異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~
8 穢れを宿す
翌朝、わたくしの前に姿を現した2人は、もはや情事の香りを隠そうともしませんでした。
首元の赤い跡も、汗ばんだ肌も、潤んだ瞳も、起きてすぐに抱き合ったのか、あるいは昨晩から一睡もしていないのか――
「おはようございます、ナナリーさん」
普通に笑って挨拶をしているだけのはずなのに、チグサさんの表情に色っぽさを感じてしまうのは、わたくしの考えすぎなのでしょうか。
赤い瞳も、まるで情欲の炎が滾っているよう。
わたくしは、昨晩に不埒な妄想をしてしまった恥じらいから、真正面から彼女の顔を見ることができず、俯きながら返事をします。
「お、おはようございます……」
そんなわたくしを見て、チグサさんは「ふふ」と艶かしく唇に人差し指を当て、微笑みます。
そしてこちらに歩み寄ると、また昨晩のように両手を広げ、抱きしめて――頬にふわりと、柔らかくしっとりとした何かが触れました。
今のはまさか……唇、でしょうか。
「朝の挨拶です、お気に召しませんでした?」
戸惑い恥じらうわたくしを見て、彼女は小悪魔のように囁きました。
「いえ……そういうわけでは」
むしろ嬉しかった、とはさすがに言えませんでしたが、言い訳のしようが無いほどに心臓が高鳴っています。
これだけ密着していると、火照る体温も、高鳴る心音も、肌越しにチグサさんには伝わっているのではないでしょうか。
「もー、お姉さまばっかりずるいんだから。私だってナナリーに挨拶したいんだよ?」
「奪った覚えはありませんよ、エリスもしたらいいじゃないですか。構いませんよね、ナナリーさん」
わたくしが返事をするより先にエリスさんは腕に抱きつき、その柔らかな肢体を服越しに押し付けました。
腕に絡みつく胸の膨らみをやけに意識してしまいます。
同じ女だというのに、わたくしはなぜこのような気持ちになっているのでしょう。
しかし、やはり、その下にある素肌が昨夜もチグサさんの手で愛でられたのかと思うと――意識せずにはいられません。
「おはよ、ナナリー」
エリスさんはそのまま耳元でそう囁くと、耳たぶにキスをしました。
舌先を出していたのか、湿った感触があたり、思わず「ひゃっ」と高い声で鳴いてしまいます。
そんなわたくしを見て、彼女は「ナナリーは、可愛いね」とウィスパーボイスで語りかけるのです。
こんなに近く、耳元で話しかけられると――ただそれだけで、体が熱を帯びていきます。
酒に酔ったようにくらくらして、チグサさんとエリスさんの甘い香りがさらにそれを助長して、わたくしは少しずつ正常な判断力を失っていきました。
「こんなに真っ赤になってしまって、ナナリーさんはこういった触れ合いに慣れていないのですね」
「それは……わ、わたくしに限った話では……」
「私たちが慣れさせてあげます。さあ、身を委ねてください」
「あ……ぁ……」
チグサさんの指先が首筋に触れると、そこから鎖骨をなぞるように移動していきます。
その繊細で滑らかなタッチに、ただ撫でられるだけでゾクゾクと肺を震わせながら、小刻みに呼吸を繰り返すことしかできません。
彼女に気を取られていると、今度はエリスさんの手がわたくしの臀部へと伸びていきました。
「ナナリーってやらしい体してるよね、触りがいがあって……好きだよ、私」
至近距離で謂われ、同時に吐息が耳をくすぐることで、”好き”という言葉の深みが増しているのでしょう。
まるで自分が愛の告白をされているのではないかという錯覚に陥り、そのままお尻を撫でられても、嫌どころか、自分の体が求められているようでむしろ嬉しいほどでした。
時折、手のひらに力がこもり、軽く揉みしだかれると、わたくしは喉からはしたない声を漏らしてしまいます。
「こんないやらしい体を持て余しているなんて勿体無いです、もっと使わないと」
「使う、なんて……そんな……」
チグサさんの手が胸に伸びていきます。
それを見ているだけで、近づいていく度に、わたくしの胸の高鳴りはエスカレートしていくのです。
確かに、昔から発育は良い方でしたが、こんなことをするために今の体になったわけではありません。
しかし――チグサさんに言われると、それも、悪くないような気がしてきます。
飲み込まれてしまう。
危険な兆候だと、理性はわたくしに警告しているというのに、それ以上の、彼女に触れて欲しいという欲求がどこからともなく吹き出してきて、止まらないのです。
手のひらが胸を持ち上げるように当てられると、わたくしの体は緊張からか一気に強張ります。
「大丈夫、何も心配はありません。私を信じていればいいんです」
