異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~
13 少女たちは幸福な肉の海に沈む
外の光が入らなくなり、すっかり暗くなった礼拝堂に、私は1人で座っていました。
すでに準備は終わっていますから、あとは主賓が来るのを待つだけ。
すると、ドアが開いた音がしたかと思うと、真っ暗だったはずの部屋に明かりが灯ります。
「主さま、明かりぐらいつけてはいかがですか?」
「ナナリー……エリスはどうしたんです?」
「彼女たちと遊んでいますよ、レリィが来るまでは自由にしていいとおっしゃっていましたから」
よく見ると、ナナリーの首にはキスマークらしき赤らみがあり、肌も汗ばんでいました。
彼女もエリスと一緒に遊んでいたようです。
「彼女、どうでした?」
ナナリーに問いかけると、彼女はうっとりとしながら答えました。
「13才でしたよね。最初はさすがに恐る恐るでしたが、いざ触ってみると悪くはありません」
「気に入ってもらえたみたいでよかった。たぶん、このまま一緒に教会で暮らすことになると思いますから、仲良くしてあげてくださいね」
「もちろんです。ですが……子供用の修道服は無かったはずです、新しく誂えないと」
頭の中で予定を立てるナナリーですが、本当にそれが必要なのでしょうか。
多少ブカブカでも構わないと思うのですが、どうせすぐに脱がせるのですから。
「……と、そろそろレリィが来るかもしれませんね。わたくしはまた部屋に戻ります」
「それじゃあ、頃合いになったら……」
「はい、2人を連れていけばいいのですよね」
計画の確認を済ませると、ナナリーは再び教会の奥へと戻っていきました。
再び、明るくなった礼拝堂に一人きりになります。
婚約者が死んだのですから、すぐに出てこられないのはわかります。
ですが、今の彼女は誰かしらの救いを求めているはず。
多少強引に、周囲の手を振りほどいてでも教会に来るはずだと思っていたのですが、流し込んだ量が足りなかったのでしょうか。
今までのパターンだと、あれだけの時間触れ合っていれば、とっくに身も心も捧げていてもおかしくはないはずです。
おそらくは、相手によって相性のような物があるのでしょう。
それでも、私に体を許すぐらいなのですから、完全に堕ちるまであと少しの状態であることは間違いないのですが。
ゆらゆらと揺れる自分の足元を見ながら、暇を潰します。
外で鳴く昆虫の声すら聞こえるような静かな空間で、私は目を閉じ、足音が近づいてくるのをひたすらに待ち続けていました。
時折、発情した猫のような声が微かに聞こえてくるのが困ったものです。
苦笑していると、ついに――外で、誰かの足が地面を蹴る音が聞こえました。
ようやくメインキャストのお出ましみたいですね。
私は長椅子から立ち上がると、礼拝堂の床に敷かれた長く赤いカーペットの上に立ち、扉の向こうから現れるであろうレリィを待ち受けます。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
彼女は、アイから借りたと思われる赤いドレスを身にまとって、現れました。
鮮やかなドレスの色とは対象的に、顔色は蒼白で、今にも死んでしまいそうなほどです。
昨日と同じようにここまで走ってきたのか、こめかみに汗の粒を浮かべながら、彼女はふらふらとおぼつかない足取りで私へと近づいてきます。
あえて、私は自分からは近づきませんでした。
これがレリィの選択であるということを、彼女自身に自覚させるために。
「チグ……サ……」
レリィはすがるように手を伸ばし、ゆっくりと、ゆっくりと、終わりへ向かって一歩ずつ進んでいきます。
私は彼女に微笑みかけながらたどり着くのを待ち、その指先が私の体に触れた瞬間――強引に、捕食するように抱きしめました。
