異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~

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37 狂気ではなく無知

 




 カミラ・ディーリディード。
 千草がそのフルネームを聞くのはこれが初めてだったが、騎士団長に関係する人間で、かつカミラという名前となれば、あの吸血鬼カミラと関係が無いわけがない。
 予想外の場所でカミラの名前が出たことに内心動揺しながら、千草は話の続きに耳を傾けた。

「ディーリディード家は、さほど裕福ではないが、王都に別荘を持つ貴族でな。カミラは子供の頃からやんちゃで、こっそりうちの屋敷に忍び込んでいたんだ」
「警備は何をやってたんですか?」
「全くだ。まあ、私と彼女が親しくしているのを見て、見逃してくれたのかもしれんがな」

 それを気が利く、と言っていいのかは微妙なところだ。

「そうして秘密の邂逅を繰り返したカミラと私は、王都の学校に通うようになってから、ようやく正式に交流を持つことが出来た。彼女も剣を得意としていてな、私のライバルとしてよくぶつかりあったものだ」
「団長様とやりあうなんて、かなりの腕ですね」
「まあ一応、学校ではトップクラスだったな。おそらくカミラは、団長に内定している私を越えれば、騎士団に入れると思ったのかもしれない」
「……もしかして、一緒に居るため、ですか?」
「さあな。お互いに素直じゃなかったから、何を考えて騎士団に入ろうとしていたのかはわからん。だが、力に固執していたのは確かだな」

 千草はそれを聞いて思った。
 カミラもまた、自分と同じように吸血鬼の力を与えれられた存在だったのかもしれない、と。
 細かい経緯まではわからないが、おそらく彼女はリリィを越えられなかったんだろう。
 そして、騎士団に入ることは叶わなかった。
 それでもどうにかして追いつくことを望んだ彼女は――人外に身を捧げた。

「そのカミラさんは、今は何をなさっているんでしょう」

 答えはわかっていたが、千草はあえて聞いた。
 ひょっとすると、人違いである可能性もあったからだ。
 リリィはすぐさま答えた。

「死んだよ。私が斬り殺した」

 予想通りの返答。
 つまりは、やはり――彼女の語るカミラ・ディーリディードこそが、千草を半吸血鬼デミヴァンプにした張本人で間違いないらしい。

「そろそろ時間か……もしよければ、また今度も話を聞いてくれないか?」
「私なんかで良ければ」
「ありがとう、助かるよ」

 そう言って、リリィは早足で食堂を去っていく。
 その後姿を見ていると、千草は不思議て物寂しい気分になった。
 彼女の中にあるカミラの感情が、何かを訴えているのだろうか。



 ◇◇◇



「あっはははは、ははははっ、最っ高の気分だ! ひゃはははははははっ! 見たかよあの顔っ、ラライラライが悔しがって、なのに何も出来ない敗者の表情してんだぜぇっ!?」

 ラライラライの撃破後、1人訓練所に残ったアーシェラは、躍るように四本の腕で大剣を振りながら、くるくると回っていた。
 よほど機嫌が良いのだろう、笑いが止まらない様子で、室内にはひたすらに彼女の声が響き続けている。

「あぁ、もっと誰かとやりあいてぇ、斬り合いてえよぉ! 命の奪い合いが出来れば誰でも良い、この気持ちを発散させてくれるやつはどこかにいねえのか!?」

 そんな声を扉越しに聞きながら、都は訓練所の前でごくりと唾を飲み込んだ。
 千草の役に立ちたいと言い出したのは、自分自身だ。
 騎士の1人でも堕とさなければ、示しがつかない。
 だから、その相手として都はアーシェラを選んだのだが――想像以上の戦闘狂っぷりに、早速怯えていた。と言うより、引いていた。

