花に嵐のたとえもあるさ

海月

2笑顔


驚いた
その一言だった。


人が頭から田んぼに突っ込んで行った瞬間を初めて見てしまった…

僕が唖然としてながら自転車男(?)を見ていると
見事に田んぼへホールインしてしまった自転車男は苦虫を噛み潰したような顔をしながら田んぼから這い出てきた。


朝から災難だなぁ……


そしてふと、同じ制服を着ていることに気づいてしまう。


同じ学校の人かぁ……き、気まづい……


しかし放って行くわけにもいけない……というほんの少しの善意が僕を襲う

その時、目がパッと会ってしまった。

こうなりゃいくしかない……!
持ち合わせの少ない勇気を振り絞り
固まったまま動かない自転車男に
恐る恐るではあるが声をかけてみた。


「……っ…だ……大丈夫です…かっ…??」


「声をかけるのが遅いっっ!!」


大きな声に驚いた
被せ気味に言われたので最後の方はほとんど言葉として機能していなかった


「君、目の前で人が自転車で田んぼに突っ込んで行ったあと無言で立ち去ろうとしただろ!無常か!俺めっちゃくちゃ君が何か言ってくれねぇかなって待ってたんだからな!」


それもそうだ……あのとき勇気を振り絞ってよかった……そして、実際彼は僕を避けたせいで田んぼに突っ込んで行ったのだから……


「もっと早く声をかけるべきだった…ごめん…」


僕は頭を下げてからリュックからハンカチを出した


「よかったら、使って」


自転車男は少し驚いた顔をした


「……そんな悪いよ!しかも、君全然悪くないし!!俺の方こそ、ごめん!ブレーキ壊れてて止まれなくてさ…それよりあのときぶつかったりしてないか?怪我とかない??」

その慌てた様子を見ているとなんだか面白くてクスッとわらってしまう。
自転車男はハンカチを受け取とろうとしなかったが僕が押し付けたので、申し訳なさそうに受け取って、


「お前…いいやつだな」と、言った。


驚いた


僕はそんなことを言われるとは思ってなかった
なぜか泣きそうになってふと顔をあげると


また、驚いた


桜が舞う中、泥だらけで笑うその男の
その笑顔がとても、美しかった。


「俺、木村 忠臣。君は?」


まるで、春の日差しのような


「僕…は…っ……森 文人…」


「そうか…!文人…よろしくな!」


そんな笑顔だった。


















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