「今日はパーティーだったのでは? なぜここに来たんですか?」
「ううぅ……チグサぁ、私……私ぃ……っ」
「あらあら、よほど辛いことがあったんですね」
抱き合っていると表情が見えないのを良いことに、私は口角を釣り上げながらそう言いました。
黒幕を知る由もない彼女は、ひたすらに私の名前を呼び続けます。
何度も、何度も、もはや世界には自分以外私しか居ないとでも言うように。
事実、おそらくレリィはそんな気分のはずです。
幸福の絶頂で最愛の人を失い、悲劇の渦中へと飲み込まれた彼女には、もう1人の愛した相手――私しか残されていないのですから。
「ディックが……私の、目の前で……!」
死んだんですよね、わかってますよ。
でも私の口からは言えません、それを私に告げるのは、レリィの役割ですから。
「ディックさんが、どうしたんですか?」
「死んだのよぉっ! いきなり、上からシャンデリアが落ちてきてっ……気づいたら、ディックは死んでた。目の前で潰されたディックの血が、私の顔とか、体に、べちゃってついて……!」
「ああ、そんな、ディックさんが!? それに血を浴びてしまうだなんて、可哀想なレリィ。あんなに結婚できるのを楽しみにしていたというのに」
「わからない……どうして? なんで? やっと……うまくいくと思ったのに……」
「辛い気持ちはよくわかります。私なんかの力でその傷を癒やしきれるとは思いませんが……愛するレリィのために、1つでも、私にできることはありませんか?」
「チグサ……」
レリィは泣きはらし充血した目で、私をじっと見つめました。
知っています、知っているんですよ、レリィ、あなたが何を求めているのか。
けれど私は言いません。
なぜなら、全ては、あなたの選択だからです。
「ディックのことを思い出すと、胸が痛くなるの。苦しくて、気持ち悪くて、死にたくなるの。だから……」
「だから?」
「それを塗りつぶせるのは、たぶん、チグサだけなの」
「ええ、だから、私にどうして欲しいんですか?」
少々意地悪すぎるでしょうか。
しかし、やはりどうしても、レリィの口から言わせたかったのです。
「私を……抱いて、ください。チグサの体で、ディックのことを、忘れさせてくださ――ふむぐっ!? ん、んちゅぅ……っ」
言い切るより前に、私は暴力的に彼女の唇を食んでしまいました。
つい数日前まで他の男にしか興味の無かった女が、私に自分を抱いてくれと懇願している。
しかも、男が死んでから数時間も経っていないというのに!
こんなに嬉しいことはありません、抱かないわけがない、愛さないわけがない、抑えきれるはずがないッ!
「ふはっ……あ、あぁ……やっぱり、そうよ……」
「何が、やっぱりなんです?」
「チグサに触られてる間は……何もかも、忘れられるの。チグサのことだけ、考えていられる……」
「でしたら、触れ合わなくとも私のことしか考えられないようにしてあげます」
「ん……お願い、そうして。私を、チグサだけのものにしてっ」
肩に顔を埋めるレリィを改めて強く抱きしめ、私は愛の言葉を繰り返し囁きました。
あとは、仕上げを。
仕上げをするだけで――彼女の何もかもは、私のものになる。
◇◇◇
下準備が終わっていたおかげか、レリィの体に紋様が浮き上がるまで、2時間程度しか必要ありませんでした。
場所は内太もも、最低でも下着姿にならなければ見えないような、きわどい場所。
とは言え、紋様が現れるまでの2時間は普通の2時間ではなく――寝室でお互いの体液まみれになりながら抱きあい、よがり、喘ぐという濃密な時間ではありましたが。
何にせよ、これでレリィは完全に私の物になったわけです。
宣言通り、触れ合わなくとも私のことしか考えられない状態に。
「チグサ……すごいの、チグサに触られてると、私、ふわふわして、くらくらして、意識が、どこかに行っちゃいそうになるのっ」