至近距離から流し込まれる薬物めいた声は、わたくしの脳に直接響き、染みてゆきます。
「力を抜いてください、そう、そう……そのまま、全部、私たちにまかせて……」
魔法のような言葉に誘われて、緊張感はそのまま、わたくしの体から力が抜けていきました。
「気持ちいでしょ? それでいいの、ナナリーは好きなだけ気持ちよくなっていいんだよ」
エリスさんの言うとおりです……こんなに、触られているだけで心地よいのに、なぜ拒む必要があるというのでしょうか。
「ナナリーさん、本当はずっと、誰かに甘えたかったんですよね。寂しさを埋めてくれる誰かを探していたんですよね」
「そ、それは……」
昨日と同じように、違うと言いたかったのですが、うまく言葉が出てきませんでした。
拒めないほどに、すでにわたくしの心には、チグサさんが入り込んでいたからです。
「違うなら違うと言ってください。ナナリーさんがそう言うのなら、私ももうしませんから」
「いえ……あの、わたくし、は……寂しいです。チグサさんのように、誰か甘えさせてくれる人を、待っていました」
「ふふ、そうですか。つまり、悩みを持ちかけられるばかりで、誰もナナリーさんのことを理解してくれなかったということですね?」
「その……通り、です」
「でも、私たちは違う。ナナリーさんの心を満たすことができる」
チグサさんの、言う、通り。
こんなに……胸がいっぱいになっているのは、とても、久しぶりで。
いえ、初めてなのかもしれません。
誰にだって……彼にだって……こんなにも、わたくしの中身を満たすことはできなかった。
「ナナリーは、今まで1人で沢山頑張ってきたんだね。えらいえらい」
エリスさんがわたくしの頭を撫でました。
子供の頃、母に抱きしめられながら、褒められた時のことを思い出します。
気づけば、わたくしは子供のように無邪気に笑っていました。
「頑張ったんだから、もういいんだよ。もう頑張らなくていいの」
「もう……がんばら、ない……」
「そう、私たちと一緒になろう? 一緒に、沢山幸せになろう?」
一緒に――幸せに――それは、どういう?
「知っているんですよ。昨夜も、その前の夜も、ナナリーさんが私たちの部屋の前にいたこと」
「ナナリーは聞いてたんだよね、私たちのあの声を」
わたくしの体から、さっと血の気が引いていきました。
うそ……盗み聞きしていたことが、気づかれていたというのですか?
でしたら、なぜ、糾弾もせずにこのようなことを?
「そんなに落ち込まないでください、確かに聖職者の覗きはいかがなものかとは思いますが、私たちは嬉しかったんですよ」
「嬉しい? それは、どういう――」
チグサさんの手がわたくしの頬に伸びます。
その手のひらに込められた力に従い、彼女の方を向くと、至近距離にあった顔がさらに近づいてきました。
「ま、待ってください、チグサ……さっ……」
そして、触れる唇。
それは一瞬の出来事で、夢ではないかと思うほど儚く、しかし唇に残った感触が確かに現実なのだとわたくしに教えてくれます。
……キス、されてしまいました。
わたくしが、チグサさん、に。
「出会った時から、素敵な女性だと思っていたんです。私は、ナナリーさんのことが好きです」
耳元での告白。
わたくしの心臓はさらにうるさく跳ね出して、もうこの胸のドキドキが恋によるものなのか、状況に流されたせいなのかもよくわからなくなっていました。
ですが……キスをされて、嬉しかったのは、間違いないのです。
わたくしは……わたくしも、チグサさんの事が……。
「ダメだよナナリー、お姉さまのことばっかり見てちゃ」
「エリスさん?」
今度はエリスさんの手がわたくしの頬に伸びてきます。
そして彼女の方へ少し強引に引き寄せられたわたくしは、振り向いた瞬間に再び、唇を奪われたのです。
同じキスでも、少し、感触が違いました。
ひんやりとして柔らかい部分は変わりませんが、チグサさんの唇よりは少し弾力があって、体温も微かに高いような気がします。
「私も好きだよ、ナナリーのことが」
また、至近距離での告白。
ほぼ同時に、2人の美しい女性から愛の告白を受けて、わたくしはどうしたらいいのか全くわかりませんでした。
混乱のさなか、それでもチグサさんは追撃の手を緩めません。
「こんなに美しくて、可愛らしくて、好きにならないわけがありません」
「身も心も私だけのものにしたいな」
「ずっと触れ合っていたい、死ぬまで永遠に傍に居たいのです」
「ナナリーも好きって言って。ほら、ね?」
わたくしは促されるままに、その言葉を口にしました。
「好き……です」
「誰のことを、ですか?」
「チグサさんと……エリスさんが、好き、なのです」
2人は嬉しそうに笑い合うと、気づけばまたわたくしはチグサさんと向き合っていて、唇を奪われていました。
