異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~
39 正しさの10割は詭弁で出来ている
ラライラライは、自分こそが聖女であるという自覚があった。
なぜなら自分は誰よりも深い愛情を持ち、実際に初対面の相手だったとしても、無条件で愛することが出来るからだ。
そして彼女の愛は、基本的に拒まれることはない。
それはラライラライが男性にとって理想的な肉体を持ち、心には女性でもぐらりと来てしまうような母性を宿しているからなのだが――
どういうわけだか、アーシェラとだけは上手くいかなかった。
なぜ彼女は、自分の愛を拒絶するだけでなく、完全に否定するのか。
今までは力が拮抗していたから、自分の愛を信じることが出来た。
だが今回は、敗北してしまった。
「わたくしの愛が間違っていたとでも言うのでしょうか」
先日の喧嘩以降、ラライラライはずっとそれを考えていた。
正しいはずなのに、否定するアーシェラがなぜ勝利出来たのか。
だがどんなに考えても、結論は1つしか出てこない。
「愛を知らないからですわ、可哀想なアーシェラ」
ラライラライは呟く。
――だから、そういうてめえが嫌いなんだよ。
そんなアーシェラの愚痴が聞こえてきそうだ。
「一度抱き合えば分かり合えると言うのに、どうにかして一晩だけでも体を預けてくれるといいのですが……」
そう言って、両手でカップを掴んでお茶を啜る。
このハーブティーを飲んでいると、体がぽかぽかと温まるそうだ。
体温を高めに保っておくのは、男性を喜ばせる秘訣の1つらしい。
とは言え、現在彼女が想定している相手は女性なのだが。
「ラライラライ、居るか?」
噂をすればなんとやら、というやつなのだろうか。
ちょうど彼女のことを考えていた時に、ドアの向こうからアーシェラの声が聞こえてきた。
ラライラライは運命を感じずには居られなかった。
「居ますよ、すぐ開けますねっ」
そう返事すると、ドアに駆け寄って開き、満面の笑みで彼女を迎える。
アーシェラはきっとしかめっ面をしているだろうと予想していたから、ならばせめて自分だけでも、といつもよりも少しオーバーな笑顔だった。
だが予想に反して、姿を見せた彼女は温和な表情をしている、機嫌も悪く無さそうだ。
「すまないな、急に来たりして」
その第一声に、ラライラライは強烈な違和感を覚えた。
彼女の記憶が正しければ、アーシェラから謝罪の言葉を向けられたのは、これが初めてだったからだ。
それに、微笑みかけられることだって。
これは相当に良い事があったに違いない。
今の彼女になら、ひょっとすると、自分の愛を伝えることが出来るかもしれない。
ラライラライはそんな希望を抱き始めていた。
「気にしないでください、むしろアーシェラが来てくれて嬉しいぐらいですわ」
「そりゃよかった」
「すぐにお茶を煎れますから、座って待っててください」
ポットの方に向かいながらラライラライは言った。
アーシェラはそんな彼女の背中に近づくと、両手を広げ――優しく抱きしめる。
「……アーシェラ?」
「お茶とかいいからさ、今日はラライラライに頼みたいことがあるんだ」
「何を、ですか?」
「今まで、あたいとあんたは喧嘩ばっかりしてきた。きっとそれは、お互いに思う”愛”の概念がすれ違ってたからだと思うんだ」
そこまで聞いた時点で、アーシェラが何を望んでいるのかはすぐにわかった。
だからラライラライの肉体は彼女を受け入れる準備を始める。
体は火照り、肌が微かに紅色に染まり、湿り気を帯びていく。
「きっと理解し合えば、あたいたちは本当の仲間になれる」
「アーシェラ……わたくし、ずっとその言葉を待っていましたわ」
2人は首を傾け、唇を触れ合わせた。
ほどなくして互いに舌を絡めさせ、鼻がかった声で鳴きはじめる。
さらにアーシェラの手が服越しに体を這うと、ラライラライは躍るように腰をくねらせた。
「あ、はぁ……想像していた通り、とても情熱的ですのね」
「あたいを想像して何をしてたんだか」
