異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~

kiki

3  少女たちの致命的な接合

 




 夕食は町のゴミ箱から拾ってきた残飯に、闇市で買ってきた出処の分からないいびつな野菜。
 私も食料あさりについていったおかげか、「いつもより今日は豊作だった」とエリスは笑いました。
 そして部屋に戻るなり、喜んでそれを口に運びます。
 私は不思議とお腹が減っていなかったので食事は遠慮して、じっと幸せそうに野菜を頬張るエリスを見ていました。
 ふと彼女が食事の手を止め、私の方を見ます。
 その仕草が妙に愛らしかったので反射的に微笑むと、エリスは頬を少し赤く染めて、すぐに食事を再開します。

「幸せそうに食べるのですね」
「こんな毎日じゃ、食べることぐらいしか楽しいことなんてないからさ」
「大変なのですね、廃棄街で生きるというのは」

 光と影、栄光と衰退。
 廃棄街からそう遠くない場所にあるグロールの市街は、こことは対照的に非常に栄えていました。
 と言っても、現代日本よりかなり技術は遅れているようですので、発展途上、ということになるのでしょうが。
 こうして、都合の悪いものから目を背けて、隅っこに追いやっているからこその、豊かな暮らし。
 しかしそれはやがて膨れ上がり、直視しなければならない時が来ます。
 それが、この廃材が積み重なった廃棄街という城なのだと、私は直感的に思いました。

「それにしても、チグサは食べないでよかったの? 私としては助かるけどさー」
「構いません、元から少食でしたから。一食抜いた程度では何も感じません」
「それであの強さなんだもんなあ、どっからエネルギー補充してんだろ」

 私も不思議ですが、体の奥底から湧き上がってくる何かがあるのは感じられます。
 それが、半分吸血鬼となった今の私を動かす原動力なのでしょう。
 ですがその正体を私は知りません。

「チグサ、い、いきなりどうしたの?」

 ……そしてこの衝動もまた、私にとっては正体不明なものでした。
 ふいに彼女の体に触れたくなる、この衝動は私の原動力と何か関わりがあるのでしょうか。
 個人的には、ええ、まあ、嫌いではないのですが。
 しかし生前・・の日向千草という人間の行動からすると、不自然極まりないのです。
 人と触れ合うどころか、他者との会話すらままならないような欠陥品だったのですから。
 それが今、初対面の少女相手に、こんなにも積極的にスキンシップを取れている。

「見知らぬ土地で1人ですから、人肌が恋しくなっているようです」
「そりゃ寂しくあんる気持ちはわかるけど……触るなら、前もって言って欲しいかな。あと、顔はびっくりするからだめ」

 エリスは戸惑いを見せつつも、振り払いはしませんでした。
 悪くない反応です。

「それでは、手を繋いでもいいですか?」
「手ならいいけど……なんか恥ずかしいな」

 言葉通り顔は赤くなっていますが、向かい合いながら指を絡めても特に抵抗はありません。
 まんざらでもない、そんな言葉が頭に浮かびました。
 とくん、とくん。
 私の体からエリスの中に流れ込んでいく何かが、少しずつ、彼女の心を解していきます。

「あたたかいですね、とても安心します」
「ま、これぐらいでよければいつでも手は貸すよ」
「ありがとうございます。最初に出会ったのがエリスじゃなかったら、私、もっと苦労していたと思います」
「そうかなあ? チグサぐらい綺麗な女の子だったら、色んな人が協力してくれると思うけど」
「エリスに言われると、思わず本気にしてしまいそうになります」
「本気だって! チグサは可愛いし、綺麗だと思う。最初に見た時からそう思ってたもん」

 他人に褒められることの無かった私にとっては、なかなかに衝撃的な体験でした。
 世の中の人間というのは、このような感激を日常的に受けていたのですね。
 同時に、妙にエリスのことが愛おしく思えてきました。
 私なんて比べ物にならない。
 ああ、なんて可愛らしいのかしら。
 健康的でハリのある血色の良い肌、その向こうにはさぞ新鮮な血が流れていることでしょう。
 適度に引き締まり、しかし柔らかさもある肉。
 食うにしても抱くにしても、極上の素材ではないでしょうか。
 こうして顔を近づけてみると、ゴミ捨て場に暮らしているのに、まるで私の食欲を誘うかのような甘い香りがします。
 少しつり目気味の、澄んだ、汚れを知らない瞳が、まっすぐに私の方を見ています。
 微かに潤んでいるような気がするのは気の所為でしょうか。
 いえ――こんなに顔が近って、なおかつ顔を赤くし、呼吸を荒くしているのですから、気の所為などではないのでしょう。
 この子は、発情している。
 初対面の、それも同性の女の子相手に、ほんの少し触れ合っただけで、まるで雌猫のように。
 私の右手とエリスの左手は、まるでまぐわうように深く深く指を絡ませ、繋がっていました。
 そして私は空いた左手を彼女の頬に近づけ、中指の腹で愛撫するように優しく、頬に触れます。