今度は触れるだけでなく、押し付け合う、情熱的な接吻。
いえ、唇だけではありません。
チグサさんの舌先に唇をノックされ、それに反応して口を開くと、中に舌がねじこまれました。
彼女の舌はわたくしの口内を蹂躙し、唾液を塗りたくるようにチグサさんの味を広げていきます。
わたくしもどうにか、少しでも彼女に気持ちよくなってもらいたい、と必死に舌を動かしますが、いかんせん経験の差がありますから、大した反撃はできませんでした。
頬や舌の裏側、口蓋に至るまであらゆる場所を彼女に蹂躙されたわたくしは、2人の舌の間にかかった銀色の橋を、息も絶え絶えに、ぼんやりと眺めています。
少し休まなければ、頭がどうにかなってしまいそう。
そう思っていた矢先に、今度はまたエリスさんの方を向かされて、唇を押し付けられて、舌を挿し込まれて。
未だチグサさんの味が消えない口の中を、今度はエリスさんがかき混ぜていきます。
その動きは、少し暴力的で、支配されているようで被虐欲、とでも言うべき何かが満たされていくのを実感していました。
自分の中で、違う誰かの体液同士が混じり合う、未知の感触。
ともすれば、気持ち悪いとも思えそうなその状態を、わたくしは悦びながら受け入れていました。
だって、好きなのですから。
好きな人のものなら、何でも嬉しいものではないですか。
「はぁ……ぁ、あぁぅ……う、ぁ……」
「ふふふ、ナナリーったら蕩けちゃってる」
「よほど気に入ってくれたようですね」
「あぅ……は、い……とても、素敵、でした……」
本心から、叶うのなら体力が続く限り、何度でも繰り返したいと思っています。
そしてそれを望めば、きっと2人は叶えてくれるでしょう。
「チグサさん、エリスさん……」
……それなら。
「さっきのを、もっと……して、いただけませんか?」
わたくしは、ありったけの勇気をもって言いました。
本来の自分なら絶対にしないようなおねだり。
恥ずかしくて死んでしまいそうでしたが、2人は慈しむように穏やかに微笑むと、耳元で囁きました。
「もちろんです。ナナリーさんのお願いなら、いくらでも愛してあげます」
「何回だって、意識が飛ぶまで愛してあげる、ナナリー」
その宣言通り、すぐさまチグサさんとの口づけがはじまりました。
それが終わるとエリスさんがわたくしの唇を貪り、唾液を流し込み、またチグサさんがわたくしの中をかき混ぜる。
何度も、何度も、「愛しています」「愛してる」と繰り返し囁かれながら、わたくしは、身も心も溶かされていったのです。
もはや、彼女たちとの間に、心の壁は一切ありません。
むしろ自分から、なにもかもをさらけ出したいと思うほどです。
何度目かわからないキスを終えた時に、ふとチグサさんがわたくしに問いかけました。
「ナナリーさんは、処女ですか?」
その問いかけの意図はさておき、わたくしはすぐに答えました。
「はい……婚前交渉など、したことはございません」
廃棄街の人々の常識はわかりませんが、少なくともそれは、市街に住む貴族にとっては当然のことでした。
「よかった、処女の方が美味しいですから。きっと、私に捧げるために取っておいてくれたんでしょうね」
美味しい、という意味はよくわかりませんが――わたくしは、こくりと頷きました。
きっとそうです。
あの時、駆け落ちした彼との関係を持たなかったのは、きっとこうしてチグサさんとエリスさんに出会って、捧げるためだったのです。
「お姉さま、そろそろ」
「ええ、そうね。行きましょうか、ナナリーさん」
それが何を意味するのか、知らないわたくしではありません。
この神聖な教会で――そんな理由は抑止力にすらならず、むしろ背徳感がわたくしの理性を脆くする有様でした。
すでに頭の中は、昨晩聞いたあの声、想像した光景、その中に自分自身が混ざることでいっぱいになっています。
そんなわたくしが、まさかその誘いを拒むことなど、あり得るわけがないのです。
「はい……わたくしを連れて行ってください。あなた方の、寝室へ」
2人と寄り添い合いながら、わたくしは寝室へと誘われてゆきます。
もはや朝食も、教会を開くことも、人々の助けになることも、何もかもがどうでもいい。
チグサさんに愛でられ、エリスさんに弄ばれる、その至福に比べれば、その他の有象無象がなんとちっぽけなことか!
腰に這わされた2人の手が直接肌に触れることを想像しただけで、今すぐにでも頂きに上り詰めてしまいそうで。
張り詰めた糸のようにギリギリにまで情欲を膨らましたまま、ついにわたくしは、夢にまでみたあの寝室に足を踏み入れるのでした。
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