君を失った世界
初めての出会い
ふと気がつけばまた、屋上に居る。
何度、何度もここから落ちれば楽になれると思った。けど自分の中のもう一人の自分がそれはやめろ、といつも囁き私の邪魔をする。いや。私の本心なのか……。
ぼーっと考えつつ、自分の病室に戻り予定表を見る。あと30分で自分の診断……。どうせまた同じ事を言われるのであろう。
「そうですね……。やはり激しい脳に刺激があれば……。」
思わずインコかっ!っとつっこんでしまうのだが、それと同時に、もう治る術はないのか、というのを自覚する。
いやだなぁと思いつつベットに転がる。程よい弾力に昔からいる抱き人形。確かこいつは黄色だったはず……と思いながら病室の天井を見上げる。ここはやはり変わらない。きっと病気になる前も同じ色であっただろう。
もう嫌だ。生きていたくない。そもそも生きている価値はあるのだろうか。
「天乃さーん?天乃日香栞さーん?」
私の考えていたことを即座に飛ばす。ここの看護師さんは妙にカンがいい。
「大丈夫?また変なこと考えてたでしょ。」
「そんなことないですよ。行きましょう。」
またか。なんでそんなにカンが鋭いのか……。
病室を出て、廊下を歩く。
「あのっ……!」
ふと後ろで声が掛かる。私…ではないと思いそのまま歩き続ける。
「ちょ、ちょっと。あの!」
肩を叩かれ私を呼んでいた、ということが分かった。
「…はい?なんですか。」
「あの、これ…落としましたよね……?」
彼が差し出したのは私の持っている唯一の思い出の品であるハンカチだった。
「あ、ありがとうございます。大切なものなので……。」
「ですよねー……渡せて良かった。」
「……へ?」
「へ?」
思わず言われたことに反射的に声が出てしまう。
「え、なんで……分かったんですか?その…大切なものって。」
「だって、ハンカチって半消耗品でしょう?汚くなったら捨てるじゃないですか。それなのにこれはタグがほつれてる。すごく使ってる、ということかなぁと。それに、使ってる筈なのにとてもキレイで。大切にしているものなのかなぁとも。思って。」
「……はぁ。」
思いっきり当てられて、言葉も出なかった。
「……あ!ごめんなさい。また僕……。あの…気を悪くしましたか……?いつもいつもこんなんだから怒られてばっかで……。」
「いえいえ!全くその通りで!驚いただけです。拾ってくださり、ありがとうございました。」
「いえ。それじゃあ、また。」
「はい。それじゃあ。」
不思議な人だったなぁと思いつつ診断室に行く。
このハンカチは……全ての始まりだったのかもしれない。
私が初めておねだりした誕生日プレゼントだった。
今までは自己主張が無く、親に選ばせていた。
今となっては、よく私の欲しいものが分かったなぁと思う。
ハンカチは私が一目惚れしたもので、少し高かった。
親はこんなものでいいのかと言っていたが買って、プレゼントしてくれた。
その日に教わったことが、ハンカチは別れの印、というのだ。
正直、何言ってるんだろうな、と思いながらそのハンカチを使っていた。
ある日、母と父、そして私の3人家族で出かけた。その日は不思議とプレゼントしてもらったハンカチを持っていこうと思った。
なぜ持っていこうと思ったかはわからないが、今となっては、そのハンカチが暗示していたのだと思う。いや、願う。
車で出かけ、高速道路を走る。これから行く動物園は何がいる、とか、お昼は何を食べる、とか、他愛もない会話で盛り上がっていた。
安全運転をしていた。それなのに、母の悲鳴が聞こえ、父の叫び声が聞こえた。
その瞬間、目の前にトラックが突っ込んできた。そして一瞬のうちに目の前が真っ暗になった。
私が目を覚ましたのは今の病室。医者から聞いた中で、変わったことといえば、足と手を骨折、あと頭を打っていた、ということだ。
そしてもう一つ。
── 自分の親が居なくなったということだった。
幼い私はよくわからなかった。しかし親の遺体を見た瞬間、何があったか直感で感じ取った。私は泣き叫び、暴れ、そして転び、頭を打った。
起きたのは一週間後だった。起きた中で、私はただ一人、色のない世界へと連れていかれ、虹の色さえも白黒へとなっていた。
そして現在に至る。
もう慣れたもんだ。自分だけ見ている世界が違うことぐらい。
呆れるほどに、つまらない人生なことに。
                                                         
 ……to be continued.