「あ……」

 微かに漏れる声と、震える体。
 しかし、彼女は拒まない、まるで魅入られたように私に吸い込まれていく。
 とくん、とくん。
 繋いだ手と触れた指先から、何かが流れ込んでいく。
 どくん、どくん。
 私達の間に満ちる濃密な空気が、違法薬物のように心臓を高鳴らせる。
 熱い、熱い、焼けてしまうほど、まるで恋ではないかと錯覚してしまうほど、心と体が、熱い。
 中指から人差し指、薬指、そして全ての指が重なると、次は手のひらが彼女の頬を包み込みます。
 吐息がかかるほど顔と顔とが近づくと、エリスは自然と目を閉じました。
 私は今――エリスと1つになりたいと、強く渇望している。
 そして彼女もまた、私と同じように――

「おいエリス、居るのかー?」

 その時、無遠慮に開かれたドアと聞きなれぬ男性の声に、私たちは一瞬で現実に引き戻されました。
 慌てて手を解き、距離を取ります。
 ……ちぇ、いいところだったのに。

「居るなら返事しろよ……って、その女、誰だよ」
「ライル、入ってくるならノックぐらいしろって言ってるでしょ!?」

 怒鳴るエリスが呼んだ名前――ライルとは、確か最初に彼女に絡んでいたチンピラが出していた名前でしたね。
 あの言い方からして、2人は恋人、もしくはそれに近い関係なのでしょうが。
 しかし先程、私の口づけを容易く受け入れようとしたあたり、そこまで発展した関係では無いのかもしれません。

「鍵をかけないお前が悪い」
「鍵をかけたら、中にいいものがあるんじゃないかって余計に狙われやすくなるのよ!」

 治安があまりに悪いとそんな理屈になってしまうのですね。
 確かに、こんなボロボロの家では、鍵をかけても、鍵以外の部分を簡単に壊されてしまいそうです。
 そんなものにお金をかけるぐらいなら、少しでも多く食事を取った方がいい。
 廃棄街の人々は、そう考えているのかもしれません。

「んで、もっかい聞くけど、その女は誰だよ」
「チグサと言います、行く宛が無かったのでエリスに寝床を提供していただきました」
「チグサぁ? また変わった名前だな、服もこの辺じゃ見ない物だし……でも上等そうな布使ってんな、売れば結構な金になるんじゃねえのか?」
「こらライル、品定めしないの」
「金になりそうなら何だってする、それが俺らだろ? 第一、寝床を提供したって言ってたけど、なんでお前がそんなことしてんだよ。正義にでも目覚めたか?」

 この場所では、人助けは普通のことではない。
 薄々勘付いてはいましたが、どうやらエリスが特別お人好しだっただけのようですね。
 もしも彼女以外の誰かについていっていたら、今頃私は、騙されて身ぐるみを剥がされていたのかもしれません。

「いいじゃない、絡まれてたところを助けてもらったんだから」
「助けてもらったって、この貧弱そうな女にか?」
「言っとくけど、チグサはライルの何倍も強いから。大人の男を拳1つでボコボコにしちゃうんだからね!」

 エリスの言葉をライルさんは信じていないようで、私に懐疑的な目を向けています。
 当然ですね、私自身も信じられていないのですから。
 しかし、私がエリスを助けたということは事実。
 ライルさんが疑えば疑うほど、彼女の機嫌は悪くなっていきました。

「信じられないなら、実際にやりあってみたら?」
「いやいや、さすがに女の子相手に手は上げられないって」

 余裕を見せるライルさん。
 私は特に何も言いませんでした。
 試すというのなら受けるつもりでしたが、やり合わなくて済むのならそれに越したことはありません。
 見知らぬ土地で、あまり目立ちたくはありませんからね。

「それでライル、一体何の用事だったの?」
「いや、別に用事とか無いけど。いつもと一緒だろ、寝るまでの暇つぶしにエリスと話そうと思ったんだよ」
「だったら残念だったわね、私の方は暇じゃないから」
「らしいな、さすがに女2人に俺1人じゃ居心地も悪そうだわ。今日は諦めて寝るわ」

