星の降る街

ゆるむら

-004‐ 2996年5月25日 AM 11:15

僕にもこんな綺麗で優しい女の先生とかいれば真面目に勉強とかしたんだろうなぁ。。。



いや無いな。






-ヤマト領総合防衛団体本部-
第6ブリーフィングルーム

ビー!
『授業が開始されます、生徒は所定の場所に戻りましょう。』

ぞろぞろと生徒達がブリーフィングルームに入ってきて元の席について行く。

「…よし、じゃあ始めるわ。
まずは休みの前に言った弱点の話ね。

まず怪物は大きく分けて2種類よ、先程の文献にも出てきた不定形の怪物。
それと不定形の怪物が取り込んで侵食した元野生の動物、もしくは有機物。


先に元野生動物の方の怪物の話をするけど、基本的には元になっている生き物と弱点は一緒よ。
ただし脳みは吹き飛ばしても動きを鈍くするだけでとどめは刺せない。
メインは怪物の方の方が命令を出すんだろうけど、補助として元の生物の脳を使うかららしいわ。

そして中でも厄介なのが木に寄生するタイプね、怪物達は宿主の周りに不定形の粘膜を纏わせることが出来るんだけど、これは実弾の威力を和らげる効果があるの、普通の生き物なら大体余裕で貫通出来る。

けど木に寄生されるとただでさえ貫通するのは難しいのに怪物の膜を貼られたら確実に貫通は出来ないし、下手をしたら弾かれるわ。しかも弱点らしい弱点もない、ただ木が歩いてくるような事は滅多にない事が救いね、基本的には待ち構えて襲ってくるタイプの怪物よ。



そして次に不定形の怪物ね、
作戦中はよく大宿主オオヤドヌシなんて呼ばれてるわ、
このオオヤドヌシに対しては弱点らしい弱点は無いわ。

地道にエネルギー性のレーザーで焼くしか無い。
幸いにもレーザーなら取り込んだ水分を蒸発させて、中の細胞を焼く事が出来るんだけど。

空気中にも水分ってあるでしょ?
つまりそう言う事。
駆除しきるのには最低でも小隊規模が全員絶え間なく焼き続ける必要があるの、嫌になるでしょ?

しかも過去のデータには中隊規模が総動員で15分焼き続けてやっと消滅させられたってデータもあるのよ。
予備の砲身も溜め込んだエネルギーもカラカラになって今も他の領から支援を受けてる、ちなみにそれが3年前らしいわ。

オオヤドヌシを消滅させるのには莫大な兵力と財力が必要になるからどこも乗り気じゃないんだけど、最近は隕石落下直後に急行して現場が隕石の熱で高温になってる間に怪物を焼く作戦が取られてるの。

まぁ完全に位置を予測なんて出来ないし予め落下ポイントで待機しようもんなら衝撃やら爆風やらで大惨事ね、まぁその為に領地の中心の高い塔には対隕石用保護フィールドが張れるようになってるんだけど。
そして領地の近くに落ちた分は各領の責任ですぐに処理するって形にどこも落ち着いてるわ。」



そこでシズキは一息つく。
何か質問は?と問うと、授業が始まる前に生意気そうな顔をしていた青年が挙手する。
シズキが質問を許可すると。

「よく圏外に遠征に行く部隊を見るんですけど、アレ調査部隊とかじゃ無いっすよね?」

「あら、いい質問ね!」

シズキは少しニコリと笑顔でそう言うと青年はビクリとした。

「もちろん調査部隊じゃない、戦闘科の第3〜6部隊、彼らは遠くからふらふらとやってくる元野生動物の怪物を主に駆除して回るの、そのついでに簡単な遺跡調査をしたり、その他雑務をこなしたり色々よ、ちなみに第6部隊は訓練兵と引率の第3部隊の隊員が何人か、ちなみに能力に応じて第6部隊から第5第4第3って上がって行くってシステム、あなた達も学生から訓練兵になった時は戦闘科第6部隊所属って事になるわ。」