「そんなの決まっていますわ。あの戦いの後、どうして部屋から出てこなかったのか教えて差し上げましょうか?」
「言われなくたってわかってるよ。だってこの部屋、ラライラライの匂いで満たされてるから」
「……換気しますか?」
「何弱気になってんだか。悪くない匂いだ、嗅いでるだけでどんどんあんたの体が欲しくなってくる」
「きゃっ!?」
アーシェラがラライラライの体をお姫様抱っこで持ち上げる。
「意外と可愛い声出すんだな」
言われた方は目を反らしながら、すねたように口を尖らせる。
そんな状況を見かねたアーシェラが、ご機嫌を取ろうとまた唇を寄せた。
今度は舌は絡めずに、ついばむように口づけを繰り返す。
そして5度ほどキスが降り注ぐと、我慢しきれずにラライラライも自ら口を近づけ、また深くぬめる舌を絡めあった。
必死で互いの体液を交わらせながらベッドまで移動する。
優しく柔らかな布団の上に寝かされたラライラライは、アーシェラの欲求を察し、無防備に体を晒した。
「お好きにどうぞ、アーシェラ」
「話が早くて助かるよ」
アーシェラは彼女の胸元に手を伸ばすと、荒々しく服を剥ぎ取る。
それからしばらくの間、部屋からは2人の甘い声が漏れ出していた。
◇◇◇
事を終えたアーシェラとラライラライは――と言ってもまだアーシェラの方は満足していなかったが――汗を流すためシャワールームへとやって来た。
もちろん、使うのは一部屋だけだ。
狭い個室に体を密着させながら入り込み、抱き合い、本来の目的も忘れて激しく唇を重ねる。
肝心の肢体は擦りガラスに遮られて見えないが、誰かがシャワールームに入った来たら、口の隙間から漏れる水音と喘ぎ声ですぐに2人の関係はバレてしまうだろう。
もっとも、それを気にするラライラライではないし、人間をやめたアーシェラもそのようなモラルは持ち合わせていなかったが。
「んちゅ、ちゅぅ……はふっ、れちゅ……っ」
「じゅるっ、ちゅ……んんっ、ぅ、は……ふ、んくっ」
「ふはぁっ! ん……あぁ……はぁ……ねえ、アーシェラ……」
「どうしたの、あたいはまだし足りないんだけど」
「待って、わたくしはもう限界ですわ」
「えぇ? 男を相手にしてた時は、何日ぶっ通しでも平気な顔をしてたくせにね」
騎士なだけあって、2人の体力は底なしだ。
それは男女間の情事においても遺憾なく発揮された。
だが今の彼女はどうだ、ただキスをされただけで顔を真っ赤にして、息を切らしているではないか。
「もしかして、あたいとするのは嫌だったとか?」
アーシェラが意地悪に耳元でそう囁く。
「ち、違いますっ! それだけはありませんわ! 喧嘩ばかりしていたアーシェラと愛し合えるだなんて、今日ほど嬉しい日はありませんでしたもの!」
「だったらどうして?」
「それが……わたくしにもわからなくて。どういうわけか、アーシェラ相手だといつものように行かないのです」
「……じゃ、仕方ないな。今日の所はここまでってことで。続きは明日にしよっか」
「明日も、するのですか?」
「嫌か?」
問いかけに、ラライラライはふるふると首を左右に振る。
場馴れしているはずの彼女らしくない仕草に、アーシェラは口元に手を当ててくすりと笑った。
◇◇◇
「それで、今日は私の部屋に来たんだ」
「そうじゃなくても来るつもりだったんだよ。言ったろ? あたいはもう、ミヤコ無しじゃ生きていけないって」
ここは都の自室。
一兵士と言うことになっている彼女に、本来自室なるものは与えられないはずなのだが、現在城の全てを掌握している千草の計らいによってプライベートのスペースが与えられている。
贔屓というわけではなく、騎士を堕とす時に必要になるかもしれない、という判断だ。
ラライラライと別れたアーシェラは、すぐさまこの部屋にやってきて、都に抱きついた。
朝から夕方まで続けて別の女性と体を重ねておいて、まだまだ”足りない”と主張している。
「アーシェラが積極的すぎて、私の体が持たないかもー」
「嘘つけ、色んな女の匂いプンプンさせておいて何言ってんだか」
「あ、バレた? 昼も楽しかったよ、ラライラライが堕ちたら一緒にアーシェラも来なよ」
「ああ、そうするよ」
