星の降る街
-021- 2996年11月3日 PM 19:42
入院して時間が出来たので投稿します。
左腕を折って包帯ぐるぐる、右手に点滴、身動きも取れずひたすら時が過ぎるのを待つ苦行を乗り越えた僕はやっと片手を使えるようになる。
なお精神的にかなり疲弊したので執筆は進まない模様。
と言うか色々書いたんだけど、仕事の合間合間で書いたから文章がぐちゃぐちゃで直すのに時間かかってる感じです。
星の降る街 -021
2996年11月3日
PM 19:42
-ヤマト領-
アーバンライフマンションF6
608号室
「ただいま〜、ごめんね仕事が長引い…。はぁ…。」
マコトは玄関の明かりを灯したが他の部屋は暗く、シズキの気配はしない事に安堵した。
買い物をした証であるビニール袋を玄関に置き、暗いままのリビングへ向かう途中。
壁に張り付いていた男の顔面を殴る。
「ぐぉッ!?」
その一瞬、家中がざわりとした。
マコトは殴った男の顔を見下す。
「ウチに何の用だ?客人を招いた覚えはないだけど。」
「何故だ…何故私の居場所が…うあぁぅぁぁ!!!」
マコトは男の言葉を遮り、なんの躊躇もなく膝を横向きに踏み折った。
「まずは俺の質問に答えろ、何の用だ。」
「うぐぅッ………命令だ。」
「誰の?」
「……それは言えな、うがぁぁぁああ!!!」
マコトは男の折れた左足の膝を思いっきり蹴飛ばす。
「誰の?」
「………上官だ。」
「ふざけているのなら他の者に聞こう。」
マコトはそう言って未だうずくまる男の顔面を膝で蹴り上げて失神させる、その瞬間殺気の溢れていた家の中が静寂を取り戻す。
「はぁ…。」
マコトはリビングへと向かい、ドアを開けた所で天井に手を伸ばして透明化の特殊迷彩を着た男を引きずり落とす。
「んなっ!?」
それと同時に膝槍にて男の意識を刈り取る。
その瞬間、トイレと寝室と浴室からそれぞれ僅かな揺らぎを起こす何かが近づいて来る。
「そんな所にまでいやがって…気持ち悪いなぁッ!!」
不可視の揺らぎの元である謎の男達へと飛び込み一瞬で全ての敵の意識を刈り取った。
「ただいまぁ〜、聞いてよマコトぉ〜今日さぁ〜……なんじゃこりゃ?」
シズキはキコの入院している治療棟で起こった事件でなんやかんや後始末を担って、帰宅するのがいつもよりも遅くなってしまったのだが…。
帰宅した我が家の廊下には後ろ手に縛られて横たわる謎の男が複数。
「あ!シズキ!無事だった?怪我は無い!?」
慌てる様にリビングからマコトが飛び出して来た、だがその手には廊下の男と同じように後ろ手で縛られた男が。
「えっと…これは?」
「ごめん、本当は今日にでも話すつもりで色々準備してたんだけど、そうもいかなくなったみたいなんだ。家を出る準備をしてくれ、直ぐにでも出たい。」
マコトはまくし立てる様にシズキへと言葉をぶつける。
「まっまて!ちょっとよく状況がわからないんだけど…なんでマコトがこんな事を?」
「それに関しても移動しながら話したい、この家にはしばらく帰れないから必要な物だけを持って一緒に来て欲しい、頼む。」
「………わかった、1分で準備するけど何か特別要るものは?」
「シズキ……いや、必要な物は俺が用意するから荷物は少なめで頼むよ。」
「了解!」
理由を尋ねても答えてはくれなかったマコトに対しても、無条件で信用してくれたシズキに胸の内に熱い物がこみ上げて来る、だが状況は緊迫していていつ先程の様な輩が追って来るかわからない。
最後の1人を仕留める時にその男が、「祖国の失敗作が!」と叫んだ。
その呼び名を知って要るのはゲウィネンブルクのごく一部の組織のみ、ならばそこから身を隠して要る自分が見つかったなら追われるのは道理。
だが1人で逃げて、何も知らないシズキに自分の問題を欠片でも押しつける事はしたくないし、何よりシズキは戦力として数えられる程の力量がある。
それと、少しでもシズキと離れるのは嫌だとは恥ずかしくて言えないマコトだった。