「ディックさんと抱き合った時は、こんな気持ちになりましたか?」
「ううん、ならなかった。チグサだけ、チグサだけが私をこんなにしてくれるっ」
ディックのさんのことを思い出させないと言いながら、私からあえて名前を出すこともありました。
もっとも、今の完全に虜になったレリィなら、ディックさんの名前を言ったところで、思い出すどころか貶してくれるのですが。
「それはおかしな話ですね、愛していたら、結婚などせずとも触れ合いたくなるものだというのに。我慢など出来ないほど、欲望が膨らむはずなのに」
「じゃあ……ディックは、私を愛していなかったの?」
「ええそうです、ディックさんは私に比べればこれっぽっちもレリィを愛していなかった。そしてレリィも彼を求めなかったということは――」
「私も、ディックを、愛していなかった……」
「その通り。けど私とは触れ合いましたよね。だから最初からわかりきったことだったんですよ」
「私が愛したのは……チグサ、だけ?」
「ふふふ、やっとわかってくれましたか。そうですよ、これまであなたを愛したのは私だけです、そしてあなたが愛したのも私だけ」
「そっか……そうだったのね……はは、馬鹿みたい、私、なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう……」
紋様さえ浮き上がってしまえば、どんな論理展開でも全てを受け入れる。
それが、虜になるということ。
ですが実際、いくら婚前交渉が好ましくないと言われていたとしても、本当に愛し合っていたら体が欲しくなるものだと思うのですが。
私も胸を張って言えますよ。
ディックとかいう汚らしいオスよりは、遥かに私の方がレリィのことを愛していると。
「ん、ふぁ……チグサ、チグサぁ、好きっ、好きなのっ、好きだから……何をされても、どこを触られても気持ちいいのぉっ!」
「色っぽい表情のレリィも可愛いですね。んちゅ……ふ、れるぅ……はふっ……ん、ここなんて、どうです?」
「ひああぁぁんっ!」
内太ももに浮かぶ紋様をなぞると、レリィはのけぞりながら、ひときわ大きな声をあげました。
こんな場所に出来てしまったら、一番気持ちいい場所が近いですから、さぞ強烈なのでしょうね。
「あ、ああっ……は、ひゃ、ひゃひ……にゃに、これ……ぇっ……ただ、太もも、しゃ、わられ……だけなのにぃっ……!」
未知の感覚に戸惑っているようですが、すぐに慣れるでしょう。
今までだってそうでしたから。
この2時間で、一体いくつの”未知”を開花させてきたことか。
コンコン。
と、その時――ドアをノックする音が聞こえました。
言うまでもなくナナリーでしょう、頃合いを見計らって2人を連れてきたに違いありません。
「いいですよナナリー、入ってください」
「へっ……?」
喘いでいたレリィは、私が部屋に誰かを招き入れたことに気づき、動きをぴたりと止めました。
「……だ、誰っ!? なんで……部屋に、入れるの? ねえ、チグサっ!」
「なんでって……よく見てくださいよ、見覚えがあるんじゃないですか?」
部屋に入ってきたのは、修道服を纏った3人組。
1人はナナリー。
そして残りの2人は――
「え? どうして……ミリィと、お義姉さんが、ここに……?」
――レリィの妹と、義理の姉だったのです。
2人の肌は程よく上記しており、先ほどまでエリスとナナリーに弄ばれていたのことがひと目でわかりました。
「私はね、ご主人さまに連れてきてもらったの!」
「私もですのよ。ご主人様の魅力に囚われて、こんなに素敵な体にしてもらったのです」
「何を……言って……それにご主人様って、誰のことなの?」
レリィの疑問に、2人は指を指して答えました。
向けられた人差し指の先に居るのは、もちろん私です。
「チグサが、なんで?」