ベッドに腰掛ける都と、その膝の上に、向かい合う形で座るアーシェラ。
彼女は都を見下ろしながら、じっと見つめ合う。
赤い視線が絡み合い、2人の気分は高まっていく。
自然と顔が近づき、艶やかな紅色のリップを押し付け合った。
ラライラライの時とは違い、最初はゆったりと唇をこすり合わせ、次は少しだけ舌を突き出して、先端を触れ合わせる。
まるで恋人同士がじゃれあうように、焦れったさを楽しみながら、少しずつ交合は深まっていった。
位置はアーシェラの方が上、つまり分泌された唾液は、自然と都の方へと流れ込んでいく。
舌を伝って注がれる愛おしい人の体液を、都はじっくりと味わって、転がしてから、少しずつ嚥下した。
甘くて、まずい薬物でも使ったみたいにくらくらする、体が熱い。
それを自分だけが味わうのは忍びないので、あとで場所を変えてアーシェラにも楽しんでもらおう、都はそう決意した。
けど今は、されるがまま、ネコの状態を楽しむ。
「あふ……ん、ぺちゃ……はぷ……ん、んー……っ」
最後に軽くアーシェラの舌を吸うと、2人は”ちゅぱっ”と音を出しながら唇を離した。
「今日はゆったりいちゃいちゃな気分?」
「激しいのはラライラライで満喫したからな」
「そっかあ、激しかったんだ。確かに、口の中にもいつものアーシェラ以外が混じってたもんね、あれがラライラライの味なんだ」
都は唇に人差し指を当てながら、うっとりと言った。
「間接的にじゃなくて、都だって直接味わったらいいだろ?」
「まだ早いよ、そこまで魅了は進んでないんでしょ?」
「まあな、でもあっという間だと思うし――」
「思うし?」
「たぶん、面白いものが見れるんじゃないかな」
今日、ラライラライはアーシェラと体を重ねるたびに、羞恥心を強くしていった。
彼女自身、そのことに戸惑っていたようで、シャワールームでのやり取りがぎこちなかったのはその影響だろう。
なぜ後になるほど恥じらったのか。
それはおそらく――アーシェラによる魅了が進行したからだ、と思われる。
「ま、楽しみにしててくれよ」
「うん、ラライラライのことも、今からアーシェラが私にどんなことをしてくれるのかも、楽しみにしてるから」
◇◇◇
翌朝、アーシェラは早速ラライラライの部屋を訪れた。
一晩経っても、彼女の様子は変わらない。
「確かに来るとは言っていましたが、こんなに朝早くからなのですね……」
「問題あるのか?」
「い、いえ、もちろん大丈夫ですよ。さあ、早く部屋に入ってください」
いつものラライラライなら、いつ相手が来ても、喜んで受け入れるはずなのだ。
だというのに、なぜか今は困惑していた。
それはとても単純な理屈。
けれど彼女は知らない、なぜなら彼女が生まれ育ってきた環境は、あまりに歪んでいたから。
2人はまず、ベッドに隣り合わせで座った。
ラライラライは太ももの上にゆるく握った手を置いて、緊張した面持ちでじっと固まっている。
アーシェラがそんな彼女の腰に手を回すと、目を大きく開いてぴくんと反応した。
「どうしたんだよ、なんか様子がおかしいぞ?」
「そうでしょうか……」
「誰がどう見てもそう思うだろうさ、体調でも崩したのか?」
「いえ、それはありません」
言いながら、ラライラライは手を胸元まで動かし、拳にきゅっと力を込めた。
「じゃあこっち向いてくれよ、キスもできないだろ?」
「あ、はい……」
ゆっくりと2人の顔は向き合う、だが視線は微妙にずれている。
ラライラライが、アーシェラの顔を見ようとしないのだ。
顔を真っ赤にしたまま、下唇を噛み締めて、体を縮こまらせている。
まるで初恋に戸惑う清廉な乙女のようだ。
「なあラライラライ、あんたはあたいのこと好きかい?」
「それはもちろんですっ、愛していますよ」
「それは、他の連中と同じように?」
「もちろんです、わたくしは全ての人間を愛し慈しんでいますから」
「そっか、あたいもあんたのこと好きだよ。でもさ――あたいと一緒に居ると、他の人間とは何か違う、って思ったりはしない?」
人間が、生きとし生ける全ての人間を平等に愛せる、などということがありえるだろうか。