「ほぉ!やはり本物だったか!」
「はっ。密偵によれば念の為に戦闘特化の者を5人程派遣しましたが一瞬で片付けられたと。」
暖色の柔らかい灯りに染められた部屋には葉巻を吸う男とそれに報告をする黒尽くめの男。
「はっはっはっ!!はぁ…、元は我々の技術であったのにも関わらず、勝手に出歩き寄ってからに…。」
葉巻をくわえた男はため息を吐いて、テーブルの上のワインを一口飲む。
「既に予備の者も向かわせております、ですが。アレが本物なら数の利は無いに等しいでしょう。」
「だろうな、あいつの試作品の一部に暗殺系の子供達がいたろう、あれの試験も兼ねて送り込んでやろう。」
「はっ!では私は一度戻ります。」
黒尽くめの男はそう言うと静かに扉を開けて出て行く。
それをみた葉巻をくわえた男は固定式通信機の受話器を耳に当ててダイヤルを回す。
『はいはいこちらクトロニ、どうされました、カラミタ様?』
「お前の所に暗殺系の試作がいたろう、アレの試験も兼ねていくつか出してもらいたい。」
『はぁ、構いませんけど、まだ未完成ですよ?アレ。』
「構わん、どうせ完成品でも役に立つか怪しい程の相手だ、情報収集の為だけと割り切れば中々お目にかかれない大物だぞ?」
葉巻をくわえた男、カラミタはニヤリと口角を上げて背もたれに体を預ける。
『大物?流石に私の完成品なら魔女でも出てこない限り負けるとは思えませんが?』
受話器越しのクトロニの声は若干不機嫌そうだった、だがカラミタはその反応で更にニヤつく。
「ふふふっ…、相手はその魔女と同じく怪物だと呼ばれた男の1人だ。」
『………本物ですか?』
「あぁ、間違いない。」
カラミタの言葉にクトロニは少しの間を置いて、とても楽しそうに答えた。
『すぐに、10体ほどご用意いたしますよ。』
「準備オッケーよ!」
「よし、取り敢えず車に乗って少しでも時間を稼ごう。」
マコトは車のキーをポッケに仕舞い玄関を開ける、その瞬間特殊なゴーグルを被った全身黒尽くめの男がナイフを突き立てて突進して来るが、
それを危なげなく躱して顎を掌底で打ち抜き意識を刈り取る。
「思ったより来るのが早い…シズキ、車まで急ごう。」
「………今の動き見えなかったんだけど。」
「あはは…まぁそれも話すよ。本当は最高級のお肉を使ったチーズインハンバーグのディナーを予定してたんだけどね…。」
「…なんだかだんだん腹が立ってきたわ!」
玄関前で産まれたての子鹿のようによろよろと意地で起き上がろうとしている黒尽くめの男の頭を、シズキは思いっきり蹴飛ばして完全に意識を刈り取った。
「いったぁ〜……こいつ骨格ぜんぶ鋼で出来てるの?」
勢いよく蹴飛ばしたもののシズキは自分の足を抑えてうずくまる。
今度はマコトが本気で倒れた男の顔面を蹴り、その頭は爆ぜて廊下の壁を破砕した。
「よし、急ごう。」
マコトはうずくまったままのシズキをひょいと抱えて走り出す、俗に言うお姫様抱っこだったのだが。
「えっ!?重く無いの?」
「大丈夫だよ、軽い軽い。」
シズキは全身ではないが部分的に強化骨格手術で強化しているため体重は見た目よりもかなり重く86キロほど。
だがそれを簡単に持ち上げるマコトの筋力に疑問が尽きない。
物陰から飛び出してきた黒尽くめの男の手を思いっきり蹴り、男の手の骨を粉々に折ってナイフを弾き飛ばす。
返す足で正確に顎の先を蹴って脳震盪を起こさせた。
「降りるから!走りにくいし戦いにくいでしょ!降りるから!!」
シズキはジタバタと暴れてマコトの腕から飛び降りる。
「エレベーターはやめたほうが良さそうよね…。」
「あぁ、絶対に張ってるからね。」
「体を強化しても階段は苦手なのよねぇ。」
「じゃぁ尚更抱かれてればよかったのに、よっと!」
マコトは腕から抜け出したシズキをまたもや抱えあげた。
「なんで!?私だって嫌いなだけで降りられるよ!?」
「嫌なら使わなければいいんだよ。」
「え?」
マコトは廊下の壁、外側を向いている。
