桃色教師

長月美波

屑高校での日常

階段を上り屋上へ行く。生徒は立ち入り禁止だか、教師は特別だ。タバコを吸う時は屋上に限る。屋上でタバコをふかしているときが一番落ち着く。生徒に邪魔されず、誰にも干渉されないこの時間が一番好きだった。だから、禁煙も長続きしない。体に悪そうな煙を肺いっぱい吸って、ゆっくり吐き出す。ついでに腹に溜まった生徒に対するイラつきも吐き出してしまう。そうすれば、生徒に怒鳴り散らすこともないし、手を出すこともないだろう。もし、手を出してしまったら、俺の教師人生は終わってしまうし、社会的にも死ぬ。まだ死ぬには早い。まだ、死んではいけない。俺はそう思っている。
 俺が勤める学校のテストは前期後期制で、四回しかテストが無い。テスト範囲が広くなるから、時間的に難しい問題は出せないし、出したところで答えれる奴はいない。この学校は、阿呆で有名で、不良が通う屑高校で男子校だ。五十分のテストで解ける問題は二問もない。授業は聞かない、家でも勉強しない。放課後は、夜の街に出て補導される。親も親だから、俺が迎えに行かなければならない。この間なんて、警察官に大変ですね、と同情されたほどだ。教師だから指導をしなければならない。生徒に話しかける。全てを無視する屑虫になんで俺は説教をしているのだ。こんな奴に何を言っても通じるわけがない。日本語も分かっているか怪しい。そんなことを思っていると屑虫の家についた。親に一言いっておく。それが教師の業務の一つだからだ。インターフォンをおす。出てきた親は、十七歳の息子がいる母親とは思えないほど若かった。まだ、三十代前半だろう。ろくな奴でない。俺は心の中で舌打ちをした。
「お母さん、息子さんまた補導されたのですが。」
いつも通りの言葉を投げかける。
「だから?」
「いや、補導されたのです。分かりますか?補導されることの意味。夜は、未成年は出歩いては行けないのですよ。分かります?」
「…うるさいな。あんたに言われたくないのよ。毎回毎回、家まで来て何がしたいの?」
まただ。また始まった。俺にあたってくる。息子のしたことの責任を取らず、ただ頭ごなしに俺にキレてくる。ムカつく。ムカつく。ムカつく。俺は、ただ送りに来ただけだ。そして、教師になった時に貰ったマニュアル通りに言葉を発しているだけだ。屑虫量産機のお前みたいに夜の店や風俗で働くほど落ちぶれていないのだ。ああ。ムカつく、ムカつく、ムカつく。殴って、蹴って、叩きつけて、壁に押し付けて、犯して、殺してやりたい。
「とにかく、息子さんをしっかり見てあげてください。今後二度とこのような事がないようよろしく頼みたい。」
俺は、黒のトレンチコートを翻してアパートの階段を降りた。

 次の日、俺は校長に呼び出された。昨日のムカつく女から苦情の電話があったそうだ。くそが。何故俺は校長に呼ばれ、同情しながらもさらなる高みを目指せと言われなければならない。校長は、俺が担当するクラスにいる生徒の屑っぷりを知らない。知っていたら、こんなことは言えない。俺だけに無茶振りを押し付けてくる。お前になら出来る、いやお前にしか出来ないと言う。俺にも出来ることと出来ないことがある。クラスのさらなる高みを云々なんて出来っこない。お前は、分かっていない。分かっていたら、そんなことは言えやしないはずだ。
一時間ほどの説教をうけ、開放された俺は屋上に向かった。タバコが吸いたい。いつもは一本にしているが今日は二本吸っても罰は当たらないだろう。神もきっと見逃してくれる。屋上に設置されているベンチに腰掛け、一本目を口にくわえて、ポケットの中のライターを探す。今日は、朝から災難だな。イラつくな。ムカつく。ああ。もう、俺に迷惑かける奴全員死ねば良いのに。俺は平穏な人生を過ごしたいのに。ただ、平和に暮らしたいだけなのに。ライターで火をつけたタバコをふかし、自然環境をぶち壊しそうな煙を量産しながら考える。あいつら、消してしまおうか。殺したら、俺は平穏な人生を過ごせるだろうか。殺すなら苦しみを与えながらじわじわと長い時間をかけてやりたいな。臓器を全て出してアルコール漬けにしようかな。一人ずつ違う殺し方を実践したいな。殺す方法を考えている内に一本目のタバコが限界まで来ていた。いけない、いけない。二本目にいこう。その時チャイムの音が鳴り響いた。ムカつく。吸いたいのに。俺はイラつきながらも二本目のタバコをしまい、次の誰も聞かない授業をしに教室へ向かった。

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