何度、何度もここから落ちれば楽になれると思った。けど自分の中のもう一人の自分がそれはやめろ、といつも囁き私の邪魔をする。いや。私の本心なのか……。
ぼーっと考えつつ、自分の病室に戻り予定表を見る。あと30分で自分の診断……。どうせまた同じ事を言われるのであろう。
「そうですね……。やはり激しい脳に刺激があれば……。」
思わずインコかっ!っとつっこんでしまうのだが、それと同時に、もう治る術はないのか、というのを自覚する。
いやだなぁと思いつつベットに転がる。程よい弾力に昔からいる抱き人形。確かこいつは黄色だったはず……と思いながら病室の天井を見上げる。ここはやはり変わらない。きっと病気になる前も同じ色であっただろう。
もう嫌だ。生きていたくない。そもそも生きている価値はあるのだろうか。
「天乃さーん?天乃日香栞さーん?」
私の考えていたことを即座に飛ばす。ここの看護師さんは妙にカンがいい。
「大丈夫?また変なこと考えてたでしょ。」
「そんなことないですよ。行きましょう。」
またか。なんでそんなにカンが鋭いのか……。
病室を出て、廊下を歩く。
「あのっ……!」
ふと後ろで声が掛かる。私…ではないと思いそのまま歩き続ける。
「ちょ、ちょっと。あの!」
肩を叩かれ私を呼んでいた、ということが分かった。
「…はい?なんですか。」
「あの、これ…落としましたよね……?」
彼が差し出したのは私の持っている唯一の思い出の品であるハンカチだった。
「あ、ありがとうございます。大切なものなので……。」
「ですよねー……渡せて良かった。」
「……へ?」
「へ?」
思わず言われたことに反射的に声が出てしまう。
「え、なんで……分かったんですか?その…大切なものって。」
「だって、ハンカチって半消耗品でしょう?汚くなったら捨てるじゃないですか。それなのにこれはタグがほつれてる。すごく使ってる、ということかなぁと。それに、使ってる筈なのにとてもキレイで。大切にしているものなのかなぁとも。思って。」
「……はぁ。」
思いっきり当てられて、言葉も出なかった。
「……あ!ごめんなさい。また僕……。あの…気を悪くしましたか……?いつもいつもこんなんだから怒られてばっかで……。」
「いえいえ!全くその通りで!驚いただけです。拾ってくださり、ありがとうございました。」
「いえ。それじゃあ、また。」
「はい。それじゃあ。」
不思議な人だったなぁと思いつつ診断室に行く。
このハンカチは……全ての始まりだったのかもしれない。
私が初めておねだりした誕生日プレゼントだった。
今までは自己主張が無く、親に選ばせていた。
今となっては、よく私の欲しいものが分かったなぁと思う。
ハンカチは私が一目惚れしたもので、少し高かった。
親はこんなものでいいのかと言っていたが買って、プレゼントしてくれた。
その日に教わったことが、ハンカチは別れの印、というのだ。
正直、何言ってるんだろうな、と思いながらそのハンカチを使っていた。
ある日、母と父、そして私の3人家族で出かけた。その日は不思議とプレゼントしてもらったハンカチを持っていこうと思った。
なぜ持っていこうと思ったかはわからないが、今となっては、そのハンカチが暗示していたのだと思う。いや、願う。
車で出かけ、高速道路を走る。これから行く動物園は何がいる、とか、お昼は何を食べる、とか、他愛もない会話で盛り上がっていた。
安全運転をしていた。それなのに、母の悲鳴が聞こえ、父の叫び声が聞こえた。
その瞬間、目の前にトラックが突っ込んできた。そして一瞬のうちに目の前が真っ暗になった。
私が目を覚ましたのは今の病室。医者から聞いた中で、変わったことといえば、足と手を骨折、あと頭を打っていた、ということだ。
そしてもう一つ。
── 自分の親が居なくなったということだった。
幼い私はよくわからなかった。しかし親の遺体を見た瞬間、何があったか直感で感じ取った。私は泣き叫び、暴れ、そして転び、頭を打った。
起きたのは一週間後だった。起きた中で、私はただ一人、色のない世界へと連れていかれ、虹の色さえも白黒へとなっていた。
そして現在に至る。
もう慣れたもんだ。自分だけ見ている世界が違うことぐらい。
呆れるほどに、つまらない人生なことに。
                                                         
 ……to be continued.
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