異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~
Ex2-2 明日は血の雨が降る日
1人が受け入れてしまえば、あとは雪崩れるように全員が受け入れていった。
集団心理とは恐ろしいもので、カニバリズムすら許容されてしまうのだ。
仕方ない、臭みのある野生の肉よりはよほど美味かったし、それに簡単に手に入るのだから。
最初の頃は、女はただの食料として消費されていった。
やがて食事を楽しむ余裕が出てきたのか、調理の前に女を嬲るようになった。
それは徐々にエスカレートしていき、いつしか食事よりも、女が苦しみ絶叫する姿を楽しむようになっていった。
「人間とは所詮この程度の生物に過ぎない。自分が同じ次元で生きていることが恥ずかしくなってくるよ」
火に炙られる女を木槍で突きながら笑う男たちを見て、アレクサンダーはひとりごちた。
彼は宴から少し離れた場所で、野生動物の肉で作った干し肉をかじりながら、何かをノートに記している。
「まあしかし、やっていることはさほど変わらんか。そもそも、共食いを禁忌とする動物の方が少ないのだからな」
果たしてそれを罪とすることは、自然の摂理の観点から見て正しいことなのか。
皮を剥いで焼けば獣肉と何も変わらない。
塩コショウでもかけてみろ、それだけで野生動物よりも臭みの無い上等な食材に早変わりだ。
心臓は歯ごたえが良いと特に人気の部位だったし、他の臓器もクセはあるが美味ではないか。
狩られる対象が野生の動物から人間に変わっただけで、強者が弱者を屠るというルールは何も変わっちゃいない。
「それでも醜いと感じてしまうのは、私の方が人間という種に縛られている証拠なのか? くふふふふ……」
どのみち、アレクサンダーにとってはどうでもいいことだった。
”素材”が手に入りさえすれば、それだけで。
◆◆◆
半吸血鬼の力って、本当に便利なんです。
例えば、体を影に溶け込ませ、その中を移動していけば、大陸のどこであろうと数分程度で到達することが出来ます。
もっとも、そのような芸当が出来るのは、高い魔力を備える一部の半吸血鬼のみのようで。
そうではないリーナは、私とレイアの手を借りなければなりません。
「ううぅ、頭が痛いぃ……」
そしてその結果、まさか彼女が車酔いと似た症状を訴えるとは、想像もしていませんでした。
自分ではあまり感じないのですが、客観的に見てみると案外荒っぽい移動方法なのかもしれませんね。
「大丈夫? 水……飲む?」
「レイアがちゅーしてくれたら治るかも……」
両手を広げながら甘えるリーナ。
「もう、仕方ないなあ……んっ」
そう言いながらも、レイアは割と嬉しそうにキスをしていました。
こんな見知らぬ森の中でも仲のいい2人に若干置いてけぼりにされつつも、私は気になっていたことを彼女たちに問いかけます。
「メアリーとフォスは置いてきても良かったんですか?」
彼女たちの娘2人は、ラライラライに預けたままです。
確かに様子を見た限りでは特に問題は無さそうでしたが――
「さすがに怪我人が出ているような場所に連れてくるわけにはいかないからね」
「チグサ様が居れば、問題は無いと思うけど……念には念を入れたの」
どうやら2人とも、ラライラライの育児に関しては心配していないようです。
彼女たちが大丈夫だというのなら、それを信じるしかありません。
さて、私たちはそこから移動し、怪我人がいるという近くの村を目指しました。
影での移動は確かに早いのですが、大雑把な場所指定しか出来ないのが困ったものです。
生い茂った木々をかき分けながら進み、30分ほど移動して――ようやく、私たちは目的地までたどり着きました。
現在、この村に住んでいる半吸血鬼は10名ほどだそうです。
元々過疎が進んでいたそうですから、さらに都会に出ていった者を差し引くと、それぐらいしか残らなかったそうで。
なので現状、この村のほとんどの家屋は使われていません。
ゴーストタウンと化した町並みを進み、私たちは最も大きな――おそらく集会所として使われていたであろう建物へと足を踏み入れました。
「もしかして、チグサ様……ですか?」
すると玄関からすぐの場所で、水の張った桶を持った女性と鉢合わせます。
長い金色の髪に、高めの身長、スラッとしたスタイル。
いわゆる美人系の女性でした。
初対面の相手なのですが、私が千草であるということは何となくわかってしまうようで。
直接吸血しなくとも、血や魂は繋がっているのだと実感させられます。
「ええ、お察しの通り私が千草ですよ」
「ほ、ほんとに来てくれるなんて……夢みた――あっ」
バシャッ!
