星の降る街

ゆるむら

-016- 2996年10月21日 PM 14:44

やはりロボにはロマンを求めませんと、パワードスーツや搭乗型のロボットではできない事を。






-リーグェン領-
ペイジンシティ跡








『先輩、試験運転の機会をありがとう御座います。…それと、遅くなってすみません。』

純白の騎士が機械音まじりにそんな事を言った。

「えっ…コレって…あっ。」

『ええ、まだ未完成ですが、ちょうどいい機会でしたので。』

目の前の騎士はアンジュの家で何度も見た無人機であった、多少フォルムは変わって居たが根本はそのままの様だ。

『直ぐに片づけますので、お待ち下さい。』

アンジュ操る騎士型の無人機は肩にマウントされたキャノン砲を展開し右腕に連結させた。
敵の飛行型の者達も先程の攻撃で警戒心を高めており、構える前には上空へ逃げて居た。

それにも構わず騎士型は砲撃を始める。

ドンッ!!と腹に響く様な射撃音がなると同時に飛行型の者の1人が粉々になる、それを見た最後の飛行型の敵は一目散に逃げ出した為それを追撃する砲撃は外れた。

『シズキ先輩、当てられますか?』
『余裕よ、任せなさい。』

アンジュより少し遠くにシズキの自信に満ちた声が聞こえた。

「えっ…シズキも…いる…の?」

『中々弱々しいわ…ねっ!と、はい終了。』
『ファイヤーコントロールシステムがまだ完成して居無いので、狙撃に関してはシズキ先輩のマニュアル操作に頼るしかありませんね。』

そんな会話をしているうちにあっさりと敵を片付ける。

「ほんと。あたしの努力は…何だったのよ…。」

『先輩、まだ気を抜かないでください。あの群もこいつらと同じ形です、とりあえず殲滅しますので安全な場所へ避難して下さい。』

「え、うん……いっつぅッ!」

キコは立ち上がり歩こうとするが、その度に激痛に襲われて思うように動けない。
それを見たアンジュは騎士型を操作し、生身では到底出来ない事だがキコを軽々と抱き上げる。


「いつつつ!ちょっと!もうちょっと優しくしてよ!」

『先輩がこんな状況でなければ、優しくも出来るんですが。』

そんな事を言ながら途中でキコの大剣も拾い、建物の中へと移動してアンジュの操る騎士型無人機はキコをゆっくりと壁際へ降ろす。

『先輩、すぐに終わらせて来ますので待っていて下さい。』

「帰ったら朝晩と昼のお弁当まで作って上げる、だからあたしを助けなさい。」

『野菜は少なめでお願いします。』

「ダメよ。」

2人は軽口を叩き合い、キコは壁に寄りかかり、アンジュは外へ向かう。



既に外にはライフルを構えて待機していた8人ほどの飛行型の少年少女達と追加で奇形が2体、ここは間違ってもキコへ狙いが行かないようわざと目立つ。

『ビームペリース起動。』

騎士型の左肩からビームの粒子を放出して、揺らめくペリースの様に淡く光る幕を作り出す。

アンジュが動くのと同時に飛行型からの一斉射撃が始まるが、右足を半歩引きペリースに身体を隠す。

ビーム性の物は実態武器にはめっぽう強く、小さな物や遅いものなら溶かしたり消滅させてしまうし、どれだけ速くても威力減衰と電磁波による指向性の変更により弾丸などは軌道がそれてしまう。

勿論騎士型は無傷で立っていた、相手はその知識が無かったのか、一瞬うろたえた様に攻撃を止めてしまうが直ぐに格闘戦に持ち込んでくる。

だが運良く格闘プログラムは既に完成している、あの日以降キコが頻繁に来たため研究に付き合ってもらったのが大きい。アンジュもちょうど完成したこのプログラムの実戦データが欲しいと思っていた所だった。

のそのそと死角を取る様に地を這って近づく奇形は無視し、銃剣を向けて突撃してくる飛行型へとゆっくりと歩み寄る。
ゆらゆらとビームペリースを揺らめかせ、一気にそれを置き去りにした。

