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魔王の息子と勇者になろう【凍結中】

カズト@手直し作業

第三話 悪魔はちょっぴり好奇心旺盛

 
ふむ、この街はなかなか発展しているのだな、などと言いながらキョロキョロしている奴など見えない。
そう、見ない。
さすがに悪魔を連れ歩いている小僧などというレッテルは張られたくない。
いくらあまり街に下りないとしても、だ。

商人たちは道の両脇に露店を出し、道行く人に声をかけている。

さて、ここで一つこの世界の三つの大国、それとその三国と隔てられたところにあるもう一つの世界について説明するとしよう。
俺が生まれ育ったこの国はエミテラーナ王国。
その名の通り王がこの国のトップである。
賢王とも愚王ともどっちつかずな普通の施政を行っている。
そこで話題に登るのが幼い頃よりエミテラーナ王国一の美姫と称えられた王妃である。
彼女が裏の実権どころか、政治、軍事面でさえも力を振るっているとかなんとか。
しかし表面では平和が保たれている。

ここに展開されている露店のほとんどははるばる隣国サスーチアルからやって来た商人が店主だ。
エミテラーナで商品を売りさばいた後は引き返し、再び売り物を増やしてまた店を出す。
これが彼らの商売だ。
因みに彼の国の特産物は、自然をの中で育った薬草から作る薬、魔物の皮や肉。
偶にゲテモノチックな串刺し肉が売っている店があれば、間違いなくfromサスーチアルだと見ていいだろう。

「あんまり首を振るなよ、フードが取れるから」

わざわざフーデットケープを着させた意味がない。
角なんて出して歩いていたら悪魔であることが丸わかりだ。
おれの髪は結構目立つため、普段かぶっている帽子の予備として随分前に買っておいたのだ。
まさか悪魔に貸すことになるとは思わなかったが。

「心配ない」

どこがだ?
今にも首がちぎれて飛んでいってしまいそうな程頭を左右に振っている。
そんなに人間の商いが珍しいのだろうか。

「それにしても、我はまだ分かるとして何故お前まで頭を隠すのだ?」

振り返り、おれに問う。
深く被ったハンチング帽に触れた。

「…色々あるんだ」

自由奔放な悪魔には分からないさ。
羊の足を平気で人目に晒そうとするような悪魔には。
おれが靴を貸していなかったらと思うと。
…何でこいつにこんなにも奉仕してやっているのか?
頭が痛くなってきた。

「これがパンという物か。人はこれを主食とするのだろう?」

他人のことを気にしない悪魔が聞く。

「ああ、そうだな」
「あれは…薬を売っているのか?」
「ああ、そうだな」
「わざわざ貨幣を支払って買うのか?自分で作ればそれほど費用は掛からないものを」
「ああ、そうだな」

そんな分かりきったことを聞くのか。
1般人が簡単に作れてしまうような薬などそもそも売らない。
しかし、端から答えを求めていないのか、どんどん人を掻き分け進んでいく。

「おい、待て!先に行くな!」
商品を浮遊させながら歩いている商人たちを避け、追いかけた。
 

しばらく歩いていると、いつもお世話になっている木材を取り扱う店が見えてきた。
扉の前で魔法を解除し、荷物を地面に降ろす。

「絶対動き回るなよ。此処に居なくなってたら、おれは帰る。いいな?」
「…そうか」

聞いているのかいないのか上の空な生返事。
建物やその間をすれ違う人々を熱心に見つめている。
ため息を吐き、おれは足を店に踏み入れた。

 
「毎度あり!あんちゃん、また来いよ~」

チリーンとドアに付いているベルが鳴った。
おれの言う事なんか聞くわけがなく、店の前から居なくなっている…
かと思ったが、奴は身じろぎせずに立っていた。
その視線の先を追うと、親子が話しているのが目に入った。

「勇者になりたい?あなたをそんな学校にいれるようなお金はないわよ。それに生活に必要な知識は私と神父様が教えてくださるでしょう。そんなことより荷物を持つのを手伝いなさい」
「おれは勇者になるんだ!」
「はいはい。家に帰ったら畑の手入れも手伝ってね」

親子はこの街から少し離れた村に暮らしているのだろう。
小麦が入っていそうな大きな袋や野菜を沢山抱えている。

「学校…頭の回転が速い者や戦いに強い者を育成する機関のことか?」
「…あの子の言っていたのは勇者育成学校のことだ。街には大小はともかく1つはあるって聞いたことがある」

勇者。
それは、今隣でおとなしくしている奴の父親を倒しに行く者達の総称だ。
名前の通り、勇者育成学校はその勇者達を鍛える場所である。
表向きは誰でも大歓迎と謳ってはいるが、先の親子のように学費が払えないため通うことができない人がほとんどだ。
つまり、勇者育成学校を卒業したということは貴族の血統書付きの子女であり勇者になる資格がある、という一種のステータスなのだ。

だから…いつまでたっても魔王が殺せないんだ。

「勇者が何か、とは訊かないのか」
「もう知っているからな」

軽く首を振るが、どんな表情をしているのかフードの陰で見えることはなかった。
奴が口を開く。

「行くぞ」
「行くぞ?どこへ?」

今日初めてこの街へ来て、行きたい場所があるはずもなく。
命令口調に対する腹立ちよりも疑問のほうが勝った。

「その勇者育成学校とやらへ、だ」
「…魔王の息子であるお前が?」

冗談にも程がある。
そもそも入学試験の段階でバレるに決まっている。

「うむ。魔王を超えた者を勇者というのだろう?」
「まあ、簡単にはそうだな。少しニュアンスが違うが」

…本気か?
その考えを読んだかのように、魔王の息子は次々と言葉を紡ぐ。

「我は」

奴は力強い眼差しでおれを射抜く。

「父を超えると約束し、城を出て来たのだ。ちょうどいい。勇者になってやろうではないか」

 
「人間の敵、魔王を父と呼ぶ少年…。直ぐに手配しなければ…」

街は人が明るい表情で多く行き交う。
それと対照的に路地裏は真っ暗で、人の気配が全くしなかった。
 

俺たち人間たちが住む世界とは別に、黒い霧で覆われた世界がある。
そこは魔王の息子らが生活を営む世界。
暗い昏い闇が広がり、真っ赤な大地を見渡せるらしい。
これはついこの前魔王の息子から聞いたことで、この世界に行って帰ってきた人間が確認されていないためにこのような情報は初耳だった。
他にも、魔の世界は海の底に沈んでいるだの空に浮いているだの何処か遠くにあるだのと、矛盾に溢れたアバウトな噂だけが走り回っていた。
これについては彼から新しい正確な位置を聞くことは叶わなかった。
何かの魔法によるものなのか、人間の世界のあちこちに黒い霧が現れ、そこが門になるとのこと。
しかしその門は不安定で発生する場所と不確定なため、とてもとても安心して使うことは出来ないという。
だから今までにこれは、と魔王を倒せるかと思われた勇者もこの門と出会えずに中年になってしまったケースが多くあった。
つまり、勇者育成学校とは、いつ門が出現してもいいように一定数の勇者を作っておこう、ということなのだろう。
 


もう一つ。
空から降ってきたのは悪魔で、さらにその悪魔は魔王の息子で、そのくせ勇者になりたいと言った。
 

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