これはネタ武器ですか?いいえ、最強の武器です。

黒焔

2話 ようこそ! 銃と爆弾の世界へ!

 月曜日。一週間の始まりにして、一週間の中で一番憂鬱な日。朝のホームルームが終わり、悠人は気だるさに任せるがまま机に突っ伏して寝ていた。

「悠人……おい悠人!」
「なんだよラティス……」
「今はラティスじゃねぇよ。寝ぼけてんのか?」

 悠人にラティスと呼ばれた少年の名前は長島樹木。悠人とは中学からの付き合いだ。黒目黒髪男らしい体つきに若干つり上がった目。こいつヤンキーだろ! と、思われてもおかしくないような容姿ではあるが、常識人である。

「ふっ……今の俺の状態を見て寝ぼけてると思うならお前は眼科に行った方がいい。良いところを紹介してやるぞラティス」
「よし、お前が寝ぼけてるのは分かった。俺のチョップで起こしてやるからな」
「あ、それだけは勘弁して「問答無用」いぎゃあああ!」

 変な叫び声を上げながら、悠人はチョップされた自身の頭を両手で抑え悶絶する。

「酷い……酷いよぉ……」
「えっと……ごめんな? そんなに強くやったつもりじゃねぇんだ。だから許してくれよぉ」

 悠人は目尻に涙を浮かべる。その声は弱く、親に怒られた小さな子供のように小刻みに震える肩を見て、樹木はマズいと感じたのか謝罪する。そんな何時いつもの出来事に、クラスメイトは微笑みだす。その笑みの中でも冷たい笑みを浮かべている者も居るのだが。

「樹木君。悠人君にチョップするなんて酷いと思うんだけど……?」
「うっ……すまねぇ沙耶」

 赤羽沙耶。艶のある黒髪にぱっちりと開かれた黒目、小さな鼻、正に童顔と言ってもいい程幼い顔立ちであるが、どこか大人の雰囲気を持つ。悠人の幼なじみで、家が隣であるためベランダ越しで悠人と話す、朝迎えに行く等々、どこの恋愛ラノベだよと樹木に一度言われたことがある。勿論、悠人ことを好きではいるが、悠人が気付かないのでガッカリしている。

「けど、眠気覚ましには丁度いいだろ?」
「丁度いい? 樹木それマジで言ってんの? 病院行った方がいいよ?」
「またそれか……復帰早いな」
「大丈夫悠人君?」
「いや、まだ痛い。と言うわけで樹木さんや」
「ん?」
「慰謝料を要求する」
「は?」

 何言ってんのお前というような表情で見られ、悠人は若干だが不機嫌になる。未だに頭部が痛むのだ。それに対して何か見返りがあっても問題無いだろうというのが悠人の考えである。元々、悠人が悪いのだが。

「何言ってんだ?」
「だ~か~ら~慰謝料を要求するって言ってんだよぉ。まだ頭痛い」
「いや、でもな?」
「樹木君?」
「おっと、そこで沙耶が加勢するか? 普通は事の成り行きを見届け「樹木君?」……泣いていいか?」
「泣いてもいいぞ。但し、ここでお前の泣きっ面を晒すことになるけどな。そしたらお前の泣きっ面を動画に撮ってネット中にバラまいてやるよ」
「……今日だけだぞ」
「流石は樹木。話が分かるじゃねぇか」

