しん・魔法少女の冒険 ~序~

夕凪吉野

3話 道を歩く



シロに連れられて道なき道を進んで行く。

道中は本当に道と呼べるものでは無くて、見たことのないお花や葉っぱに爛々と輝く鉱石。改めて私の知らない所なのだと再確認させられる。

私の手を引いて前を歩くシロは待ちきれないと言うように小さい歩幅を適度に広げてこちらを振り替えることなくただ前を見て進んでいく。


「ねぇシロ、町って言ってたけどどんな町なの?」


早歩きで進んでいくシロに問う。


「う~んと……じゃあさ!シラねぇはどんな町だと思う??」


そうしてシロは初めて振り返って、小悪魔のような微笑みで私にそう返した。

シロ、質問は質問で返してはいけません!!


「そ、そうだね………うーん…えーっとそうだなぁ……何かヒントって無い?」


「ヒント…?シラねぇ、ヒントってなんなの?」


シロはそう言って急いでいた足を止めた。

あれ?こっちの世界にはヒントっていう言葉は通じないのかな?ヒントを分かりやすく……あれ?ヒントってどういう意味だっけ?日常会話で使っている筈なのにいざその意味を聞かれるとわからない言葉ってあったりするよね。私だけかな?いやいや、他にもいるでしょう……………いるよね?


「ヒントっていうのは……つまりね?えっとー答えに辿り着くための……助言…かな?うん、助言のことだよ。私はそれを教えて欲しいなーって」


かなり焦っていたのか、私は無意識のうちにそうとう早口で喋っていた気がする。間違ったことは言ってないよね?ないはずね?ふぅ…疲れた。何だが責められてる訳じゃないのに、こう…コミュニケーションがうまくいかなかったらとても焦ってしまう。

これは私がコミュ障ということの一因なのだろうか。気のせいか手汗かいてきたき気がする。…シロにばれないかな?

私が一人内心で呟いていると、シロは分かったと言わんばかりに手のひらに握り拳をポンッと擬音語が聞こえてきそうなほど打ち付けた。痛くないかな…。


「なるほどなの……ヒント……覚えたの!!」


おお、この世界に一つ新しい知識をもたらしてしまった。そして、シロのボギャブラリーに『ヒント』が追加されたようです。

それはさておき、ヒントを教えてくださいなシロさんや。


「でも駄目なの!シロはシラねぇに聞いてるの!!!答えなんてズルしちゃいけないの!」


駄目なんかーい!!そしてすいませんでしたあぁーーー!!

幼女の剣幕でつい反射的に土下座しそうになってしまった。私のメンタルが硝子なみに繊細だったら危なかった…。


「駄目なの?うーん……じゃあなんとなくでいいなら言うよ。」
「まず町の外には大きな壁があって、壁のなかには民家がいっぱいで、お店とかもけっこうあって人も賑わってて、町の真ん中には石で出来た格好いいお城がある……みたいな?」


「それってかなり適当なの!でも、だいたいは当たってるよシラねぇ。おめでとう!」


「あ、ありがとう?で、正解したら何か賞品でも貰えるのシロ。」


「賞品……考えてなかったの……。シラねぇって結構目敏いの。」


さっきまで悪戯っ子の様にニマニマしていたシロの顔は私が賞品をねだったせいか口角を少し上げて顔を強ばらせていた。


「うーん……う~んと……わかったの!!賞品思いついたの!!今あげるね!」


そう言ってシロは何やら自分の頬っぺたをムニムニとつまみ始めて、よしっと小さく頷くとキリッと顔を私に向けて言った。


「いくよ~……」ニコッ


……

…………

………………


笑顔?

素敵な笑顔??

笑顔が賞品?嫌では無いけども、むしろご褒美だけれども……あれ?ならいいのかな?良いんじゃない?いいね!うん。


「シラねぇ何で笑顔なのって思ったでしょう!シラねぇは全く分かってないの。笑顔はね、ただ笑っているだけで周りの人を幸せにも不幸にも出来るんだよ!前におばあちゃんが言ってたもん。笑顔って凄いんだ--」


ころころと表情を変化させるシロを見ていると何だが心がホッコリしてきた。

これが…………母性

いや早いってまだ小学生だし。


「――シラねぇ分かった?」


「うん、ごめんね笑顔の事何にも分かってなかったよ。教えてくれてありがと、シロ。」


「えへへーシラねぇ大好き!!」


「うわっぷ!」


シロは嬉しかったのか、私にガバッと抱きついてきた。かわいい。


「んもぅ!シロ?町行くんじゃなかったの?早く行かないと日がくれちゃうよ。」


私がそう言うとシロは思い出したように慌てだす。


「あっ!!忘れてたの!!」
「急ぐのシラねぇ!もうすぐ日が暮れちゃうの!!」


「それ、今私が言ったよ……。」


シロにはそれが聞こえてなかったのか、再び私の手をとって走りだす。何をそんなに急いでいるのかとか、町は一体どんな感じなのかとか聞くタイミングをすっかり逃してしまったが、まぁいいかと思い私もつられて歩き出す。


「夕方までに行かないと----に間に合わないの」


「え?」


聞き取れなかった。その一語だけ何故か聞き取れなかった。まるでそれをあり得ないとでもいうように私の耳からこぼれ落ちた。


「シロ、今なんて?」


「だから!『魔法少女』測定に間に合わないって言ってるの!!」


魔法……少女?なんだそれ、アニメか?私を馬鹿にしてるのか?魔力はあるのは確かにシロから聞いたけど魔法少女ってなに?完全にSFじゃない……。


「どうしよう……もう日が暮れかけてるの。急がなきゃ時間がないの…………よしっ!ちょっと走るの!シラねぇも着いてきてね!?絶対だよ!」


それだけ言うと、シロは一人で行ってしまった。

シロの言う通り、空にはオレンジ色に変わった月がもう昇っているのが見えた。映える空から走りだすシロの背中を見つめる。

きっとシロは嘘はついていない。それは多分きっとメイビー。でも、じゃあ魔法少女『測定』ってなんなんのだ。何を測るというのだろう。

ここに来たばかりの私には、今のいままで情報量が多すぎて、脳みそがショートしかけているかのようだった。

気が付くとシロと私は既に結構離れていた。それでもまだ追いつこうと思えば追いつける距離。

だけど少し寒くなってきた。それに今シロと離れること=死を意味する。

すっかり気重になった私は、シロに向かって走り出した。

ペンソー大陸とは何なのか、魔法少女測定とは何なのか、そもそも何で私はここに来てしまったのだろうか。頭の中ではただそれだけが何度も逡巡する。



少しだけ気を緩ませると、心の奥にあった寂しいという気持ちが一気に溢れでた。



凸凹した地形を走りながら、咽びでる嗚咽を必死に堪えてシロを追いかける。シロに泣いている姿を見せたくないので涙を止めようとするが、この涙は一向に止まる気配はない。

見栄とか恥ずかしいからとかでなく、涙の理由を聞かれるのが嫌だったから。だって理由が曖昧すぎて答えられる訳がない。自分でも根本的な原因は分からない。分かっていないことは口に出すべきではないのだ。

それでもまだ自分の意思に反して流れ続けるこの涙は実に、本当に理不尽だなと思った。

だから、やっぱり。







――――理不尽なんて嫌いだ。

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