星の降る街

ゆるむら

-018- 2996年10月22日 PM 17:16





-ヤマト領-
アーバンライフマンションF6
608号室









「ただいまー。」

「ぁ…おっ、おかえり!なさい!」

「なんでそんなにしどろもどろなの?」

「へっ!?いや、別に?何のことだか…。」

「……?」

マコトが帰宅するや否や、何故か焦っている様に見えるシズキが出迎えてくれる。
理由はさっぱりわからないが、取り敢えずは言わなければならない、やっと決心した事を伝えようと思って。

「シズキ、大事な話があるんだ。」

「へっ?あ、うん。じゃぁ部屋行こっか。飲み物持ってくから先に行ってて?」

「?いや、喉は別に乾いてないけど、飲み物くらい俺が入れ…」

「私がッ!入れるからッ!」

珍しくマコトの言葉にシズキが食い気味に喋る。

「え、…うん。分かった。」

ふぅ…と笑顔で気づかれない様に溜息をつく。



理由は簡単。



シズキはお皿とコップを割っていたからだ。
それも洗った食器を一時的に置く水切りカゴごと、洗剤の付いたままの手でカゴの中の水をきろうと強化筋肉に物を言わせて中に他の食器が入ったまま。

もちろん想像通り手を滑らせて大量の皿やらコップやらを見事に砕いてみせた。

その瞬間シズキは。

あぁ…、血の気が引く。と言う表現や、コミックなどのサーッ!と言う表現は、あながち誇張表現でも無さそうだな。

などと現実逃避をしていた。
ド派手な音で全ての食器を割ると、何故か食器棚からコップを取り出し、冷蔵庫の中から水をとってコップに注ぎ、それを一気に飲み干す。

そしてまっすぐにソファへ座りテレビを見始める。
番組の内容は全く頭に入ってこなかったが、無心でひたすらテレビを見つめていた。
しばらくしてからキッチンへ戻ると何とそこには。
シズキが割った食器たちがシンクを満たしていた。

「うそ…でしょ。」

シズキは現実に引き戻されて、慌ててパソコンを開きネットショップの履歴から買った皿と同じものを注文する。

「これが最速で届けばもしかすれば…!」

当然最速で届いても1日以上はかかるし、その時既に時間は13時に差し掛かっている。
マコトがいつ帰ってくるかは分からないが、マコトの帰宅よりも早く荷物が届くなどどう考えても無理なのだが、何故かこの時のシズキは可能性があると思っていた。

「はぁ〜まずいまずいまずい…どうしよぉ〜……はっ!キコなら!…は入院してるんだったぁ…。」

シズキは気が動転して訳が分からなくなっていた。

「そうだ!とにかくこれを片付けなきゃ。」

シズキはゴミ袋の中へと割れた破片を放り込んで行くが、当選そのまま袋へ放り込めば。

「あぁぁぁっ!!」

バラバラと袋が破れて散らかる。

「くぅっそぉぉ…。そうだ!確かおばあちゃんが…。」

古い紙などに包んで捨てると教わったはず。
と考えて家中を探すが意外とない物だった、昔はシンブンと言う情報を紙媒体で伝える文化があったらしいが、ここ最近はネットワーク技術の発展から廃れていったのである。

「紙…紙。いや、破れなければいいんだ……箱とか!」

ネットショップで購入したものなどはダンボールの箱で届く。
ちょうど先程まで目にも止まらなかったが、キッチンの端に潰されたダンボールがまとめて置いてあった。
シズキにはそれが神の救いであるように感じられた、慌ててそれを組み立てて落ちた皿の破片も袋に残った破片も全てダンボールにぶち込む。
そしてガムテープにて入り口を塞ぎひと段落だ。

