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魔王の息子と勇者になろう【凍結中】

カズト@手直し作業

第四話 悪魔ってやっぱし考えなし


 
「何で…何で…何でおれまで⁉」

どこの王様のお城だ、と言う程の大きい学校。
その門の前に、ハンチング帽を被った少年と、真っ黒な髪を無造作に縛った少年が
立っていた。

「いくら制服は支給され、学校に入っても学費は払ってもらえるといったって…」

黒髪の少年は自分が着ている服をつまむ。

「人の通貨はよく分からんからな。助かった」

その隣の少年は二度三度と頷いた。

「その前に!何故おれまで入学することになっているんだ!」

…おれは叫んだ。
よく思い出して、どうして勇者育成学校などに入学することになったのか、原因を探してみよう。
 

「その勇者育成学校とやらに入ろうではないか」
「おいおい…」
「ん?お前は乗り気ではないのか。ならば此処で別れよう。此処までの案内、感謝する」

そう言って歩いて行こうとする。

……直ぐ試験に落ちて魔王の下に帰るだろう。
……うんうん。
……とは思うのだが……。
ああああああ!

「おれも行く!」

本日2度目の台詞を空に響き渡らせた。
 

道行く人にいちいち道を聞きながらようやく辿り着いた試験会場。
学校でやるのではない、との情報は得ていた。
しかし…

「試験専用の建物、だと?」

貴族の一家が暮らすような館。
そこが試験会場であった。

「さすが勇者を育てる学校…というところか」

なにやら納得した様子の魔王の息子。
館、とは言わずに要塞と表した方が適切かもしれない。
華やか、ではなく、厳めしい。
魔王対策に結界など張ってあったりするのだろうか。

「では」

一言言ってさっさと歩き始めてしまう。

「あ、おい!」

どうせ受かるわけがない。
この考えを改めざるを得なくなるまであと少し。
 

扉開けると真っ赤な絨毯が目に入った。
正面には階段があり、その階段の右脇に机と椅子を置いて、受付らしき男性2人が
座っていた。

「合格よ!家に帰ったら合格パーティーね!」

茶色の髪をクルクルにカールさせた年増の女性がはしゃぎながら階段を下り、こちらに向かって来た。
しかし隣にいる息子に夢中でおれ達には気付いていないようだ。

「当然だよ、母上」

ずんぐりとした外見にあった、野太い声だ。
ぶくぶく太ったくびれが無い体で胸を張っている。
魔王の息子の声も呆れ返っていることをありありとうかがえる。

「あんな豚でも受か…」

声が途切れた。
おれの手がこいつの口を塞いだからだ。
あんな豚でも受かるのか。
同感だ。
試験官が袖の下を貰ったとしか考えられない。
しかし、人間の世界には悪魔達みたいな実力主義より優先されるものがあるのだ。
耳打ちしてやる。

「貴族」

これで分かるだろう。
誰かこいつに人について教えた奴がいるようだから。

「…つまり、人の階級の上位に位置する者だから、か?」

答えるまでもない。
それを表情から読み取ったのかそのまま黙り込む。

いつの間にか目の前まで来ていたクルクルカールと豚。
2人は大袈裟に目を見開いた。

「あぁらまぁ。平民が勇者になろうだなんて!」
「剣の練習さえしてない豚共のくせに」

いえいえ豚はあなたの方でしょう、鏡を見てごらんなさい。
とは言わず、そっと隣を見た。
悪魔の階級では1番上に位置する魔王を父に持つ奴の反応を心配したのだ。
…予想とは全く違う不思議そうな顔をしていたが。
杞憂だったな。

「豚に人である我がそう言われる謂れは無いな。いや、お前は人なのだろう?違うのか?
もしお前が人であるならば、同じ種族であるならば、相手の力量が分からない以上、上も下もないだろう」