喜びを抑えきれなかった彼女の手から桶が落ち、廊下を水浸しにしました。
しっかりしてそうだと思ったんですけどね、案外抜けてるところがあるのかもしれません。
「大丈夫ですか?」
「ご、ごめんなさいっ! すぐに片付けますから!」
布巾でも取りに行くつもりなのか、慌ててどこかへ走り去ろうとする女性。
私は床を真っ黒な影で覆い、その中に床を濡らす水を飲み込みました。
よし、これで綺麗になったはずです。
「一瞬で無くなっちゃった……これが”影”……」
このリアクションを見るに、村には魔力を持つ者は誰も住んでいないようですね。
とは言え、魅了される時に影自体は見ているはずなんですが、一瞬だから覚えていないんでしょうか。
「怪我人が居ると聞きましたが、この先ですか?」
「は、はい! すぐに案内しますね!」
慌てた彼女は転げそうになりながら、私たちを建物の奥へと案内してくれました。
そして怪我人が休んでいる部屋に入るなり、「みんな、チグサ様が来てくれたよ!」と大きな声で言います。
すると、部屋に居た全員の視線がこちらに向きました。
ベッドで寝ている2人を合わせるとちょうど6人……どうやら、村に住む半数以上がここに集合しているようです。
私は真っ先に一番近くのベッドに横たわっている少女に歩み寄りました。
少女は苦しそうに顔を歪めています。
上にかかっているシーツを退けると、右手と右足が欠損していました。
「これは……」
「人間の集落に向かう洞窟の前に、女の人が何人も立ってたんです。その人たちが、手から光の帯みたいなものを飛ばしてきて、触れたらこんな風に……」
「光の魔法ですか。自然治癒も阻害されているようですね。何はともあれ、まずは治療します、レイアは他の子をお願いしますね」
「うん、わかった」
「ボクはどうしたらいい?」
「怪我人の手でも握って励ましてあげてください」
「わかった、頑張って励ます!」
実を言うと、リーナを連れてくる必要は無かったんですよね。
特別魔力を持っているわけでもありませんし。
それでも連れてきたのは、私がたまには彼女たちと過ごしてみたいから、でしょうか。
私は怪我人に更に近づくと、手をかざし、影で肉体を補っていきます。
切断された手足はもう無いようですから、新しく作ってやるしかありません。
まあ、半吸血鬼の体なら影との親和性も高いはずですから、そっくりそのまま、以前の形を再現してやれば機能は取り戻すでしょう。
レイアも同様に、影を操り傷を埋めているようです。
そしてリーナは、私の指示通りに怪我人の手を握って応援していました。
「本当に、あっという間に治っちゃうんだ……」
治療の様子を眺めていた女性は、少し暗い声で言いました。
自分の力では何も出来なかったのが悔しかったのでしょう。
「あなたがたが今日まで必死で治療していなければ、そして私たちを呼んでいなければ、とっくに死んでいたかもしれません」
「チグサ様……」
「落ち込む前に、自分たちがやったことに胸を張るべきだと思いますよ」
「は、はいっ!」
私らしくないなと思いつつも、笑顔を浮かべる彼女を見て、だったらいいのかな、と納得することにしました。
正直、かなり気恥ずかしいですけども。
「チグサ様、顔赤くなってるよ。結構可愛いとこあるんだね」
ここぞとばかりにリーナが近づいてきて、私に耳打ちしました。
「うるさいですよ、リーナ」
「へへへ……っていったぁ!?」
あまりこういう反撃はしたくないのですが。
つま先をかかとで踏みつけると、彼女はようやく凝りたようです。
「しかし、この傷跡……只者ではありませんね」
レイアやセインツと同等の魔法使いが居るんでしょうか。
しかも、複数人も。
「体の動きも人間離れしてるんです。爪で切ろうとしても弾かれて、あんな人間が居るんでしょうか?」
体術も優れていて、爪も弾かれる。
そんな優秀な人間が、都合よくこんな場所に生き残っているものでしょうか。
全員が女性という部分も気になりますね。
「もしかしたら……」
「ん? レイア、もしかして何か知ってるのかい?」
「具体的に何かってわけじゃないけど……ゴーレムの一種、かもしれない」
「ゴーレム?」
私は思わず聞き返してしまいました。
名前を聞いたことがないわけではありません。
ゲームなんかによく出てくる、石の怪物でしたっけ。
「魔力で動く、人形のことだよ」
「ですが、女性の形をしているんですよね?」