「えっ!?まって!ちょっとまって何する気!?」
「安心して、痛みは感じないから。」
「そう言うことじゃなくて!」
マコトはシズキをガッチリと抱いたまま廊下から飛び降りた。
「ひぅぅぅ!!!」
「ほっ!とうっ!よっと!」
階段のフチ、廊下のフチ、階段のフチとぴょんぴょんと軽やかに飛んで無事に1階まで最速で辿り着いた。
「ほら、大丈夫だったでしょ?」
「3階くらいなら大丈夫だけど…ウチ6階よ…?」
「まぁまぁ、取り敢えず車に急ごう。」
マコトはそのまま走って車庫に向かう、だが着いた先にはタイヤをパンクさせられていかにも手を施された後の自分の愛車がそこにはあった。
「あぁ…お気に入りだったのに…。」
「私のバイクで行こっか…。無事そうだし…ね?」
「あぁ…。」
シズキはマコトの車とは別の場所にバイク専用の車庫がある為そこからバイクを引っ張り出して来た、今日は偶々帰るのが遅かった為かまだ手を加えられた形跡はなかった。
「よし!乗って!」
「うん、北の郊外に向かってほしい、圏外で迎えが来るはずだからさ。」
マコトはシズキのバイクの後ろに乗りシズキへとしっかり捕まる、マコトは車は運転出来るがバイクは運転したことがないので運転はシズキ任せだ。
バイクはギュォーン!と一度嘶くと静かに車輪を回し走り始める。
「それにしてもなんで圏外に出るの!?うちの本部にでも逃げ込めば安全なんじゃない!!?」
風をきる音で互いの声が聞こえづらい為シズキは大声でマコトへと尋ねる。
だがマコトはシズキの耳へと顔を近づけて、
「それはあんまりおすすめ…」
「んんっ…。」
その途端バイクがよろけて危うく転倒するところだった。
「マコト、耳はやめて。」
「……分かった。とにかくおすすめはできないんだよ」
シズキは肩で耳を抑える様に変な動きをしていたが、マコトはこの状況でもこうなるシズキに若干、ほんの若干呆れた。
「理由は!?」
「…まぁ色々!一番はあの本部じゃ対処に犠牲が出過ぎる!」
そうこうしているうちに追っ手と思われる黒尽くめの男達が背の低いバイクに乗って後ろに迫って来ていた。
「本当にしつこいなぁ!」
マコトはそう言って胸の内ポケットから拳銃を取り出して後ろ手に三連射。
だがどれもかする事もせずに闇へと消えて行く。
「やっぱり銃は苦手だなぁ。」
「貸して!」
シズキは片手で銃を要求し、その手に合わせる様にマコトは銃を任せる。
タンッ!タンタンッ!
三発の発砲で追っ手の1人のバイクをパンクさせ、1人の体を貫いて転倒させた。
「さっすが!!」
「プロですから!!」
マコトはシズキへ賞賛の言葉を贈るとそれを当然と受け止め、得意げな顔になる。
その後もマコトが道案内、シズキが運転と迎撃を担当してヤマト領郊外を抜けて壁に差し迫る。
「扉はどうする!?流石に顔パスは効かないわよ!?」
「俺が効くから!一応関所前で普通通り止まって!」
何故マコトが郊外の関所にて顔が効くのかは予想が付かなかったが言われた通り、職員の前で止まる。
「何の用だ、ピクニックには遅い時間だぞ?」
「ああ、だがデートにはいい時間だろ?」
そう言って職員の男へとマコトが何かを渡す。
男は訝しげに渡された物を見つめて。
「……そうだな、いいデート日和だ。オオカミには気を付けろよ。」
「あぁ、いい夜を。」
マコトは何事もなくシズキの後ろへと戻って来た。
「ねぇ、何渡したの?」
「まぁ、証明書みたいなものかな。」
「……お金じゃなくて?」
「それも少し。」
「私賄賂だとかそう言う汚い事嫌いだよ?」
シズキはジト目になりながら文句を言いつつ、今までよりもゆっくりとバイクを動かして壁の外へと向かう。
「まぁ、世の中汚い事だらけだし、今のは綺麗な使い方だと思うけどな。」
「……まぁいいけど。それで?ここからどうするの?」
扉を超えた先に現れたのは手入れの行き渡っていない、ツタまみれのビルとひび割れた道路や建物から様々な草木が生えて、生命の力強さを感じさせる幻想的な風景だった。