本当に分からない、という口調だった。

「そうだな。おれにもこれは豚に見える。クククッ…」

笑いが堪えきれない。
それに、さっきより豚に見えてきた。

「あなた達!うちのかわいい利口なトニーちゃんに向かって何を言っているの!あなた達のような平民はどうせ私達貴族階級に…っ⁉」

最初から刻んであったのか、足元で突然魔法陣が光り出した。
白っぽい黄色の光だ。
攻撃的にパチパチ光が点滅している。

「当校では私闘を禁じております。しかしその様子ですと…あっという間に退校となって
しまいそうですね」

「「なっ⁉」」

クルクルカールと豚が息ぴったりに目を見開く。
さっきまで人の良さそうな笑みを浮かべていた左側の男性が、今や不快なものが視界に入ったとでもいうように露骨に顔を顰めている。

2人はその視線を受けて、おれ達に掴みかかろうとしていた手を見、下した。
そして男性と魔法陣を交互に見やり、ふんっと鼻を鳴らして立ち去って行った。

「で、君達は…受験しに来たのかな」

途端、柔和な笑顔に戻った男性はおれたちに顔を向けた。

「うむ」

魔王の息子が答えると、彼の瞳は驚きに見開かれた。
おれはこいつが悪魔、それどころか魔王の息子だとバレて王宮に引っ立てられるまでの流れが一瞬で見えた。
帰りたい…。

男性はおれ達を上から下まで舐めるように見た。
ゾワッ
何だ、こいつ⁉
しかし、直ぐに笑顔を取り戻したため、何故自分がそう思ったのか忘れてしまった。
 

「ようこそ、ナスタリテ勇者差遣学園へ。2人とも、入学おめでとう」
 

「「はぁ?」」

先に我に返ったおれは慌てて言った。

「あの、誰かと勘違いしていませんか?おれ達まだ入学試験受けてないんですが…」

もしかして、此処は合格通知を受ける場所で、受験会場は別の場所だったのでは。
話しながらそんな可能性を考え、赤面しそうな気持になってきた。
だから来たくなかったんだ!

「いいや、間違っていない。平民は余程の悪人面でなければ即合格だ」

今まで黙っていたもう1人の男性が喋った。

「…何故?」

思わず声を漏らす。
平民は、って何でだ?
普通は逆ではないのか。

「はい。彼は実技の講師、フェーステット先生です。君達もこの先生に習うことになるでしょう」

質問に答えていない。

「…つまりこういうことだ。貴族連中は驕る。その結果堕落する。だから成長しない。そんな奴らを魔王と戦わせるなんて以ての外だ。しかし平民は…俺もそうだったが、上へ上へ上り詰めようとする向上心がある。試験は必要ない」

見た目の厳つい印象とは裏腹に、丁寧な説明のフェーステット氏。

「はい。そういうことですね。ありがとうございます、フェーステット先生」

人に代弁させたことを気にしていない爽やかな笑み。

「それと、私はこの学園の教頭リポーディスです。これからよろしくお願いしますね?」
「ああ、よろしく頼む」

魔王の息子は頷く。

「良かったな。入れて」

心からではないが、一応祝いの言葉を述べておく。

「君は入らないんですか?」

リポーディスはおれに尋ねてきた。

「ええ、まあ。おれはただの付き添いなので」

そんな何で⁉という表情をされても、入りたくないものは入りたくない。

「そうなのだ。一度誘ってはみたのだが頷かなくてな」

余計なことを言うな。

「う~ん…、なら学費等々すべて私が持ちます。二人分ね」
「そんなこと言われても困ります。何と言われようと入る気はありませんし」

そこできっぱり断った。
結構強めの口調で言ったつもりだ。
はずなのだが…

「はい、これが学園の制服です。花月(はなつき)の10日目に学園の闘技場へ来てくださいね。それではまたその時に会いましょう」

そう言いつつ、いつの間にか用意してあった制服をおれ達にそれぞれ手渡した。
それを受け取ると、おれ達は館から追い出された。

「開けてください!お願いします!……おい、開けろぉぉお‼」

扉はびくともしなかった。
 

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