 悪者が浮かべるような笑みを浮かべながら悠人は再び眠り始める。何時ものような眠たい授業に備える為に。




 学校が終わり放課後。悠人が金の代わりに美味しいケーキがある喫茶店に行きたいとのことで、悠人達御一行は喫茶店に居た。

「お待たせしました。チョコケーキになります」
「お、おお!」

 チョコケーキを見た悠人の目は子供のようにキラキラと輝いており、涎が垂れそうになっている。

「これが美味しいケーキか!」
「落ち着けよ悠人」
「子供みたいだよ悠人君?」

 悠人は2人の言葉を無視し、フォークを持つ。食べる気満々のようだが、2人がフォークを持つまで待っている。

「早く食べようぜ?」
「お、おう。そうだな」
「うん。そうだね」

 幸せそうにチョコケーキを食べる悠人を見て樹木と沙耶は笑みを零す。

「ほら悠人君。チョコがついてるよ?」

 悠人の隣に座る沙耶が、手拭きで悠人の頬についているチョコを拭き取る。

「ん? ああ、ありがと」
「……うん」
「リア充め……」

 その光景を見て樹木が憎悪の視線を浴びせるのだが、浴びせられている2人はどこ吹く風。何時もの事と言えば何時もの事なのだ。

「そうだ悠人お前にオススメのゲームがある」
「ん? マジか」
「マジも大マジ。んで、今日それを持ってきてたんだ」

 樹木はバックからゲームのパッケージが描かれた箱を取り出す。

「それがオススメのゲームか?」
「おうとも。このゲームの名前はガンスミスオンライン。略称でGSOって呼ばれてる」
「ガンスミスって銃の整備士だろ? 銃を作るゲームなのか?」
「違うぜ悠人。これは銃と爆弾とかの装備品でモンスターとプレイヤーを倒すゲームだ。運営がガンスミスと謳う理由は2つ。まず一つ目は入手出来る武器は全部初期の性能なんだよ。続いて二つ目が手に入れた武器を分解して素材を集める。集めた素材でアタッチメントやパーツを作るのさ。強い武器を入手するには自分で作らなきゃいけないだ」
「だからガンスミスなのか」
「おう! そんでだ悠人、沙耶、一緒にやらねぇか?」
「別にいいけどよ。今金なんて無いぜ?」
「やるのはいいけど、私もゲームを買うお金は無いよ?」
「そう言うと思ったぜ。沙耶は兎も角、悠人お前の場合金があってもそう言うからなぁ」
「おい……」

 悠人は何か言いたげに樹木を睨むが沙耶に落ち着かせられる。

「つー訳で、三つ用意した」
「は?」
「え?」
「はああああ!?」
「えええええ!?」

 悠人はテーブルに身を乗り出し、沙耶は両手で口を押さえる。

「お、お客様。店内での大声は他のお客様のご迷惑になりますのでご遠慮下さい」
「申し訳ありませんでした」
「す、すみません」

 店員に謝り終えた二人は、樹木を見る。樹木は眉をひそめて二人を見返した。

「なんだよ?」
「お前んちって金持ちだったか?」
「ちげーよ。元々GSOは気になっててな。俺も金が無かったから中々ゲット出来なかったからさ」

 ニヤリと樹木は笑い。スマホを悠人達に見せる。

「GSOが景品になってる懸賞ハガキに応募した」
「うっわ、なんだこの枚数」

 スマホにはあり得ないほどのハガキの数が映っていた。

「総数5000枚。懸賞ハガキ10件以上。一日を使った俺の努力は無駄ではなかった」
「控え目に言ってお前バッカだろ」
「天才って意味だろ? 大丈夫、分かってる分かってる」
「ま、せっかく用意してくれたんだ。やろうぜGSO」
「お、やってくれるか。活躍を期待してるぜ? ドラグーンオンライン最強プレイヤー様」

 樹木の言葉に悠人は鼻で笑う。

「ハッ! 最強プレイヤー? 甘いな樹木……俺にはまだ倒さねばならない敵が居る」
「倒さねばならない敵? 居んのかそんな奴」
「ああ、今度ドラグーンオンラインの運営と戦うことになった。勝つぜ俺は」
「お前は遂に運営にも勝負を挑みだしたか」
「そう言っても、運営陣の中から一人だけしか戦わないけど。どうせなら全員でくればいいのになぁ。まぁ、魔改造するらしいから楽しみだ」
「っと、もう夜になっちまうな。帰ろうぜ」
「そうだな」




「さて、やるか」

 悠人はGSOをセットし、VR専用のヘッドギアをセットする。

「楽しみにしてるぜ? GSO……ゲームスタート!」

 一瞬感じる浮遊感に悠人はニヤリと笑った。

『ガンスミスオンラインへようこそ! まず、あなたのニックネームを入力して下さい!』

 真っ暗な部屋に映し出されるウインド。悠人は慣れた手つきでニックネームを入れていく。

「ユウトっと」
『続いてユウトさん、容姿を決めてください』
「容姿? 前と同じでいいだろ」

 手早く設定を終えたユウトは『OK』ボタンを押す。

『それではユウトさんGSOをお楽しみ下さい』

 音声アナウンスが終了した後、大きな文字がユウトの目の前に現れる。

『ようこそ! 銃と爆弾の世界へ!』

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