魔王の息子と勇者になろう【凍結中】

Beater

第五話 悪魔に同行するとこうなる

 
 
入学が決まった――入学することが決められた――数日後。
魔王の息子が思い出したように言った。

「そういえば…今日は街で1日中〝ネリティーヤ祭〟というものをやっているそうだな」
「…毎年この時期にやるんだ」

朝から何だというのだ。
…まさか…

「行きたい、とでも?それより、どこからその情報を仕入れたんだ!」
「そういう祭りには人間が沢山来ると人伝に聞いた」

だからお前にそう色々教えているのは誰なんだ。

「だから?」
「観察できるかと思ったのだ。比較対象は多くいると助かる」

勝手に行ってこい、と言いたい。
そう、こいつが人であれば。
しかし、おれはこの世界に生きる人のためにこいつを此処から出さないと決めているんだ。
勇者育成学校は…行ってこい。
バレて退治されて来たらいい。

「却下だ。此処を出るなと言っただろう」

それに、部屋も衣服も貸し与えてやっているのに、祭りに行きたいなどと注文をよこすとは図々しい悪魔だ。
何より一番の問題は、

「…普段より人が多い。つまり、普段よりバレるリスクが上がるんだぞ」

こいつが、自分が悪魔だとバレることに危機感を抱いていないことだ。
当たり前だが、魔王の息子に危害を加えようとする悪魔などいなかったのだろう。
いやまて、そうでもないのか?
悪魔の方が人よりも闘争心が強そうだ。
これは偏見だが。

こいつの性格も恨まれやすそうだしな。
自分を剝き出しにして恨まれる、ということを知らないのだ。
角と足を晒して歩いたら街の人が恐慌に陥ってしまう…とかそういうことを考えていないのだ。

「お前は行かないのか。なら、我だけで行ってこよう。何か必要なものはあるか?」

おれはこいつが街に下りることを許可しなかった。

まだ牙をむく気配はない…が、もしその牙が立てられるとしたら?
その場合、標的はおれか街だろう。
どちらも御免だ。
最近は常にそのことを考えている。
おれと同い年の15歳。
外見は年相応だが、思考は明らかに人の15歳より発達している。
この街は平和が長く続きすぎて悪魔対策が疎かになってきている。
そんなこと、もうとうに気付いているだろう。
それなのにおとなしくしている。

おれは魔王の息子が怖いんだ。
面と向かってこれが言えるほどおれ達は親しくない。
だからおれは、あいつには悪魔であることがバレるといけないから、と理由の一つだけを言い聞かせ、ここに縛り付けている。
子どもは好奇心旺盛、というところは人間と何一つ変わらないというのに。

「…準備する。待ってろ。その、強風が吹いても引っ張っても取れないとかいう魔法、ちゃんと掛けとけよ」
「?お前も行くことにしたのか?」

…悪い奴じゃないのは分かってるから言わないが。
でも、入学おめでとう!とか言われた後、帰るだけのはずだったのに街の奴に絡まれては応戦しようとするし。
道の両脇に並ぶ露店を覗きこんで、おれが頭を叩かなきゃ動かないし。
あれ?あいつ、あの山に住んでる奴の連れじゃね?え⁉悪魔だったの⁉…なんてなったら…。
身震いする。
そうならないためにも付いて行かなければならない。

「まだ至らぬところも多いからな。よろしく頼むぞ」

こんなに頼まれたくない言い方が出来るとは、尊敬に値するな。
 

「おお!前に来た時も随分人が集まっていると思ったが…」

いつもより格段に広がっている人混みを見て、悪魔は感嘆の溜息を吐いた。

南方の黒、紫、赤、黄、青など極彩色の多い色とりどりな花を売る店。
極東で流行っているという不思議な模様をした服を着こんだ主人が呼び込みをしている乾物屋。
北の獣達らしいたっぷりとした毛皮でできた防寒着。
この土地でしか採れない薬草を使った薬、ハーブティー。
様々な人種や物が入り乱れている。

「おれもこんな人が多い時に来たのは初めてだな」

念のため、おれの帽子にも解除しない限り取れない魔法をかけてもらった。
もしこの大勢の人の前で髪を晒してしまったら、ひじょ――に不味いことになってしまう。

こんな銀髪…隣にいる奴みたいな黒髪か茶髪が良かった。
自分が考えていることに呆れ、一度鼻を鳴らした。
そんなことを望んだって何か変わるわけでもないのだ。
それより、今のことを考える方が有益だ。