 ライルはひらひらと手を振ると、ドアを閉めて去っていく。

「おやすみ」
「ああ、おやすみー」

 エリスは自然に彼とそんな挨拶を交わした。
 親しい間柄であるのは間違いないようですが、なんとも言えない距離感です。

「今の方……ライルさんとはどんな関係なんですか?」
「あいつとは、同じ育て親に拾われた、まあ兄妹みたいなもんでさ。親父が死んだ後も、何だかんだで隣同士の部屋に住むようになって、今みたいな感じで毎日話してんの」
「そうなんですね。あまりに自然と入ってくるものなので、てっきり恋人同士なのかと」
「ちょ、ちょっと、ライルと恋人とかありえないから! 絶対に!」

 エリスは顔を真っ赤にしながら反論しました。
 少なくとも、彼女はライルさんに対して気があるようです。
 2人は同じ親に育てられた、兄妹同然の幼馴染。
 そんな2人が惹かれ合って、やがて恋人になる――なんて素敵なラブストーリーなのでしょう、私もそういうのは少女漫画で見たことがありますから、嫌いではありません。
 しかし、素直に楽しめるのは、それが他人事だから。

「確かに毎日会ってるけど、それは家族として会ってるだけで、別に、特別な意味なんて何も無いし……」

 聞いてもいない弁明を繰り広げるエリス。
 私は彼女の頬に手を当てると、再び顔を近づけました。
 正気の彼女はもちろん、私の肩に手を当てて拒絶しようとします。

「待って、何……しようとしてるの?」
「ライルさんも居なくなったようですし、先ほどの続きをしようかと思いまして」
「さっきのは、ほら、なんとなく雰囲気に流されただけであって……って言うか、なんでチグサは、私にキ、キスなんて……しようとしてるの?」
「無性に、あなたが欲しくなったからです」

 エリスの瞳をじっと見つめ、先ほどよりも強気に迫ると、彼女はそれ以上、拒絶の意志を示しませんでした。
 許しを得た――そう確信した私は、そのまま彼女を押し倒します。
 こうして、情欲に潤んだ表情を見せる少女を見下ろしていると、征服欲が満たされていきます。
 今までの私に無かったもの。
 得ようとしても得られなかったもの。
 人でなしになって初めて得られた、充足感。
 私は、自分がなぜここに居るのか、今、初めて気づきました。
 今までの人生は、無味無臭で、冷たくて、常に串刺しにされているように痛く、地獄でした。
 他人がみな、普通に、あるいは幸福に人生を過ごす中、私には普通すら許されなかったのです。
 つまりそれを、今まで失ってきた分を、取り戻すためだったのですね。

「今なら、まだ間に合いますよ」
「……なに、が?」
「隣の部屋にライルさんが居るのですよね。だというのに、私とこのようなふしだらな行為をしていて許されるのですか?」
「ライルは……違う、から。そういうのじゃ、無いから」
「違うから、構わない、と?」

 追い詰めるように問いかけると、エリスはこくんと首を縦に振りました。
 もはや、彼女の意志は欲望に飲み込まれ、正常な判断すらできないようです。
 今日出会ったばかりの女と、恋していたはずの幼馴染を裏切って口づけするなど、どう考えてもおかしいのですから。
 それを言い出せば、私の方もおかしいのですが。

「実は私、ファーストキスなんですよ」
「うそ、でしょ?」
「本当ですよ、こんなに誰かのことを”欲しい”と思ったのは、エリスが初めてなんです」

 エリスはそれを聞くと、目をとろんとさせて、酔ったように熱い吐息を漏らしました。
 嘘は言っていません、事実なのです。
 だからこそ、そんな私が、こんなにもエリスのことを強く欲していることは、やはり異常で。
 異常だと理解していたとしても――欲望は抑えられません。

「エリス」

 最終確認に、と名前を呼ぶと、彼女は吐息混じりにこう返しました。

「チグサぁ……」

 甘えるような声、もはや私への拒絶も、ライルさんへの罪悪感も、微塵も残っていないようです。

「っ……」

 唇を重ねると、エリスの体にきゅっと力がこもりました。
 そのままじっとしていると、「んふー」という彼女の鼻息の音が聞こえてきます。
 その必死な様子がまた可愛らしくて、私はちょっとしたいじわるのつもりで、自分の唇で、彼女の下唇を挟みました。
 生ぬるく、柔らかな、弾力のある感触を唇に感じながら、繰り返し、マッサージでもするようにもみほぐす。

