異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~

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閑話3 なんてことない愛すべき日常、たとえばカフェ・ブティフール

 




 この体になってから、例えば誰かに虐げられたりだとか、乗り越えられない困難を前にしただとか、そう言った悩みを抱くことはほとんど無くなりました。
 愛すべき仲間たちも増え、計画は順調に進行しているのです。
 幸せなものです、恵まれています。
 しかし、だからこそ生じる新たな悩みというやつもあるわけでして。

「ふっ……まさかこんな場所でナナリーと本気でやりあうことになるとはね」
「わたくしも驚きましたわ、エリスさん。ですが互いに大事な物を賭けている以上、引くわけにはいきません」
「私も同じ気持ちだっての……さあ構えなさいナナリー!」
「いつでも受けて立ちますっ!」

 突如私の目の前で戦い出した2人を、私は特等席として用意された上質でふかふかの椅子に腰をうずめながら、困った表情で観戦するのでした。
 いやはやまったく――なぜこんなことになってしまったのでしょうか。



 ◇◇◇



 話は城を掌握する数日前まで遡ります。
 いよいよ国の中枢たる王城の占拠、さらにはクラスメイトとの再会という大きなイベントを2つも控えて、私の緊張は高まっていました。
 少しでもそれを和らげようと、影さえ使えばどうにかなるとは思いながらも、綿密なシナリオを作ることにしたのです。

 深夜、今日の夜を共に過ごしたみゃー姉が寝静まった後、私は1人で机に向かっていました。
 手に握っているのは羽ペン、そして必死ににらめっこしているのは、すでに半分ほどが文字で埋まったノートのページ。
 すでに風岡さんを主なターゲットに定め、彼を中心に計画を回すことは決定していたのですが、より恐怖を煽るための手段というのは中々思いつかないもので。
 原稿はここまで順調に進んでいたというのに、10分ほど前からぱたりと手が止まってしまいまったのです。

「ちーちゃんっ」

 そんな私の背後から、寝ぼけたような、甘えたような声のみゃー姉が抱きついて来ました。
 いつの間に起きたのでしょうか、物音にすら気づかないとはよほど集中していたんですね、私。

「何をしてるの?」
「今度、城を占拠するって話をしてたじゃないですか、その計画を考えてたんです」
「計画なんて無くたって、ちーちゃんなら簡単に制圧できると思うんだけどな」
「確かにそうなんですが……今回は、私にとってそこそこ特別ですから」
「あー、そっか。思うところはあるよね、当然。やっぱり全員殺すんでしょ?」
「秋空さんと佐藤さんを除いて、ですね。みゃー姉は何かいい案とか無いですか?」
「うーん……」

 私の肩に顎を乗せながら考え込むみゃー姉。
 場所が場所だけに、耳に吐息が当たってくすぐったいですね、あとで仕返しをしなければ。

「……ところでちーちゃん、コスプレって興味ある?」

 どうやら話を聞いてないようですねこの人。

「みゃー姉に相談した私が馬鹿でした」
「あー、待って! ウェイト! ちーちゃんの話に関心がないわけじゃないから!」
「言い訳ぐらいは聞きましょう」
「さすがちーちゃん優しい、大好き、愛してる!」
「それは知ってるので早く理由を言ってください」

 あとそんなに強く抱きしめられるとさすがに苦しいです。
 もう人間じゃ無いんですから加減ぐらい覚えてくださいよ、まったく。

「ほら、城に攻め込むとなると、ちーちゃん忙しくなるじゃない?」
「そうですね、今ほどゆっくりは出来ないでしょう」
「そしたらみんな拗ねるじゃない? 特にエリスちゃんとかナナリーちゃんあたりが」
「……まあ、一緒に過ごす時間が少なくなれば、フラストレーションは溜まるかもしれません」
「だったら、いっそその計画に何人か参加させちゃえば良いんじゃない? って思ったの」