シズキが先程の青年に答えるとその後ろのメガネの真面目そうな女子が挙手する。


「あの…先程戦闘部隊の第3〜6部隊は主に圏外の怪物退治と仰いましたが、残りの1〜2部隊は圏内の防衛という事でしょうか?」


その質問にシズキは更にニコリと笑い全員が身構えた。


「本当によく出来た教え子ですね隊長。
私の聞いて欲しい質問をしっかりと聞いてくれて、あなた達の事割と気に入って来たわ。」

シズキが笑顔で言うと生徒達は冷や汗をかき始めた。



「残りの第1〜2部隊の話だったわね、悲しい事にこの世界には怪物以外にもう一種類我々の敵になる者がいるの。何か分かるかしら?」

先程の生意気そうな青年がポツリと。
「人間…っすか?」

シズキはその答えにニヤリと口を裂いたような笑顔になる。
生徒達は冷や汗をかきながら体を硬直させ目を背ける者まで出る。

「大正解!我々人類は目の前に共通の敵がいるのにも関わらず、私利私欲で動き、同じ人間を簡単に陥れ殺める自己中心的な、とっても醜い生き物よ。

さっきのメガネの子も外れではないけど、正確には戦闘科第1部隊、第2部隊は主に人間を相手にする部隊よ。緊急時には怪物相手もやるけど、皆十分に怪物相手をやってきたエキスパートだから、別に人間相手しか出来ないなんて連中は居ない。

そして戦闘科第1部隊にもなれば素人相手の集団戦もお手の物よ。私も生半可な鍛え方はして居ないから狙撃しか出来ないなんて事はないし、素手であなた達を全員殺す事も簡単に出来るのよ?」

そう言ってシズキは両手を軽く広げる、全てを包み込むような雰囲気に慈愛の女神のような優しい目、そして処刑台のような言葉を言い放つと生徒は誰も何事も言わなくなった。



「よし、ビビらせるのはそのくらいでいいだろう。
お前らもこいつの話を真剣に受け止めて今後の事をしっかりと考えろよ!」

「………わたしそんなに怖がらせるような事してませんよ…?」

「お前は雰囲気が怖いんだよ。」

シズキは不服そうに下がり椅子に座る。
ダリウスは教師の顔に戻り、

「それと今回はレポートを提出して貰う。」

「「「えーー!!」」」

学生の共通の敵、レポート提出だ。
ダリウスはニヤリと笑い更に言葉を続ける。

「レポートの提出が遅いと感じた者には特別にトージョー中尉が付きっきりで課題を手伝ってくれるそうだぞ?」

シズキは少し嫌そうな顔をするが、生徒達には睨まれたように感じて黙り込んでしまう。

「ほら、お前のおかげだな!
まだ時間もあるし、それじゃぁついでに狙撃訓練までしとくか。お前ら!とっとと射撃訓練場まで駆け足だ!!」

シズキはそんな事ないと呟きながらもダリウスについて訓練場まで移動する。






「よぉ〜し!今回は第1狙撃部隊の副隊長様が居るんだからこれやっとかないとな!
お前ら!まず副隊長様がお手本を見せてくれる!しっかり見とけよぉ!!」

「「「了解!!」」」

ダリウスはシズキのハードルを上げてやるとシズキも若干苦い顔になる。

「最近鈍ってるのよねぇ〜…。」

「お前は一昨日遠征から帰って来たばっかりだろ…。」

「生まれたての怪物や動物型の怪物程度じゃ練習にもなりませんよ。」

そう言いながらスナイパーライフルとマガジンを2つ掴みボックスへと向かう。
マガジンの中には弾が8発、合計16発分。

シズキは息を吐きながらマガジンをライフルに装着し、レバーを弾いてチェンバーの中に弾を送り込む、そして側にあるリセットボタンを押すと的が新しい物に変りその瞬間。

〔タン!タン!タン!タンタン!タン!タンタン!〕

全ての弾が寸分狂わず的のど真ん中に吸い込まれた。

「「「お〜!!」」」

生徒から歓声が上がるもシズキは舌打ちをしながら深呼吸をする。
そしてリセットボタンを押し。

〔タタン!タン!タンタンタン!タタン!〕

先程よりも早く全てを撃ち終え全てがど真ん中に当たる。

さらに大きな歓声と尊敬の眼差しで見られるもシズキは舌打ちをし不機嫌そうな顔になった。

「隊長、すみませんがマガジン1ダースいただけません?」

「お前の個人的な練習は後でやれ。」

「はぁ〜…了解。」

シズキは空のマガジンを回収ボックスに放り込んで落ち込んだように戻ってくると、ダリウスがふと思い出したようにニヤリとわらう。

「そうだトージョー。お前の自慢のアレ見せてやれよ、きっと喜ぶぞ。」

「…今の状態でやっても子供のお遊び程度にしか出来ませんよ…?」

「まぁまぁ、今のままじゃただ狙撃の上手い人だろ?特別な所を見せてやろうぜ?」

「………はぁ。了解です…こんな事ならもうちょっと前線に出るんだった…。」


シズキはダリウスに目で命令されて嫌々ながらも左利き用のスナイパーライフルを追加で持ち、マガジンを4つ持ってボックスに入る。

ライフル二丁を両脇に挟みマガジンを両方に差し込み、自分の肩と手でマガジンをしっかりと押し込む、肘で2丁ライフルの銃底を挟み腹で抑えながらコッキングレバーを同時に引く、そしてライフルをボードの上に準備する。

