花岡秀太99 第1弾

000-555

少年と仕事2

仕事の場所は自宅からは小1時間程しかかからないほどに近かった。
最も、昔の地球上にあった電車に比べて性能も速さも例え旧式であっても段違いであることは確かではあるが。

少年は開始1時間前にはすでに着いており、ジョンドゥからは既に銃と無線機を受け取っていた。
場所は荒野に近いような所ではあったが、少年が受け取った銃はボルトアクションのような昔ながらのガンマン風ではなく、オートマチックのしかも独自の最新AIチップを埋め込まれた現代的な銃であった。

何度か銃を構えることで、もう一度手に慣らしつつ今回の作戦実行班を横目でちらりと見た。
1人は体つきがしっかりしており、顔は強面の黒いひげ面、目の色はブラウンで、いかにも百戦錬磨な感じの人間だった。
もう1人は顔も体も痩せ細っていたが、見た目とは比べものにならないほどの賢そうな雰囲気を匂わせる感じの人間であった。目の色はグレーだった。

最後の1人は…
宇宙人。人間ように見えるが、耳のとがり具合やしゃべり方、全体の見た目からエルフと人間のハーフといった感じであった。
顔立ちはかなり整っていたが、他の2人に比べて決してひ弱という訳ではないが、足を引っ張ってしまいそうな感じであった。

「おう、秀太。相変わらず念入りなこった」
ジョンドゥは関心しながら言った。
「準備するのもいいが、こいつらに挨拶していけよ」

「そうだな、そうさせてもらおう」
「こんばんは、今回、作戦に参加することになった花岡 秀太だ。もしくは、シュウタ ハナオカ…か。ともかく、まぁ、よろしく。」
と、少年は言った。

「あぁ、こちらこそよろしく。俺の名前は
ウッド スモーキーだ。呼び名は何でも良いぞ?」
強面の男は、その顔に似合わない程の笑顔で少年と握手しながら言った。バンダナが少しはためいていた。
彼とは何度か仕事を共にしており、彼の実力と実績の凄さは見に染みて理解している。

「私はロバート フラナガンだ、よろしく。」
細身の男は右手のひじと左足のひざを曲げ、右手を横っ腹につけながら言った。中世の紳士を思わせるような髪が風になびいていた。取り締まり署でもあまり見ない人間だった。

「えっと、よろしくお願いいたします。メルサと申します。」
と頼りなげな男は落ち着きなく言った。

少年は疑問に思った。
この頼りなげな男は何故、取り締まり署に入れたのか、そして何故、このような危険な任務に駆り出されたのか。
はっきりいって、他の2人で事足りるにも関わらず、何故この男は呼び出されたのか。

また、ジョンドゥのような何故か地球好きの変人ならともかくも、かなりまともそうな宇宙人が何故このような田舎で、しかも地球側の取り締まり署に就いたのか。向こうも向こうで人数不足のはずにも関わらずだ。

見た目からして、コイツはもしかして何かを隠しているのだろうか…
と、あれこれ考えている内に突然、発砲音が鳴った。

「予定より早い!」
ジョンドゥはそう言いながら、すぐに銃を構えた。
「仕方ない、手はず通りにいくぞ!」

「了解!」
と、全員が声を揃えて言った。

まず、少年は真っ先に走った。敵のアジトに出来る限り近づいた後、木製の箱や寂れた建物の陰に隠れてから敵の数を数えた。

「こちら秀太、敵の数はざっと10人だな。今のところな、オーバー」

「よし、想定内だ。1人ずつ仕止めていけ。オーバー」

少年の目はギラギラと赤く輝いていた。
まずは1人目の眉間を撃ち抜いた。それに気づいて弾丸を撃ち出す瞬間、敵の弾丸を見抜きながら、全てを慎重かつ素早く避けつつ、次々と撃ち殺した。その圧巻とも言うべき、百発百中の見事な腕前に、敵も味方も思わず感心してしまった。