「あんなにヤバい人たちだとは聞いてないよ……でもやんないと、嘘ついたことになっちゃうし、それに……」

 都は微かに扉を開いて、アーシェラの肉体を見つめた。
 微かに都の頬が赤らむ。

「……あの人が半吸血鬼デミヴァンプになったら、きっと素敵だよね」

 妖艶な笑み。
 人外の欲求が、彼女の背中を押した。
 訓練所の門扉をくぐって現れた女性の姿を見て、アーシェラは興奮した面持ちで警告した。

「そこの女、悪ぃことは言わねえ、死にたくないなら出ていきな。あたいとやりあうってんなら別だけどなァ!」
「そのつもりで来たの、私と手合わせして欲しいんだけど」

 都の言葉を聞いて、アーシェラの口角がニイィと歯をむき出しにしながら三日月のごとく歪む。

「いい度胸してんなァ、あんた。あたいのこの姿を見て、真正面からやり合おうってのか! ただの頭がイっちまったド阿呆か、はたまた本物・・か。いや、どっちだっていい、死のうが生きようが弄ぶことに変わりはないんだしさあ!」

 影を使えば、おそらく撃破は容易い。
 だが今の段階ではまだ、都は自分が人外であるということを彼女に悟られてはならない。
 都は訓練所に置いてあった剣を一本手に取ると、異形の腕を加え4本の大剣を操るアーシェラと向かい合った。

「武器はそれだけでいいのかい?」
「小回りが効く方が都合がいいんです」

 実を言うと、爪以外の武器で戦うのは都にとって初めての経験だった。
 それでいきなり二刀流だの、馴染みの無い武器だのを使うよりは、オーソドックスな剣の方がまだマシだろう。
 技など必要はない。
 要は、人間を凌駕した身体能力で打ち合えばいいだけなのだから――



 ◇◇◇



「ひひひっ、まさか本当にあたいとやりあえる相手がいるたぁねえ、驚いたよミヤコ」
「私もいい経験をさせてもらったわ」
「ああ楽しんでたねえ、戦いを楽しめる相手と全力でぶつかり合う! これ以上に幸せな瞬間は他に無いね!」

 たっぷり1時間ほど戦闘訓練を行った2人は、シャワールームで汗を流していた。
 2人の戦闘は、最初こそ戦い慣れているアーシェラが押していたものの、中盤からコツを掴んできた都が反撃を始め、最後にはほぼ拮抗していた。
 その頃がアーシェラにとっては楽しさのピークだったらしく、狂喜しながら自分に攻撃を打ち込んできた時の表情を思い出し、都は苦笑いを浮かべた。
 もっとも――都も途中からはすっかり戦いに夢中になっていたし、大した差は無さそうではあるが。

「あんた、その剣術……いや、その身体能力はどこで身につけたんだい?」
「自己流よ。アーシェラだってそうでしょ?」
「まあねえ、小さい頃から戦うことばっかり考えてきたからさ。ま、他の騎士連中には他に趣味は無いのかってよく馬鹿にされるけど」
「いいじゃない、楽しいなら」
「ああまったくだ、楽しいのが一番に決まってる。つーわけでミヤコ、明日も付き合ってもらうからな?」
「もちろん、私も楽しみにしてる」

 断る理由は無かった。
 戦闘中は体の接触も増える、魅了が進めば意図的に触れることもできるだろう。
 まだ、魅了はほぼ効力を発揮していない。
 こうしてアーシェラが都に笑顔を見せているのは、単純に彼女を気に入ったからである。
 まだまだ都の役割はこれからだ。
 戦いにしか興味が無さそうなアーシェラが徐々に堕ちていく姿を想像して、都はぞくりと体を震わせた。



 ◇◇◇



 翌日も約束通り、アーシェラと都の戦闘訓練は行われた。
 都はその戦いを他の人間に見られることを嫌ったので、2人が戦っている間は訓練所は閉め切られていた。
 だから2人の関係は誰も知らない。
 知らない間に絆を深め、知らない間に堕ちていく。

 二日目の手合わせが終わったあと、都はアーシェラを食事に誘った。
 城下町にいい店を知っているから、2人で食べに行こうと。
 彼女はあまりそういった付き合いをする方ではなかったが、都の誘いなら、と快諾した。

 城から店に入るまで、都はアーシェラと腕を絡める。
 アーシェラは、それを”スキンシップが好きなんだろう”程度にしか考えていなかったし、不思議と嫌な感じもしなかったので特に振り払ったりはしない。
 店に入ってからも、なぜか正面ではなく隣の席に座ってべたべたと触っていたが、同様の理由で拒んだりはしなかった。
 自分の中に、確実に都の魔力が注ぎ込まれていることも知らずに、2人は距離を縮めていく。