大きく深呼吸をしてヘアピンでアシンメトリーにした前髪を横に流し留め、両目をしっかりと開き、視線はぼんやりと正面を見るように、そしてリセットボタンを押す。


〔タタタタタタタタタタタン!タタタタン!タン!〕

一瞬でライフルの弾を撃ち尽くす、
16発の内4発は的からは外れ、中心からは僅かに外れた物までを含め当たった弾は8発、ど真ん中を撃ち抜けたのは4発。


「はぁ…あり得ない…。4発しか当たらないなんて…。ホントショック…。」

「………。」

その結果にシズキはショックを受け、生徒は衝撃を受け無言になり、
その様子を満足そうに眺めていたダリウスは。

「ど〜だ〜第1狙撃部隊副隊長様の腕前は〜、射撃の腕なら部隊内どころか戦闘科の中でも頭一つ飛び抜けたセンスがあるからな!
俺もここまでやれとは言わねぇが、しっかりと的に当てられるくらいにはなれよ!
一人ずつライフルと弾をとってボックスに入ってけ!」

そう言って生徒達に指示を出すダリウス。
そこへシズキがトボトボと歩いて来て側の椅子に腰かけた。

「はぁ…。しばらくは練習漬けです。」

「まぁ1週間もありゃ腕も落ちるわな。それよりお前は今教師だぞ?生徒に教えを説いてこい。」

「………了解です…。」

シズキは座ったばかりの椅子からゆっくり立ち上がり持っていたライフルを立てかけ、それぞれ生徒の様子を観察する。

先程のメガネの女子が少し構えも硬いいし緊張しすぎている、そう思い近づいて行き声を掛ける。

「全身に力が入り過ぎてるわ、深呼吸してリラックスして。」

「りょっ…了解です!」

更に体を力ませてしまい、先程よりも大きく的から外れる。
シズキは小さく溜息を吐き、それを聞いたメガネの女子は更に焦り、泣きそうになりながら狙いもままならなくなる。

「硬くなり過ぎよ、もっと力を抜いて…脇は締めて、ゆっくり深呼吸して、すって…はいて…すって…はいて…ただ構えて、ただスコープを覗いてサイトを合わせるだけ。
ゆっくり…ゆっくりね、クロスがあった時に引き金をただ引く、それだけよ、落ち着いてね。」

シズキは彼女に優しく後ろ抱きつくように全身のフォームをしっかりと正し、頭を撫でながら子供を寝かしつけるような優しい声で落ち着かせる。

「落ち着いたら息を吸って止めて、そして撃つ瞬間にだけ体に気合いを入れるようにするの。
そうしたら大体狙った所に当たるわ、やってみて。」

メガネの女子は言われた通り息を大きく吸い込んで。

〔タン!〕

中心よりやや上に当たるもクラスの中ではかなり上々な成績だ。

「凄い…本当に当たった…。」

「それが狙撃時の基本の精神状態よ、今の感覚を忘れないようにね。
それを基本に弾道計算や予測射撃や誘導射撃をして行くの、慣れてけばスコープを使わずとも狙えるようになるから、訓練は怠らないようにね。」

「はい!ありがとうございます!!」

メガネの女子は元気に挨拶し尊敬の眼差しで…頰を染めながらシズキを見つめていた。


「シッ…シズキ教官!!僕もご指導の程よろしくお願いします!!」

調子の良さそうな青年がそう声をあげ、周りの生徒から非難と嫉妬の目を向けられるも本人はシズキからのしっかりとした指導を期待し舞い上がっている。

「ええ、とりあえず撃ってみてくれる?」

「はい!!」

調子のいい青年はワクワクしながら時に命中し時に大きく外す。大抵はハズレだが。
その途中でシズキが銃身を抑える手の肘が射撃コーナーのテーブル上から浮いているのを見て、後ろから手を添えて修正してやる。
その瞬間、年頃の青年には過剰とも言える情報量が脳を刺激する。

