クロス・アート・ファンタジア

佐々木 空

17.スイートピー


※長いです




「二回戦第一試合開始!」

 直後というよりややフライング。
 互いの拳が互いの頬に刺さった。

「ぐっ!」
「ぬっ!」

 一旦距離をおく朔也。
 脚に電気を纏わせる光。
 閃光と共に蹴りが朔也に迫る。
 朔也はそれをしゃがんでかわす。
 そしてもう一度距離をおいた。

「どういうつもりだ……」
「こっちにもちゃんと……考えってもんがあるんだよ」

 右腕から炎を噴き出させる。
 閃光と共に駆ける光。
 朔也は右の拳で地面を殴った。
 炎の壁を発生させる。
 素早く反応し炎の壁を跳んで避けた。

「よぉ、まぬけ」
ーー!!

 放たれる火炎。
 光に直撃する寸前、朔也は雷撃をくらった。

「ぐぁっ!!」

 炎の放出が止まる。
 光も少し炎を浴びたようで所々焦げていた。

「「この野郎!」」

 光は地面に手をおいた。
 地面に電気を流し朔也を襲う。
 再度、朔也は炎を放つ。
 電流はとっくに朔也に到達しているはずだが朔也に反応がない。
 光は迫る炎を跳んで避けた。

ーーどうなってやがる?

 朔也は不敵な笑みを浮かべる。

「間抜けなお前に教えてやる。俺の靴底はゴム製だ!」
ーーしょうもなっ!

 一同そう思った。
 舌打ちをする光。
 宙から雷撃を放つ。
 炎で迎え撃つ朔也。
 雷撃に耐え炎を光まで届かせた。

「おらぁぁ!」
「ぐっ!」

 しかし、雷撃に耐えきれず放出が止まる。

「はぁはぁはぁ……」
「朔也、お前は圧倒的に不利だ。降参しーー」

 またも放たれる火炎。
 舌打ちをして光はそれを避けた。

「誰が誰に降参するって?寝言は寝てから言え!」
ーーこっちのセリフだ、木偶の坊でくのぼう

 閃光と共に朔也の前に現れた光。

ーー速いっ!

 光は胸、肩、鳩尾、脇腹、顔と圧倒的速度で打撃を加える。
 光の腕が白く染まった。 
ーーやべっ!
ーー終わりだ!

 重たい一撃が朔也を貫いた。

「っっっ!」

 朔也は壁際まで飛ばされる。

「げほっ、げほっ、はぁはぁ……げほっ!」

 まともに立ち上がることも出来ないようである。

「鈍い……いちいち鈍いんだよ」 

 光の手の中で電気が火花を散らしていた。

「終わりだ、朔也」

 放たれる雷撃。

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 朔也の絶叫がスタジアムに響いた。

「ひっ!」

 瞳は思わず目を塞いだ。
 雷撃がおさまる。 
 朔也は立っていた。

「終わらねぇ……まだ!!」

 朔也は大きく左足を踏み込んだ。
 両足から白い血管状の模様が浮かび上がる。

「まだ、お前を倒してねぇ!」

 刹那、光の目の前に朔也の蹴りが迫っていた。

ーー!!