道を照らすのはバイクのヘッドライトと月明かり、それと歩いている時なら見つけられる程度の小さな光る虫。
シズキは細心の注意を払いながら低速でバイクを走らせてマコトに次の行き先を尋ねる。
「このまままっすぐだよ、そしたら開けた場所があって、そこで落ち合う予定なんだ。」
「了解。」
シズキは安全運転で目的の場所へと向かう。
関所が見えて来る頃には追っ手の気配も無くなっていたため、警戒はしつつも心配はしなくなっていた。
「ねぇマコト?」
「ん?」
「マコトの事、教えてくれる?」
「………あぁ、そうだね。まずは何から話せばいいかな。」
「なんで追われてるの?」
「そうだね………昔、俺は実験の為のモルモットだったんだ。。」
シズキは本当に迷っていそうなマコトに自分の今気になっている事を聞いた。
マコトもそれに乗って自分の事を話す。
「子供の頃に死にかけてる所を助けて貰ったんだ、その当時は名前もまだ無かった肉体強化手術の為の実験台としてね。
けどその手術も完全に世界で初めてで、実験の為か他に30人近くの同い年くらいの子供が手術を受けていて、同じ施設で暮らしてたんだ。
けど手術の副作用の所為で、体に合わなかった子達が次々に死んでいったよ。
頭がいたいとか、気持ちが悪いとか、強化し過ぎて体が爆ぜた子も居たな。あの時もこれくらい綺麗な空だったよ。」
マコトは無数の星々が輝く夜空を見上げながらそう語る、シズキも運転に注意をしながらもその話に聞き入る。
「そんなある日にね、近くに隕石が落ちて来たんだ。それも結構な数が。
その時に丁度いいからって、当時の研究医は俺たちを怪物達と戦わせたんだ、その時にはもう10人くらいしか残ってなかったんだけど、そのうちの半分は見張りの兵に殺された。
敵前逃亡は死罪だって言ってね、だから死なないためには怪物達と戦うしかなかった、当時は今ほど駆除方が確立されてなくて苦労したよ、それで結局残ったのは俺ともう2人の奴らだけ。」
丁度ビルから生えた木々が向かいのビルからも生えた樹木達と重なり合い、巨大なトンネルを作り上げていた。
月明かりも届かなくなりシズキはバイクのライトをローからハイに切り変える。
「それで、結局その後はオオヤドヌシが6体も現れて街は大混乱、あいつらは剣だとか銃だとかは効かないしさ、見張りにバレない様に一応攻撃しつつも逃げに徹してたんだけど、俺たちを閉じ込めていた研究所が破壊し尽くされて研究員達も俺たちの事より自分の事ばっかりでね。
逃げるタイミングはここしかないからって、3人で抜け出して来たんだ。」
丁度樹木のトンネルの終わりが見えて来た。
道路がいくつも交差していて、そこには広い空間が出来ていた、その道路の中心にはヘリコプターとそれのそばに佇む黒色と銀色の甲冑のようなものを着た男が1人。
「そのうちの1人があいつだよ。」
「て事は、マコトの初めてのお友達?」
「その言い方はなんだかアレだけど…シズキに紹介する俺の友達はあいつで初めてかな。」
シズキはヘッドライトをハイからローに切り替えて速度を落として行き、ヘリの少し手前でバイクを停めた。
するとヘリに寄りかかっていたマコトの友人が歩いて近づいて来る。
その姿はおとぎ話に出てくる勇者のようだが、どこか禍々しくも見える鎧を着込み、腰には歪な形の両手剣を携え、通常の物より大きめの盾を片手に持っていた。
全身の装備を黒と銀色で統一させた重々しい雰囲気なのだが、それを払拭するかのようなブロンドカラーの髪の毛と爽やかな笑顔。
「久しぶりだねマコト、そして初めまして、マコトのお嫁さん。僕はゲウィネンブルクに住むカイン・ヨラン、よろしく。」
展開とかどういう事柄が起こるかはあらかた作ってるんですが、細かい接続詩と言うか、つなげるための文章が上手い事思いつきません、無駄に長引いたりもしてしまうかも知れませんがそこは多めに見て頂きますね!