 ◇◇◇



 三日目。
 昨晩、アーシェラは珍しく夢を見た。
 なんてことはない、ただ都と楽しく話をするだめの夢だ。
 戦いにしか興味の無い彼女にしては珍しいことだ、そこまで自分が昨晩の都との会食を楽しんでいたとは。
 準備を終え、訓練所で彼女と顔を合わせた時も、自然と笑顔がこぼれる、会話も弾む。
 やはり――どうも自分は、自分で思っている以上に都のことを気に入っているらしい、とアーシェラは内心驚いていた。

 戦闘中の胸の高鳴りも、先日のラライラライを撃破した戦いをすでに凌駕している。
 ミヤコと戦う以上に楽しいことなどこの世に存在するのだろうか。
 そう本気で思ってしまうほど、アーシェラはのめり込んでいた。

 戦いの最中、ふいに都がアーシェラの足をかけ、バランスを崩した彼女は地面に転がる。
 都はその隙を見逃さない。
 転がった相手に馬乗りになり、ちょうど押し倒したような体勢になった。
 これは戦闘訓練だ、ならば本来はここで攻撃を加えるべきなのだが――なぜか都は、じっとアーシェラの瞳を見つめていた。

「ねえアーシェラ、キスしてもいい?」
「なっ……ダメに決まってるだろ!?」

 突拍子もない提案に、アーシェラは顔を真っ赤にしながら言った。

「昨日も思ってたけど、もしかしてあんた……そっちの趣味なのか?」
「うん、アーシェラはすごく可愛いと思う」
「可愛いとか、あたいにそんなこと言うヤツ初めてだよ」
「みんな見る目無いわね、もったいない」

 目を細め、頬を紅潮させながら顔を近づけていく都。
 そんな彼女の顔に、アーシェラは手のひらを押し付けた。

「正直、ミヤコと一緒に居るのは楽しい。そんで、その、別にそういう趣味なら、付き合ってやらないこともないが……今はダメだ、せめて戦闘後にしろ」
「んふふ、じゃあ戦いが終わったらいいんだ?」

 アーシェラは都の言葉を聞いた後、自分が口走ってしまった言葉を猛烈に後悔したが、後の祭りである。
 都は立ち上がると、剣を構え、「じゃあ再開ね」と扇情的に笑いかけた。
 戦いの後に彼女に何をされてしまうのか――それで頭がいっぱいになってしまったアーシェラは、その後さんざん負け倒したのだという。

 そして戦いを終え、訓練所を後にした2人はシャワールームへと向かう。
 いつもなら、もちろん別々の個室に入って使うのだが、その日は都は強引にアーシェラと同じ個室に入り込んだ。

「ねえアーシェラ、さっき言ってたよね、戦いが終わったらって」
「待て、発情するなっ、せめて汗を流してから――」
「いいよぉ、そんなの。アーシェラの体、汗でにゅるにゅるしてて、匂いも強くてすっごくえっちだよ」

 個室の扉は擦りガラスになっており、ちょうど胴体の部分だけが隠れる作りだった。
 そんなモザイクめいたガラスごしに映るのは、肌色と肌色同士が絡み合う姿。
 羞恥心から都の体を弱々しく押しのけ、抗議するアーシェラ。
 そんな彼女の口を、”うるさい”と言わんばかりに、都は唇で塞いだ。

「んふっ……ふ、んぐっ!? はぷっ、ちゅ……ぷぁ、ぷちゅ……んっ、ん……ふぅ、れる……じゅ、ちゅぷ……っ」

 最初は驚き戸惑っていたアーシェラだったが、都の舌が自分の口内を滑り回る感覚が気に入ったのか、すぐに目を閉じて身を任せる。
 気づけば自ら彼女の背中に腕を回し、体を密着させていた。
 都は一瞬だけ片目を開いて、気持ちよさそうに体をくねらすアーシェラの表情を確認すると、さらに腕に力を込めて強く抱きしめた。

 その日、2時間ほどシャワールームに”使用中”の札がかけられっぱなしになっていたらしいが――その中で何が起きていたのか、知る者はアーシェラと都以外には誰も居ない。





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