「レリィを堕とすために色々ナナリーから聞いたり、調べてたりしたらね、妹の存在と、結婚に反対する義理の姉の存在を聞いたの。だからそれを利用して――」
私はレリィと肌を触れ合わせながら、耳元で囁きました。
「――ディックっていう邪魔な男を殺そうと思ったの」
「ディックを……殺、す?」
目を見開くレリィに、追い打ちをかけるようにミリィが無邪気に言い放ちます。
「少しご主人さまから力を分けてもらったんだけど、すごいんだよ!? 影をぐにゃってしたら、シャンデリアががしゃーんってなって、あはは、あの男、死んじゃったの!」
「ミリィが、彼を殺したの?」
「うん、だってわたし、あの人きらいだったもん」
急に冷たい声で言い放つミリィに、レリィは酷くショックを受けた様子でした。
「お姉ちゃんはわたしのものなのに、急に割り込んできて。どうして? って思ったの。お姉ちゃんに、あんな臭い男が触るってだけでも気分が悪かった」
「そんな……そんなことって……お義姉さん、それでいいんですか? 弟さん、死んだんですよっ!?」
助けを求めるようにアイに話を振るレリィ。
しかしアイは、笑ってあっさりと言い放ちました。
「死んでよかったですわ、あんなゴミ」
レリィは言葉を失い、口を開いたままアイを凝視しました。
「だって、ご主人様と愛し合うにも、そしてレリィ……可愛らしいあなたを愛でるにも、あんなオスなんて邪魔なだけじゃないの」
「ひっ……」
アイはレリィに近づくと、胸元から顎にかけてを指先で、優しくなで上げます。
レリィは体を声を震わせながら、怯えたように彼女を見ました。
「アイ姉さまの言うとおり、お姉ちゃんはあんな男じゃなくて、わたしたちのものになるべきなんだよ」
「や、やめ……私たち、姉妹なのよっ!?」
「だから、なぁに?」
ミリィはレリィに近づくと、忘我の表情を浮かべながら、紅色のルージュを引いたような赤同士を触れ合わせました。
血の繋がった姉妹同士ので、禁断の口づけ。
だめなはずなのに、間違っているはずなのに――しかしレリィは、それを拒めないのです。
いざ唇を合わせ、舌を挿し込まれると、もう抵抗できない。
それどころか、自ら進んで、妹の口の中を隅々まで舌で舐めあげてしまう。
「んちゅ……ちゅうぅっ……おね、ひゃ……っ」
「こんなのっ……だめ、なのに……ぁんっ、じゅぷ……ちゅ、ミリ……いぃ……っ」
「2人ばかりで盛り上がってずるいわ」
激しく舌を絡め合う姉妹の輪に、義理の姉たるアイも参加します。
アイはレリィの体に手を伸ばすと、蝶でも愛でるように優しくなで上げました。
それに反応して、レリィの体がぴくぴくと震えます。
あぁ、なんて……なんて美しい情景なのでしょう。
ディックなんかと愛し合うより、よほどこちらの方が”正しい”、こうあるべきなのです。
「なんで……なんでぇ? どうして、おかしいのに、嬉しいのっ……!? チグサ、私に何をしたのよぉっ!」
異様な状況に、さすがの彼女も違和感に気づいてしまったようです。
もう遅いのですが、この際なので説明してあげましょう。
「私、半吸血鬼でして。いえ、私だけではありません、教会のシスターも、そしてミリィも、アイも、みんな私の手で半吸血鬼に変えてしまったんです」
「吸血鬼……人間じゃ、ない……」
「本当に血の繋がった家族の如き、この白い肌と赤い瞳がその証拠です。吸血鬼はその魔力で女性を魅了し、そして仲間を増やしていく」
「何のために、そんなことを……?」
「愛し合うために、では納得してもらえませんか? 言ったじゃないですか、一目惚れだったと。私はレリィを見た瞬間に、あなたを自分の物にすると決めたんです」
「だから……そっか、私がチグサを好きになったのも、ミリィとお義姉さんにこんなことされて、嫌じゃないのも……」
「”魅了”の力でしょうね」
全てを知ったレリィは――