「さっきも言ったが、絶対に離れるなよ」

何度も何度も釘を刺したが、不安は消えない。
これはこいつの人徳故か、と軽く睨みつけるが、華麗に視線を受け流されてしまった。
気付いていないだけかもしれないが。
というかそちらの可能性の方が高い。

「うむ、分かっている」

と、余計に心許なくなる返事をくれた。
また一つ、大きな溜息が空気に溶けた。
 

「ハァ、ハァ…ハァ…待て、よ…ハァ…」
「む。もう疲れたのか」
「おれは、人間、だっ!」

悪魔の体力と一緒にされては困る。

「次はあの的当てをするぞ。あの珍しい毛皮がもらえるそうだ」
「~~~っ!おれはお前のお守りじゃないっっ」

横を通り過ぎた人や今まさに俺の隣を歩いていた人々がギョッとおれを見た。
そんな大きい声を出すつもりは無かった…。
顔に体中の熱が集まったのを感じて、原因である、奴の腕を強引に取って歩き出した。

「おい、的当てを…」
「うるさい!」

もう一度怒鳴って細い路地に入った。
朝、街に下りた時は太陽が出始めたころだったが、もう既に頭の上まで来ている。
まだ生月(うまれづき)の半ばだというのに、汗がじっとりと滲む暑さ。
しかしながら、祭りはいよいよ本番だとでもいうような熱気だ。

…いつもおとなしくしているし、今日ぐらいいいだろう。

「おれはもう疲れた。楽しんだら適当に帰って来い」

疲れたのか、という問いも悪気があったわけではないのは知っているからな。

「そうか…。なんだかすまなかったな」

ほら。
悪魔のくせに優しい奴なんだ。
でも、

「その偉そうな態度はやめてほしい」
「善処しよう。では、日が暮れる前には帰る」

さっさと行こうとする奴に声を掛ける。

「確か花火もやるらしいから、日が暮れた後2時間くらいならいいぞ。それと、これ。
小遣いだ。無駄遣いするなよ」

さっきまでは、いちいちおれが祭りであることを加味して、適正な価格であるかを確認してから銅貨を渡していたのだ。
こいつの頭ならもうそれくらい見極められるだろう。

「本当か?火薬というものに火を点けて空に打ち上げる、綺麗な花のことだろう?その花火というのは」
「ああ。楽しんで来い」

今度こそ帰…ろうとした。
過去形になってしまったのは、路地の奥の方からドタバタ足音と怒声が聞こえてきたからだ。

「そっちか⁉いや、こっちへ行かなかったか⁉」
「くそっ!見失っちまった!」
「早く探せ!金は出したんだからな!」
「分かってるっつってんだよ!」

男4、5人の声が聞こえてくるが、皆一様に額に青筋を浮かべていそうな声音である。
人身売買をしてて商品に逃げられでもしたか?
売り手が荒くれ者に連れ戻すように依頼したとか?
袖が引かれた。

「こちらへ来るようだぞ」
「え?」
「おい、こっちにガキ二人居るぞ!」
「お前ら!この道を銀髪の娘が通らなかったか」

貴族の身なりをした中年の男――このおっさんが依頼人だろう――は、おれ達に唾を吐きかけながら叫んだ。
しかも、剣先を此方に向けるというオマケ付きだ。

「いや、見ていない」
「嘘言ったら…分かってるよな」
「見ていない」

貴族の割に随分荒っぽいな。
…貴族だからこそ、か。
真直ぐ目を見て言ってやった。
信じてもらえたのか、一瞥もくれず総員引き返していく。

「…銀髪の小娘?お前と同じだな」

おれに眼を向ける。
こいつが普通のこの国の人間――この国の者ではなくとも普通の人間――なら危なかった。
今だけは悪魔であり、人間に詳しくないということに感謝だ。
銀髪であることに価値を見出さない悪魔であることに。

「いいか、街中でおれが銀髪だとか言うなよ」
「何故だ?綺麗な色ではないか」
「何でも糞もない。兎に角口に出すなよ。いいな?」
「それは他言するな。人に知られたくない。ということだな?」
「ああ」
「一応約束しよう。お前の身を守るためならいつでも破るが…」
「何か言ったか?」
「理由はまたいつか教えてもらう、と言ったのだ」

いつか…な。

カッ

靴音がして、物陰から少女が現れた。

「あなたも…わたくしと同じ、銀髪なのですか?」
 
 

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