 確かに、それは一理あります。
 私としても、みなの機嫌を損ねるのは望む所ではありませんし、せっかくのお祭り騒ぎなのですから、心残りなく楽しみたいものです。

「ところでみゃー姉、それとコスプレとに何の関係があるんですか?」

 私がそう問いかけると、みゃー姉は”待ってました”と言わんばかりににやりと笑い、私から離れてくるりと一回転しながらベッドの影にしゃがみ込み――予め隠しておいたらしい一着の服を取り出しました。
 そして服を広げると、したり顔で微笑みます。
 私はそれを見た瞬間、言葉を失いました。

「見覚えあるよね? 記憶を頼りにしてコットンさんに頼み込んで作ってもらったの」

 コットンとは、町に住む服屋を営む、快活でざっくばらんな性格をした女性です。
 しかしそんな性格とは裏腹に裁縫の腕は確かで、王族にも服を収めるほどの腕なんだとか。
 すでに町はほぼ半吸血鬼デミヴァンプの支配下にありますから、もちろん彼女ももはや人間ではありません。
 ちなみに彼女の旦那は、首から上の穴という穴を縫い付けた上で地下に閉じ込めておいたら、いつの間にか死んでいました。
 そんな彼女なら、確かにみゃー姉の言葉からあの服・・・を再現することも可能でしょう。
 それにしたって再現度が高すぎて、感服してしまいましたが。

「もちろんサイズは今のちーちゃんに合わせてあるけど……もし嫌な思い出があるなら、無理にとは言わない」
「そういえば、その制服を着ている私を、みゃー姉は見たこと無いんでしたね」
「うん、だから一度でいいから見ておきたいな、ってさ」

 要するに、みゃー姉が用意していたのは私が通っていた中学の制服を再現したもので。
 一度も見ることが叶わなかった、その制服を纏う私の姿を、一度でもいいから記憶に刻んでおきたいのでしょう。
 なぜ再現出来たのかと言えば、みゃー姉もかつて同じ制服を着ていたからでしょう。
 正直、まんざらではありませんでした。
 私としても、みゃー姉と過ごせなかった空白の時間をどうにかして埋めたいとは思っていますし、制服を着ることが少しでもその望みを叶えることに繋がるのなら。

「ところでみゃー姉、これで聞くのは二度目ですが、この制服と計画とに何の関連が?」
「作戦にみんなを参加させるなら、潜入させるために衣装が必要になると思うの。それをコットンさんに用意してもらえばいいんじゃないかな」
「なるほど、確かにコットンなら良いものを作ってくれそうですね、私が頼めば快諾してくれるでしょうし」
「でしょでしょ?」

 代わりに体を要求されそうですが、それはそれで私も楽しめるので問題なし、ということで。
 ある程度脚本が出来上がったら、何着かオーダーしてみましょう。
 あまり日数が無いので、そう数は用意出来ないとは思いますが。

「それじゃあみゃー姉、着替えるのであっちを向いててください」
「え、いいの?」
「断る理由は特にありませんから、ただ期待はずれでも責任は持てませんよ?」
「大丈夫、それは絶対にないからっ」

 後ろを向きつつ力説するみゃー姉に、私は思わず苦笑いを浮かべます。

 さて、それから私は制服に着替え、妙に気恥ずかしい気持ちになりながら制服姿をみゃー姉に見せたわけですが。
 どうやら私の制服姿は彼女にとって非常に破壊力が高いものだったようで、興奮のあまり、鼻息が荒くなり、見ていてわかるほど明らかに目が血走っていきます。
 そして我慢の限界を迎えた彼女は、私にこう問いかけました。