「生き残ってる人間たちは、私たちが女性の命を不用意に奪わない事を知っているはずだから……抵抗感を抱かせるために、そういう形に、したんじゃないかな」
「……小賢しいですね」
少しイラッとします。
「でも、まだ確実は言えないけど。実物を見ないと何とも……」
「わかりました、それじゃあ捕まえて来ます」
「わかった、私も……って、あれ? チグサ様?」
戸惑うレイアには申し訳ないですが、手早く済ませるなら、1人で十分でしょう。
私は影の中に姿を消すと、単独で件の洞窟へと向かいました。
◇◇◇
目的地にたどり着いた私は、影に溶け込んだ状態で洞窟を観察します。
確かに、門番のように女性が4人立っていますね。
それにしても本当に、あれが人形なのだとしたら、本物と見紛うほどに精巧です。
相当に腕のいい職人さんが集落には居るのでしょう。
ただ気になるのは――あのどう見ても人間の肌にしか見えない表面の質感を、どう再現したのか、ですが。
まあ、あの程度の相手なら警戒する必要も無いでしょう。
私は影から堂々と姿を表し、門番たちに近づいていきました。
こちらの姿を捉えると、彼女たちは同時に私の方を見つめます。
その動きは機械そのもの、やはり人形で間違いないようですね。
「はっ!」
先手を取られる前に急速接近、私は長く伸ばした鋭い爪で斬りかかりました。
すると――
バヂィッ!
話に聞いていた通り、爪は弾かれてしまいます。
ぴりぴりと痺れる指先。
バリアでも張っているみたいですね。
接近した私に、人形たちは一斉に襲い掛かってきます。
まず一番近い人形が伸ばした腕を後退し避け、側方からの攻撃は逆に掴んで投げ飛ばしてやり過ごす。
飛ばされた人形は地面にぶつかる直前にバランスを取り、見事着地してみせました。
思わず10点をあげたくなります。
しかし見惚れている暇はありません、続いてさらに別の人形が、こちらに向けて光の帯を飛ばしてきました。
これが体を欠損させた魔法ですか。
いや――魔法と言うよりビームと言った方が近いですね。
これは体を後ろに仰け反らせて回避。
そして4体目は、そんな私に向けて空高く跳躍、高度を利用して真上から落下してきます。
ズドン、と人形の拳は地面を穿ちました。
私はさらに後方に体重を傾け、バク転しながらそれを避けてみせます。
そして再び人形たちと向き合うと、影の糸を複数飛ばして捕縛を試みました。
しかし、影は彼女たちに触れる前に、霧散してしまいました。
「半吸血鬼対策はばっちりというわけですか。周到ですね、だからこそ今日まで生き残れたんでしょうけど」
人形たちの無機質な眼球が、こちらを不気味に見つめています。
まるで勝利を誇るかのような視線に、私は思わず苦笑してしまいました。
この程度で――まだウォーミングアップだって終わっていないと言うのに。
そして人形たちは、トドメと言わんばかりに2体が私に向かって魔法を放ち、残り2体は逃げ道を塞ぐように飛びかかって来ました。
私は手を前方にかざし、軽く意識を集中させました。
すると背後に生じた影から、先ほどとは比べ物にならないほど濃い”黒”の糸が伸び、人形たちへ向かっていきます。
先ほどと同じように触れる前に消えると判断したのでしょう、人形たちの動きに変わりはありません。
しかし、それはさっきのとはまるで違う。
ドスッ!
影はあっさりと人形の腹部に突き刺さり、貫通してしまいました。
そして内側から細い糸を血管のように全身に伸ばしていき、魔力のめぐりをせき止めます。
すると、人形たちからはがくりと力が抜け、動かなくなりました。
私は3体の人形を影に沈め持ち帰る準備をし、残り1体を私の傍まで近づけて、その表面に手を伸ばします。
さらさらした、滑らかな肌の感触。
もちろん体温はありませんが、間違いありません。これは――
「人間の皮、ですか。しかも生きた人間の――こんな物を作るために命を無駄にするなんて」
なんて醜い所業。
洞窟の向こうから漂ってくる嫌な匂いも含めて、おそらく彼らは、許されない事をしているのだろうと、この時点で察しがついてしまいました。
本当なら今すぐにでも潰してしまいたい所ですが、一旦退いておきましょう。
レイアたちが待っているでしょうから。
私は人形の最後の1体も影に沈めると、自らもその中に沈み込み、村へと戻っていきました。
……どうやって集落の人間たちを嬲るか、そればかりを考えながら。
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