その後、敵が出てくるのを頃合いに催眠爆弾を次々に投げた。
それに悶えながら、銃を乱発する敵を、すかさず強力な睡眠作用をもつ麻酔銃で首周りに打ち込んだ。

催眠爆弾の中をガスマスクを付けて逃げようとする者達を他の2人が麻酔銃を止めどもなく打ち込んだ。
しかし…

あの頼りなげな男、メルサが緊張のあまりか、興奮のあまりだろうか、いや、弾丸の飛び交う光景の恐ろしさのせいか慌てふためいて前に出過ぎたのである。
しかもガスマスクを付け忘れている…!
とんだ大馬鹿野郎である。

「今だ!」
敵はそう言いながらメルサの腕を曲げ、頭に銃口を向けた。

少年は驚かなかった。これも想定内だからだ。
ジョンドゥと手分けすれば問題ない…はずだった。

ジョンドゥは倒れていた。しかもウッドとロバートがお互いに銃を向け合っていたのだ!

「悪い…、ヘマしちまった…」
ジョンドゥは腹部を抑えながら言った。
どうやらギリギリのところで急所は避けたようだが、あのまま放置していれば死ぬことは十分あり得る出血量だった。

「これは不味いな…」
ウッドは苦虫を潰したような顔で言った。

メルサに対する不満などは感じている暇などは無く、次々と現れる敵が彼らに銃を向けた。
「いやはや、これであの忌々しい男の弟子を殺せるわけだ」
ロバートは口を酷く歪めながら言った。
「あの男にも、そして君にも…私の計画をことごとく潰してくれたお陰で、私の密輸屋としての、いや、裏の商売人としての信用は虫けら程も無くなってね」
嫌味な男は内心怒りを込めて話を続けた。

「しかし、こんな作戦で上手くいくとはね。彼ならこんな作戦、すぐにでも見抜いたダロウに」
男は酷く品の無い笑い声を出し、他の仲間もしたり顔で少年の方に向いていた。全員がガスマスクを着けていた。

「まさか…」
ジョンドゥは悶え苦しみながら言った。

「一度は奴に殺されかけたが、あの地獄から何とか復活出来たのさ」

「そして、生き返った私には新たな能力を身に付けていた。いわゆる変装能力というやつでね。その代わり、一度変装すると元の状態には戻れなくなるが。まぁ君たちを、そして取り締まり署の連中を騙せたのだから軽~い代償さ。」

「そして、お前はもう一度地獄に行く。」
少年は事も無げに、そう答えた。

そして次の瞬間、銃をロバートに向けた。

「ヤメロ!人質が…!」
ロバートは焦った。少年の射撃能力を調べ尽くしたが何故かことごとく、ど真ん中の百発百中だった。
まるで師匠から受け継いだかのような射撃能力を持って、どんな状況をも掻い潜ってきたからだ。

と、思いきやあらぬ方向に弾丸が飛んでいった。
「フゥ、フゥ…馬鹿め…」
何とかロバートは落ち着いた姿勢を見せたが、内心は限りなく慌てふためいていた。

ところが、とてつもない速さの煙幕が突如として現れたのだ!

実は、催眠爆弾の中には、弾丸などの強い刺激によって、普通の煙幕よりも酷く視界の悪くなる煙幕を放つ爆弾が、不発したように思わせた大量の偽の爆弾の中に隠れていたのだ。

少年は、どんな手品や魔法を使った訳でもなく、その爆弾に弾を必中させたのである。

「そんなまさか…!」

そして少年は、煙幕で何も見えないほど視界が悪い中、まず捕まっている男を助けるために敵の仲間を次々と撃った。本来なら、このような煙幕の中で銃を撃つことなどままならないが、彼はどんなに視界が悪くても、どんな状況でも銃を正確に撃つ能力を有していたのだ。
この能力は少年の師匠にはない、彼の元々の射撃の精度と、それに伴う努力が引き起こした能力だった。

更にロバートに銃を向けたが、彼は煙幕の中で仲間を置いてきぼりに、すでに逃げていたのであった。
どうやら、空間ワープの類いの能力も有していた。
おそらくは、その能力こそが彼が元から持つ能力なのだろう。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品