青い粒子の軌跡を残し、右腕で飛行型の顔面を鷲掴みにして思いっきり振り回す、初手で首の骨が折れたのか体がぷらぷらと振り回されるだけとなっており、更に近づいて来たていた飛行型へとぶつける。
遠心力も加わりかなりの威力となってぶつかったため、ぶつけた方は体がバラバラになり、ぶつかられた方は機械の腕があらぬ方向へと曲がっていた、武器など当然木っ端微塵に吹き飛び、それでもなお衝撃を殺しきれなかったのか相手は口から血反吐を吐く。


もう1人突っ込んで来ていた飛行型が居たが、今の一連の流れを見て思わずといった様に攻めあぐねて居た。
それをみたアンジュは地にうずくまっている両手の折れた敵の胸ぐらを左手で掴み上げる。
そしてビームペリースの出力方向を捕まえた相手に合わせ、出力を上げて行く。

「〓▱▼ッッ!!?⁂∠□ーーッッッ!!!!!」

『…?……解読には時間がかかりそうですので、今回は無視しますね。』

相手は何事かを喚いている様だが構わずビームペリースにて身体を焼き続けた、金属の手足が赤熱化してドロドロに溶けて行き右半分の手足がぼとりと落ちる。
その間もなにやら喚きながら腕や身体を蹴って足掻いて居たが、技術者達が本気でふざけて作り上げたこの装甲とフレームには傷一つつかない。

ライフルを構えて居た者達も、突撃をしようとしてい者達もその光景を見て攻めあぐねていたのだが、アンジュがぽいと焼き焦がした死体を放り捨てると一斉に踵を返して逃げ出してしまった。

『ここで逃すのは後顧の憂いを残す事になるでしょう、殲滅します。』

無慈悲にもスラスターを全力で吹かし、最後尾の者のすぐ後ろまで簡単に追いつく。
それを見てギョッとした面々は慌ててライフルで迎撃射撃を開始するが、アンジュの騎士型は有人ではないのをいい事に、大きく螺旋を描くよう照準が合わせ辛い軌道で先頭の敵まで高速で接近した。

『高速振動ブレード起動。』
カシュンッ!キィィィィン!!

左腰にマウントされた鞘だけのようなパーツが前に突き出てくる、そこへ右手を突っ込みパーツを接続する、鞘から刃を引き抜くと耳を塞ぎたくなる様な高音が一瞬響く。

そして目の前の敵の腹へとブレードを突き込んだ。

「○%∠▼⌘!!!○%∠▼⌘ッ!!!!」

『………。』

直前でライフルを盾にした様だがこのブレードの前では意味など無い、バターにナイフを突き込むかの様に簡単に武器を貫き肉を断つ。

敵の肩とライフルを纏めて力任せに掴む、鎖骨でも折れたのかポキリと音がして更に悲鳴を上げていたが構わずそのまま握り、突き刺したブレードを無理やり横へと動かす。
ブレードに引っ張られた体が横向きになり臓物を散らかし、ライフルも完全に破壊し、腹部から下を二つに割いた。
その間、当然のように背後からの射撃は全てビームペリースを向けて防ぐ。

既にただの肉塊となったそれはゴミのように投げ捨てられ、ボロ家の屋根を突き破って姿を消した。

残りの3人は、もう逃げ切るのは困難と考えた為か、それぞれ散り散りになりこちらを囲む様なフォーメーションを組まんと近付いてくる。

『今更遅いですよ。』

ビームペリースにて射撃を防いでいたが陣が整う前に追加のスラスターも使い、肉体があってはできない様な加速で視界を振り切る。

移動した方向が残る粒子と残像で辛うじて分かるほどの速さで、振り向いた時には既に姿が点のようになっていた。
それが急角度で上昇していき、そして気付けばその姿が大きくなって飛行型の1人が上半身と下半身に分かれた。

