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魔王の息子と勇者になろう【凍結中】

カズト@手直し作業

第七話 悪魔は不運を連れてくる

 
「……」

相も変わらずマスターは無口だ。

「3人」

彼は顎で奥を示した。

「あっちの方だってさ」

おれはマスターの声を未だかつて聞いたことがない。
少なくても5、6年は利用していると思うんだけどな、この店。
…というか、喋るのか?
喋れるのか?
ひょっとしたら話せないのかもしれない。
声を発さない理由は聞かないから分からない。
聞かれたくないことなんて人間、1つ2つ…いや、いっぱいある筈だ。

外見とは裏腹に、店内は意外と広い。
しかし、祭りの真っ昼間から酒場に入り浸る奴は少ないらしく、手前、奥、とあちこちに散っているが数えると9人しか居ない。

示された席の手前には緑と青で色分けされたキャスケットを被った男が座っていた。
あの色…。
くそっ、聞かれたら不味い話を出来る場所にと思ってきたのに何てことだ!
この界隈でそういう話を聞かれたくない奴ナンバー1が此処に居るなんて!
銀髪の彼女もボンネットを着けているし、こんな事ならもっと人が多い所へ行けば良かった。
今更後悔しても意味は無いが。
これから、聞き耳を立てられていることを踏まえて警戒しなければいけない。
彼女の言動にも気を配らなくては。

席まで詳しくは言われていないので、男からなるべく離れた席を選ぶ。
女性、ということなので一応席を引いてやった。
おれがあの男を見れる位置に座るため、彼女には男に背中を向けるように座ってもらう。

「ありがとう」

彼女は自然に礼を言った。
普通の貴族様よりマシ、か。

「オススメを」

手を挙げてマスターに頼む。
マスターの〝オススメ〟は赤かったり、緑だったり、果ては紫、黒色まで。
が、いつも美味しくて外れは無い。
あと、見た目は無法者っぽいがちゃんとしていて、子供に酒を飲ませたりはしない。
ノンアルコールだ。

大木のように太い毛むくじゃら腕で一滴もこぼさず、且つ音を立てずに注ぐ。
そこに、さっきアイスピックで砕いたばかりの氷をカランカランと均等に入れていく。
1分も待たず3本のグラスがテーブルに置かれた。
マスターはカウンターの奥へと戻ってゆく。

今日は透明だ。
無色透明。
いつもならどんな味なのだろう、と考えて終わりだ。
しかし、銀髪について話していたせいか、光の加減によって銀色に見え、飲もうと伸ばした手を引っ込めてしまった。

銀髪を持つ少女は不安げに、悪魔のあいつは訝し気におれを見ていた。
彼女の話を聞いてこの生活が壊れやしないかと、頭をよぎった憂いを振り払
おうと努めて明るい声で言った。

「…まあ、なんだ。よく分からないが逃げ切れたことに乾杯!」

グラスがぶつかり合って、軽やかな音が鳴った。
 

彼女はゆっくり、ゆっくり飲む。
1口飲んだ、と思ったらグラスを置き、また飲んだ、と思ったらまた置き。
それの繰り返し。
おれ達が飲み終わってもその調子。
 

やっと、迷う時間は終わった。
1滴残らず飲んでしまったのだ。
最後の決心をつけるように目を瞑り、もう一度目を開けた時には迷いを消し去っていた。
一瞬だけおれに眼をやり、それから言葉を紡いだ。

「先程、お会いしたのも神のお導きによるもの…力を、お貸しください」

深々と頭を下げた。
礼は言わない、謝らない、頭は下げない。
この3拍子を揃えていることが貴族になるための条件かと思っていたおれは正直驚いた。
さっき椅子を引いた時にお礼を口にした時点で一つ減っていたわけだが。

「わたくしは、ライラ・アイル・ベルフォート・エミテルと申します。この国、エミテラーナの第2王女です」

「神妙な空気のところ悪いのだが、我らに貸せる力などない。断っているのではなく、事実力を持っていないのだ」

おお、まともな意見。
というか素晴らしい躱し方だ。
そうだよな。
面倒ごとには首を突っ込まないのが一番の得策だからな。

「貸せることならば貸したかったのだが…」

むむっ。
反対だ。
悪魔だし世辞かもしれないが――こいつがお世辞を言うような性格の奴ではないのは知っているが――おれは貸せても貸さん。
〝我ら〟とか言うな!
複数形じゃない!
おれを含めるな!
どうせ王族なんかに関わったって何も無いどころか悪いことしかないだろうし。

「いえ、ただ傍に居てほしいのです」

おれ達の目を一心に見つめる。

「それは従者…召使いになれという事か?」

…魔王の息子をこき使う人の王族。
これはいいかもしれない。

「いえ、この国に明るくなさそうな貴方と、政治に興味のない…それどころか王族を嫌ってさえいる貴方にただ、一緒に居てほしいのです」
「っ⁉」

魔王の息子が掃除している場面を想像してほくそ笑んでいたら、何だ?
王族を嫌っている貴方に、だと?
どの口が、それを言うっ!

「…嫌ってるって、何でだよ?
おれはずっと山の中に住んでるんだ。税を取ってる側の人間に言うのもなんだが、おれは税を払っていない。徴兵されたこともない。国に干渉されてもないししてもいない。
何処にも嫌う要素なんてないだろう。
第一、王族を嫌悪してる奴を王宮に入れましたって言って誰かが死んだらどうすんだ?
しかもそいつは平民だとなったら、その時は間違いなくおれが犯人にされる。
来て間もなくだったら尚更だ。召使は仕事がなくなったら困るから、事件を起こすなんて滅多にないしな。おれが手打ちにされておしまいさ。メリットが無い。デメリットならいっぱい見つかるけどな」

此処までを一息に言ってのける。
わざとさっきの追っ手たちのような声を意識して。

「じゃあな」

会計してさっさと帰ろう。
まだ…あいつがいる。
お姫様だってことは聞かれた。
この後捕まってしまうだろう事を考えると後味は悪いが、ここらへんでお暇させてもらう。
腰を浮かせた時。

「待て。城を見せてもらえば少しは人間の世界のことが分かるだろう」

おい!
人間の、とか言ったら、人間じゃないって言ってるのと同じだから!

「人間の、とは?エルフなのですか?」

…エルフって偽る選択肢もあるのか。
目配せする。
それを受け取ってあいつは言った。

「それに近しいものだな」

もういい、それでいい。
嘘は言ってないし。
エルフだと言っておけば、人間との仲は悪くないから攻撃されることもない。
人間の常識を身に付けていないことも誤魔化せるし一石二鳥だ。
ボロが出て、碌でもないことになる前に、今度こそ帰ろう。
 

「では何故…精力ではなく魔力を感じるのですか?」
 

ほーら、碌なことにならなかった。


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