 蹴りは頭に命中し光は飛ばされる。
 朔也は腕にも血管状の模様を浮かべた。

「朔也ぁぁぁぁ!」

 鬼の形相をした光が迫ってきた。

ーーさっき蹴ったばっかだろうが……

 朔也は冷静に構えをとる。
 光が朔也に掴みかかる寸前。
 朔也のカウンターがきまった。
 その力で壁に叩きつけられた光。

「かはっ!」
ーーそうそう、賢く生きろ。ガキんちょ

 斗志希はそう思いながら頷いていた。

「光、何余裕ぶってんだ」
ーー!!
「お前が今の俺に通用すると思ってんのか?」
「何……だとぉ……!」

 光はゆっくり立ち上がり朔也を睨みつける。

「なぁ、本気を出せよ!もっと必死にやれ!お前に俺たちが“ごっこ”じゃねぇことを証明してやる!」
「黙ってれば好き勝手言いやがって!」

 右足を大きく踏み込む光。  

「言われなくても殺ってやらぁ!」

 両足に雷を纏う。腕は白く光った。
 迫る光の拳。
 朔也も腕に血管状の模様を浮かべーー。
 受け止めた。
 互いの腕が押し合って震えている。 

「どういうつもりだぁ……!!」
「俺は勉強も戦闘もトップのお前がずっと羨ましかった。ずっと憧れたんだ。でも、あの日を境にお前は変わってしまったなぁ」
「何の話だぁ!」

 ふと朔也の顔を見ると彼の頬に涙がつたっていた。

ーー!
「ごめんな……光……あの時、俺がもっと……」



ーーーーーーーーーー

 朔也と光がまだアカデミーに入って間もないころ、朔也と光を含めた五人班での訓練があった。 

「おい、朔也。まだスペル一個も持ってねぇのかよ?」
「うるせぇ!俺はこの拳一つでやれるんだよ」
「魔力操術も出来ないくせにぃ?」

 光の言い方に一同腹を抱えて笑った。
 昔の朔也と光は多少の嫌みを言い合う仲で決して大きな軋轢があったわけではなかった。



 森奥山での訓練中。 

「皆、この先にゴブリンの群れがいるそうだ。気を引き締めてかかれ」
「「「「了解」」」」

 光がリーダーとして指示を出し、四人がそれに従って連携をとる。
 ゴブリンの群れと相対し半数を仕留めたところで異変は起きた。 

「ちょっ、光!」
「なんだ朔也!」
「周りの地面が浮いてきて俺たちの居るところくぼみになってないか?」
「そんなわけなーー」

 言われて気がついた。
 確かに自分たちのいる所がいつの間にかくぼみになっている。

「でも誰がやったんだ?」
「光、お前頭いいんだろ?何か知らねぇのかよ?」 
「無茶言うな!そんーー」

 地を突き破る音がした。
 くぼみと平坦との境目から黒い何かが大量に飛び出してきた。
 先端が尖ったそれは朔也たちの方へ焦点を合わせた。

「まずい!逃げろ!」

 黒いそれはゴブリンたちを次々と串刺しにしていった。

「うわっ!」

 朔也が石につまづいたのか転けてしまう。
 そんな好機を逃すわけがなく、黒いそれは朔也を狙った。

「朔也!」

 班の一人が黒いそれを受け止めた。

「あ……」
「朔也!立て!早く!」

 その怒鳴り声に反応し朔也は立ち上がって逃げ出す。
 ふと振り返ったとき、彼は黒いそれに貫かれていた。

「待ってろ!今助ける!」

 光が彼に駆けていった。

「来る……な……ひか……」

 言い終わるか言い終わらないかの最中、それは彼の首を切り落とした。

「っ……」
 そんな掠れた声が光からもれた。

「光!後ろ!!」

 朔也の叫び声に我を取り戻した光は後ろを振り返る。
 黒いそれがもうそこまで迫っていた。

「あぁっ……」

 肉塊を貫いた様な音がした。
 班の二人が光を庇っていた。

「え……?」
「光……」
「早く逃げーー」

 二人は直後四肢がバラバラになる。
 光は二人の血を浴びた。

「あ……はぁ……あっ……」

 光の瞳孔は揺れ動き、冷や汗は止まらない。過呼吸が彼の胸を締め付ける。

ーー俺が……俺が?俺が俺が俺が殺した?いや違う。でも死んで……違う。死んでなんか、死んでる。俺が殺した?殺したの?あれ?俺がしたんだ。俺がしたんだ?あれ?俺が俺が……オレガワルインダ