「ふぅ…余裕で間に合ったわね。」

そしてダンボールを移動しようと持ち上げた瞬間。

「っ!?」

慌てて叩きつけるようにダンボールを落とす。

「ふっふっふっ…何度も同じ手は通用しないわ。」

そこそこ中身が溢れたが全滅は防いだ。
ダンボールをひっくり返して溢れた分をしまって行く。

その途中でマコトが帰ってきてしまったのだ。

料理も"あまり自信が無い"のに食器もまともに片付けられないなんて、お荷物どころか足枷にしかならない。
結婚を予定している女が家事もまともに出来ないなど、果たして価値はあるのだろうか。
いや無い。
よくて性欲処理しかできないポンコツ扱いされてしまう、それだけはごめんだ。

帰ってきたマコトを何食わぬ笑顔で迎え、迫真の演技でこの窮地を乗り切ったのだ。

その後は慌てて残りを片付けて隅っこにダンボールを追いやり、コップへ水を注ぎ寝室へ持って行く。

「お待たせ。」

「おかえり、遅かったね?」

「ええ?そ、そうかな。」

「まぁいいや、今は大事な話があるんだ。」

「なっ…何かな。」

シズキは内心焦る、家事もできない女など唯の…唯の愛玩具と同じなどと言われるのでは無いのかと、別れ話など切り出されたらどうしようと、顔を背けたままでマコトの話を聞く。





「俺……さ…。」

「う、うん。」

「実は……その。」

「うん。」

「………。」

「………。」

この沈黙がつらい、何か音楽でも流しておけばよかったとマコトは後悔した。
シズキもドキドキしながら次の言葉を必死に待つ。

「実は……俺…………子供…作れないんだ…。」

「……へっ?」

「嫌だよな……こんな欠陥野郎と一緒だなんて…。」

「………え?どういう事?」

シズキは自分の失態の事、別れを告げられるかもしれない。
などと思い込んでいたためあまり理解が出来なかった。

「俺…昔色々あってさ……精子自体は出来るんけど、子供を残す能力が……無いんだ。」

「………。」

「ごめん……今まで黙ってて。…ごめん……子供、作れなくて。」

「えっ…と…。なんて言うか。」

シズキは理解が追い付かなかった。
マコトは子供が作れないらしい。

「その……私のせいで子供が産めなかったら……凄く悲しいし悔しいって思うと思う……。多分今のマコトも同じ気持ちなんだよね。」

「………。」

「私、なんて言うのかな。あんまりいい言葉が見つからないから、見つかり次第また言うかも知れないけど。とにかく私はマコトありきだと思ってるから。
絶対に子供を産まなきゃいけないとも思っても無いし、マコト相手だからマコトの子供を産んで一緒に育てたいって思ってたけど。出来ないなら出来ないでも、これまでのマコトとは変わらないって思うし。」

「……シズキ…。」

マコトは涙を流し、こんな欠陥品の自分を受け入れてくれた最愛の人に深く深く感謝した。

「えっ!?あ、そっそれにほら!これからは生でやっても問題ないって事じゃない?……ってそれは流石に不謹慎過ぎか、あはは…。」

初めてマコトの泣いている姿を見て焦り、場の空気を変えようとしたが訳の分からない事を言ってしまう。

「……ふふっ」
「あ、ちょっと!なんでそこで笑うの?」
「いや…シズキ、ありがとう。」

そう言ってマコトはシズキを抱きしめる。
シズキもまるで子供をあやすように、自分の胸に顔を埋めている恋人の頭を優しく撫でる。
そしてマコトは気が済んだのか顔を上げてシズキの唇へキスをした。