「ん、んふっ……ふっ、ふぅっ……」

 すると、エリスは喘ぎ声にも似た吐息を零しはじめます。
 その初心な反応に、私の悪戯心が再び鎌首をもたげました。
 ちろりと、まるでヘビのように一瞬だけ、舌でエリスの唇に触れます。
 すると彼女の体がぴくりと動きます、驚いてくれたようです。
 次は触れるだけでなく、唇の上下の隙間をなぞるように舐め上げると――

「ん、ぁ……」

 まるで私を舌を迎え入れるように、エリスの唇が開きました。
 私は遠慮せず、彼女の口腔に舌を滑り込ませます。
 ぬるりとした、なまあたたかい粘膜の感触が、私の興奮を高めます。
 特に頬の内側はまるで包み込むような柔らかさで、舌先で触れているだけで楽しいほどです。
 そうして彼女の口内を楽しんでいると、おずおずと、遠慮がちにエリスの舌がこちらへと伸びてきました。
 まるで確かめるように舌先で触れては引っ込み、触れては引っ込みを繰り返し。
 先に我慢できなくなった私が積極的に絡め取ると、エリスの喉からは「はひゃっ」という間の抜けた声が出ました。
 この慣れない感じが、私の感情を高ぶらせるのです。
 それからしばらくは私が一方的にエリスの舌を愛撫していましたが、少しすると気持ちが落ち着いてきたのか、彼女の方からも動き始めます。
 私の舌の動きに合わせて自らも絡め、さらにコツを掴むと、私が動かずとも彼女の方から積極的に奉仕し。
 押し倒されて喜んでいたことと言い、勝ち気そうな彼女ですが、ひょっとするとマゾヒスティックな性癖を持っているのかもしれません。
 その後も嬉しそうに私の舌を舐め、時折私が唾液を送り込むと、十分に舌に絡めて味わってから、嚥下していました。
 唾液だけではなく、触れ合う度に、別の何かも彼女の中に送り込まれていく。
 私の体の一部が、エリスを侵食している。
 そう思うと、体が熱を孕んで止まりません。
 エリスもエリスで、私の唾液を自分の体に取り込んでいる事が嬉しいのか、気づけば両手は私の首の後ろに回され、さらに体をくねらせながらキスに夢中になっていました。

 それから――一体どれほどの長さ、唇を重ね続けていたでしょうか。
 ファーストキスにするにはあまりに刺激的すぎる交歓を終えた私たちは、ゆっくりと唇を離しました。
 舌と舌が離れる瞬間、名残惜しそうに、唾液が銀色の橋をかけます。

『はぁ、はぁ、はぁ』

 お互いに肩で呼吸をしながら、自然と蕩けた表情で見つめ合っていました。
 ひたすらに、目の前に居る女性が、この世で一番愛おしい。
 つまり今の私の脳内はエリスへの愛情でいっぱいで、同じくエリスの頭の中も、私のことでいっぱいになっていることでしょう。
 汗ばんでてかる肌、情感に潤む眼、そして半開きの唇から溢れる熱のこもった吐息。
 全ての要素が、私を誘っているとしか思えません。
 一度だけでは足りない。
 抗う必要もない衝動に任せて、私は再びエリスに顔を近づけていきます。

「まって……」

 そんな私を、彼女の声が静止しました。
 しかしその声に拒絶の意志を感じなかった私は、素直にその場で止まります。
 どうやら、何か言いたいことがあるようです。

「……今度は、私から、したい」

 そう言って私の首の後に腕を回します。
 主導権を得たいというよりは、自分から口づけがしたいだけの様子。
 私は彼女に身を任せ、そのまま引き寄せられ――2度目のキスを交わしました。

 狭い部屋に響く水音と、甘い吐息、小刻みな喘ぎ声。
 換気の悪い部屋であるがゆえに、汗に混じった甘酸っぱい匂いと、むわっとした熱気が充満しています。
 それが、まるで媚薬のように私たちを酔わせて。
 キスだけでは足りませんでした。
 肌同士を触れ合わせるだけでは足りませんでした。
 私たちは、どちらか一方の体力が限界を迎えるまでお互いを求め続けたのです。
 私たちを遮る膜は無く、肌と肌を滑らせながら、身も心もひとつになって。
 何度も、何度も、何度も。





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