 黒いそれが光を狙ったその時。
 二人は担任の佐藤に助けられていた。



 それから光は一週間、塞ぎこんでしまった。
 十五の子供に目の前で友人を失ったショックは計り知れない闇があった。
 そしてその闇が彼をむしばんだ。

ーーーーーーーーーー

「昨日、墓参りに行ったんだ。ちょうど昨日があいつらの命日だったからよ。そしたらあの三人の親御さんに会ったんだ」

 光は目を見開いた。
 それ以上は言わないでくれと訴えかけるような表情をしていた。

「三人の親御さんたち、お前のこと心配してたんだぜ。ずっと自分達の子供のことを引きずっているんじゃないかって。お前に伝言だ、光」

 光の目から涙がこぼれている。
 ゆっくりと首を横に振った。

「もし自分の子供の事を気の毒に思っているなら、申し訳ないと思っているなら、それは光の健闘違い。あの子たちは誰かを守るという使命を立派に果たした。自慢の子供だよ。だから、あんたはあんたの人生を精一杯いきなさい。十字架なんて背負うんじゃないよってな……。笑いながら誇らしげに……大粒の涙流してさ」

 光の頬にも大粒の涙がつたっていた。

「なぁ、あいつらが今のお前を見たらどう思うんだろうな……。十字架なんかお前が背負うもんじゃねぇよ。なぁ、あいつらにしてやれることが有るとしたらそれは……生きることじゃねえのか?あいつらの分も生きてたくさんの人を救う。それが俺たちがあいつらにしてやれる唯一のことだと俺は思う」 

 いつの間にか光の顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。

「だから生きよう、光。精一杯、一生懸命、全力で。あいつらに胸張れるように生きよう、光」
ーー「十字架なんて背負うんじゃないよ」「あいつらの分も生きて」「生きよう、光」
「はぁっ……うぅ……ぅっ……っ……」
ーーあぁ、そうか。俺があいつらにしてやれるのは……たった一つしかないんだ……。生きること、それしか

 蒼い光が煌めく。
 朔也は危険を感じ距離をとった。

ーー!!

 スタジアム一帯に光の発した雷撃が走った。

「うわっ!」
「逃げろ!」

 観客席にいた生徒たちは逃げ惑っている。
 智久は目を細めた。

「突発的拡張か」
「だな」

 斗志希は妙に嬉しそうだ。

「っだよ……」
ーー……!
「昔の話ばっか掘り返しやがって……」

 光の姿を見て朔也はあまりの嬉しさに笑みが溢れる。
 蒼雷の狭間から姿を見せた光はもう以前の光ではなかった。

「何がしたいんだよ……お前は全く……!」

 喜びを顔にみなぎらせる光。

「待ってたぜ、光!」

 朔也の表情も同様であった。

「本気で……いくぞ……!」
「あぁ!」

 両腕両脚に蒼雷を纏わせる光。

ーー生きる!

 右腕から炎を噴き上がらせる朔也。

ーーそう、生きる!

 朔也は地面に火を張り円上の壁を作った。
 光の稲光からの跳躍。
 朔也の両足に白い血管状の模様が浮かび上がる。
 朔也の真上に跳んだ光。
 両腕から蒼雷が火花を散らしていた。
 朔也も光目掛けて跳躍する。
 朔也の腕に白い血管状の模様が張り巡らされた。
 その上からさらに炎が勢いを増す。

ーー俺の全てを!
ーーお前にぶつける!
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」」

 放たれる猛炎もうえん轟雷ごうらい
 猛炎は豪快にスタジアムの天井を突き破り、轟雷はスタジアムの地面を盛大にえぐった。

「きゃぁ!」
「おいおいマジかよ!」
「くっ……!」

 そして激しい相撃ちの末二人とも地面に落下した。
 一瞬の静寂、そしてーー。

「「あぁぁぁぁぁ!!!」」

 互いに気力だけで立ち上がった。
 朔也は構えをとる。
 光は笑みを浮かべていた。

ーー!!
「お前の勝ちだ……朔也」

 そう言い放ち光は地に倒れた。 

 -そして彼はスイートピーを添えたのでした-

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