クロス・アート・ファンタジア

佐々木 空

13.お前しかいないんだ

ーー誰か……。私を……

 血液が逆流するかのように。酸素の供給が止まってしまったかのように。体から熱が奪われていくような。顔が青ざめていく。
 手は右手はそれでも必死に前へ伸ばす。
 痛みは薄れてきた。しかし、冷えた体に熱が戻らない。

ーーだめだ。もう……
「立てぇぇぇ!!!!!!!瞳ぃ!!!!!」

 朔也が迷路の入り口から叫んでいた。

「そこには誰もいねぇ!お前が立たないと、お前がやらないと!誰も!助けてくれない!お前が守らないといけないんだ!そこにはお前しか、いないんだ!!」

 朔也の声を聞いて瞳はあることを思い出していた。

ーー私は緑山の島の半分くらいの大きさの島で生まれた。お父さんもお母さんも優しくて、一回私がお父さんの大事な物壊しちゃってすごいおこられたんだぁ。それで凄い怒られてつい家を飛び出してしまった



ーーーーーーーーーー
 瞳はどこか森の中をさ迷っていた。

「あれ?こっちから来たはずなんだけど……」

 無我夢中で走っているうちに自分が通ってきたルートを忘れたのだろう。

「がぁ、がぁっ!」
「ひぃっ!」

 烏の群れが飛びたった。

「なんだ……烏かぁ……」



 そしてさ迷っているうちにとある祠に辿り着いた。
 祠には何故かコルクのような物が刺さっていた。

「お家に帰りたいよぉ……」

 何かが草を踏む音がした。
 人狼だった。
 目をギラギラさせ辺りを見渡している。

ーーいやだ!死にたくない!

 口を手で押さえる。背中は冷や汗で濡れていた。
 人狼は何事もなく通り去った。 

「もぉ、やだぁ。お家に帰りたいよぉ」

 八つ当たりで近くにあった石を祠に投げつける。
 長年の時とともに緩んでしまったのだろうか。石がぶつかってコルクのようなものはとれてしまった。

ーー……何だろ

 コルクのような物が刺さっていた穴の奥から音がする。何かがうごいているような音が。
 瞳は目を見開いた。
 穴の奥から姿を見せたのは得体の知れない魔物だったのだ。

「っ……」

 もう恐怖で声も出ない。

ーー誰か……私を……
「瞳!」

 誰かが彼女を抱き抱えた。

「お父さん……」
「大丈夫か、瞳。怪我はないーー」
「キシュー!」

 魔物の鳴き声が不気味に響く。

「こいつは……!なんで復活している!?」

 得体の知れないその魔物が瞳たちを襲った。
 魔物の攻撃を父は受け止めた。

「スペル持ってきて正解だったな……」

 いつのまにか父の腕には鉄のガンレットが装備されている。

「瞳……逃げなさい」
「おっ……お父さん……」
「ごめんな、瞳」

 そしてまた瞳は抱き抱えられた。
 今度は瞳の母親だった。
 母は何も言わず大粒の涙を流している。
 そんな母を見てもう一度瞳は父の方を向いた。
 そこには両腕がもがれた父がいた。

ーーごめんな……瞳……

 月夜に照らされた赤い涙が土を染めた。

-その後、この魔物は島の戦力を総動員し本部からも応援が来てようやく消滅に成功した。魔物からの被害は壊滅的で島の生存者は瞳だけだった-
              ーーーーーーーーーー
ーー結局お母さんも私を庇って死んだ。私が、私が、私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が悪いのに!
ーーーーーーーーーー

「じゃあファイターなれよ」
「え?」

 いつしかまだ幼かった朔也が瞳にそう言った。

「ファイターって格好いいんだぜ!魔物をな、火とか水とかでブァーってやってドーンって倒していくんだ!」
「私には……無理だよ……」
「無理じゃねぇって!誰が決めたんだよ!そんなこと。自分を自分で見限るなよ!」
「私じゃ……」
「俺だって……親いねぇんだよ」
「え?」
「物心ついたときからいなかった。だからなんかそのお前が親を失った気持ちってのはわからないけど、いない気持ちはわかる気がするんだ。なぁ、お前の命は誰かが守ってくれた物だろ。じゃあ今度はお前が、お前が誰かを守ればいい。もしもの時、そこにはーー」
              ーーーーーーーーーー

「お前しかいないんだ!」

 その声は瞳のものだった。
 立ち上がった彼女の目に宿る炎はいっそうその勢いを増していた。

ーーありがとう、朔也!私が守ってみせる!私しかいないんだ!
「瞳、もう時間もない。立ったのは誉めてやるが次でお前はもう確実に殺られる。怪我しないうちにーー」
「もう一回前言撤回することになるわよ!」

 瞳は左足を踏み込んだ。
 瞳を中心につむじ風が巻き起こる。

ーーまだこんな技を隠してたのか!

 暴風が吹き荒れ大地は耐えることしか出来ない。

ーー魔力消費がえげつないからとっておき、一度きりの大技だけどね!

 瞳は小さく後ろに跳んだ。
 つむじ風の流れに巻き込まれる。

ーー真横で……出る!

 刹那、大地の目の前に瞳は迫っていた。 
 つむじ風を利用して自分を高速で打ち出したのだ。
 腕は白い光に染まっている。

ーーこいつ、速い!
「旋風弾丸!」

 拳が大地に突き刺ささる。
 大地は石を蹴飛ばしたかのように飛んでいった。

「はぁっ、はぁっ」
ーーやっぱりつむじ風を維持するのが厳しい……
「やってくれんじゃねぇか……瞳」

 瞳は目を見開いた。
 ボロボロになった大地がゆっくりとこちらへ向かっている。

ーーあれでもまだ……。魔力を練らないと……!
「瞳ぃぃ!」

 大地の岩の腕はさらに大きくなる。
 そして、その岩の腕が瞳を襲った。

ーーこれで終わりだ!
ーーまだ終われない!

 突風を起こし岩の腕から逃れた。
 ふと額に衝撃を感じた。

ーーえ?

 横に逸れた瞳を待っていたかのように大地が頭突きをしたのだ。

ーーあ……まずい。まだ、やらないと……私が

 意識が。

ーー遠のかない!!!

 頭突きを仕返した。

ーーなっ……ん……

 大地はその衝撃で倒れた。
 一瞬辺りを漂う静寂。
 瞳はゆっくりと力なく、だがしっかりと立ち上がる。
 そして拳をゆっくりと上に掲げた。
 第六組。残り一分で凪白瞳勝利。
 そして瞳もまた倒れーー。

「おっとあぶねぇ」

 倒れかかった瞳を誰かが支えた。

「お前いい戦いっぷりだ。功清が欲しがりそうだな、智久」
「スカウトのことしか頭にないのやめなよ、斗志希」

 智久と斗志希がそこにいた。

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