部活の後輩と付き合ってみた

きりんのつばさ

あ、会いたいです……


今回は森視点です。



宴会場で同期や先輩で楽しくやっているのを尻目に、俺は宴会場を出て合宿先のロビーに向かった。

「さて、出るか……一応事前に連絡はしたしな……」

俺はスマホで電話をかけていた。
勿論相手は彼女の江國凛子だ。
合宿中は会えないので毎日夜に電話するようにしていた。
……なんせ国木田先輩や織田達のカップルを嫌でも見なきゃいけねぇのだから、凛子に電話でもしないとストレス溜まりまくる。

「--もしもし?」

数コールの内、凛子が電話に出た。

「あっ、凛子。こんばんわ」

「先輩、こんばんわです」

「そっちはどうだ?」

「私の方は普段通り家でゴロゴロしていますね。布団に包まってゲームしてました……」

「羨ましいな……毎日先輩に起こされて……地獄だったが!!
今日でその苦行が終わったんだ……」

国木田先輩が来るまでは織田が、それ以降は国木田先輩が俺を起こしていたのだが、あの人俺を起こす際に本当に容赦ない。

「……なんか当たり前の事をしているようが気がするのですが」

「だよな……最近凛子が俺に冷たい……ヨヨヨ」

「す、すみません……つい調子に乗ってしまって……」

とこっちは冗談で言っていたのに凛子は本気にとらえてしまったらしい。

「いいって気にしてないから、冗談だって冗談」

「えっ……冗談だったんですか? 先輩のイジワル……です」

ちょっと拗ねた口調で言ってくる凛子。

「悪い悪いって」

「もぅ……しょうがないですね……あっ、ちなみに七海はどうしてますか?」

「平塚? あいつは酔っぱらって国木田先輩に介抱されている最中だな……先輩が膝枕で平塚を寝かしている」

最初は与謝野に抱きしめられていたのだが、抜け出した後近くにあった飲み物を飲んだのだがそれが運が悪く日本酒だった。平塚はあまり酒に強くなく飲むとすぐ酔っ払い国木田先輩に絡み始め、数分間先輩に絡んだあといきなりスイッチが切れたかのように寝た。

「……私の同期が迷惑をかけてしまい申し訳ございません。
次会ったら軽く説教しておきますね……!!」

「程々にしてやれよ……?」

「えぇ程々に怒ります、たまに縁を切ろうかと思いますよ。全く……」

「と言っても凛子はなんやかんやで平塚を最後まで見捨てないだろ」

「え、えぇ……まぁ数少ない……1人しかいない友達なんで……」

「やめてくれ凛子……友達が“数少ない”とか“1人しかいない”なんて俺にも刺さるから……」

俺と凛子はお互いコミュ障のため、友達がいない。
なんせ高校の文化祭の時、お互いに図書館で1人でいたというところまで同じだ。
凛子にとって話す相手が平塚ぐらいしかいないのと同じように、俺が話せるのは国木田先輩や織田ぐらいしかいない。
……自分で言って悲しくなるなぁ本当。

「ご、ごめんなさい……配慮が足りなくて……」

「い、いや良いって……コミュ力が無かった俺が悪いからな……就活やれるかな俺……」

樋口先輩や織田、与謝野は人付き合いが上手いから楽だろうな……。
国木田先輩は周りをしっかり見ているからいいだろうけど……俺はどうしようかな?