端的に言えばシャンプーの香りだとか女性特有の甘い香りだとか僅かに当たる柔らかい感触だとかそんな感じの。

その後は全の弾を大きく外してマガジン内の弾全てを無駄撃ちして見せた。

「集中力がまるでダメね、隊長はどんな甘い訓練をしてるのかしら?」

「はい!すみません!」

青年の脳内は先程の衝撃とこれからの更なる期待へ夢と鼻が膨らむばかりで担任を侮辱されるも全く気にしていなかった。

「そうねぇ…じゃぁ…これを的に貼り付けて来て?」

「はい!!………えっ?」

「え、じゃなくって、これを的に貼り付けてくるの、簡単でしょう?まずはそれからよ。」

「えっ…あっ……了解…です…。」

青年は意味が分からないながらもシズキからさらさらと簡単にハートのマークの描かれた紙切れを受け取る、そして周りを見ながらどうやって行こうかとオドオドしてしまう。
両隣の者も今のやり取りを見て遠慮がちに射撃を控える、それを見た青年がコーナーに足をかけようとした所で。

「あなた達なにサボってるの?真面目に訓練しなさい。」

「「えっ……。」」

そう言って射撃を控えた者達が驚いた、だが一応は教官の指示の為、青年には万が一にも当たらないように離れた的を狙う、が。

「何してるの?あなた達の的は正面のアレよ?ちゃんと狙って。」

シズキは少々怒り気味に生徒達に言い放つ。
生徒達は「マジかよ…。」とシズキには聞こえないように小声で口にしながら正面の的を絶対に外さないようしっかりと狙う。
当然シズキは聞こえているが無視をした。

「………ん?まだ行ってなかったの?他の生徒も待ってるんだから早く行って来なさい。」

「いや…でも周りもバンバン撃ってるし万が一にでも当たったら…。」

「当たるわけないでしょう?自分から射線に飛び込むつもり?みんなは的を狙ってるの。あなたを狙ってる訳じゃないのよ?」

「そりゃそうでしょうけど!」
青年は堪らず声を荒げた。

「もう…仕方ないわね…。」

そう言ってシズキは青年に近づき両肩に手を置き至近距離で顔を合わせる。

「早く行かないと、授業が終わるまで両肩外れちゃうよ?」

そう誰もが見惚れるような。困ったような笑顔で、更に至近距離で、手を置かれた肩がミシミシと悲鳴を上げながら、シャンプーのいい香りや女性特有の甘い香りを漂わせて激痛に耐えながら、優しい心に響くような声で、狂気的な言葉を冷水のように浴びせられた。

過剰な性的興奮と死の恐怖と痛みからの逃避とそれを許さない激痛と回らない頭を働かせようと焦る気持ちと。
いろんなものがごちゃ混ぜになり、青年は脳がぶっ壊れそうだった。

「りょ…了解です…急いで行ってきます…。」

「はい、行ってらっしゃい。」

シズキはあっさりと離れ、青年は覚悟を決めコーナーに足をかけ身を乗り出す。その瞬間、

ビー!!ビー!!
『射撃訓練中に内部に入るのは大変危険です!!直ちにボックスへ…』

シズキはボックス内のスイッチを押し警報を止めた、青年も動きを止める。

「何してるの?」

シズキは当たり前のように青年に疑問をぶつける。

「い…いや今警報が…」

「止めたから大丈夫よ、もう鳴らないから安心して行ってきなさい。」

「結構不味そうな警報鳴りましたよね!?」

「もう!行くんじゃなかったの?それとも肩外すの?」

周りも警報が鳴り響いた為射撃を止めていて、そのやり取りはそこそこ響き遠くの者までも驚いている。

「…なんで私と目の合う子が居るのかしら?皆には的をしっかりと狙えと命された筈だと思ってたけど、気のせいかしら?」

その言葉を聞いた瞬間皆今まで通り訓練を再開するが。

ビー!
『1時限の授業は終了です。教官の方は授業の終了をお願いします。』

「ほら〜早く行かないから終わっちゃったじゃない。」

そう言ってシズキはボックスを離れていった。

「た…助かった…。」

「お前シズキ教官にどんな指導されたんだよ」
「いい匂いとかした?」
「こっからだとキスしてたように見えたんだけど!」

周りの生徒らが集まり青年に質問ぜめをするも…
「いい匂いはしたしキスはしてないし綺麗だったけど…俺はもう無理、シズキ教官見ただけで泣きそう…。」

無理だよ怖ぇよ…などと言いながら調子の良さそうな青年は、おとなしい青年になり、周りの生徒たちもこの事には関わらないでおこうと心に誓ったのであった。


静樹ちゃんは結構人の目とかそういうのには敏感です。
オレちゃんは結構親の目とかそういうのには敏感です。

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