左腕を折って包帯ぐるぐる、右手に点滴、身動きも取れずひたすら時が過ぎるのを待つ苦行を乗り越えた僕はやっと片手を使えるようになる。
なお精神的にかなり疲弊したので執筆は進まない模様。
と言うか色々書いたんだけど、仕事の合間合間で書いたから文章がぐちゃぐちゃで直すのに時間かかってる感じです。
星の降る街 -021
2996年11月3日
PM 19:42
-ヤマト領-
アーバンライフマンションF6
608号室
「ただいま〜、ごめんね仕事が長引い…。はぁ…。」
マコトは玄関の明かりを灯したが他の部屋は暗く、シズキの気配はしない事に安堵した。
買い物をした証であるビニール袋を玄関に置き、暗いままのリビングへ向かう途中。
壁に張り付いていた男の顔面を殴る。
「ぐぉッ!?」
その一瞬、家中がざわりとした。
マコトは殴った男の顔を見下す。
「ウチに何の用だ?客人を招いた覚えはないだけど。」
「何故だ…何故私の居場所が…うあぁぅぁぁ!!!」
マコトは男の言葉を遮り、なんの躊躇もなく膝を横向きに踏み折った。
「まずは俺の質問に答えろ、何の用だ。」
「うぐぅッ………命令だ。」
「誰の?」
「……それは言えな、うがぁぁぁああ!!!」
マコトは男の折れた左足の膝を思いっきり蹴飛ばす。
「誰の?」
「………上官だ。」
「ふざけているのなら他の者に聞こう。」
マコトはそう言って未だうずくまる男の顔面を膝で蹴り上げて失神させる、その瞬間殺気の溢れていた家の中が静寂を取り戻す。
「はぁ…。」
マコトはリビングへと向かい、ドアを開けた所で天井に手を伸ばして透明化の特殊迷彩を着た男を引きずり落とす。
「んなっ!?」
それと同時に膝槍にて男の意識を刈り取る。
その瞬間、トイレと寝室と浴室からそれぞれ僅かな揺らぎを起こす何かが近づいて来る。
「そんな所にまでいやがって…気持ち悪いなぁッ!!」
不可視の揺らぎの元である謎の男達へと飛び込み一瞬で全ての敵の意識を刈り取った。
「ただいまぁ〜、聞いてよマコトぉ〜今日さぁ〜……なんじゃこりゃ?」
シズキはキコの入院している治療棟で起こった事件でなんやかんや後始末を担って、帰宅するのがいつもよりも遅くなってしまったのだが…。
帰宅した我が家の廊下には後ろ手に縛られて横たわる謎の男が複数。
「あ!シズキ!無事だった?怪我は無い!?」
慌てる様にリビングからマコトが飛び出して来た、だがその手には廊下の男と同じように後ろ手で縛られた男が。
「えっと…これは?」
「ごめん、本当は今日にでも話すつもりで色々準備してたんだけど、そうもいかなくなったみたいなんだ。家を出る準備をしてくれ、直ぐにでも出たい。」
マコトはまくし立てる様にシズキへと言葉をぶつける。
「まっまて!ちょっとよく状況がわからないんだけど…なんでマコトがこんな事を?」
「それに関しても移動しながら話したい、この家にはしばらく帰れないから必要な物だけを持って一緒に来て欲しい、頼む。」
「………わかった、1分で準備するけど何か特別要るものは?」
「シズキ……いや、必要な物は俺が用意するから荷物は少なめで頼むよ。」
「了解!」
理由を尋ねても答えてはくれなかったマコトに対しても、無条件で信用してくれたシズキに胸の内に熱い物がこみ上げて来る、だが状況は緊迫していていつ先程の様な輩が追って来るかわからない。
最後の1人を仕留める時にその男が、「祖国の失敗作が!」と叫んだ。
その呼び名を知って要るのはゲウィネンブルクのごく一部の組織のみ、ならばそこから身を隠して要る自分が見つかったなら追われるのは道理。
だが1人で逃げて、何も知らないシズキに自分の問題を欠片でも押しつける事はしたくないし、何よりシズキは戦力として数えられる程の力量がある。
それと、少しでもシズキと離れるのは嫌だとは恥ずかしくて言えないマコトだった。
「ほぉ!やはり本物だったか!」
「はっ。密偵によれば念の為に戦闘特化の者を5人程派遣しましたが一瞬で片付けられたと。」