「へ、へへへ……あはははは……」
全てを諦めたように、笑いました。
例え自分が罠に嵌められたことに気づいたとしても、もう彼女には、私を憎むことはできないのです。
「ねえチグサ……」
「はい、どうしましたか?」
「私も……吸血鬼に、してくれる? 1人だけ仲間はずれなんて、嫌なの。私だって、何も考えずにみんなと愛し合いたいよ」
「もちろんです、そのために連れてきたのですから。ですが、1つだけ条件がありまして――」
「条件?」
「ミリィ、教えてあげてください」
「うんっ、ご主人さま!」
私に指示をされると、ミリィはニコニコと天真爛漫な笑顔を見せて返事をしました。
彼女は本当に、素直で、子供らしくていい子です。
だからこそ、汚しがいがあります。
「お姉ちゃん、ちょっと耳を借りるね」
ミリィはレリィの耳に口を寄せると、嬉しそうに囁きました。
それを来たレリィは、さらに「あは……」と自暴自棄になって笑いました。
「ひどいよ、チグサ。そこまでやらせるの……?」
「契りとは、婚約とはそこまで重い物なんです。ちゃんと破棄してもらわないと、安心できませんから。それとも、やめておきますか?」
「いやよっ! 嫌、絶対に嫌、チグサと離れ離れになるなんて、ミリィやお義姉さんから仲間はずれにされるなんて考えたくもない! だって、だって私……こんなに、チグサのこと愛してるの!」
「じゃあ、見せてください、レリィの気持ちを。ああ、そのままベッドの上でいいですよ、床は硬いですから」
ミリィとアイは、一旦レリィの体から離れました。
そして彼女は座り直し、ベッドの上に膝をつくと、体の前に手を置いて――そのまま、頭を布団に押し付けました。
いわゆる、土下座と呼ばれるポーズになります。
そのまま、くぐもった声でレリィは告げました。
「ディックを殺してくれて、ありがとうございました」
「それは、レリィの本心ですか?」
「うん……だって、邪魔だもの。チグサたちと愛し合って、私が吸血鬼になるのに、ディックは邪魔なんだもの!」
はっきりと言葉にして言ってくれたレリィを、たたえたい気分でした。
一度は結婚を誓った相手だというのに、私たちとの愛のためにここまでやってくれるだなんて。
「くすくす、よく出来ました。さあ、体を起こして」
「あぁ……チグサ、チグサ、早くぅっ」
ねだりながら首筋を見せつけるレリィに、私はすぐさま噛みつきました。
「あ……あぁ、きたぁ……っ」
嬉しそうにこぼすレリィ。
私もその声を聞くと嬉しくなってしまいます。
私と同じ物になることを、こんなにも喜んでくれているのですから。
「は……ひ……き、気持ち、いぃ……痛い、のに……大事な物、取られてるのに……すごく、いい、のぉ……っ」
「いいなあ、お姉ちゃん。わたしのときも、あんな顔してたのかな」
「レリィの顔を見ていると思い出してしまいますわ、あの時の快楽を」
ミリィとアイが各々に感想を述べていますが、私の頭にはほとんど入ってきませんでした。
レリィの熱く甘くとろとろとした血液を吸うことに夢中だったからです。
侵してゆく、吸血鬼の魂が。
犯してゆく、人間の尊厳を。
「ん、はあぁぁぁぁぁぁ……っ、あっ、ああっ、あ、あ、あっ」
小刻みに喘ぎ、同時に体を揺らし、徐々に死んでいくレリィの体。
体温を失い、代わりに人でなしのエキスを注がれてゆくのです。
抱きしめていると、その体の変化がよくわかります。
少し肉付きが良くなって、誰かに抱かれるための淫らな肉体に変貌し。
そしてメスの甘い匂いも強くなって、いつも誰かを誘うふしだらな体に変わってゆく。
「あ……ぁ……」
声が小さくなり、レリィの頭がぐったりと力を失い、垂れ下がります。
それでも私は、血を吸うのをやめません。
あと少しです、あと少しで生まれ変わるのです。
