伸ばす。
 地面を伝い、朔也を直接狙う。

ーー一瞬でも氷を踏めば即、ゲームオーバー

 足元にある氷を解かしながら追跡を逃れる朔也。

ーー何か……攻略方法は……

 氷が朔也への猛追を止めた。

ーー止まった!?まさか体力切れなんてことは……

 氷が集まり何かを形づくっていた。

ーーよし!今のうちにあいつを!

 しかし、長門は大量に氷の壁を張り、攻撃させる隙を見せない。

ーーっ!

 上を見上げる朔也。
 そこには氷の龍がいた。

ーーどう……する……?
ーーさぁ、俺の最大の技!全力で……来い!

 龍が、来る。
 脚に白い血管状の模様を浮かべた。
 最大の跳躍。
 龍の上を通りすぎ、中央高くまで飛び上がった。

ーーなんだ……魔力切れちまったのか……朔也

 炎が上がらないのを見て魔力切れだと勘違いしている長門。

ーー炎弾投下!  

 地面に叩きつけられる大火炎。 

ーー上だと!?

 冷まされた空気が一気に熱せられ膨張。
 爆発的な風を放った。

ーーくっ!
ーーうわっ、俺もヤベェ!

 風が止む。
 両者が膝をつき相対していた。
 互いに笑みを浮かべている。

「朔也、予想以上だ……!お前はやっぱすげぇよ!」
「お前こそ、ほとんど高みの見物で俺を追い詰めてんじゃねぇかよ……!」

 両者共にゆっくりと立ち上がる。
 炎を、氷を互いの腕に宿しながら。

「朔也……俺はさっきの龍で大概の魔力は使いきった」
「俺ももう、大した量は残ってねぇ……」
「次で最後だろう、たぶん……」
「そうだな……」

 沈黙が訪れた。
 皆が二人を見守っている。

「最後に……」

 長門が沈黙を破った。

「ん?」

 長門が笑った。

「最後に一言……交わしてから、行こうぜ」

 朔也もつられて笑みをこぼす。

「そうだな……じゃあーー」



       「「会えて良かった」」



 直後、炎と氷が衝突した。

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