暖色の柔らかい灯りに染められた部屋には葉巻を吸う男とそれに報告をする黒尽くめの男。
「はっはっはっ!!はぁ…、元は我々の技術であったのにも関わらず、勝手に出歩き寄ってからに…。」
葉巻をくわえた男はため息を吐いて、テーブルの上のワインを一口飲む。
「既に予備の者も向かわせております、ですが。アレが本物なら数の利は無いに等しいでしょう。」
「だろうな、あいつの試作品の一部に暗殺系の子供達がいたろう、あれの試験も兼ねて送り込んでやろう。」
「はっ!では私は一度戻ります。」
黒尽くめの男はそう言うと静かに扉を開けて出て行く。
それをみた葉巻をくわえた男は固定式通信機の受話器を耳に当ててダイヤルを回す。
『はいはいこちらクトロニ、どうされました、カラミタ様?』
「お前の所に暗殺系の試作がいたろう、アレの試験も兼ねていくつか出してもらいたい。」
『はぁ、構いませんけど、まだ未完成ですよ?アレ。』
「構わん、どうせ完成品でも役に立つか怪しい程の相手だ、情報収集の為だけと割り切れば中々お目にかかれない大物だぞ?」
葉巻をくわえた男、カラミタはニヤリと口角を上げて背もたれに体を預ける。
『大物?流石に私の完成品なら魔女でも出てこない限り負けるとは思えませんが?』
受話器越しのクトロニの声は若干不機嫌そうだった、だがカラミタはその反応で更にニヤつく。
「ふふふっ…、相手はその魔女と同じく怪物だと呼ばれた男の1人だ。」
『………本物ですか?』
「あぁ、間違いない。」
カラミタの言葉にクトロニは少しの間を置いて、とても楽しそうに答えた。
『すぐに、10体ほどご用意いたしますよ。』
「準備オッケーよ!」
「よし、取り敢えず車に乗って少しでも時間を稼ごう。」
マコトは車のキーをポッケに仕舞い玄関を開ける、その瞬間特殊なゴーグルを被った全身黒尽くめの男がナイフを突き立てて突進して来るが、
それを危なげなく躱して顎を掌底で打ち抜き意識を刈り取る。
「思ったより来るのが早い…シズキ、車まで急ごう。」
「………今の動き見えなかったんだけど。」
「あはは…まぁそれも話すよ。本当は最高級のお肉を使ったチーズインハンバーグのディナーを予定してたんだけどね…。」
「…なんだかだんだん腹が立ってきたわ!」
玄関前で産まれたての子鹿のようによろよろと意地で起き上がろうとしている黒尽くめの男の頭を、シズキは思いっきり蹴飛ばして完全に意識を刈り取った。
「いったぁ〜……こいつ骨格ぜんぶ鋼で出来てるの?」
勢いよく蹴飛ばしたもののシズキは自分の足を抑えてうずくまる。
今度はマコトが本気で倒れた男の顔面を蹴り、その頭は爆ぜて廊下の壁を破砕した。
「よし、急ごう。」
マコトはうずくまったままのシズキをひょいと抱えて走り出す、俗に言うお姫様抱っこだったのだが。
「えっ!?重く無いの?」
「大丈夫だよ、軽い軽い。」
シズキは全身ではないが部分的に強化骨格手術で強化しているため体重は見た目よりもかなり重く86キロほど。
だがそれを簡単に持ち上げるマコトの筋力に疑問が尽きない。
物陰から飛び出してきた黒尽くめの男の手を思いっきり蹴り、男の手の骨を粉々に折ってナイフを弾き飛ばす。
返す足で正確に顎の先を蹴って脳震盪を起こさせた。
「降りるから!走りにくいし戦いにくいでしょ!降りるから!!」
シズキはジタバタと暴れてマコトの腕から飛び降りる。
「エレベーターはやめたほうが良さそうよね…。」
「あぁ、絶対に張ってるからね。」
「体を強化しても階段は苦手なのよねぇ。」
「じゃぁ尚更抱かれてればよかったのに、よっと!」
マコトは腕から抜け出したシズキをまたもや抱えあげた。
「なんで!?私だって嫌いなだけで降りられるよ!?」
「嫌なら使わなければいいんだよ。」
「え?」
マコトは廊下の壁、外側を向いている。
「えっ!?まって!ちょっとまって何する気!?」
「安心して、痛みは感じないから。」