「食べていい?」

 もちろん私は、すぐさまこくりと首を縦に振ったわけですが。
 実は、人間同士が共食いしていく筋書きを思いついたのは、その言葉がきっかけだったりします。



 ◇◇◇



 話を戻しましょう。
 要するに、エリスとナナリーが突然バトルを初めてしまったのは、”どちらがメイド服を着るのか”という割とどうでもいい理由なのです。
 しかし、それをどうでもいいと考えているのは私だけだったらしく、2人の戦いは刻々と激化していきます。
 いくら人の居ない礼拝堂が舞台とはいえ、こうも立体的に地形を利用した戦いを見せつけられると、建物が崩れやしないかと心配になってしまいます。
 実際、何度か攻撃の余波が女神像を襲っており、その度に私は影を使ったフォローを強いられるわけです。

「はああぁぁぁぁああああっ!」

 長く伸びた爪同士がぶつかると、ガギン、とまるで金属同士がぶつかったような音が鳴り響きます。

「くぅ、やりますねエリスさんっ!」
「そっちこそ!」

 2人は戦いの中で絆を深め合うみたいな雰囲気になっていますが、見ているこちらはハラハラで気が気ではありません。
 何より心配なのは、どちらかの肌に少しでも傷が入ってしまうことです。
 治癒は可能ですが、それでも愛しい誰かが傷つく姿を見るのは、それだけで辛いというもの。
 見かねた私は、ついに戦いを止めるべく立ち上がりました。
 方法は単純。
 例えば私の背中側、椅子の下、女神像の見下ろす先――礼拝堂に存在するありとあらゆる影を2人に向かって触手のように伸ばします。
 そして2人を縛り付ければ、ほら簡単、もう戦いは止まってしまいました。

「お、お姉さまっ!?」
「主さま、なぜ止めるのですか?」
「これ以上2人に戦われると、こう、色々と困りますから。配役はもう決めました、メイド役はエリスです」

 そう告げると、エリスは「よっしゃあ!」と心底嬉しそうにガッツポーズをしました。
 そんなに嬉しいもんですかね。
 一方でナナリーは、露骨に落ち込んでいます。
 見ているこちらの胸が痛くなるほどに。

「どうして、エリスなのです?」

 そして低い声でそう問いかけてきました。
 大丈夫、これには彼女でも納得できる理由があるんです。

「ナナリーは普段から従順で、家事もこなすし料理も上手だからメイドっぽいじゃないですか。一方でエリスはそういう女性らしさと縁遠いですから」
「そういうわけでしたら……」

 私の理路整然とした説明に、ナナリーはすぐさま納得してくれました。
 よかったよかった。

「……お姉さま、それは喜んでいいんですか?」
「判断はエリスに委ねます」
「ぐっ……で、でもお姉さまに選ばれたのは嬉しいし……よし、素直に喜んどこう、やったー!」

 エリスは両手を空に突き上げて大喜びです、彼女が単純な性格で良かった。
 一方でナナリーは、理由には納得したようですが、それでもメイド服に未練があるようで。
 仕方ないので、私はこう提案しました。

「ナナリーには調理員役として脚本に登場してもらおうと思うんですが、それとは別に」
「別に……何かあるのですか?」
「何か希望があれば、好きな服を着た状態で一緒に過ごそうかと思いまして」
「……!」

 ナナリーの目がキラキラと輝き出します。
 顔だけでここまで嬉しさが伝わってくることはなかなかありません、よほどだったんでしょう。

「そ、それでは主さま……」

 そして口を開いたナナリーは、緊張した様子で、一拍置いてからこう言いました。

「首輪、を」
「首輪?」
「はい、わたくしに首輪を付けて、まるでペットのように扱って欲しいのです!」

 ……これはまた、なかなかハードなプレイの要求ですね。
 確かに以前からMっ気があるとは思っていましたが、まさかそこまでとは。
 しかし言い出したのは私の方、リクエストを受け入れないわけにはいきません。