「よし!時間も丁度いいし、今からご飯作るよ!何がいい?」

マコトはベットから立ち上がり、振り返りながら献立を聞いてくる。

「ん〜とね、ハンバーグかな!」
「シズキはハンバーグ好きだね。」
「いつまでたっても飽きない味よ。」

そしてマコトが部屋を出ようとした瞬間。

「あ"っ!!!」

シズキは慌ててマコトの服の袖を掴み移動出来ないよう更に腕も絡める。

「えっ?ど、どうした?」
「えへぇっ!?あ、いやぁ…なんと言うか…そのぉ。」
「……?」
「ん〜……あ!そう!今からエッチしよ!?私我慢出来ないの!」

シズキは逃げた。
それも中々に最低な方向へ。

「流石にご飯食べないときついでしょ?終わったら絶対にお腹すくし、どっちにしろ先に作っておいた方がいいよ。」

マコトはほんの少し目を細めてシズキの反応を探る。

「えぇ、あーう〜……。」
「ねぇシズキ?」
「は、はぁい?直ぐする?舐めよ…」
「さっきは余裕が無くてあんまり気にならなかったけどさ。」
「……はい。」

マコトはシズキと向かい合い、同じ目線になるように背を曲げて肩を掴む。
シズキは瞬き1つせずマコトの目から目を離さない。

「なにか隠してるよね?」
「……ん〜〜?…んう〜〜ん。」

うんと、ううんの間の様な返事で明らかに何かを隠していることがバレバレだった。

その反応を見るや否や寝室を出る。

「あぁ〜!まってごめんなさい!謝るから!ちゃんと言うから!」

マコトはそのままシズキを引きずってキッチンまで行くと見慣れないダンボールを見つける。

「あっ、あの怒らないって約束してくれる?絶対怒らないって!私も流石にこれはどうかなって思ってるんだけどこれは事故みたいな物…って待って!開けないで!待って!」

マコトは問答無用でダンボールを開封する。
中にはかなりの数の割れた食器。

「………。」
「ぁ……ぅ〜……。」
「シズキ。」
「はい…。」
「……暇な時は俺が家事を教えてあげるから。」
「……はい。」

ふぅ…。
ダリウスの言うこともあながち間違いじゃ無いかもしれないな…。


マコトはその後もシズキへ家事をやらせようとして頭を捻り、思考錯誤しながら大変な毎日を過ごすのだった。

















「うちのパチモンばっかり作るあの連中はどうなった?」

「ヤマト領の者達が総出であの土地の探索ついでに制圧。資料等も全て差し押さえられたと聞いております。」

「ふん!まぁあのポンコツ供にはお似合いの結末だな。」

葉巻と呼ばれるに火を付け、煙を口から吐き出しながら香りを楽しむ男と、それに報告をもたらした白衣の男。
彼らの手元には役5ヶ月ほど前にキリエリア領にて討伐された無人機にらしき形の機体の設計図と、最近リーグェン領にて現れた改造された子供の兵の設計図が置かれている。

「例のアレの調子はどうだ?そろそろ実戦試験でもやりたい頃だろう?」

葉巻をくわえた男はいやらしく口元をにやけさせる。

「ええ、対人戦プログラムもほぼ完璧に仕上がっております。ですがまだエネルギー効率的に6時間の連続稼働が限界でして、さらに1時間に1度3分は放熱しなければならない為、そこが課題ですねぇ。」

赤黒い斑点の滲む白衣を身に纏った男は心底残念そうに溜息を吐きながらそう言った。

「それだけ動ければ十分だろう、どうだ?少しお使いをさせてみないか?」

「おや?どんなご用件で?」

「中々面白い輩が居てなぁ、サンプルにひとつ欲しいのだよ。あぁそうだ、傷はあんまり付けないでくれよ?ついでだから楽しみたいんだ。」

葉巻をくわえた男はいやらしい笑みを浮かべる。

「はぁ〜!例の!私も研究に役立てたいと思っておりまして!ずくにでも用意いたしますよ。」

白衣の男もニヤリと笑い、感情を高ぶらせる。

「こっちも借り餌を撒いて動きやすく様にしよう。」

「ふふぅッ!楽しみですねぇ〜あの子がどんな活躍をしてくれるのか!!他の子にもお勉強させましょう!それでは!」

白衣の男は足取り軽く部屋を飛び出て行ってしまった。

「ん〜♪楽しくなって来たなぁ?ん?」

男は下半身に繋がったままの女性の尻に葉巻を押し付けて火を消した。
女性はその後乱暴に扱われている間すらも抵抗もせず、声も上げず、息もしていなかった。

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