「そう言うことじゃなくて!」
マコトはシズキをガッチリと抱いたまま廊下から飛び降りた。
「ひぅぅぅ!!!」
「ほっ!とうっ!よっと!」
階段のフチ、廊下のフチ、階段のフチとぴょんぴょんと軽やかに飛んで無事に1階まで最速で辿り着いた。
「ほら、大丈夫だったでしょ?」
「3階くらいなら大丈夫だけど…ウチ6階よ…?」
「まぁまぁ、取り敢えず車に急ごう。」
マコトはそのまま走って車庫に向かう、だが着いた先にはタイヤをパンクさせられていかにも手を施された後の自分の愛車がそこにはあった。
「あぁ…お気に入りだったのに…。」
「私のバイクで行こっか…。無事そうだし…ね?」
「あぁ…。」
シズキはマコトの車とは別の場所にバイク専用の車庫がある為そこからバイクを引っ張り出して来た、今日は偶々帰るのが遅かった為かまだ手を加えられた形跡はなかった。
「よし!乗って!」
「うん、北の郊外に向かってほしい、圏外で迎えが来るはずだからさ。」
マコトはシズキのバイクの後ろに乗りシズキへとしっかり捕まる、マコトは車は運転出来るがバイクは運転したことがないので運転はシズキ任せだ。
バイクはギュォーン!と一度嘶くと静かに車輪を回し走り始める。
「それにしてもなんで圏外に出るの!?うちの本部にでも逃げ込めば安全なんじゃない!!?」
風をきる音で互いの声が聞こえづらい為シズキは大声でマコトへと尋ねる。
だがマコトはシズキの耳へと顔を近づけて、
「それはあんまりおすすめ…」
「んんっ…。」
その途端バイクがよろけて危うく転倒するところだった。
「マコト、耳はやめて。」
「……分かった。とにかくおすすめはできないんだよ」
シズキは肩で耳を抑える様に変な動きをしていたが、マコトはこの状況でもこうなるシズキに若干、ほんの若干呆れた。
「理由は!?」
「…まぁ色々!一番はあの本部じゃ対処に犠牲が出過ぎる!」
そうこうしているうちに追っ手と思われる黒尽くめの男達が背の低いバイクに乗って後ろに迫って来ていた。
「本当にしつこいなぁ!」
マコトはそう言って胸の内ポケットから拳銃を取り出して後ろ手に三連射。
だがどれもかする事もせずに闇へと消えて行く。
「やっぱり銃は苦手だなぁ。」
「貸して!」
シズキは片手で銃を要求し、その手に合わせる様にマコトは銃を任せる。
タンッ!タンタンッ!
三発の発砲で追っ手の1人のバイクをパンクさせ、1人の体を貫いて転倒させた。
「さっすが!!」
「プロですから!!」
マコトはシズキへ賞賛の言葉を贈るとそれを当然と受け止め、得意げな顔になる。
その後もマコトが道案内、シズキが運転と迎撃を担当してヤマト領郊外を抜けて壁に差し迫る。
「扉はどうする!?流石に顔パスは効かないわよ!?」
「俺が効くから!一応関所前で普通通り止まって!」
何故マコトが郊外の関所にて顔が効くのかは予想が付かなかったが言われた通り、職員の前で止まる。
「何の用だ、ピクニックには遅い時間だぞ?」
「ああ、だがデートにはいい時間だろ?」
そう言って職員の男へとマコトが何かを渡す。
男は訝しげに渡された物を見つめて。
「……そうだな、いいデート日和だ。オオカミには気を付けろよ。」
「あぁ、いい夜を。」
マコトは何事もなくシズキの後ろへと戻って来た。
「ねぇ、何渡したの?」
「まぁ、証明書みたいなものかな。」
「……お金じゃなくて?」
「それも少し。」
「私賄賂だとかそう言う汚い事嫌いだよ?」
シズキはジト目になりながら文句を言いつつ、今までよりもゆっくりとバイクを動かして壁の外へと向かう。
「まぁ、世の中汚い事だらけだし、今のは綺麗な使い方だと思うけどな。」
「……まぁいいけど。それで?ここからどうするの?」
扉を超えた先に現れたのは手入れの行き渡っていない、ツタまみれのビルとひび割れた道路や建物から様々な草木が生えて、生命の力強さを感じさせる幻想的な風景だった。
