クロス・アート・ファンタジア

佐々木 空

08.ブースティング

        
「あなたは……」
「やあ」

 そこには智久がいた。

「智久さん!」

 朔也が嬉しそうに声をかけた。
 大地と長門とは固まっている。

「朔也君、こいつを片付ける。そこの二人は頼んだ」

 智久は倒れている光と俊を指差す。

「いやー、まさかあなたがいたとは……」 

 智久の量腕に血管を沿った白い模様が浮き出る。

「覚悟はいいな」
「ええ」

 辻斬りも刀を構える。
 智久の拳が空を切った。
 辻斬りが首を瞬時に傾ける。
 風圧で後ろの壁が少し砕けた。

――風圧だけで……

 左脚を踏み込む智久。
 脚にも血管を沿った白い模様が浮き出る。
 いつの間にか智久の脚が辻斬りの顔の真横に迫っていた。
 しゃがんでよける。
 智久は体を回し拳で辻斬りを狙う。
 その攻撃も避けられる。

「いやー、危ない、危ない」

 一旦魔力を切る智久。
 ピピピ、ピピピ。

ーー!!
「……私の時計のアラームです。どうやら時間なのでそろそろ帰りますね」
「…………そうか」

 風を斬るような速度で階段へと駆け込む辻斬り。
 しかし、進行方向には智久が構えていた。

――“あれ”使いましたね?

 辻斬りの脚に白い血管の模様が浮かび上がる。

――!

 そして、次の瞬間辻斬りの姿は消えてしまった。

――逃げたか……
「智久さん?」

 朔也に声をかけられる智久。

「あぁ、申し訳ない。逃がしてしまった」
 


         ‐一週間後‐



 無事に全員が修行の塔をクリアした。成績トップは柊長門。ギガントゴーレムを唯一、一人で倒したのはかなり大きかったようだ。
 最終試戦まで残り一ヶ月。同時に朔也たちのアカデミー生活も残り約一ヶ月。
 修行の塔に乱入してきた辻斬りに関しては現在も捜索が行われている。結局、重体となった生徒は一人もおらず不幸中の幸いだったと言えよう。



「と、いうわけで!」
「というわけの内容は!?」

 朔也と智久は早朝に砂浜で集合していた。

「目指せ最終試戦ナンバーワン工藤智久ドリームプランを始めたいと思いまーす!」
――俺の話聞かないのね。というかこの人こんなキャラだっけ?
「まぁ、最終試戦まで残り一ヶ月なわけですよ」
「そうですね」
「まぁ、いくら一ヶ月で右腕に炎が回せるようになったからと言っても勝てるわけではない。そこで今度はエネルギーキックを修得して貰おう」
「ちょっと待って下さい!」
「どうした?」
「俺のエネルギーパンチは本当にエネルギーパンチなんですか?」
「うん」
「でも辻斬りが違うって言ってました」
「…………君は確かに他の人たちとは違うものを用いている」
「違うもの?」
「普通エネルギーパンチは腕から魔力が染み出すことで白い光に染まっている。が、君は血管のような模様が張り巡らされるだろ?この能力はブースティングと言うんだ」
「ブースティング……」
「君の魔力操術のセンスのなさが幸いしたのかもしれないね」
「結構ズバズバ言いますね」
「まぁ、気を悪くしないで欲しい。ブースティングは魔力が一部分にしか流れていない状態。普通の人は腕に均等に魔力を流してしまうからブースティングを修得するのは難しい。けど、君はもともと均等に流すということを苦手にしていたからこんな風に修得出来たのさ」
「じゃあ、もしかして俺って天さ――」
「いや、ただの要領が悪いやつ」
「そんなにはっきり言わないでっ!」
「というわけで要領は悪いが一撃は大きい君が今できる戦法は火で牽制しつつ一撃を伺うことだ」
「そこでエネルギーパンチの上をいくキックを……」
「そう、機動力には欠けるが脚力は腕力の何倍もある」
「最終試戦まで残り一ヶ月……」
「はっきり言うがここで君がどうなるかでこの先のファイターとしての人生がかなり変わることはわかっておいて欲しい」

 智久の言葉に朔也は息を飲んだ。  

「さぁ、始めようか」
「お願い……します!」
 


         ‐一週間後‐



 朔也たちは現地訓練のためにアカデミーから南の位置にある森奥山に来ていた。
 班はくじ引きで決められる。そして――。

「どうしてこうなるのぉ!?」

 瞳が咆哮する。
 くじ引きの結果、朔也、瞳、光が同じ班となった。
 既に朔也と光は火花を散らしている。

「今度はポックリ殺られるんじゃねぇぞ?光くぅん」
「てめぇこそ。頭の中、筋肉なんだから勝手な真似すんじゃねぇぞ?」

――あぁ、帰りたい

 何か既視感あるセリフ。



 各班は森奥山でそれぞれ散って魔物狩りをする。
 ただ、それだけの訓練だが森奥山の魔物は骨が折れるものが多い。生徒たちは苦戦している。

「よし、ヒノシシ三体目!」
「朔也、ヒノシシくらいで調子に乗るな」
「てめぇ、まだゴブリン一体しか殺ってねぇだろ」
「二人とも前!」
「「え?」」

 目の前にはトゲタートルの群れが。



 長門の班は圧倒的な力でどんどん魔物を倒している。

「ちょっ、長門!ペース上げすぎだ!」
「あぁん!?てめぇらが遅ぇんだよ!」

 長門が前に向こうとした時――。
 目の前の木から人が飛び降りてきた。

「…………」

 ただならぬ気配が漂っている。

「あんた、何者だ?」
「…………」

 その男はその場を去ろうとする。
 しかし、長門の氷がそれを遮った。

「何もないとか言わねぇよなぁ?」

 長門は不敵な笑みを浮かべている。
 


「おはようございまーす」

 智久が職員室に入った。

「あれ、工藤さんどうされたんですか?」

 校長がそう声をかける。

「新聞読もうと思って」
「あぁ、ならこちらです」

 新聞を渡される智久。

「さてさて、最近のニュースは、っと……」
[緑山の島、盗賊団が逃走中。アジトがあるのか?]

 記事を見て、目を細める智久。

「運悪すぎやしない?」
「何がですか?」
「いや、なんでもない……」

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