それは青白いプラズマが軌道を残しているだけで、結果からビーム兵器により切断されたと認識する事しか出来なかった。

敵は2人とも背を向けて全力で逃げ始めたのだが、

『最大出力。』

ビームペリースを形取る粒子の勢いが増し、半身を覆うマントから自身の1.5倍ほども大きさの巨大なエネルギーサーベルに変わる。

逃げた敵へは簡単に追いつき、背中からエネルギーサーベルで横薙ぎ、竹割りで確実に焼き殺す。

『シズキ先輩、炸裂弾のテストをお願いしてもいいですか?』
『ええ、任せて。』

騎士型の無人機はまるで一人二役でもやっているかのような不気味さでそう呟くと右肩にマウントされたキャノン砲を右腕と連結させる。

逃げる敵はあえて追わずにそのまま高度を上げて、キャノンの接続時の肘辺りのリボルバーが回転し使用する弾丸の種類を切り替えた。
弾の炸裂は発砲後1.8秒後に設定。

『シズキ先輩、弾の炸裂は発砲後1.8秒です。』
『了解。』

そしてシズキはタイミングを見計らって発砲し、弾丸は丁度敵の目の前で炸裂し、身体中を圧倒的な威力で貫いて木っ端微塵に吹き飛ばした。

『状況終了。』

全ての武装を解除し、顔や胸部、足などの装甲が開き放熱を開始した、この後キコを運ばなければならない為、体を風に晒して冷やしながらキコの元へと向かう。








『先輩、粗方片付きました。帰りますよ。』

アンジュが全ての敵を殲滅して来このいる場へと戻って来た、キコはずっとソワソワとしていたのだが、アンジュの声を聞くと落ち着いてしまったせいでその場に崩れ落ちる。

『先輩!?』

余りにも眠くてその場に横になった。
だがどうしても持って帰えりたい物があった。

「ねぇ……悪いんだけど。彼の遺体のそばにある…この剣の鞘、持ってきて…くれない?」

『…分かりました。』

そう言って急いで物を取りに行き、キコのそばまで戻ってくる。

『さぁ、帰りますよ。』

「あたし…今超眠たいんだけど。………間に合うと思う?…。」

『そんなこと知りませんよ、とにかく最速で連れて帰ります。』

そう言って騎士型はキコを抱き上げる、その瞬間背後から無数の手足が遅いがかるが。

『ビームペリース。』

そう言って左肩からビームの幕が出来上がり、近付いた物を全て焼き切る。

『変に動か無いで下さいね。』

「え、何うあっ!?」

キコを抱えたまま空を飛び始める。

「ちょっ!?ちょっと落ちたらどうすんのよ!?」

『落ちない様にしっかり支えてますから、ビームの幕を張って空気抵抗を減らすので動か無いで下さいね。』

耳元で粒子を抑え込む電磁波の音がして気が気ではなかった。

「うぁ……あんたって…ほんと気の利かない奴ね…。」

『気が利くから最速で迎えに来たんじゃないですか。』

「……ふふふ…そう……ね。」

落ち着いて来たらまた眠気に襲われ始めた。

『先輩、まだ寝ちゃダメですよ。』

「眠たいんだもん…あんたがちゃんと送ってくれるんでしょう?」

キコは甘える様な声で、消え入りそうに言う。

『…それでもまだダメなんです。』

「……もぅ…むりよ……。」

『まだ分かりません、あと1分もせずに着くんです、頑張って下さい。』

キコを抱いて飛ぶ騎士型の無人機は既に音速の壁を越えようとして居た程、怪我人には掛けてはならない程のGがかかって居たが、このまま時間が経ちすぎる方がまずいし、キコなら耐えられる踏んで速度を上げていた。