道を照らすのはバイクのヘッドライトと月明かり、それと歩いている時なら見つけられる程度の小さな光る虫。
シズキは細心の注意を払いながら低速でバイクを走らせてマコトに次の行き先を尋ねる。
「このまままっすぐだよ、そしたら開けた場所があって、そこで落ち合う予定なんだ。」
「了解。」
シズキは安全運転で目的の場所へと向かう。
関所が見えて来る頃には追っ手の気配も無くなっていたため、警戒はしつつも心配はしなくなっていた。
「ねぇマコト?」
「ん?」
「マコトの事、教えてくれる?」
「………あぁ、そうだね。まずは何から話せばいいかな。」
「なんで追われてるの?」
「そうだね………昔、俺は実験の為のモルモットだったんだ。。」
シズキは本当に迷っていそうなマコトに自分の今気になっている事を聞いた。
マコトもそれに乗って自分の事を話す。
「子供の頃に死にかけてる所を助けて貰ったんだ、その当時は名前もまだ無かった肉体強化手術の為の実験台としてね。
けどその手術も完全に世界で初めてで、実験の為か他に30人近くの同い年くらいの子供が手術を受けていて、同じ施設で暮らしてたんだ。
けど手術の副作用の所為で、体に合わなかった子達が次々に死んでいったよ。
頭がいたいとか、気持ちが悪いとか、強化し過ぎて体が爆ぜた子も居たな。あの時もこれくらい綺麗な空だったよ。」
マコトは無数の星々が輝く夜空を見上げながらそう語る、シズキも運転に注意をしながらもその話に聞き入る。
「そんなある日にね、近くに隕石が落ちて来たんだ。それも結構な数が。
その時に丁度いいからって、当時の研究医は俺たちを怪物達と戦わせたんだ、その時にはもう10人くらいしか残ってなかったんだけど、そのうちの半分は見張りの兵に殺された。
敵前逃亡は死罪だって言ってね、だから死なないためには怪物達と戦うしかなかった、当時は今ほど駆除方が確立されてなくて苦労したよ、それで結局残ったのは俺ともう2人の奴らだけ。」
丁度ビルから生えた木々が向かいのビルからも生えた樹木達と重なり合い、巨大なトンネルを作り上げていた。
月明かりも届かなくなりシズキはバイクのライトをローからハイに切り変える。
「それで、結局その後はオオヤドヌシが6体も現れて街は大混乱、あいつらは剣だとか銃だとかは効かないしさ、見張りにバレない様に一応攻撃しつつも逃げに徹してたんだけど、俺たちを閉じ込めていた研究所が破壊し尽くされて研究員達も俺たちの事より自分の事ばっかりでね。
逃げるタイミングはここしかないからって、3人で抜け出して来たんだ。」
丁度樹木のトンネルの終わりが見えて来た。
道路がいくつも交差していて、そこには広い空間が出来ていた、その道路の中心にはヘリコプターとそれのそばに佇む黒色と銀色の甲冑のようなものを着た男が1人。
「そのうちの1人があいつだよ。」
「て事は、マコトの初めてのお友達?」
「その言い方はなんだかアレだけど…シズキに紹介する俺の友達はあいつで初めてかな。」
シズキはヘッドライトをハイからローに切り替えて速度を落として行き、ヘリの少し手前でバイクを停めた。
するとヘリに寄りかかっていたマコトの友人が歩いて近づいて来る。
その姿はおとぎ話に出てくる勇者のようだが、どこか禍々しくも見える鎧を着込み、腰には歪な形の両手剣を携え、通常の物より大きめの盾を片手に持っていた。
全身の装備を黒と銀色で統一させた重々しい雰囲気なのだが、それを払拭するかのようなブロンドカラーの髪の毛と爽やかな笑顔。
「久しぶりだねマコト、そして初めまして、マコトのお嫁さん。僕はゲウィネンブルクに住むカイン・ヨラン、よろしく。」
展開とかどういう事柄が起こるかはあらかた作ってるんですが、細かい接続詩と言うか、つなげるための文章が上手い事思いつきません、無駄に長引いたりもしてしまうかも知れませんがそこは多めに見て頂きますね!
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