クロス・アート・ファンタジア

佐々木 空

12.追い風に向かい風

 第二組残り十二秒にして関口朔也、勝利。

「長門、お前の予想が当たったな……」
「いや、予想外だ」
「え?」

 長門が不安げな顔をしている。

「あいつ……この一ヶ月で仕上げて来やがった……」
「何を……?」
「…………脚を」



 朔也は予選を終えて控え室で死にそうになっていた。 

「やべぇ、マジでだめかと思ったぁ」 
「何をした……」

 朔也の向かい側には俊が座っていた。

「何って?」
「さっきの戦いに決まってるだろ……」
「あの時はーー」

 勢いよくドアが開いた。 

ーー!!

 そこには長門がいた。

「よぉ、朔也」
「あぁ、長門か……」
「見せてもらったぜ。さっきの戦い」
「そりゃどーも」

 長門の目が急に鋭くなった。

「今回、一番の敵はてめぇだ、朔也」
ーー!!

 勢いよく立ち上がる朔也。

「……どういうことだ?」
「そういうことだ、じゃあ決勝で会おうぜ」

 そう言い残し長門は部屋を去っていった。
 その後ろ姿を見て闘志を燃やす朔也。

ーー待ってろよ……長門!!



       -第三組・第六組開始-



 第三組、五分とせずに明日美が決着をつけた。
ぬるいですわね」



 第六組、大地や瞳のいるこの組では熾烈な戦いが繰り広げられていた。

「はぁっ!」

 突風を繰り出す瞳。
 相手の男は壁に打ち付けられた。

「エネルギーパンチ!」

 しかし、瞳の猛追はうまくかわされる。

ーーだめだっ!
「おらぁ!」

 かわりに相手のエネルギーパンチをくらってしまう。

「放水!」 

 瞳に迫る激流。

「上昇!」

 瞳は風の力で自らを空中に飛ばす。

「愚策だ!瞳!」

 空中の瞳に向かって放水する男。

「それはどうかな!」

 右腕から突風を放つ瞳。
 その風圧で自分の位置をずらし放水をかわした。

「なるほどな」
「これなら空中で動き回れる!」

 両手から背後に向かって突風を放った。
 その勢いで瞳は男に突っ込んでいく。

「そんなバレバレの動きでは意味がないぞ!」

 突進してくる瞳に水を放つ。
 当たる寸前、瞳は地面に向かって突風を放った。
 その風圧で上昇する。

ーーうまい!
ーーこれで殺る!
「フルエアプレス!」

 男の真上から最大の勢いで突風を放つ瞳。
 男はその風圧に耐えられず地面に叩きつけられた。
 瞳の腕から白い光に染まる。

「エネルギーパンチ!」

 追い討ちをかける一打撃。
 男は動かなくなった。

「よ……よし!」



 大地は人狼化するスペルを持った男と戦っていた。

「がぁっ!」 

 男の拳が大地に迫る。
 かわされた拳は背後にあった壁を砕いた。

ーー変応系のスペル、人狼……。こいつはキツいが……
「持久戦に持ち込んで俺の魔力切れを狙っているんだろ?大地!」
ーーまぁ、ばれてるわな
「早々に決着をつければいいこと!」

 男の上半身はまさに人狼のそれだ。下半身はどうやら人狼化しないようだが、それでも打撃の威力はかなり強い。

ーー槍でもつくるか

 大地は自分の腕から岩の槍を生成した。

「がぁぁぅ!がぁっ!」

 男が襲いかかった。
 地面に手をつく大地。
 床から岩の壁を出した。

「小細工など……!」

 岩の壁を砕く男。
 崩れた岩の中から突如現れる槍。

ーーしまった!

 槍は男の右肩あたりに浅く刺さった。

ーーちっ、浅い!
ーーさすがだ、大地! 

 男は槍を抜き投げ捨てる。
 ふと目をやると大地は自分の身長くらいの直径のある岩を生成していた。

「潰れろ!」

 投げられる岩。
 男の左腕が白い光に染まる。  

「おぉっ!」  

 男の拳が岩に突き刺さり岩は砕け散った。

ーーそして、また槍が来るのであろう!

 しかし、岩の影から現れたのは大地本人。

ーーなっ、あれは!

 大地の右腕には岩で生成した巨大なガントレットがあった。

「おらぁぁっ!」

 男の胴体に入る鈍く重い一撃。

「かはっ!」

 男の人狼化は解け力なく地面に打ち付けられた。
 大地は一息つく。

「倒したか……。こいつとさっきのやつで俺は二人倒してるから……残り二人か」

 背後から迫る足音。

「違うよ」
「この声は、瞳か」
「うん、私と大地くんの一騎討ち」
「……そうか」

 右腕に風の渦を纏う瞳。
 岩のガンレットを構える大地。
 


 観戦室にて。

「大地……瞳……」 

 朔也は不安そうにモニターを見つめていた。

「どっちを応援していいかわからないってやつか?」

 俊が朔也に声をかけた。

「いや、どっちも負けてくれたほうが好都合ではある」
「急にゲスくなるのやめろや。主人公の発言じゃねぇだろ」
「いやぁ、まぁそれは冗談としまして……」
「瞳の場合はいかに不意打ちを増やせるかが鍵だろうな」
「一撃が弱いあいつの打つ手はそれが最善か……」



 対峙している二人。

「瞳、大怪我する前に辞退したほうがいいんじゃないか?」
「あんまり私を見くびらないでよね」

 右足の踵を少し浮かせる瞳。

ーーどう来る……

 瞳が消えた。

ーーなっ!?
 そして大地は左の頬に鈍い衝撃を覚えた。

ーーおいおいおい、いつからそこにいたんだよ……

 少しよろけた大地。

「瞳、前言撤回だ!全力で来い!」
「もちろん!」

 またしても消える。
 大地は地面に手をつく。

ーー来る方向はわからなくとも!

 四方八方に岩の壁を作る。
 後方から迫った瞳の攻撃はこの壁に阻まれることとなった。
ーーなら!

 瞳は下方に突風を起こし、上昇。

ーー壁の上から狙う!
「バレバレだ、瞳!」

 瞳に迫る岩の拳。
 瞳は横に突風を放った。
 自分の位置を逸らし拳から逃れる。

「最大風力!」

 岩の壁の包囲網の中に着地する瞳。
 同時に大地に向かって最大の突風を放つ。
 大地は岩の壁に打ち付けられた。
 瞳の腕が白い光に染まる。
 瞳はさらなる猛追を仕掛けた。
 しかし、その拳が届く一寸前。
 瞳の胴体に鈍い衝撃がかかった。

「かはっ!」

 衝撃の正体は地面から生えた岩の柱。
 打ち上げられた瞳は壁の包囲網の外へ放られた。
 床に打ち付けられた痛みが体を重くする。

「…………っ」
ーーだめだ……立てない……

 岩の壁が粒子となり消えた。
 そして瞳の前方には岩の腕を持った大地が立つ。
 瞳の視界は陽炎がかかったように揺らめいていた。

ーー誰か……。私を……

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