アーシェラは思う。
もそそんな人間が存在していたとしても、それはきっと、”愛”などではないはずだ、と。
「まさかアーシェラ、わたくしに何かしたのですか!? おかしいと思ったのです、あなたと居ると胸が痛くて苦しくて……まさか、毒の類では!?」
「ふ……くく、あはははははははははっ!」
「な、なにを……なぜ、笑っているのですか?」
「だってさ、そりゃ……ふふっ、笑うに決まってんじゃん、子供みたいなこと言っちゃってさ」
「子供のようなことなど、私は――」
ラライラライはおそらく、恋を知らず、愛も知らない。
母親が失った家族は、幼い彼女にその代役を押し付けた。
父親は性のはけ口としてラライラライを使い、兄はまるで子供のように甘える。
そして苦痛に泣き叫び、必死に拒むと、父は彼女にこう言ったのだ。
『これが愛だよ、ラライラライ。人間同士が愛し合うのは悪いことかい? 違うだろう?』
その瞬間、間違った価値観は誕生し、焼印のように彼女の魂に刻み込まれた。
兄が成長すると、父と同じく性欲の発散をせがんでくるようになった。
すっかり使われる事に慣れてしまった幼いラライラライは、その要求をあっさりと受け入れる。
価値観はさらに歪んだ。
その後、彼女が家族を失った経緯は明らかになっていない。
10代のラライラライが軍に入った時には、すでに二度の堕胎を経験していた。
元より男性好みの体をしていた彼女は、軍に入ると数多の兵士から誘いを受け、その全てを受け入れた。
『あいつは頼めばやらせてくれる』という噂が広まると、さらに大勢の兵士が近づき、それらも全て受け入れた。
結果、騎士となり今日に至るまで、彼女は軍に入ってから合計8度の堕胎を繰り返し、その度に体にタトゥーを刻んできた。
それは紛れもなく、彼女にとっては愛であった。
愛していた、愛されていた、だから愛し合っていたのだ。
父が教えてくれたのだから間違いない、ラライラライはそう信じて止まなかった。
もし――本気で彼女に恋をした誰かが居たとして、きっと彼女はその告白を受け入れるだろう。
だが、ラライラライに恋心は生まれない。
その先にある結果、つまりは”愛”が過程を無視して刻み込まれているからだ。
ならば、彼女に恋をさせるには、そして愛を矯正して正しい形にするには、何が必要なのか。
薬物、魔法、手術、あるいは呪い。
人の感情を直接変える”何か”を使って、強制的に、力づくで正すしかないのだ。
そして今、アーシェラには彼女を正すための手段がある。
「ねえラライラライ、あんたは知らないだろうけどさ、その気持ちを恋って言うんだよ」
「何を言っているのですか、このようなものが恋であるわけがありません!」
「言っとくけど、あたいは毒なんて仕掛けてないからね。それに、痛くて苦しくて……それでも、あたいから離れたいとは思わないんだろ?」
「それは……」
ラライラライは、アーシェラに体を預けていた。
恥じらいながらも、むしろもっと近づきたいと欲望が叫んでいるのだ。
「あんたの”愛”は間違ってたのさ。いや、本当はわかってたんじゃないのかい? 都合の悪い事実から目を背けるために、言い訳をしてただけで」
「何のことです?」
「最初にあんたが父親に抱かれた時、きっと痛くて気持ち悪くて泣き叫んだはずだ」
「違う、そんなことはありませんわ、わたくしは最初から受け入れて、笑っていました!」
「んなこたぁありえないね。その年齢の子供が大人を受け入れたら、下手したら死ぬんだよ? それを笑って受け入れるなんて生まれつきの聖女じゃないと出来っこない。それともあんたは、処女の母親の脇の下からでも生まれてきたってのかい?」
「それでも……ごっ、むがっ!?」
抗議するラライラライの口を、キスで塞ぐ。
その度に、彼女の記憶にかかった魔法は暴かれようとしていた。
都合よく改変された、父親に最初に犯された日の、真実の姿が脳裏に浮かび上がってくる。
「やめて……お願いですから、もう、これ以上はっ」
「だったらあたいを突き放しな」
「出来ませんっ!」
「どうしてだい?」