後ろでシズキが色んな場所へ連絡を取っていたが今はキコの命が自分の操作一つにかかっていると言う責任に目眩がする思いだった。

「本当に仕事を増やしてくれる天才ですね…。」

そう言ってヤマト領へ入る前に減速を始めてそのまま治療棟ヘリポートに着陸する。
待機していた医療班たちが直ぐにキコを担架に乗せて集中治療室へ運んで行った。









あとはもう、自分に出来る事は無いと無人機をオートパイロットモードに切り替えて、帰還命令を出す。

アンジュはゴーグルやコントローラーなどを外して一息ついた。

「シズキ先輩、ありがとう御座います。」

振り向きながら机へ腰掛けていたシズキへと感謝の礼を言った。

「ええ、このくらい大した事ないわ。それより病院へ行きましょう?あなたもあいつの事が気になるでしょ。」

シズキは腰を掛けていたテーブルから降りて玄関へ向かう。

「いえ、自分に出来る事はもう何も無いので。」

アンジュは自分の仕事は終わったとシズキのお誘いを断るが。

「そんな事ないわよ、そばにいてあげるだけであいつも喜ぶわよ。」

「…?…何故でしょう?」

アンジュは意味が分からないと首を傾げたが、シズキは変な物を見る様な目をしてため息をついた。

「まぁ……愚痴とか喧嘩とか、なんでも言い合える様な相手が近くに来た方が気も楽になるでしょう?」

「あぁ…成る程。…でもそれならシズキせ…」

「いいから行くわよ!あんたあいつの保護者みたいなもんでしょ!」

シズキはズンズンと家を出て行ってしまう。

「………僕は保護者ではないんですが…。」

アンジュはため息をつきながらシズキの後を追った。









シズキのバイクにて治療棟までは直ぐに着いた。
受付まで行きキコの所属と仮の保護者の様な物だと、シズキが説明すると直ぐに応接室に通された。

中では医師が資料のプリントを持って複雑そうな顔をしていた。

「初めまして、キコ カラメリアの友人、トージョー シズキ中尉です。」

「同じく、ヤナギダ アンジュ キコ・カラメリアの戦術オペーターです。」

2人の入室に今気がついたように慌てて医師が立ち上がる。

「は、初めまして、今回キコさんの担当をしているナイルと言うものです。…失礼ですが、キコさんのご家族の方などは…?」

ナイル医師は汗を拭きながら恐縮して2人へ問う。

「彼女に親族はおりません、故に我々が代理として来たのですが…必ずしも親族では無いといけないものでしょうか?」

「そう…ですか。いえ、なんと言いますかぁ…ご家族か恋人の方がいらっしゃればと思ったのですが、上官の方であらせられるなら問題もないでしょう。」

そう前置きをしてナイルは資料を2人の元へ置く。

「手術自体は比較的簡単なものでした、既に終了しています。ですが出血量が多く、余程運が悪くなければ問題はないのですが、悪ければ体のどこかに障害が残る可能性があります。

それと…剣で貫かれた部位なんですが…。」

ナイル医師がそこで言い淀む。
シズキが目で続きを催促する。
ナイルは観念したように続きを話し始めた。

「場所が…子宮と卵巣の一部を……完全に破壊してまして…」

シズキは眉をひそめる。

「しかも腸も斬り裂かれ内容物がこぼれ出て汚染が進行しており、どちらにしろ…切除しなければ、命が危な状態でした。」



応接室を沈黙が支配する。
息苦しいこの空間、ナイル医師も汗が止まらず思わず呼吸を止める。

「………そうですか。この事は…、僕から先輩へ伝えます。」

アンジュが静かな声で沈黙を切り裂き、キコへの報告を承った。

「………いいの?私じゃなくて。」

シズキが心配そうにアンジュへ尋ねるが、アンジュはいつものような事務的な態度で。

「僕は彼女の保護者みたいな人らしいので。」

そう言ってナイル医師から受け取った資料を持って部屋を後にする。
そして再びこの場を沈黙が支配した、時計の秒針の音すらうるさく聞こえる程のこの部屋の中で。

「…………………ナイルさん。」

「はっ!はい!」

唐突にシズキが喋りかけて来た為ナイルも心臓が口から飛び出そうな程焦った。

「この件は、くれぐれも内密に。上には私が報告します。今回の手術は腹部への損傷を手当てしただけと言う事を徹底して下さい。」

「わっ分かりました!」

「それでは私はこれで………ん……ああっ!?」

「はいぃっ!!?」

シズキが急に大きな声を出しナイルが飛び跳ねるように素っ頓狂な声を上げる。


「…………すみませんが、さっきの資料……もう一部貰えませんか?」

「……あっはい、すぐお持ちします。」



しずきちゃん
黙っていれば
静樹さん。


こんな感じの黙ってると恐い系の人いますよね、しゃべってる時はそんな感じしないのに。
ちょっと抜けてる感じを出したかったんです。

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