「それを言ったら私もそうですよ……」

「「はぁ……」」

お互い同じタイミングでため息をついてしまった。



それからしばらくは凛子と雑談をしていた。

「先輩はご実家に戻りますか?」

「どうしようか……一応合宿前に帰ったからな……」

俺の実家は少々特殊な家のため、戻ると色々と面倒な事が多い。
……まぁそれでも10何年自分が住んでいた家なので帰ると落ち着く。
一応合宿前に一週間ほど戻っていた。

「とりあえず合宿戻ったら考えるか……」

下宿先から実家までは新幹線で1時間

「そうですね。ごゆっくり考えてください」

「あっ、じゃあ凛子」

ふと頭の中でとある考えが思いついた。

「何ですか?」

「なんなら俺の実家来る?」

「……えっ?」

「いや面倒だけど凛子がいたら楽しそうだなって思ってな。
ーーまぁ冗談なんだけどな~」

「……明日正装買ってきます」

「ちょい!?」

あっ、これデジャブ感じるぞ……。

「ふと今考えたら……私まともな正装を持っていない事に気づきました……!!
ーーこれだと先輩のご両親に顔向け出来ません!!」

「いやいや冗談だからな!? 本気で捉えなくていいからな!?
そして毎回の如く落ち着いて!?」

「ど、どうしましょう!? 先輩のご両親に顔向けできません!!」

「落ち着けって!! まず俺の両親は俺が彼女を連れてくるなんて信じないだろうし……
というか実家に一緒に戻るのが冗談だからな!?」

「え……冗談?
ーーワタシアソビダッタンデスネ……?」

毎回恒例、闇落ち凛子登場。

「怖い!? 声のトーンがマジだって!!」

「ダイジョウブ……ユウキセンパイハズットワタシノモノ……ウヘヘ」

「なんか今刃物研いでないよな!?
さっきから“シャッ、シャッ”って刃物を研ぐ音がしているんですが!?」

電話越しでもあの音は結構恐怖……というよりも音しか聞こえないから余計に恐怖心を煽ってくる。

「な、なぁ凛子さんや……」

「ハイナンデショウカ」

「俺明日帰るんだけど……明日会う?」

何かで聞いた事があるが謝罪は早い方がいいらしい。
明日は昼前に出れるから凛子の家の家には夕方に着くだろう。

「アシタ……明日!? 明日ですか!?」

「お、おう明日だが……」

「何も用事ありません!? あっても忘れた事にします!!」

……この子、意見がたまに極端な事もある。
いや、たまにはじゃないな。

「いやそれは駄目だろう……で、明日会おうか?」

「は、はい!! あ、会いたいです……」

「おっけ、じゃあ明日はーー」

「じ、じゃあ明日私、先輩の家に行きます!!」

凛子の口から驚愕の発言が飛び出してきた。

「お、俺の家……!?」

「は、はい……合宿帰りの先輩疲れてるでしょうから、私が先輩の家に行った方が先輩が楽だと思うのですが……」

「俺は助かるけど……凛子は大丈夫か?」

「私はそんなに疲れてませんし……つ、疲れている先輩のために何かしたいと思いまして……私が明日手作りの料理を作ってあ、あげますっ!! そして色々とお、お世話しますね!!」

「マジで!? すげぇ助かる!!」

愛しの彼女の手作り料理なんてそうそう食べれるもんじゃない。
……今からテンション上がってきた。
そして凛子が“お世話”してくれるのか……!!
べ、別に変な事を想像してないからな!?

「じ、じゃあ明日何時ごろに先輩の最寄の駅に着きますか……?」

「大体3時ぐらいだな……もっと早く着くよう努力する……」

宿を出て昼飯を抜きにして急いで電車に乗れば、もっと早く着きそうだ。

「わ、分かりました……では私もそれぐらいの時間で行きますね……」

「お、おう……じゃあ明日は頼むわ……」

と俺は電話を切った。


「よしゃぁーー!! 明日楽しみになってきた!!」

俺は1人ロビーで叫ぶのであった。



ショートストーリー~国木田と織田~

「よしゃぁーー!! 明日楽しみになってきた!!」

森がロビーで叫んでいるを僕と織田は隠れながら見ていた。

「……喜んでますね森」

「明日、凛子さんでも会うんじゃないのかな?」

「でしょうね。明日早めに解散しますか」

「それは君が決めていいよ。
ーーまぁ君も与謝野さんとデートしたいからだろ?」

「バレましたか? まぁせっかくですから。
先輩も同じですよね?」

「……七海は明日多分二日酔いで背負って帰ることになるかな」

「……ご愁傷様です」

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