クロス・アート・ファンタジア

佐々木 空

05.修行の塔

 「さあ、その話をしようか」

 智久は海のほうを見た。

「そういえばあのエネパンは使えたかい?」
「うん、ヒノシシの主をぶっ飛ばしたよ」

 智久は目を細めた。

――実はあれはエネルギーパンチじゃないことは黙っておこうか……
「とりあえずそのスペル、火を右腕まるごとまわせるようにすること。君は今右の手のひらからしか火が出せないけど右腕まるごとだ」
「ちなみにどれくらい修行しないとだめ?」
「死ぬまで(ハート)」
「いや過ぎる!」



  ‐そして一ヶ月の時は流れ‐



「えー今日から一週間。修行の塔へのお前らの挑戦を許可する。塔の頂上にお前らの出席番号が書かれたプレートが各自あるからそれをとって来れたら合格だ」

 修行の塔の前で担任の佐藤から説明を受ける生徒たち。

「ちなみにプレートを取ってくるだけでは合格点ギリギリだ。倒した魔物の数や時間も審査対象になる。そしてここでの成績は最終試戦に多いに影響する。全員全力で取り組むように」

 説明後、我先にと生徒たちは修行の塔へ入っていく。
 生徒たちは各個人に記録機器と呼ばれるUSBのようなものを所持している。これによって修行の塔にいた時間や倒した魔物の数が記録されるようになっている。また、あちこちにつけられた監視カメラから教師は生徒たちを見ている。



「朔也は行かないの?」

 声をかけられビクッとする朔也。

「なんだ瞳か。ビックリした」
「緊張してるの?」
「まあ、そりゃそうだろ」
「だよねー。一週間授業ないの楽だけど気が重いよ」
「まあ、入るしかないか」

 朔也と瞳は皆に数分遅れで塔に入った。



 「今年はどう?」
「星野光くんや柊長門くん、藍染俊くん、加賀明日美さん辺りが優秀ですね」

 アカデミーの職員室では先生たちが生徒の様子を見ている。そんな中智久は校長と話しているようだった。

「光くんは朔也くんから聞いているんだけど他は知らないな」
「星野くんは学業でもトップですからね。でも戦闘だけならば柊くんがトップでしょうか」
「ふーん」
「工藤さんがお気に入りにしていらっしゃる関口朔也くんは果たしてどこまで奮闘してくれるでしょうか」
「まあ、僕が修行をつけたからね。みんな舌を巻くよ」
「それは期待ですねぇ」



 光は一階をすぐに突破し二階に来ていた。
 閃光とともに圧倒的なスピードで移動している。

――やはりスピードだったらこのスペルだな

 大きなホールのような所へ出た。そこには人狼の群れがひしめいていた。

――邪魔だ

 光の右腕が電気を帯びる。
 そして地面に手のひらを置き。

「エレキフィールド」

 地面に電気を流し込む。
 感電した人狼たちが悶えている。
スペル:発動型筋肉系電気

――と、言っても電気はあまり広範囲には流せない

 倒れた人狼たちの奥にはまだまだ大量の人狼がいた。
 ふと、光を寒気が襲う。

――冷気?まさか!

 奥からものすごい冷気が迫ってきた。

――冷気ってことはやつしかいない!

 すると突然巨大な氷が光に迫ってきた。
 氷は光の数メートル手前で勢いを止める。
 人狼は氷の中だった。

「光、お前はやっぱ威力に欠けるな」
「長門……」

 氷の上から長門が姿を見せた。
スペル:発動型筋肉系氷結 
 大きめのズボンにパーカーを腰に結んでおり上は黒いタンクトップだけだった。黒いボサボサの髪から見せる細い目が威圧的である。勝ち気な表情であった。

「お前は一つ一つがショボいんだよ」
「余計なお世話だ、アホたれ」
「まあ、通路は防がせてもらった。別に直接的な妨害ではねぇからなぁ。ルールはしっかりと守るぜ」

 小さく舌打ちをする光。
 柊は奥へと進んでいったようだ。

――この巨大な氷を砕けるほどの雷撃をしたらもう魔力が足りないだろう。迂回するしかないのか

 脚に電気を帯び光はもと来た道を駆けていった。
 


 朔也は一階の亀の魔物に苦戦していた。

――ちっ、水が相手だと火が全然効かない。エネパンはなぜか消費が大きい。あんまり使いたくはないけどここを通らないと奥には進めない……
「どけぇ!朔也!」
「ほぇっ?」

 そこには鬼の形相をした男が斧のような物を今にも降り下ろさんばかりだった。

「ほわっつ!?」

 急いで朔也は亀の前から退く。
 その男は斧のような物を降り下ろし亀を砕いた。

――ちょっとグロい……
「朔也。ボケッとしてんなよ」
「誰かと思えば大地か」

 木島大地。高身長で体つきも良くあだ名はパパ。持っていた斧のような物は岩だった。

「お前は物騒な物しか作らねぇなぁ」
「そういうスペルだ。仕方ないだろ」
スペル:発動型筋肉系岩石
「先に行くぞ」
「おう」



 瞳は途中で朔也とは違うルートで上を目指すことにした。修行の塔は階段まで様々なルートがある。

「こんなところでヒノシシとは……」

 瞳の前には以前退治したヒノシシがいた。
 瞳は炎に阻まれ防戦しか手がない。
 ふと、弦を弾いたような音がした。

「えっ?」

 今まで暴れまわっていたヒノシシが急に動かなくなる。ヒノシシの脚や身体が赤い糸で縛られていた。

「瞳さん、今よ」
「え?」
「エネルギーパンチを」
「あっ、うん」

 瞳はエネルギーパンチをヒノシシに放つ。ヒノシシは気絶したのか倒れた。

「えっと、あの、誰?」
「私よ。加賀明日美」
「あっ明日美ちゃん!」

 瞳が明日美に気づいて抱きつく。
 明日美はツインテールの金髪に凛とした出で立ちであった。
スペル:発動型骨格系糸張

「ほら、早くいきましょ」
「うん」



 三階にたどり着いた長門はそこに居合わせた魔物と対峙していた。

――まずいなぁ、さっきので派手にやり過ぎた

 ヘドロのような形状をした魔物が長門を襲う。

――エネパンもあの体じゃたぶん効かないだろ。それ以前に触りたくねぇ

 突如ヘドロの魔物が縮こまった。

――やべぇ!

 人一人隠れられる程度の氷の壁を自分の前に作る長門。
 ヘドロの魔物から勢いよくヘドロが四方八方に飛ばされる。かなりの威力があるようで長門が作った氷の壁にもひびを入れていた。

――やんだか……

 ヘドロの魔物がもとの大きさに戻っている。

――あのヘドロ乱射がめんどくせぇ

 またヘドロの魔物が縮こまった。

――連発はねぇだろ!

 その時、縮こまったヘドロの魔物を透明な緑の箱が閉じ込めた。

――このスペルは結界か

 長門が横に視線を向けるとお札を持った少年がいた。

「おい、俊。お前の手助けなんていらねぇよ」

 ヘドロの魔物は発射したヘドロが自分に跳ね返ってきて自滅している。

「別に君を手助けつもりはないよ」

 俊はすました声でそう答える。
スペル:発動型骨格系結界

「この間俺に勝ったからっていい気になってんじゃねぇぞ!あぁ!」

 苛立っている長門を俊は冷めた顔で見ていた。

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