「わかりました、それじゃあ近いうちにやってみましょう」
「ありがとうございます! ずっと町を歩く犬を見るたびに憧れていたのです!」

 ナナリーは私に向かって、深々と頭を下げました。
 メイド服もそうでしたが……首輪を付けられて、そんなに嬉しいものなのでしょうか。
 まあ、嬉しいんでしょうね、この顔を見る限りは。

 その時点では、私にその楽しみ方は全く理解できなかったのですが――実際に首輪を付けて、主従関係をはっきりとさせた上で体を重ねるというのも中々に楽しいもので。
 それが牢の中の風岡さんに、桜奈と冬花を見せつける場面に影響を与えたことは、言うまでもありません。



 ◆◆◆



 レイアが優雅にお茶を啜ると、正面に座るリーナはなぜか笑った。
 もちろんレイアは首をかしげる、なぜ笑われてしまったのだろう、と。

「こうやってレイアと一緒にまたお茶を飲める時が来るなんて、少し前のボクは想像もしなかっただろうなと思って」

 なんだ、ただ幸せを噛み締めていただけか。
 それを知ったレイアは、彼女と同じように微笑んだ。

「城の掌握がほとんど済んだお陰で、ボクもこうして堂々とレイアのお部屋にお邪魔できるようになったし、ご主人様はやっぱりすごいね」
「遊びを入れてこの速さ……私が勝てないのも、当然だよ」
「相手が悪かったね、でもレイアも立派だと思うけどな。実際、ご主人様ほどでは無いにしろ、影は操れるんだろう?」
「まあ、ね。半吸血鬼デミヴァンプになる以前から、強い魔力を持っていた人間は……そのまま、使えるようになるから。ミヤコもそうだし、新しく……仲間に、なったサクナとトーカも、できるはず」
「ボクはさっぱりだから、羨ましいな」

 羨むことなど何もない、私よりよっぽど魅力的な魂を持っているくせに、とレイアは自嘲する。
 しかし、リーナも同じことを考えていた。
 レイアは自分が持っていない魅力を沢山持っている、羨ましい、素敵だ、そして誇らしいと。
 要するに、2人は想い合っているのだ。
 脳内で自虐的になっているのかと思わせておいて、ただいちゃついているだけなのである。

「しかし、城の兵士が全てご主人様の支配下に置かれたとなると、もうこの国は堕ちたようなものだよね」
「まだ、だよ」
「あれ、まだ誰か居たっけ?」
「……騎士がいる。王直属の、選ばれし8人が」
「あー……そういやそんなのもいたね」

 王国各地から集められた、8名の天才たち。
 才能や実力には恵まれているものの、その影響なのか我が強い者が多く、集団行動はあまり得意ではない。
 普段は散り散りになって、各々が王に与えられた任務を遂行しているのだが――今はどういうわけか、偶然にも・・・・全員が城に集結していた。

「どうなるのかな、先に気づいて戦いになるのか、それとも一方的にご主人様の愛に絆されていくのか」
「結果は火を見るより明らかだけど……きっと、楽しめると思う」
「出来レースなのに?」
「だってきっと……ご主人様は、また・・気まぐれに、遊ぶはずだから」
「ああ、そっか。ただ堕とすだけなわけないもんね。そう考えるとボクも楽しみになってきたよ」

 結果は変わらない。
 女の騎士は人間をやめ、男の騎士は死ぬ。
 それは不変の未来である。

「ついに……この国は、終わる。いや、国だけじゃない、人間は……きっと、おしまいだよ」
「なるべくしてなった。生きとし生ける全ての人間が、今よりほんの少しだけ他人を愛せるだけで悲劇の多くは起きなかったのに」
「それが出来ないから……人間なんだと思う。だから、これは……必要な淘汰だった」

 人が語る夢物語は、人が人であっては、叶わぬ夢なのだ。
 それを象徴するように、千草は笑って愛すべき騎士を堕とすべく動き出す。
 その手を血で染めつつ、どうか世界が平和でありますように、と心の底から願いながら。





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