「それは……その、アーシェラが……好きだから、ですが」
いくら魅了されているとはいえ、あのラライラライがここまでいじらしくなるとは。
アーシェラは今すぐにでも押し倒して、熱く滾る劣情をかき混ぜたかった。
けどまだだ、あとひと押し、彼女の心のしがらみを壊すには――
「でも違う、違うのです、これが恋であるわけが、わたくしに間違いなどあるわけがっ……!」
「どうしてそこまで否定するんだか、もう楽になっちまえよ」
「出来るわけ、ありません! だって、だってこれが間違いだって認めたら――わたくしが今までやってきたことは、無駄にしてきた命が、全て消えて無くなってしまうではないですか!」
体に刻まれた胎児のタトゥー。
あれはラライラライに残された最後の人間性であり、罪悪感の象徴でもあった。
そしてもう一つ、彼女には正さねばならない歪みがある。
それは母親だ。
辛うじて優しい記憶は残っているが、母親が死んだせいでラライラライは父親に代用品として使われるようになった。
母親への憎しみ――堕胎衝動と、母親への憧れ――罪悪感。
その根源にあるものは、結局のところ、”愛情の不足”である。
父親は彼女を愛さず、母親は十分に愛せないまま逝ってしまった。
だから、自らが愛だと信じてきた物がまやかしだと認めてしまった時、彼女から全ては消え失せる。
幼い子供が1人、荒野に投げ出されるような不安感――それに抗えるほど、ゼロになったラライラライは強くない。
「あんたが”全て”だと思ってるそれはね、本当は”重荷”なんだよ。捨てて初めて、見えてくるもんもあるんじゃないか」
「そんなもの、見なくてもいい」
「怖いの?」
「当たり前ですッ! アーシェラとて、自分が戦う力を失ったら恐ろしいでしょう? それと同じことではないのですか!?」
「そうだねえ、確かにそれは怖いけど、無くたって歩いていけるよ」
「どうやって、ですか?」
不安に瞳を潤ませるラライラライ。
アーシェラはそんな彼女を、さらにぐっと引き寄せると、至近距離で瞳を見つめながら告げた。
「あたいがあんたを支えてあげる」
どくん、どくん、どくん。
ラライラライは、今までで一番胸が高鳴るのを感じていた。
自然と唇が近づいていく。
心と心が繋がりあった時、そこには引力が生じる。
きっと、2人を引き寄せているのはそれだ。
仮にその引力が”魅了”という魔法によって作られたものだったとしても、天然だろうが人工だろうが本物は本物。
2つの唇は1つになり――ほの暖かな柔らかい感触を味わいながら、ラライラライは直感した。
きっとこれは、わたくしにとってのファーストキスで。
ああ、確かにこれは――恋なんだろうな、と。
認めてしまった瞬間、今まで彼女を構成してた”間違った愛”という要素は、いとも容易く瓦解していく。
強がるだけの体力ももう残っていない。
唇が離れた時、そこに居るのは、中身もほぼ空っぽで、立ち上がることすら困難な”素”のラライラライだ。
辛うじて残っているのは、正しく子供として育てられた、母が死ぬまでの時間に蓄えられた要素だけ。
だから、彼女は欲した。
素直に、心からの欲求を、言葉にしてアーシェラに伝えたのだ。
「アーシェラ、わたくしを沢山愛していただけませんか?」
「そのつもりでここに来たんだけど」
「あと……出来れば、母のように愛していただけると、嬉しいです」
「そりゃ難しいリクエストだけど、でも愛しいラライラライのお願いだもんね、聞いてあげるよ」
アーシェラはラライラライの頭を胸に抱きしめると、そのまま2人はベッドに倒れ込んだ。
頭を撫でられると、母にそうされた時の記憶が蘇る。
――わたくしはずっと、これを求めていた。
ラライラライの口元が緩む。
そんな彼女の姿を見て、アーシェラも母性本能が湧き上がってきたのか、胸がきゅんと締め付けられていた。
ゆったりとした時間が過ぎていく。
まだラライラライは堕ちて居ないが――もはや結末が見え透いていることは、誰の目に見ても明らかだった。
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