花岡秀太99 第1弾

000-555

エピローグ

「逃げ足の早いやつだなぁ…」
少年は残念そうに言った。

「まぁ、仕方ない。アイツは裏社会でも、その逃げ足と姑息さで有名だからな」
と、ジョンドゥは何事もなかったように言った。
「しかし良く気づいたな」

「お前の猿芝居には、俺も良く付き合っていたからな。いつ銃撃戦が起こるか分からない状況で、突然の銃の発砲音にお前とあろう者が驚くはずないからな」

「いや、それよりも爆弾の中に強力な煙幕があったことだ」

「妙な印があったからな。凄く変な弾丸のマークが」

「わざとだ、わざと」

「わかったわかった。それはそうと、ウッドもよく気づいたな。二人でそういう話でもしてたのか」

「いや。他人に成り済まし、取り締まり署に完全に溶け込んでいた、あの男を完全に騙すには、話す訳にはいかなかった。下手を打てば俺は既に死んでいたかもしれん」
ウッドは、さも当たり前の如く語った。

「二人とも、騙して済まなかった。けれど、アイツを出し抜きつつ、被害を最小限にするにはこれしかなかったんだ」
ジョンドゥは頭を下げながら言った。

「頭を下げんでくれ。お前と俺の仇でもあるんだからな」
少年はジョンドゥに近づいてから、肩を軽く叩きながら言った。
「それに、旧式の防弾チョッキじゃあ痛かっただろうよ」
しかし、ジョンドゥの綺麗好きを考えると、むしろ血糊で体がベトベトなまま我慢していた方が大変だったかもしれない。実際、タオルでしつこく拭いている。

「俺の仇でもある。アイツには俺の仲間が1人殺されているからな。確かに気の抜けた奴だったが、仲間にとっては良いムードメーカーな奴だったから」
ウッドはどことなく悲しげに話した。詳しい内容については、聞いても何も言いたがらなかった。
「次こそは、俺たちの誰かが、奴を必ず仕止めれば良いんだ」

「ところでアイツは新人か?新人にしてはあまりにも慌てふためいていたが」
少年はいぶかしがりながらメルサを見た。
「まさか、この男も敵…?」

「ち、違います!」
メルサは更に慌てふためいていた。しかも男にしてはかなり声の質が変わっていた。やはりエルフのハーフだと何か違うのだろうか。

「メルサは、イリーガ部長が突然入れたメンバーだ。本来はもっと腕の利く器用な奴を連れてくる予定だったんだ。それがまだ経験も浅いメルサを、期待の新人だとか権力を横暴に振る舞って、無理やりメンバーに押し込んで来たのさ。それからこいつは、女だぞ?」
と、ジョンドゥは少年に説明した。少年は驚き、ウッドは驚かなかったところから、知らなかったのは少年だけのようだった。

しかし女にしても、慌てふためすぎなんじゃあ…
「取り締まり署の学校に入れるようなやつが、なんでこんなに慌ててんだ?」

「こいつの本当の名前はメルサ メルクリウス、て言ったら分かるか?」

「メルクリウスって言ったら、確か大手複合産業の会社の中でも武器とスポーツで有名な…?そりゃあ金と権力を使えば無理やりだが入れるが、それでも何でこんな危険な仕事に?」

「この娘の母親は、顔つきが娘の顔つきがとてもキレイなこともあって娘にとんでもなく甘いが、父親はどちらかというとスパルタな方なんだ。娘が自分の会社の娘にしてはよく慌てるわ泣くわ逃げるわで、鍛え直してもらおうと取り締まり署に入れられたんだ」
ウッドも少年に説明した。
「ただ、実際の仕事をさせる予定なんて、これっぽっちも無かったが…」

「やはりイリーガ部長は密輸屋と関係があったわけだ」
少年は、メルサをじろじろ見ながら言った。
「まったく、ジョンドゥとウッドが有能だったから良かったものの…」

「まぁまぁ、取り締まり署でもう少し鍛えてやるさ。護衛も兼ねてな。」
と、少年がメルサをじろじろ見過ぎていたのを見かねて、間に入りながら少年をなだめた。
流石に恥ずかしがっていたメルサは少し安堵すると同時に、鍛え直すという言葉に酷くぞっとした。

「それじゃあ、全員で取り締まり署の飯屋にでも入りますか」
少年は、あまりしゃべらない普段の少年からは想像がつかないほどに意気揚々としていた。
ウッドとはたまに合うが、ご飯を共にすのは初めてだからだ。

「そうだな、よし!メルサも行くぞ!」
ジョンドゥも意気揚々として言った。

彼らは、後片付けや探索を念入りにしてから、残りの後始末を後からやって来た掃除班に任せて、明かり輝く街へ向かって行った。
全員が去った後には、真っ暗な夜が荒野にたたずんでいた。風はより強くなっていた。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品