全ての工程を終了した私は、レリィの首から口を離すと、口内に満ちるねっとりとした鉄の味を舌でねぶり尽くして、「ほぅ」とため息をつきました。
「ん……んぅ……」
私が血の味にうっとりとしていると、肌の色もすっかり変わってしまったレリィが、まぶたを動かしました。
そして、目を開くと――赤色のビー玉のように透き通った瞳が、私を見据えます。
それは支配の印。
家族であり、恋人であり、伴侶になった証。
「おはよう、レリィ」
「おはようございます、ご主人様」
私の眷属になったことを理解したレリィは、自然と私のことをご主人様と呼んでいました。
ミリィやアイと同じですし、あえて訂正させる必要も無いでしょう。
「あは……ふふ、吸血鬼になってみたら、少しでも悩んで苦しんでた私が馬鹿みたい」
「みなそう言うんですよ」
「胸の中が、誰かへの温かい気持ちだけでいっぱいになるのが、こんなに素敵な気分だって知ってたら、みんな”早く早く”って自分からお願いするのにね」
それを、愛と呼ぶのです。
私たちは自然と、愛情表現のためにキスを交わしていました。
恋人同士がピロートークでよくやる、触れるだけのものです。
ただそれだけで、愛し合う2人は満たされ、胸が温まります。
「お姉ちゃん、おめでとう」
「ミリィ……ごめんね、少しでも嫌がる素振りをみせて」
「いいよ、今はもうわかってくれてるはずだから」
「ええ……思う存分、愛し合いましょう……ちゅっ」
ようやくわかりあえた姉妹は、舌と視線を絡めながら、お互いに固く抱き合いキスをします。
妹から姉へ、姉から妹へと、湿った音ともに流し込みあう唾液が、その愛の強さを表しているようです。
やがて2人がキスを終えると、次はアイがレリィに近づきます。
「あ……アイ姉様」
「あら、レリィも私のことをそう読んでくれるの?」
「はい、今はもう、血の繋がった姉妹も同然ですから。三姉妹で仲良くしましょう」
「嬉しいですわ、レリィ」
アイとレリィもまた、本当の姉妹がそうしたように、激しく唇を交わします。
粘膜同士をすり合わせ、静かな部屋にぴちゃぴちゃという音を響かせる様は、性交をメタファしているよう。
暗喩せずとも、すぐに実際に体を重ねることになるのですが。
それでもキスという愛情表現は大事なものなのです、私たちのように、強く愛し合う仲間同士だとなおさらに。
「ん……はぁ……口の中で、2人の味がするぅ……」
「それなら次は、私も混ぜてもらってもいいですか?」
「うん、来てぇ……ご主人様のも、欲しいのぉ」
両手を広げて私を待ち受けるレリィ。
私はそんな彼女を押し倒し、胸いっぱいに膨らむありったけの愛情を注ぎ込むために、沢山、それはもう沢山、キスを繰り返しました。
そのあとは――もはや言うまでもないでしょう。
新たに姉妹となった3人、そして家族となった私に――あとは音を聞きつけてやってきたナナリーとエリスも加わり、思う存分に乱れ狂いました。
肌の上を這いずり回る複数の生ぬるい舌の感触を味わいながら、私は思うのです。
友達もおらず、家族も興味を持たず、教師にすら見捨てられた私は、この世界に来て娘であり、姉妹であり、親友である、かけがえのない家族を得ました。
こんな気分は、人間だった頃に味わったことなんて一度もありませんでした。
だから、このためだったんです。
この幸せを享受するために、私はここにやってきた。
そして同時に――この幸せを世界中に広げるために、私はここに呼ばれたのだと。
ようやく自分なりの生きる価値を見つけ出した私は、より強い幸福感に包まれながら、愛情とともに与えられる快楽に溺れていったのでした。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
23252
-
-
841
-
-
4
-
-
17
-
-
4503
-
-
52
-
-
124
-
-
55
-
-
516
コメント